期待も何も放り投げて、手ぶらになってみてください。
「この魔女め!!」
「ペテン師だ!ペテン師が通るぞ!!」
そんな民衆の罵声を浴びながらしっかりとした足取りで歩いていく少女が一人。
彼女の周囲は衛兵で囲まれており逃げることはまず叶いそうにない。
がつんと訳も分からず罵倒していた子供の投げた小石が彼女の額を割った。
たらりと血が流れるも、それでも唇を噛んで、彼女は処刑台への道を歩む。
―――何故、何故だっ。彼女はいつだって、私たちの、この国のことを考えてっ。
「おお、神よ!何故彼女をお見捨てになったのですか!?」
どうして、どうして私が・・・
□ ■ □
とても悲しい夢を見た気がする。
「あら、目が覚めたのね。というか貴方寝るのね」
ぬいぐるみのくせに。と隣にいる彼女・・・ジャンヌ・ダルク?がメアに話しかける。
その言い草とは裏腹に心なし声も表情も柔らかい。
「それで?今度はどんな話をしてくれるの?」
「うーん。そうですねえ・・・。ジャンヌさんって家族とかいます?」
「はあ?当り前じゃないの。」
何言ってるんだ。と怪訝そうにする彼女に言葉を続ける。
「僕には家族みたいな存在が、二人ほど・・・とは言ってもそのうち一人は目下捜索中なんですけどね・・・。」
「・・・そう、きっとあんたみたいな能天気なやつに構う様な奴らだから、よっぽどのもの好きか、お節介焼きね。」
「じゃあ、ジャンヌさんもそんな優しい人の一人ですね。」
「はあ!?あ、あんた馬鹿じゃないの!?何処をどう見たら・・・わたし、が・・・。」
わたし、わたし、は・・・と悲しそうな、寂しそうな面持ちでジャンヌが目を逸らした。
「わたしは、そんな気持ちの悪い人間なんかじゃないわ。」
さっきまでとは打って変わって優し気にメアを持ち上げる。
「ねえ、あんたはどうして、そうも平気そうにしてられるの?どうして、あんなに痛かったのに、くるしかった、でしょうに・・・。」
そのままギュウッと強く強く胸に押し付けられる。
「笑いません?」
「分からないわ、少なくとも聞き終わるまでは笑うつもりは無いわよ。」
「・・・だって、かっこ悪いじゃないですか。心配してくれている人たちの前で大丈夫だよって言えないなんて。」
それでなくとも僕、もう17歳なんですよ?とふざけた様に付け足すと、しばしの沈黙の後ブフッと噴き出す音が聞こえる。
「確かに、17にもなって泣きべそは無いわね。・・・まさかそんな単純なものだとは思わなかったけど。」
さて、と。と言って彼女は鎧を鳴らしながら扉へと向かう。
「私も、行かなくちゃ。」
「ジャンヌさん。」
思わず呼び止めたメアを、今度は振り返らずにジャンヌが応答する。
「今度は何。」
「あ、あの、あの・・・待ってますから、必ず、帰ってきてくださいね。」
「・・・あっそ。」
そのまま扉は閉められた。
「約束ですよ!!」と扉越しに声が聞こえてくる。
「・・・勝手に約束取り付けてんじゃないわよ。」
そう言って歩いていく聖女の如き魔女の口元は、僅かに上がっていた。
―――こうして、この出来事から数刻の後、竜の魔女、贋作英霊ジャンヌ・ダルクは元凶であるジル・ド・レエとともに討ち取られ、特異点は修復された。
□ ■ □
「こ、こは・・・。」
目が覚めると、そこは見慣れたマイルームだった。
「目が覚めたか。」
横からかけられたよく知っている/全然知らない声に瞳を瞬かせてそちらを向くとあの、城であった男がいた。
相も変わらず包帯は乱雑に巻き付けられている。
「なに、そう身構えるな。我もここで世話になることになった。それだけだ。」
緊張が伝わったらしいその男は穏やかな声音でそう言うとメアを再度寝かしつける。
「あの時はすまなんだ。少しお前を試してみたかったのだ。」
くふふと男は笑い、特異点の顛末を話してくれた。
「・・・そう、ですか。」
「なんだ?名残惜し気だな?愛着でもあったか?・・・ああ、悔しいのか。」
妙に納得したかのように男が感嘆の如き声を上げる。
「・・・。」
それにメアは沈黙でもって返した。
その様子に気分を害するどころか上機嫌になった男は「良い良い!」と言ってメアの頭を撫でた。
「悔恨はいい。全てを諦観にやつし、自堕落に過ごすよりは遥かに我好みのソレだ!!その感情の起伏、大切にしておくがいい。貴様にとって、何かしらの役には立つだろうよ。」
くつくつと笑って「ではな」と言って立ち去ろうとした男は立ち止まると思い出したように自己紹介を始めた。
「我の名はアメンヘルケプシェフ。長い故、ルー君とでも呼ぶがよい。あ、アメンは止めよ。」
食堂に行っている故用事があるのならそこに来るがいいとアオザイの長い袖を振って、今度こそ出て行った。
メアが自分で連れてきたのだと知ったのはそれから数刻後にきた所長から聞いてやっと知った出来事であった。
ジャンヌとのやり取りも、そのあとのルー君()とのやり取りももっと書きたかった。
が、どうしてもぼろが出るからやめた。泣