―――ザアアアアア
雨が降っている。
―――ザ、ザザザ、ザアアアア
いいや、違うこれはノイズだ。
まるで巨大なテレビのモニターを見ているかのように脳内がノイズに埋め尽くされていた。
早く終わってくれないだろうかと思案しつつそのまま身体を預けようとすると、ふと後ろから呼び止められた。
「どうしたんですか。
瞬間、ノイズが消え去る。
良く見知った声に思わず安堵から膝をつきそうになった。
「・・・いや、何でもない。ちょっと考え込んでいただけだ。」
話をしながら廊下を歩く。
「あれ?そういえば
あの元気いっぱいどころか常時暴走気味のセイバーは珍しく今朝からその姿を確認できていない。
「ああ、彼女ならもう先に――「おせーぞ。てめーら」・・・アリーナ入口で待機しているはずでした。」
心なし、いや。確実に不機嫌なセイバー。え、私何かした?
「アリーナ。今タイガーとかいう奴がぶっ壊したのの修復中で使えねーんだと・・・たくっついてねーぜ。」
しかもそんなに暇なら教会にでも行ってその粗末な霊基上げとけとか言われてよー。くそっペナルティがねーならぶん殴りてえよあのクソ神父。と愚痴るセイバーに苦笑いを返す××。
ああ、いつも通り/不思議な光景だ。
そのまま会話を続けながら中庭へと繋がる扉へと手を掛けた。
―――・・・?
取っ手を掴んだまま、どうしようもない悪寒が臓腑の底からこみあげてくるような感覚が自身を支配する。
此処を開けてはならない。―――開けたら、後戻りできなくなる。
それでも行くのか?
自分に対する、不思議な問いかけだった。
―――ああ。
隣でにこにこと穏やかに笑っている××と反対にむくれているセイバーを見遣る。
片やこの生き方を見て面白そうだと引っ張り上げた王に片やたとえマスターに謀られ消滅しかけたのだとしても最期の時を私を助けるために使ってくれた、最後まで一緒に来てくれた二人だった。
この2人がいるから前に進めた。
この2人がいたから今の岸波白野がある。
だから
だから、
扉を―――・・・開いた。
いつか何処かで受けた突風じみた圧迫感を全身で受ける。
―――なら、君はもう。
閉じていた瞼を開ける。
さて、自分は誰だったのだろうか。
―――岸波白野だ。と自信をもって答える。
此処は何処だろうか。
―――わからない。が、薙ぎ倒された木と燃え盛る炎。そして転がっている人々の様子からここは危険地帯だと本能的にアラートが鳴っている。
何故、自分は此処にいるのだろうか。
―――わからない。忘れてしまった。恐らく、大切な何かと一緒に。
だって、そうでなくては・・・こんなにも涙を流すことなどないだろう。
そう思って乱暴に袖で目を擦った。
◇ ◆ ◇
簡素な机に向かう女が一人。年の頃はおそらくギリギリ10代くらいの彼女は一心不乱にカリカリとペンを走らせている。
―――こうして、第4次聖杯戦争は終結した。
今度は終結後の各陣営の様子について語っていきたいと思う。
先ず始めに、小聖杯を所有していたセイバー陣営。
マスター:衛宮切嗣。生存。
サーヴァント:セイバー。退去。
彼が何故サーヴァントを失ったのかは、本人が硬く口を閉ざしているため定かではない。が、彼の身体は発見時ズタボロになっており、何か得体のしれないものに侵されていた。恐らく以てあと数年といった所だろう。
魔術師殺しとしての活動は不可能とし、現在は協力者であった久宇舞弥と戦災孤児になってしまった男の子と一緒に冬木に残り、静養している。
アーチャー陣営。
マスター:遠坂時臣。死亡。
サーヴァント:アーチャー。退去・・・?
マスターである遠坂時臣は戦争終了後シェルショックに似た症状を発症し、カウンセリングなど治療を試みていたものの数か月後、書斎で首吊り自殺を図っているところを娘が発見。
直ちに病院に搬送されたものの脳に重度の障害が残り、更にその半年後死亡。
妻葵も献身的な介護の末に後を追うように倒れ、帰らぬ人となった。
ランサー陣営。
マスター:ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。生存。
サーヴァント:ランサー。退去。
どうやら、最終決戦の開始直後にランサーのおそらく
しかし、肝心のソラウ・ヌゥザレ・ソフィアリ自身が既に故人のため追及はならず、何故彼女がこのような強硬に及んだのかは謎に包まれたままだ。令呪の持ち主が変わっても主に忠を尽くしたランサーも既に座へ帰っている。
その後、ソフィアリ家とアーチボルト家の関係悪化、また。聖杯戦争の責任の所在追及に伴い、ロードの資格を剥奪され追われる身となった彼はそのまま協力者だった婚約者の影武者・・・ソフィリア・ミルフォリエと冬木へ渡り、結婚。
現在は1男1女の子に恵まれ、塾の講師をしつつ幸せな家庭を築いている。
アサシン陣営
マスター:言峰綺礼。生存。
サーヴァント:アサシン。生存。
終了後に余った魔力で受肉したハサンはそのまま教会の貴重な労働力として重宝されている。
マスターの方は厳罰覚悟で今大会の参加者との会談の際に本来なら公平であらねばならない監督役、牽いてはその実子である自身がアーチャー陣営に加担していたことを暴露。謝罪した。
璃正神父は遠坂家の悲劇のこともあってしばらくの間落ち込んでいたが息子とアサシンの献身もあり、徐々に元に戻っていった。・・・言峰綺礼は前の硬い雰囲気が軟化、穏やかな笑みを絶やさないような男になったようだが一体この男は何を得たのだろうか。
キャスター陣営
マスター:???
サーヴァント:キャスター。退去。
キャスターは正体不明の純白のサーヴァントの宝具?に飲み込まれそのままだ。恐らく退去したのではないかとの見解ではあるがいまだに泥のようなものは残ったままだし、不明だ。
マスターの方はキャスターが作っていた工房のようなものの中で見つかった。
その時は既に腐敗が進んでおり、辛うじて男と分かったくらいの酷い有様だったらしい。
もっとも、その工房内にあった他のとは違った死に方をしていたから位しかマスターだと決定づける要素がなかったので、あまり期待はできないが。
バーサーカー陣営
マスター:間桐雁夜(間桐桜)死亡(生存)
サーヴァント:バーサーカー。退去。
セイバー陣営は早くから気づいていたようだが、この陣営は雁夜ではなく実際はその姪桜がマスターを務めていたらしい。しかし、さらに驚くべきは彼女は確かにあの純白のサーヴァントのマスターではあるものの実はバーサーカーではなく、彼女を通して与えられていたでかい犬。あれこそが本来のバーサーカーだったらしい。
詰まる所サーヴァントがサーヴァントを使役しているというとんでも陣営だったようだ。
最終決戦後、叔父をなくし、父親はアルコール依存症に陥り、当主である御大ですら姿を見せない中で、なにやら彼女に(表面だけでも)救いの手(笑)を差し伸べようとした魔術の家は割とあったようだが彼女自身がそれをかたくなに拒否した。なんでもやるべきことがあるのでと言われて取り付く島もなかったそうな。
自分のサーヴァントをママと呼び慕っていた様子を見たことがあるだけに貼り付けた無表情で耐えるような彼女の様は見ていて本当につらかった。一緒に来るかと誘いもしたが悲し気に微笑んで何かをぼそりと呟いた後、首を振られてしまった。
ハンドラー陣営
マスター:岸波白野。
サーヴァント:岸波白野。生存。
散々引っ掻き回してくれた使い魔の青年はどこぞへと消え、マスター兼サーヴァントの岸波白野というらしき少女のみが正式に受肉し、この地に留まった。
しかし、最終決戦の影響か定かではないものの記憶の混濁が激しく、記憶喪失の状態に近い。
日常生活に支障はないようで、こちらも時計塔へそれとなく誘ってみたのだが少し寂しそうな笑顔で覚えていないけれど待っているひとがいるから、自分一人が
???陣営
この陣営に関しては本当によくわからない。
何故か受肉している叛逆の騎士はいるわそのサーヴァントがあの正義の味方だわでほんっとーに訳が分からない。
人に言いたいことだけ言ってかっこよく消えていくオレ・・・みたいな感じに(思ってないでしょうけど)思ってたら大間違いよ。ていうかぶん殴るわよ。
失礼。この陣営に関してはサーヴァントの退去は確認済み。マスターは・・・ハンドラーのように、いえ、ハンドラー以上に記憶が混濁しているようだけれど取り敢えず、名目上はハンドラーの護衛として一緒に冬木で暮らしている。最近はなぜか料理にはまっているらしいが山駆けまわって捕まえてきた動物をなめして丸焼きにするというワンパターンは嵌っていると言っていいのかしら・・・。
最後にライダー陣「先生ー。そろそろ時間だってロードが。」
あ、邪魔しちゃいました?と聞いてくる弟子にもうそんな時間かと椅子から立ち上がる。
「ううん。大丈夫。もう終わったところよ。じゃ、行きましょうか。凛。」
「はい。」
ポンと頭を撫でるとぱあっと嬉しそうな顔をする弟子の元気な返事を聞いて自然と笑顔になる。
扉を開けるとそこには勇ましい赤毛の大男と、あの頃より背も髪も伸びた―――
「ごめんなさい。遅くなったわね。」
「おお、久しいな、久遠。いや、気にせんでよい、余も今来た故な!!」
「・・・なんでよりにもよって下見のときに・・・。というよりなぜ戦車できた!!車をつかえ車を!!」
百歩譲って下見の同席は許可したがその戦車をどうやって説明するつもりだ!!と青筋を立てている相方の姿に思わず笑みを溢す。
―――ほんっと、あのころから変わったようで変わってないんだから。
・・・聖杯戦争が終わってからライダーは受肉し、ちょっと京都行ってくるわみたいな軽いノリで世界旅行へと旅立っていった。
で、残された私こと月城久遠とウェイバーは時計塔に行くことになったわけだが・・・。
向こうに行ってすぐにアーチボルト家の因縁をケイネス・エルメロイ・アーチボルトから押し付けられ二人揃って馬車馬の如くこき使われ、そのデスマーチをこなしているうちに相方がいつの間にかロードとかもらってしまって逃げ場が無くなっていた。所謂完全とばっちりというわけだ。
そもなんでお家騒動まで私たちが駆り出されるのか。もう訳が分からない。
なんだかんだ言いつついろいろ陰ながら助けてくれたケイネス先生に頭が上がらないとウェイバーがいつだったか言っていたが違う。確実にいいように使われてるだけだ、気付け。
あ、なんか思い出したら無性に腹立ってきた。
今度持っていくお土産のクッキー。奴のにだけわさび入れてやる。
まあ、こうして遠坂家の遺児となってしまった凜を引き取り、魔術師ではなく魔術使いとして育成できるのも一重にロードの名の助けがあってのところもあるので悪いことばかりではないのだけれど。
「あ、先生。課題クリアしたので後で見てください!」
「うん。でも箱の作り方はまだ駄目だからね。」
えーっとむくれる愛弟子。愛しい人。頼もしい友人。
「どうした。早くしないと間に合わないぞ。」
「はいはい。今行くわ。」
―――次の聖杯戦争を担うことになるだろう者達へ
貴方の運命に出会いと祝福があらんことを・・・。
◇ ◆ ◇
「
ベッドの中の少女に彼女の兄・・・間桐慎二が話しかける。
「大丈夫。ママから貰った足だもん。すぐ慣れるよ。」
よいしょっとベッドの端に腰かける彼に桜は穏やかな笑顔を向けた。
「ママから貰った足、ママから貰った命、ママから貰った力。・・・ああ、早くママに会いたいな。」
「だいじょうぶ。すぐ
愉しみ
しかし少女はそんなことは一切気にする素振りもせずに、華のように笑った。
「はい。本当に。愉しみです、
―――end・・・?
というわけで一応zero編完結です。
次、SN書くかFGO書くかで悩んでますが・・・どうしたらいいものやら。
まあ、SN書くならほぼほぼ主人公でないからそれこそ別物として連載すべきか・・・。
本当は皆さんにアンケートを取りたかったのですが。
いかんせん自分アンケートのやり方がわからないもので・・・
もう、あみだでもいいかなとか自棄になってます。
あ、でも新しく書いても需要は・・・。
本当にここまで長くなってしまいましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。