なかなか投稿できなくてすみません。
不定期更新の件ですがとりあえず難は逃れそうといいますか・・・一応大丈夫になりつつあります。・・・このまま何事もなければ。
それでは今回も閲覧よろしくお願いします。
とある港付近の建物の屋上。
風に羽織っているコートをはためかせながら男ーーー衛宮切嗣はスコープから目を離さずに、さりとて決して動じていないというわけでもなく港の方を見ていた。
その額には彼にしては珍しく、一粒。汗が伝っている。
ーーーどういうことだ。
間桐雁夜の召還したであろうサーヴァントを切嗣は裏切りの騎士ランスロットであると仮定していた。
何故バーサーカーで顕現したのかは不明だが、円卓一の剣の使い手であり策謀にも長けたかつての理想の騎士。
そう思って作戦も練って、確認と各陣営の炙り出しのために、そして何よりよりアイリスフィールがマスターであるという誤情報をさらに刷り込むためにこの海魔退治に赴いたのである。
少なくとも最初はそのつもりであった。
再度脳内で確認作業を行う。
バーサーカー。円卓の騎士、ランスロット。湖の乙女に育てられた、円卓一の剣の使い手、湖の騎士。
彼の逸話は多数あるがその中でも有名なのは円卓の他の騎士の身代わりの決闘、王妃との不義の恋etc.
しかし、彼はあくまでも使い手であり、身代わりの決闘の時は武具を
武器を作り出すなんて言う器用を通り越した能力など彼にありはしないのだ。逸話を見る限りは。
彼女と接触したセイバーもこれといった反応をしていないところを見るに彼、否。彼女は十中八九ランスロットではないのだろう。それこそこれもまた逸話故に姿を偽る能力でも持っていない限り確実だといえた。
「・・・図られた、か。」
舌を打つ音が虚しく響く。ボリボリと自身の頭を掻いて切嗣は懐から無線機を取り出すと早速中継地点に待機している助手に連絡を取った。
「・・・してやられたよ。まさか、聖遺物がダミーだったなんてね。映像も経路もしっかり魔術師らしいものだったから油断してたのかな。・・・舞弥、使い魔の方はどうなってる。」
『はい。一機も破壊されることなく万全の状態で情報を収集しています。・・・おそらくあのライダーのマスターだと思われる少年と間桐雁夜、その肉親と思われる少女以外察知している可能性が拭えませんが・・・いかがしますか。』
無線から抑揚のない女声・・・助手の舞弥の声が淡々と響く。
「・・・そのまま続けてくれ。ただ、君は既に使い魔越しに位置が把握されている可能性がある。このまま使い魔を残して撤退しろ。」
了解。と短い切り返しが返ってきたかと思うと即座に通話が切断される。
さて、と呟いて無線をしまうと今度は携帯電話を取り出す。
「・・・もしもし、アイリ?ああ、僕だ。少し頼みがあってね。それとなくセイバーに彼女と面識は・・・いや、似たような特徴の人物はいなかったか聞いてみてくれないかい?・・・うん。それじゃ。」
携帯電話を閉じる。もしもの可能性としてアイリスフィールに言伝を頼んだがきっとあまり期待できないだろう。
口元に柔らかな微笑を浮かべつつも、目には剣呑な色を残したまま切嗣は港を再度見た。
「間桐雁夜に、謎のサーヴァント・・・ね。」
もし、彼女が本当にかのランスロット卿、またはその関係者でなかった場合。この偽物の聖遺物入手からこれまでの手際の方を考えてもサーヴァントだけでなくマスターも一筋縄ではいかないような人物だろう。むしろーーー。
「・・・面倒なことになってきたな。」
間桐雁夜。代を重ねた魔術の家に生まれながらも家を出て以降。時計塔や・・・これはさすがにないとは思うがアトラス院といった組織に与すことなく一般人として生きながらもただひたすらに牙を研いできた魔術使い。
切嗣を同じタイプの生き方の人間であることは無きにしも非ずである。ご立派な魔術師を相手取るより厄介だ。
ーーーさて、どうする。
この隙に暗殺。なんてことは他のサーヴァントがいる手前まず無理だ。
しかし、この会合が終わってしまった場合間桐の結界が邪魔をして始末が面倒になる。
アナグマを外に、切嗣にとって優位な場所におびき寄せるには・・・。
意を決して、切嗣はもう一度携帯電話を取り出した。
◇ ◆ ◇
「・・・ええ、分かったわ。」
夫からの着信が切れた後、アイリスフィールは己に与えられた役割を実行すべく気取られないよう考え込む。
「アイリスフィールっ。ご無事ですか。」
そこへ己のサーヴァントのふりをしてくれているセイバーが駆け寄ってくる。
純粋な心配もあるのだろうが仮にも守るべき存在であるアイリスフィールが敵陣にほど近い場所に一人で、という状況も鑑みての警戒もあったのだろう。
駆け寄ってきた少女騎士を安心させるかのようにアイリスフィールは微笑みを浮かべた。
その様子に共にチャリオットに乗っていたライダー陣営の二人は苦笑すると、ライダーに言ってチャリオットを地に着けアイリスフィールをセイバーの許に降ろした。
「ありがとう。助かったわ。・・・久遠とはもう少し話していたかったのだけど・・・またの機会によろしくお願いするわね。」
その言葉に久遠がこくりと気恥ずかしそうにうなずいたのを確認したアイリスフィールはセイバーの方に向き直ると、音量を小さめにセイバーに話しかける。
「セイバー・・・貴方の知り合いにあの白いサーヴァントの様な人はいた?」
突然の問いにセイバーは意図が飲み込めないなりに「は、はあ。いなかったと思いますが。」と回答する。
「そう・・・。」とまたも考え込むアイリスフィールに今度はセイバーが重い口を開いた。
「・・・申し訳ありません。アイリスフィール。なにぶん自身の統治する国の事にしか、目を向けていませんでしたから。」
言ってセイバーはわずかに俯き、その面貌に影が差した。
彼女は清く正しい王として国を、民を導こうと剣を取った。しかしその実彼女は民や国を一個の群体としては見ていたもののひとりひとりに寄り添えたわけではない。仮にあの白いサーヴァントが故国の民か、はたまた異国の同時代を生き抜いたものだったとしても彼女には思い出せなかった。心当たりすらない。
目の前の夫人の期待に答えられない悔しさと、どれだけ自分が全体を重視したが故に個を大切にしてこなかったかを見せつけられたかのようで不甲斐無さがその表情に見て取れた。
対するアイリスフィールはセイバーからの答に更に思考を巡らせて、一つの可能性を見出す。
「いいえ、いいのよセイバー。ただ・・・ね。あなたが思い出すのもつらいかもしれないのだけれど・・・」
アイリスフィールが更にセイバーとの距離を詰め、何事かを耳打ちする。と、その言葉が余程衝撃だったのかセイバーは目を見開いてしばし唖然とした後、眉を顰めた。
『ランスロット卿の愛人だったりとかは・・・無いかしら?』
「・・・あまり考えたくはないですが、無くはない・・・ですね。」
私の(妻の)件は有難かったですが、それ以外にも複数の方と関係を持ってそのことが原因で我が卓を囲む騎士たちと諍いがあったりもしましたから。と、遠い目をしながらかの騎士王は呟いた。
女関係のエピソードが豊富なランスロット。やはり円卓時代も相当爛れていたらしい。
セイバーの複雑そうな表情を見ていられなくなったアイリスフィールは何とか話題をそらさなければと思い無理に明るい声で、再度セイバーに話しかける。
「そ、そういえばあの白いサーヴァント。剣を作ったり、かと思えば海の一部を泥に変えたり、TORIを出したり芸達者ね。もう現代ではああいうものはそれこそ大掛かりな儀式が必要だろうけど・・・セイバーの時代の魔術師はどんな魔術を行使していたの?」
「魔術師・・・ですか?やはりよく知っているのは私の教育係の・・・所かまわず花を咲かせる魔術とかでしょうか。女性関係がおおらかすぎてあまり人としては・・・そういえば件の騎士もどこぞの姫を手酷く振って死体が呪詛入りの手紙と一緒に国に流れ着いたことがありましたね。そのうちなんだかよく分からないうちにこれまた他所の方との間に知らない間に子供ができていたりとかしました。本人は誤解ですとか言ってましたが。そのくせ詰めが甘くて、私の(妻の)時も遁走の時に一緒に連れて逃げればいいものを・・・。」
子どもの方は彼の息子とは思えないほど純真で・・・彼こそが最高の騎士なのではないかと思ったほどです。言葉を吐き出すごとにセイバーの瞳が淀んでいく。ここまでくるとアイリスフィールもセイバーの心配よりも彼女の口から語られたとんでもねえ男の、その被害者(かもしれない)の女性の方に同情を禁じえなかった。
のだが、此処で最大の矛盾が発生する。
「あら?でも彼女。ギルガメッシュの姉って・・・?」
アイリスフィールの疑問に対しセイバーがぽつりと返した。
「・・・いえ、接触した可能性は捨てきれません。」
蛮族との戦闘の際にかの騎士のみが数日間戻ってこず、てっきり死んだものかと皆で葬式の用意をしていた時にひょっこり戻ってきた彼は目をそらし、挙動不審ながらも「実は穴に落ちまして・・・。」と何やら軽く時空越えた的な話をしたことがあったそうな・・・。なんだか眉唾物な気もするが、此処までの彼の奔放?な女性関係にセイバー、アイリスフィール共にランスロットの株は急降下中であったため疑問も突っ込みもない。
語るセイバーの眼は何故か黄金の冷たい輝きを放ち始めていた。
「・・・全くどれだけの女性に迷惑を掛ければ気が済むんだ・・・傍迷惑騎士め。」
勘違いが加速する中、桜の隣に待機していた大きな犬・・・ロットがおおきなくしゃみをした。
心なし耳が垂れ下がっているような気がしなくもない。
「一体どう謝罪すれば・・・あっ。」
セイバーと共に申し訳なさやら悲しさで押しつぶされそうになっていたアイリスフィールは脳裏によぎった愛する夫のもう一つの言伝を思い出し、さっきまでの暗い表情は何処へやら。セイバーに一声かけた後、気丈な態度で一歩、前進する。
『バーサーカー陣営と同盟を組もうと思っているんだけど・・・。きっと僕からじゃ怪しまれるだろうから。それとなくアイリから同盟の申し入れではなく・・・こう、今日の件での食事会でも。みたいなノリで約束だけ取り付けてきてくれないか?・・・もし怪しまれるようなら
頭の中で切嗣の言葉を反芻し、すうっと息を吸い込むと真っ直ぐに白いサーヴァント、ウルレシュテム。正確には彼女の立っているこの場の中央に近づいていく。
「此度の騒動の鎮圧。他の二家と教会に変わって感謝いたします。そして、こちらから何の行動もなくこのような事態を引き起こしてしまったこと、深くお詫び申し上げます。・・・本当に申し訳ありませんでした。システム上教会からしか令呪や特別な措置というものは取れない仕組みになっているが故にあなた方が満足いくような品をご用意することは不可能かとは存じますが、私もこれでも御三家の端くれ。何も贖うことなくこの場を辞してしまうのは恥の上塗りに他なりません。よって、ささやかながら我が城にて宴を開こうかと思っております。後程使いのものをお送りしますのでよろしければご検討ください。」
裾を摘まんで頭を下げる。その優雅な動作はやはりというか、完璧な貴族の気品が漂うものであった。
その一連の動作に呑まれつつもやはりというか半人前であっても魔術師社会で生きてきたウェイバーが精いっぱい声を上げる。
「謝罪はわかった。・・・けど、それだけじゃやっぱり判断する材料には弱い、と思う。御三家としての誇りや責任があるのはわかるけど、それだけだ。僕はあなたたちのことを何も知らないし。悪いけど信用することは・・・もがっ」
「ふむ、その話乗ったっ。では余は極上の酒を持参してゆこうっ。」っぷはっ、おいっ何勝手に決めてんだ。僕がマスターだぞっ。」
途中で押しつぶされていたウェイバーが抗議の声を上げるが、それを意に返さないかのような態度でライダーが「うん?はっは。何いっとるんだ坊主。どこぞ・・・いやこの国のものだったかの諺には虎穴に入らずんば虎子を得ずなんて言うものもあるくらいだ。まずは何事も挑戦してみなくては先に進めんぞ」と言って豪快に笑う。
「そんなの知ってるよバカ。けどそれはあくまでも一般人っ。魔術師だと通用しないんだよっ。このバカっ。」
言い返すウェイバーは既に涙目であるがそんなのお構いなしにライダーは豪快に笑ったままだ。
久遠はその様子をおろおろしながら見ているところを見るといまいち判断しかねるといった所であろうか。
そんな騒がしいライダー陣営以外の陣営は恐ろしいほどの沈黙を保っている。
「そうですか・・・。」
その様子にアイリスフィールは溜息を吐くとポケットの中から一枚の封筒を、更にその封を切り、中に入っていた一枚の紙を取り出す。
そこに入っていたのはーーーーーセイバーの本来のマスターである衛宮切嗣、並びに彼のサーヴァントであるセイバーは此処に集まっているであろう人物には今後一切手を出さない旨の書かれた誓約書・・・セルフギアススクロール。だった。
「・・・これは単に私のわがままですが、既に味方からの許可は取ってあります。どうしても信用するに値しないというならばそこまでですが・・・こちらを証拠に・・・ということでは駄目でしょうか?」
余りの急展開に魔術師であるウェイバー、久遠、そして遠見をしていたケイネスは唖然とする。
もちろんといえばいいのか何故と問えばいいのかわからないがセイバーも呆然と固まる。
いくら御三家で責任感じてるからってそこまでするとかないだろ。かたやそんなこと聞いてませんよっ。と。
ただ一人、急増の魔術師でありことの重要性がわかっていない雁夜だけが、雰囲気に乗せられて険しい顔をしつつも、隣にいた綺礼に「あれ、俺も見たことあんだけど。あれって結局なんなんだ?確か時臣の奴がセルフギアスなんちゃらとか言ってたけど・・・あれのことか?」などと魔術師にあるまじき発言をしていたが皆スルーした。
「それでは、色よい返事をお待ちしております。」
再度行われた優雅なお辞儀とそのアイリスフィールの言葉が、この場の幕引きとなった。
色々収集がつかなくなりつつある勘違い。
ちなみにこちらの世界のランスロットと主人公は面識ありませんが向こうの世界のランスロット含めいろんな方面の人と(間接的に)主人公は面識あります。
赤弓こと衛宮士郎とも久遠とも面識があったりします。
・・・彼女本人というわけではないんですが。
閲覧ありがとうございました。