青く澄んだ空を見上げながら胴着に身を包んだサイドテールの女性は静かにそこに座っていた。
手では仄かな香りを漂わせるお茶が陶器の中で一つの柱を立てながら悠々と中央でぷかぷかと踊り出ていた。
「―――」
口には出さない。
けれども、彼女は向き合っていた。
最悪と絶望に。
彼女は言った。逃げて、生き延びて、と。私はそれに対し答えることは出来なかった。首を縦に振るだけ、たったそれだけを私は成しえなかった。
それからというもの私は失敗ばかりするようなった。艦載機を飛ばそうとするとあの時の光景がフラッシュバックし指がかたかたと震えだし目尻に透明の液体が溜まりだす。
「こんなところで何やってるの?加賀さん」
ふと、後ろから声を掛けられる。
振り返ると髪を両端で結んだ可愛らしい少女が片手を腰について呆れた表情でこちらを見つめていた。
「―――いえ、ただ少し昔に耽っていたのよ?見てわからない?これだから五航戦は…」
つい悪態をついてしまう。
本来ならば彼女、瑞鶴はその発言に対して異議を立てるが今回ばかりは違った。
大きく目を見開き、口を開けたと思いきや噤み笑みへと変わる。
「ふふっ、加賀さんのソレ久しぶりに聞いたわ」
小さな歩幅で近づき横で体育座りをした瑞鶴は笑みから一変した真剣な表情へと移り変わる。
「―――赤城さんのことでしょ?」
「―――!」
自分が想像していた女性の名を当てられて加賀は少し動揺するがすぐにいつもの状態へと持ち直す。
「赤城さんが轟沈してから加賀さんの悪態は聞かなくなった。けど、さ、停滞してるだけじゃダメってことはわかってるんでしょ?」
「…勿論よ。提督が言ったわ為すべきことを成せって」
「へぇー…、あの提督そんなこと言ったんだ。で?それで何か考えが変わったとか?」
「まぁ、そんなところよ。為すべきことを成せ。私はね、瑞鶴。赤城さんに生き延びてって言われたの。だから、もう艦載機を飛ばすだけで感情が揺らぐようじゃ駄目。強くなって生き延びる。それが為すべきことよ」
ここまでの会話の内容を聞いていた瑞鶴は問いかけてみたかった。
それは、逃げなのではないか、と。
けれども、今そこでそう問うてもダメに決まっている。為すべきことを赤城が言ったことにするというのは自身の思いが反映されていないのだ。それが為すべきことなのだろうか、もっと自分に問いかければほかにあるのではないだろうか。
「じゃあさ、もし赤城さんが敵として対合した場合加賀さんは戦える?」
「―――それは演習相手として?それとも」
「後者よ」
加賀が言い終わる前に瑞鶴が口を挟む。
後者、それを指すのは深海棲艦だ。
なぜ、ここでその名が出てくると不思議がる人間もいるだろうが理由は至って単純だ。深海棲艦は艦娘であり艦娘もまた深海棲艦なのである。
なら、深海棲艦とはどうやって生まれたのか。深海棲艦は艦娘が生まれる前から活動を開始していたので正体は未だにつかめない原因となっている。
例えば、魂を善の部分と悪の部分の二つに分けるとしよう。善の部分が艦娘であり悪の部分が深海棲艦というくくりだ。善であるならば艦娘に、何かの拍子をきっかけに、轟沈がいい例だがそのような場合に限り悪の部分に移った時艦娘は深海棲艦へと変わり果ててしまう。
「―――」
答えは、その時は出なかった。
蒼い蒼い大空に2匹の白い鳥が海の地平線へと羽ばたき、次第にその形を小さくする。まるで、仲が良かったとある艦娘2人を表しているかのように―――。
*
なぜ、なぜ、このようなことになってしまったのでしょうか…。目の前には二つの派閥に分かれた提督陣と秘書官たちがいがみ合っています。朝潮は恐怖のあまり涙を流しており私はそれを宥めてます。あっ、髪の毛サラサラですね。
「古賀ァ!貴様ァァアアァア!!」
呉鎮守府の南雲忠一が大本営の長に向かって叫ぶ。本来は逮捕されてしまうがこの男の実績からそれは許されている。
「南雲…。貴様とはウマが合わないと思っていたがまさかこれほどとはなァ!」
その発言により場がより一層騒ぎ出す。
事の発端は会議中にお腹の虫がなった大和を見兼ねた古賀提督が全員を連れてとある飲食店に入り料理を食べていたときのことだ。
突然、それは起こった。
「古賀、その手に持っているレモンはなんだ…?」
「ははっ、面白くない冗談だな、南雲。もちろんかけるに決まっているじゃないか」
「―――何にだ。という無粋なことは聞かん…。粗方その目の前のものにかけようとしておるんだろ?」
突如、険悪な雰囲気が場を支配し皆が皆箸を止めその行く末を見守る。
ちなみに、久しぶりにおいしい食べ物を喉に通した朝潮さんの反応は見ていて楽しかったです。はい。
「貴様ァ…。唐揚げにレモンを掛ける派とはなぁ…」
その発言に数名の提督と秘書官が体を強張らせる。
「南雲、貴様は王道を行くというのか」
またもや数名の提督と秘書官が体を強張らせる。
南雲提督の発言により強張らせた提督と秘書艦は静かに古賀提督の後ろへ。
古賀提督の発言により強張らせた提督と秘書艦は静かに南雲提督の後ろへ。
あっ、私は座ってご飯を食べて眺めています。
「―――今から貴様らの命は俺が預かる。例え、相手が秘書艦だとしても手を抜くな、なぁ?飛龍」
「すみません、南雲提督。こればかりは譲れません!」
古賀提督の後ろに佇む飛龍を睨み付ける南雲の目には強い意志が感じられた。
「大和…。まさか貴様がそちら側とはな…」
「古賀提督…。大和は…大和は悲しいです…」
―――なんでこんなシリアス雰囲気になっているんですか。この店の女将さんなんてすぐに察してものを片付けていましたよ。朝潮さんもとうとう不味い雰囲気を感じ取り恐怖からは涙をため始めました。
ここで、冒頭に戻る。
つまりは今殴り合いが始まろうとしている原因は唐揚げはレモンをかけるか否か争っているのである。…くだらなすぎではありませんか?ちなみに私は塩派です。
「おいッ!ラバウルの貴様はどっちだッ!!」
なんかこっちにきたー。
「別にどっちでもいいじゃないですか?」
「―――なんだと?」
「あっ、いえ普通にもう一つ唐揚げを注文するだけで済む話ですので他意はありませんよ」
これは唐揚げが一つしかないということで起こった争いなのでもう一つ頼めば終わると思っただけですが。まぁ、それぐらいは流石にわかって
「ほう、君はなかなか聡明な人物のようだ」
ないそうです。というか古賀提督あなた仮にも大本営の長ですよ?もう少し頭を使いましょうよ。
それからというと唐揚げをもう一つ頼むことで終止符が撃たれました。
ここで、私が売れるタイトル風に今回のことを纏めてみると
『喧嘩をしてはならない~勝敗は既に決している~』
ということですね、倒れそうです。
*
場所は変わって会議室。先ほどの事を覗かせないほどの緊張の風が室内を駆け回る。
「さて、今回確認されたヲ級flagship改だが二人の提督に撃沈命令を出させてもらう」
「一体誰ですか?」
新見提督が問いかける。
「まずは、南雲だ。航空戦で悔しいがこいつは俺よりも上だからな」
「ふんっ」
南雲が勝ち誇った顔で古賀を睨む。その顔には笑みが浮かんでいた。
しかし、古賀はそれを一切受け取らず次の提督の名を出す。
「そして、もう一人―――ラバウルの、お前だ」
・・・・・・え?
*
「提督、大丈夫ですか?」
飛行機に乗り、ラバウルに向かう途中私は意気消沈していました。
「なぜ…なぜ…私が…」
「しょうがないじゃないですか。目撃報告を考慮して一番近い鎮守府の私たちが選ばれても不思議ではありませんし航空戦もそこそこ強いですし」
「まっ、頑張ろうや。ラバウルの」
南雲がコーヒーを口に含みながらエールを送る。
「俺の艦隊は今ラバウル方面へと航路を向けるよう指示している。数日すれば着くだろうからそれまでお世話になるぞ」
「別に、それぐらいはいいんですけど怪我したり驚いても知りませんよ?」
特に、あの憎悪の塊である艦娘とか妖精さん作のドックとか。
妖精さんのことを思い出して首にかけた銀色のわっかの者へと自然と手が伸びる。
「―――敵機!接近!!」
飛龍が突然叫ぶ、と同時に爆発音が響く。
命が失われるのはいつも偶然でいつ起きてもおかしくはない。
それを、実感しました。
誰か司令服に身を包んだわたしを描いてくれてもいいんですよ!?!?!?!?
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