「ぅ…ぅん…」
朝潮は重い瞼をゆっくりと開ける。倒れる前の事はよく覚えている。洞窟を見つけて、提督を見つけて、それから――
「お目覚めですか、朝潮さん」
後ろから声を掛けられる。ゆっくりと振り返った朝潮はすぐに安堵することとなった。そこには、ピンク色の髪を棚引かせた信じてもいいと思っている人物が立っていたからだ。
しかし、その人の目には明らかな不安の澱みがあった。何しろこの状況だ。気ままに行けるほど甘くはない。
「提督ッ!」
だが、しかしそれを少しでも忘れて朝潮は提督へ抱き着いた。
「わっ!ほんとに大丈夫ですか?」
「はいっ!はいっ!朝潮は大丈夫です――!!」
提督が優しく頭を撫でる。朝潮は気持ちよさそうに身を捩り顔を綻ばせた。
胸に埋めていた顔を上げ提督と顔を合わせる。
「提督、あの血だまりは?」
まず先に一番気になっていたことを切り出す。提督に外傷はない。なら、南雲提督?と思ったがその線も薄い。
「あぁ、それですか。あの血はあの子のですよ?」
「あの子?」
提督が指さしたのは洞窟内の奥。そこには熊が安らかな寝息を立てていた。朝潮は内心動揺する。あの獰猛な動物が気持ちよさそうに寝ているのだ。提督の話が誠ならば大けがを負っていうはず。にも、関わらず頗る良さそうな雰囲気。
そこで朝潮は嫌な予感が頭の中に過ぎった。短い期間秘書艦としてやってきたがあの子たちの本質を少しばかり理解している朝潮だからこその結論なのかもしれない。
「もしかして、提督」
「――お気づきの通りです、あの子の治療は妖精さんがやりました。えぇ、とても嬉しいことやら残念なことやら…」
後者の発言で朝潮は首を傾ける。残念なこととは一体と思考するがすぐにほかの話題が頭の中を支配した。
「けれども、妖精さんはいかないと言っていたのでは?」
そう、鎮守府で妖精さんはこの会議にはいかないと言っていたのだ。
「まぁ、そこらへんは先ほど捕まえた中田さんに聞いてもらったほうが早いかと」
『捕まえた』という不穏なワードを無視しつつ手に包まれていた中田さんに尋ねる。
「なぜいるんですか?いかないと仰っていたではないですか」
「あー。そのけんかー」
というと、首を左右に振りながら答える。生きているときに干渉するのは良くない。けれども、提督と一緒に行く(第一話参照)という約束だったので着いてきたらしい。
「では、一体どこにいたんですか?一度も見かけていないのですが…」
「めたもるしてー」
「めたもるして?」
「かしじょうたいなったたー」
「すいません、意味が分かりません」
つまり生きているからダメというので一時的に死んでいたということなのでしょうか?あぁ、そういうことなんですね。わけわかめです。
一人納得して頷いていると洞窟内に声が響き渡った。
「おう、ラバウルの。生きていたか」
「無事でしたか!?」
南雲提督、飛龍。飛行機事故の中命を落としたかと思われた二人がその姿を現した。
ここで一言いうならば
役者が揃った――。と言わせてもらおう。
あっ、中田さんは南雲さんたちが来た瞬間ピーッ!といって逃げ出してしまいました。
■■■
「南雲提督、ご無事でなのよりです。何故ここが?」
「あぁ、煙だよ」
「煙?」
そういうと提督が補足してくれた。
「はい。実は朝潮さんが寝てる間に南雲さんたちに知らせるために火を起こしておいたんです。上手くいって何よりですがこの状況どう見ます?」
「――大方深海棲艦絡みだろうな」
南雲が深刻な表情でつぶやく。それだけで空気が一変した。どうやらこれが人為的に起こされているのは明白なようだ。
「先ほど私たちの鎮守府に電報を打ったのでもうすぐこちらへ増援が来ます…」
飛龍がそこまで言ってしかしという。
「早くても五日はかかるでしょう…。確認したところここはとても危険な海域の近くでした。装備を整え、補給物資の確認、大本営に対する計画書の提出――やはり、五日でも厳しいかも知れませんね」
飛龍の述べるものは余計に空気を悪くさせた。
五日、それが最低でもこの島に滞在する期間だ。装備が整っていないなか厳しいものがある。
「あ、ちなみに食料は期待しないほうがいいですよ」
提督が何を言っているかわからなかった。
食料は期待できない――?何故なのか。
「どういうことだ?」
「先ほど、森を大体を見回しました。南雲さんと飛龍さんも少しばかり見たかもしれんよ?」
「何をですか?」
「動物の死体です」
その言葉に南雲と飛龍と息を飲む。
数日すれば異臭とか目立つかもしれませんがそう悠長に物事を考える暇すらありませんね…。生憎、飛龍さんと違ってこちらが鎮守府に連絡するすべはありません。誰ですか、情報漏洩を防ぐために専用受信機とか作った人は。
「見たがじゃあ何か。お前はこの森にいる動物全てが殺されていると?」
「えぇ、多分ですがそこで寝ている熊は除いて死んだといってもいいでしょうか」
熊と言われて二人がやっとその存在に気付いた。最初は体を跳ねらせて驚いたが危険性がないとわかるとすぐに姿勢を正す。
朝潮はそれが途轍もなく恐怖を煽るものだと感じた。いや、そもそもその犯人は誰で何の目的をもってその行動に至ったのか…。
「お前さんは、気付いているのか?犯人は誰でこの意図が」
「――えぇ、では順に追って考えてみましょう。まずは、飛龍さん。私たちが攻撃されたのはどこで最も可能性の高い武器を教えてくださいな」
「雲の上ですね…。しかし、そこは砲撃は届かないし艦載機も使えないのでは?というと、どういう武器が…。」
「いえ、飛龍さん。この場合は艦載機が正解です。考えてみてください、私たちが乗っていた飛行機、あの時機内は右側に傾いていました。ということは爆発を起こした部分は右翼側のプロペラ部分あたりでしょうか?つまりです。飛龍さんが直前まで気付かずに攻撃を起こせるのは艦載機だけです。しかも、右翼部分だけをです。砲撃だった場合は飛行機の室長ががレーダーとかで感知できるはずですし右翼部分だけでは被害を抑えることもできません」
「仮に、艦載機だとしてもそのような艦載機は聞いたことがないのですが…」
飛龍がそう言うと南雲が口を開く。
「ヲ級flagship改だな、どう考えてもしれしか考えられん」
提督は首を縦に振って肯定する。
流石は古賀提督という生きる伝説と言われている人ですね…。姫級の存在も考えられますがこの状況は明らかにそうではないとわかります。
目的は一体なんだろか。提督と南雲を除いた二人はすぐに答えに辿り着いた。最近、報告事例が上がってきた。つまりは、つい最近生まれたということ。あの飛行機の爆撃と言い、大虐殺。まるで自身の力を確認するかのように――。
そこでハッとなる。確認するかのようにではなく実際に確認していたのだ。どこまで行動できるか、艦載機の性能などすべてを。
提督が私たちがそのことに気が付いたことを察すると南雲の説明にすこしばかりか補足をした。
「南雲さんの言う通りです。姫級はこういう無差別な虐殺は一切ありません。というか、それはできないのです」
「どういうことですか?」
「もともと、深海棲艦というのは艦娘であるという仮説が一番有力です。そしてそれは魂の良し悪しで決まるものです。良い魂なら艦娘、悪い魂なら深海棲艦といった具合です」
「それは、まぁ聞いたことがありますが…。」
飛龍がいまいち容量を得ないらしく不思議な顔をする。だからなんだと、いいたそうな顔だった。
「姫という存在は無差別な虐殺をした場合その格が下がる」
「なッ!」
南雲が衝撃的な真実を口にした。その瞬間朝潮は驚きのあまり冷や汗をかく。
格が下がる?というのも、それは艦娘には知らされていない。南雲提督は嘘をついている雰囲気でもない様子だが、一体なぜ?
南雲は顔を強張らせ提督へ質問する。音量はとても小さいが洞窟内でそれが反響し大きく聞こえた。
「何故それを知っている。その真実を知っているのはほんと一握りの人間だけだぞ?ましてや新人が知っていい内容ではない」
それは暗に大本営にハッキングし情報を見たのか、と聞こえた。
だが、提督はかぶりを振って答える。
「いいえ、これは自説でした。南雲さんに聞こうとしたのですが勝手に口を割ったと言いましょうか?」
「ほう、俺を嵌めた…。いや、そう言うように誘導されたわけか…。新人にしてはやるじゃねぇか」
「ありがとうございます。しかし、何故か。朝潮さんと飛龍さんがそう思っているかもしれません」
その言葉に頷く。だが、提督は何故か笑みを浮かべ手を顔に当てがい言い放った。
「だが、断る!」と。
沈黙。
そのあとに響いたのは笑い声だった。
「ハハハハッ!お前、ほんとにやるようだな。そう理由は艦娘に言ってはならない。何故ならそれが言ってはいけない言葉だからだ」
南雲が十分に笑った後すぐに切り出してきた。
「――作戦は、もう決まってんだろ?」
作戦と聞いたとき朝潮はこの二人がたった五日で元凶――ヲ級flagship改を沈めると宣言したと知ってしまった。
実際、この二人はそのつもりだった。たかが四人でどうこうできる相手ではないがこちらには常識が当てはまらい子たちがいる。
「えぇ、その作戦概要は――」
提督が説明した概要はとても恐ろしいものだった。流石の南雲も顔を顰める。
「おい、それじゃあ」
「えぇ、ここにはもう動物も居ませんし何よりもこれが一番確実です――。あの熊は艦載機で与えられたと思われる怪我があったのでヲ級flagship改は少なからず陸上行動をとることも可能かもしれません。無論、あの熊はこちらでお世話をします」
そういう問題じゃない。南雲が思ったのはこいつは敵艦一隻沈めるために地図を書き換えようとしているということだ。
■■■
物静かな海を見渡せることが出来る岬。
そこに一人の女性が髪を押さえながら小人を見下ろしていた。
「にんげんさんだぁー!」「とうぼうせいかつこれでかんけつ!」「へんしゅうぶもんもいそがしくなりますな」「あにめかまだー?」
妖精さんたちが口々にそういう。まったくこの子たちは私を死体(仮)にして放置した記憶を星の彼方までに飛ばしてしまったそうです。
「妖精さん、この孤島は何もないですね?」
「どうぶつもなにかもいないかと」「ぜつめつえんどはやすぎでは?」「えんどろーすはすきっぷできないですかぁ?」
「――えぇ、それだけを聞けて安心しました。では、ここに」
「「「「「「ここにぃ??」」」」」」
「第二代王女の戴冠を宣言します!!あなた方はその身を砕くほど労働に励みこの国に繁栄をもたらしてくださいな!!!」
―――決まった。
内心ドヤ顔を決めていますがこれは賭けです。妖精さんがこの案に乗ってくれなければ我々の敗北は必至です!お願いします、妖精さん!!
「おぉぉぉ!!じょおうさまー!」「へいかののぞむがままにー!!」「まずはなにをおつくりに?」「けんいのしょうちょうかと」「じっぐらとばくたんするのがべすとなのではー?」「くにくにしてきたぁ!」
チョロイ。(簡潔)
では、始めましょうか。
「たった五日間の王女生活を」
つかえたわぁん!
氷川姉妹尊い…。ひなとさよほんと好き(ガルパ脳)