前回の文章を読んだらしい姉が「これ前置き最終回っぽ
くね?なに、途中でやめるの?」と聞いてきました。
止めませんよ!!ちゃんと終わりまで書きます!!
では今回もよろしければお読みください。
「ここが・・・ラ・シャリテ・・・。」
立花がぽつりと呟いた。
ジャンヌ・ダルクと合流し、情報を集めるためにと立ち寄った町は見るも無残な瓦礫と化している。
「なんて・・・酷い。」
「だ、誰か生きている方がいないか捜索をっ」
マシュ、ジャンヌ両名が悲嘆に暮れつつも声を上げる。
と、その声に制止が掛かった。
「その必要はないぞ。」
ガタッという音とともに瓦礫の影から姿を現したのは別動隊としてメア、所長とともにレイシフトしてきたはずのアンデルセンだった。そのままその瓦礫におもむろに腰かけた彼の格好を改めてみてみると全身が煤やら泥やらで酷く汚れていた。
「既に確認済みだ。」
『・・・悔しいが、アンデルセンの言う通り。そこには生命と呼べるものは残っていないみたいだ。』
ふう、と溜息とともに首を左右に振るアンデルセンに管制室から通信越しにロマニが同意する。
「そ・・・んな。」
「おっと、悲嘆に暮れている場合ではないぞお前たち。じきに奴らがまたここをかぎつけてやってくる。その前にずらかるぞ」
「?奴ら・・・あれ?というかアンデルセン。なんで君一人なんだ。メアと所長は?」
『私ならここよ』
チャリっという音とともに差し出されたアンデルセンの掌にはシンプルなイヤリングが乗っている。
よく覗き込んでみるとそのプレートになっている部分にはここには姿を見せていないオルガマリーが映っていた。
「しょ、所長!」
「え?なんで?だって所長オレたちと一緒にレイシフトして・・・」
慌てる各方面の顔はプレートに映るオルガマリーにも見えているのか、彼女はふうっと溜息を吐いた後に口を開いた。
『私のこれは特別製・・・というか、これが私の触媒みたいなものになっているの。正確には意識の媒体・・・かしら?私はあくまでも精神体であって貴方やマシュみたいに生身の身体があるわけでも、サーヴァントのように調整された確固とした霊基があるわけでもない。脆いのよ。少しでも傷ついたりしたらそれこそ意味証明がなされなくなってしまうかも・・・というほどにはね。だからこうして何かを媒体にして、そこに私が憑依するっていう形をとっているの。・・・本当なら義体とかがよかったんだけど・・・生憎資材とかの都合で今のところは無理ね。』
連れていくにしても嵩張るし、とドライに言ってのけるオルガマリー。
話に途中からついていけなくなった立花はわーSFみたいと考えることを放棄しそうになったが、何とか踏みとどまった。
『それで、肝心のメア・・・なんだけど。』
此処で先程まで饒舌だったオルガマリーが言いにくそうに言葉を濁した。
そんな様子の彼女とは反対にはっと鼻を鳴らして眉根を寄せたアンデルセンが再び口を開く。
「あの低燃費なへなちょこならお前たちが来るほんの少し前に、恐らくだが敵性サーヴァント・・・いや、あれはサーヴァントなのか?に連れ去られたぞ。ああ、まったくもって忌々しい。」
その場を暫し静寂が支配した。
次いで、悲鳴。
「え」
「「ええええええ!?」」
◇ ◆ ◇
ピチャン ピチャン
―――どれくらい時間がたったんだろう。
「・・・あ、ような子、を?」
「別・・・で・い・だろう。わ・・の勝手・・・いか。」
―――だ、れ?
意識が覚醒していくに従って外気の寒さと全身の痛みと疲労がどっと押し寄せてくる。
それとともに自分のすぐ傍で話しているであろう二人の人物の会話もハッキリと拾えるようになってきた。
片方は此処に僕を入れた後に酷いことをいっぱいした人だ。もう片方は・・・誰だろう。初めて聞く声と足音だ。両目も潰れているから相手を盗み見ることはできない。
それどころか自分の身体がどうなっているのだろうかもわからない。今の僕に知る術はないが、きっと見ないほうがいいのであろう状態であろうことは容易に想像がついた。
「・・・まあいいでしょう。御好きになさい。今までの貴方の働きを鑑みればこれくらいは目をつむりましょう。」
しばらく僕のこれからの待遇の話を続けていたようだが話が終わったのか一人分の足音が遠ざかっていく。
早くもう一人も此処から去ってくれないものかと緊張しているとその人物はあろうことか僕のいる牢屋の中に入ってきた。
―――この人も、僕に酷いことをするのだろうか。
そんな僕の心情を知ってか知らず僕の前まで来たその人は酷く穏やかな口調で話し出した。
「・・・もう寝たふりなど続けなくとも良いぞ。というか、
頭を撫でられる。その手つきは優しく、僕を誘拐した一味にしては敵対していることなど微塵も感じさせなかった。バキリという音とともに僕の片手を吊っていた鎖が外れ、何か暖かいものに寄りかからせられる。
・・・たぶん、話している人の身体・・・なのだろうか。
「貴様。名は?・・・いやいい。所詮名など記号だ。社交辞令だと思い忘れよ。」
「は、はあ。」
自分で聞いておいてなんなのだろうこの人。
一応形だけでも助けてもらったにもかかわらず素直に変な人だなと思う。
「え、と。貴方はどうして僕を」
「連れてきたのか?」
食いぎみに正に今聞こうとしていたことを言われてしまう。まるで此方の思考もなにもかもお見通しのようでなんだか・・・。「気持ちが悪い、か?」
黙り込む僕を差して気にすることなく彼は続ける。
「何、少し聞いてみたいことがあっただけよ。」
「貴様は何故苦しむのだ?何故もがく?」
「え・・・?」
「楽になろうとは思わんのか?」
変わらず穏やかな口調に優しげな雰囲気をもって彼は僕に問い掛けた。
何故か震えの止まらない唇で言葉を紡ごうとして閉じる。
僕が、苦しんでる?もがく?なんで?
「譲ってしまえばすぐにでも部外者になれるというに」
そんなの、決まっている。
「ぼ、ぼっく、は」
かさついた口内をそのままにまだ無事らしい肺に目一杯空気を吸い込んで、告げた。
「し、死にたく・・な、い・・・から。生きて、いたい。ひと・・りは、嫌だ。」
何か暖かいものが目のあたりから流れてくる。とても、痛い。いたいいたいいたい。
けど、止まらない。
「・・・それがお前の答えか。・・・つまらんな。」
変わらない声色で彼は呟いた。
全然知らない、赤の他人だというのに悔しいような悲しいような、何とも表現しにくい感情が湧き上がってくる。
「ああ、あやつの残滓があるが故にそのような凡庸な答えは求めていなかったのだが・・・ふむ、まあいいか。」
シュルシュルと衣擦れの音が聞こえる。
両頬に暖かい・・・両手が添えられた。
「お前の行く末には興味がある。何、気を楽にしていろ。こちらで勝手にお前を修復してやる。」
添えられた手も声も、何もかもが何処か懐かしかった。
―――意識が、溶けて・・・いく。
―――
――
「・・・まさか、ここで呼び出されるとはおもいませんでしたよ」
先程とは打って変わって不機嫌さを隠しもせずにメアは目の前の男を睨み付けた。
そんな突然変化したメアを前にした男は・・・。
「会いたかったぞ!!友よ!」
穏やかな変化のない笑顔を止めて、今度こそ満面の笑みで興奮気味にメアに抱きついた。
咄嗟に男の顔と腕に手を押し付けてメアはその抱擁を拒む。
しかし、それでも捲し立てるような男の勢いは止まらない。
「ああ、ああ。ほんに会いたかった。お前を忘れたことなど一時も無い!!ああ、友よ!お前に付けられた傷痕すら今では愛しい!!」
「気持ち悪いんでほんとにやめてくれません?・・というか今僕滅茶苦茶怒ってるんですが。なんで起こした。そもそも起きる条件をどこで知った。」
「うん?そんなの
眉間に皺を寄せるメアの様子など意に返すこともなく、当たり前だと言わんばかりに男が返答する。
「まあ、その事は別にいいとして。お前。
メアの瞳が紅く変化していく。
「そんなの――覗いたに決まっておろう?
お蔭でこのほの暗くドロドロとした感情を得ることは出来たが。と笑顔のままに瞳の奥には暗い何かを乗せて男は言い切った。
「それじゃあ困るんですよ。彼にはこれからもこうして人間らしく成長して貰わないと。」
そう言うメアの手には武器であるユキムラがいつの間にか握られていた。
―――目映い光がその場を包んだ。
2回に区切っての投稿とかすみません・・・。