失敗作だけど白い特等みたいになれたらいいなー   作:九十九夜

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タイトルまんまだなとかいろいろあるけど投稿。
もしかしたら変えるかもしれない。


取り敢えず、生きている。

薄い唇が囁く

 

ああ、どうか恨まないでくださいね。

 

私は貴方を■します。

肩に置かれた冷たい手に赤黒い糸くず。

それはよく見るとその手から自身の足元へ、更に辿ると身体を這いあがって、それは、僕の首を一周して。

貴方と■の歪な縁。流石の蓋も間に合わない。

視界の端に金糸がちらつく。貴方はだあれ?

でもだいじょおぶ。きっとそのうち迎えに行くよ(その時は今じゃないからさ)

 

 

ああでもほら、君があんまりにも欲しがりだから■はすぐそこに・・・。

 

 

 

「今はその時じゃない。だから」

 

―――おやすみなさい(引き返しなさい)。僕。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

「う・・・。」

 

始めに感じたのは何かの焼ける匂いと煙の息苦しさだった。

身じろいだだけで悲鳴を上げる身体に鞭打って、身体を起こす。

 

「ここ・・・は・・・?アンデルセン・・・?」

 

親しい(と少なくとも自分は思っている)サーヴァントの名を呼ぶも返事は返ってこない。

それどころか今自分がいるのは専用の培養器どころかカルデアの一室ですらなかった。

何か、いろいろな何かがともかく燃えている。いつだったかアンデルセンが見せてくれた本に載っていた町とやらに似ている気もするが、こんなにぐちゃぐちゃではなかった気がする。

ふと一糸纏わぬ自身を見てこれではやはり駄目だろうかと運よくその辺に転がっていた襤褸切れを頭から被った。

 

「ぷうっ・・・と、よし。」

 

素足だがまあそれは仕方がない。

なるべく安全そうな個所を選びながら探索を開始した。

 

 

 

「―――っの。―はっ。」

 

破壊音。戦闘音。戦闘音。破壊音。

何かが燃える音以外の音を探していると遠くから誰かの呟きが聞こえてきた。

聞き覚えの無い音が無数に聞こえてくるも、それよりも今は自分以外にも人がいたという事実の方に対する喜びの方が大きい。思わず駆けだした。

その音源に着くと、何やら制服染みた格好の女性が影のような何かと交戦しているところだった。

女性の方が分が悪いらしいが、それでも必死に抵抗を続けている。

がらりと自分の足元の瓦礫が崩れる。

 

「っつ。誰っ。」

 

いいながら女性はこちらにも何かを打ってきた。

 

「うっわわっ待って待ってっ」

 

うわああああっと我ながら情けない悲鳴を上げる。

対して女性は「こ、子供・・・?」と呆然とこちらを見ていたが、我にかえったかと思うと再度指をこちらに向けてきた。

 

「あ、貴方は何者。なぜこんなところにいるのかしら。返答によっては・・・」

 

「僕はカルデアの研究観察対象。名をディルメア・ストルファイスと言います。・・・お姉さんのお名前は?」

 

「お、オルガマリー・ア・・・て、違うっあ、貴方まさかあの子と一緒なの!?・・・いえ、いいえそんなデマ信じるものですか。第一カルデアに所属していて何故私のことを知らないのっ」

 

「あ、えと・・・。」

 

自意識過剰。とも言い切れなくもない。なんせ僕は生まれてこの方あの培養器から出たことはない。

今となってはできたのかはわからないが培養器から出て出歩くということはなく、向こうから来てもらうというのが人とかかわる手段だった故に、僕の交友関係は狭いのだ。

 

「・・・ごめんなさい。今は信用に足るものは何も・・・ただ、僕のことを知っている人なら挙げるのでそれで今はご勘弁を・・・まずカルデア所長マリスビリー・アニムスフィア。ロマニ・アーキマン。リッカ・アームストレイ「ええ、わかったわ。わかったからそれ以上は言わないで頂戴。」

 

なんでロマニどころかあのリッカが知ってるのに私には・・・一言も・・・と苛立たし気にオルガマリーさんは溜息を吐く。

 

「あ、あの。オルガマリーさんが知らないのも無理はないと思います。僕、ずっとカルデアの何処かの培養器に入ってましたから。」

 

「っ。同情してくれているのかしら?はっきり言って不愉快よ。やめて頂戴。」

 

僕の言葉にオルガマリーさんはギリリと唇を噛んでこちらを睨みつける。

同情というものがどういうものかはあまりよくわからないが、何か気に障ることをしてしまったらしい。

 

「ご、ごめんなさい。」

 

「ああもうっ。そうじゃなくてっ。貴方、あの子と同じってことはデミサーヴァントなのよね?」

 

謝罪の言葉に頭を掻きむしったオルガマリーさんは僕を見た。

 

「い、一応は・・・そうなっているはず・・・です?」

 

「一応?まあいいわ。それなら貴方に緊急の任務を与えます。ディルメア・ストルファイス。これから通信に必要な霊脈を探します。その間、私の護衛をしなさい。いいですね。それから、これからは私のことを所長と呼ぶこと。」

 

僕を指さしてそう、彼女は宣言した。

 

「・・・オルガ、所長。大変申し訳ないのですが。その。僕、戦闘経験がないもので・・・ごめんなさい。英霊化も出来ません。」

 

その言葉に所長は顔を引き攣らせた。

 

「な、なんですって。」

 

じゃ、じゃあ貴方どうしてレイシフトが出来たの?サーヴァントでもマスターでもないのにっと詰め寄られる。

否、襟首を掴んで揺さぶられているので首を絞めにかかられているといったほうが適切かもしれない。

 

「し、所長っうっしろっに敵っがっ」

 

は?と少し間の抜けたような声とともに所長は僕を放すと決して小さくはないであろう悲鳴を上げた。

 

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

間一髪のところを謎の人物・・・僕と同じデミサーヴァントのマシュさんとそのマスターである藤丸さんが助けてくれた。助けてくれた・・・のだが。

 

「?如何なさいました。ディルメアさん。」

 

マシュさんのつま先から頭まで視線を巡らせてみる。うん、やっぱり露出が多い。

仮に僕が英霊化した場合もこんな感じになるのかと思うと力は欲しいけれど複雑な気分だ。

まあ、これ以上見ていてもアンデルセンが言っていたセクハラとかいう行為になってしまってもあれなのでそんな思考は早々に切り上げることにした。

 

「いいえ。なんでも。ただ、マシュさんはできるんですね。英霊化。」

 

「え?あ、はい。ただ、完全に自らの意思で、というわけではないので奇跡的に成功したと言った方が良いかと。」

 

そんな会話をしていると召喚サークルから通信が入る。

そこに現れたのはレフ・ライノールではなくロマニ・アーキマンだった。

 

「シーキュー、シーキュー。もしもーし!よし、通信が戻ったぞ!二人ともご苦労様、空間固定に成功した。これで通信もできるようになったし、補給物資だって・・・」

 

「はあ!?なんで貴方が仕切ってるのロマニ!?レフは?レフは何処?レフを出しなさい!」

 

ヒステリックに叫ぶ所長に情けない悲鳴を上げたロマニは、その隣にいる僕を見て更にその顔を驚愕で染めた。。

 

「ええええ!?なんで君がそこにいるんだい!?メアっ。君はまだ調整中のはずじゃあ」

 

「っ。そう、そうよ。ロマニ。なぜ、なぜこんなのがここにいるの!?というかなぜあなたがその席に座っているのよ!」

 

少し冷静さを取り戻した所長がこちらを見る。

その瞳、表情には、必死だった先程までとは違い明確に僕への恐怖や侮蔑やらが含まれていた。

マシュにもそれらしきものを向けていることが見て取れるものの、僕に向けるそれよりは幾分か薄い気がした。

 

「なぜ、と言われると僕も困る。自分でもこんな役目は向いていないと自覚しているし。でも他に人材がいないんですよ。オルガマリー。・・・現在生き残ったカルデアの職員は僕を入れて20人に満たない。僕が作戦指揮を任されているのは、僕より上の階級の生存者がいないためです。・・・レフ教授は管制室でレイシフトの指揮を執ってた。あの爆発の中心にいた以上、生存は絶望的だ。」

 

「そんな―――レフ、が・・・?いえ、それより待って、待ちなさい、待ってよね。生き残ったのが20人に満たない?じゃあマスター適性者は?コフィンはどうなったの!?」

 

マスター適性者。そうだ、Aチームが予定通りにレイシフトを起動させていたのだとしたら―――。

 

『うんうん。いい感じにメア君成分を充電できたし、じゃ、私行ってくるね!!』

 

彼女(・・)の笑顔が、頭を過った。

 

 

「・・・46人が危篤状態です。医療器具も足りま「ドクター。その中に、リッカと。リッカ・アームストレイムという人物はいませんか?」

 

思わず身を乗り出した。隣で所長が何か言っているが気にしている余裕はない。

 

「・・・ごめん、メア。彼女はコフィンに乗り遅れてしまって・・・爆発の直撃を受けて・・・もう。」

 

「っ。生存者をすぐに凍結保存に移行しなさい。蘇生方法は後回し、死なせないのが最優先よ。」

 

その後もドクターと所長の話は続く。

僕はその場でぺたんと尻餅をついた。

隣でマシュが「リッカさんが・・・死んだ?」と呟いているのを聴覚が拾った。

 

 

―――リッカ・アームストレイムが死んだ。

 

嘘だ、嘘だ。

 

だって、つい数時間前まであんなに元気だったのに。

いつもの笑顔で、笑っていたのに。

 

それに、遺体も見ていない。

 

きっと、今にひょっこり通信に顔を出して―――。

 

 

ぐずぐずと

 

黒い何かが蠢いた気がする。

 

悲しいね、虚しいね?

 

その黒い何かは僕の耳元まで回って尚も囁いた。

 

あーあ、まただよ。またまたまたまた死んじゃったね。君のすきなの。

でも仕方ないよねえ?だって君は今回も届かなかったんだから。

仕方ない仕方ない。なーんてね。

 

何かは子供のように無邪気な笑い声を上げた。

 

あ、また届かなかったとか思ってる?

違うよ君は手を伸ばさなかったのさ

 

違う

 

宝の持ち腐れ、君に意気地がなかったから、君が気にしなかったから

 

だから彼女は死んだんだ。

 

 

違う

 

君が気付かないふりをしたから、彼女は死ななきゃいけなくなったんだ

 

違う、違うっ

 

ざわりと

 

視界が

 

      ―――――

 

 

赤―――く—な―――て。

 

 

「メア。」

 

急に名前を呼ばれて意識を戻した。

 

「は、い。」

 

見れば立花さんがこちらを心配そうに見ていた。

 

「大丈夫?移動するみたいだけど・・・辛いならおぶろうか?」

 

「い、いえ。大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」

 

そう?無理そうなら言ってくれよ?と言って立花さんはニコリと微笑んだ。

 

―――名前だけじゃなく笑い方も似てるんだ。

 

「・・・?」

 

内側にくすぶっていた何かが少しだけ薄くなった気がした。

 




だ、大丈夫大丈夫。リッカさんもまだ出番あるから!!(震え声)

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