失敗作だけど白い特等みたいになれたらいいなー   作:九十九夜

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ウルレシュテムは動き出す/槍兵、再び

周囲の視線を一斉に浴びたウルレシュテムがため息を吐いた後、仕方なさげに白状する。

 

「ええ、確かに、妾《ボク》の力を使えばあるいは・・・いえ、余程の事がない限りは可能でしょうね。」

 

「じゃっ、じゃあっ!」

 

その言葉にウェイバーが食い気味に喜びの声を上げる。が、その先が続くことはなかった。

 

「ですが、それをして一体妾《ボク》になんの得があるんです?」

 

その一言にその場の空気が軋む。

皆一様に彼女を非難するでも肯定するでもなくただただ彼女を、その一挙手一投足を静かに見つめているだけだ。

実際その通り、ここで青髭の暴挙を止めるためという建前でほとんどの陣営の前で手の内を見せていったい彼女に何の得があるというのか。教会や御三家のいずれかの家から何かしらの通達があるわけでもないただの異常事態だ。褒賞も何もあったものではない。詰まるところタダで情報公開と面倒事の始末をしろと言われているのとそう変わらないだろう。

いいや、ウルレシュテム自身は別に宝具として記されているものの一つや二つ見せたところで痛くも痒くもない。ただ、そう彼女は人間に対して友好的ではあるものの決して人としての、人に沿った考え方をするような人物ではない。彼女の感性はあくまでも半神半人。人でも神でもなく、その中間を位置づけられた別種族である。

故に彼女の中での人間とは大勢の人間をそのまま愛しいものとしてカテゴライズしただけのものであり、個人に向けられている訳ではないのだ。もちろん桜やギルガメッシュと言った身内(例外)は別だが。

たかが数百人いなくなったところでまだ、数億人いるではないか。

要は、どうして、自身の治めていた国の民ですらない大勢いる人間の中のたった数百人の人間のためにわざわざタダ働きをしなくてはならないのかということであった。

例え民であったとしても女神には供物を、王には献上品をと願い事には対価が発生することが当然の如く定められている。それがなくても許されるのは対等であればこそ成立する話であって、少なくともウルレシュテムは彼らとの間では成立させることができないと見ていた。もっと言えばもらう対価にしたって宝具を使っての海魔に取り込まれてしまった数百人の命の救出、及びこんな事態の収束と後始末と言った依頼と恐らく渡せるものの一例としてこれからの生を対価として支払われたところで、神代の人間ですらない脆弱な人間三、四人のこれまた短い八十にも満たない人生とサーヴァントの霊基をもらったからと言ってやはり見合わぬ出費になるであろうことは目に見えて分かっていた。

そして何より、とウルレシュテムは桜と雁夜を見遣り。次いでこの港から離れたビルの上にいる銃を構えた男女を意識のみずらして(・・・・)認識する。

ここで見せた力の一部への対策を練る云々はまだいいとして、危険度を認識したうえで勧誘、利用しようと雁夜や桜に近づこうとする輩がいないとも限らない。即座にマスターを排除するということも無きにしも非ずだ。まあ、そんなことは自分だけでなく弟がこちらにいる限り土台無理な話だが。

 

「仮に(ボク)がこの場を収めることを快諾したとして、貴方達はどんな対価を支払うというのですか?魂?魔力?珍品?それともそれ以外(令呪とか)?」

 

意地が悪いと思いつつも聞かねばならないこととして一番反応が豊かそうな少年少女の乗るチャリオットに視点を合わせて問いかける。心なし、否。見てわかるほど少年少女は怯えていた。・・・けれど、少年は意を決したようにほんの少し前に歩み出ると大袈裟に深呼吸をする。

 

「っぼくはっ「横やりになって失礼するが、この場は俺に預けてもらおうっ」

 

ギャインっという音とともに投擲した槍が突き刺さると同時に港のコンテナの上から不在であったランサーが現れる。

片手には投擲したものとは別の槍を、もう片方には何やら書簡を持っている。

その封を少々乱暴に開けると、それを全陣営が見えるように高々と掲げ、宣言した。

 

「現在より、キャスターの暴挙が神秘の秘匿などのルールに抵触するとの理由からキャスターの討伐令が教会より下された。貢献したものには教会の保有する令呪を一画。報奨として譲渡することとなった。これはその旨を書いた教会からの正式な文章だ。」

 

言い切った瞬間、ランサーに向かって一振りの黄金の剣が飛んでいく。

咄嗟の判断で槍で刃を弾いたランサーに対してチッとどこからか舌打ちが聞こえてきた。

正確には、先ほど同じように乱入してきたハンドラーの使い魔、ウル・ルガルのほうから。

 

「折角そちらの少年が面白そうなことを言ってくれそうだったというのに・・・邪魔しないでくださいよ。こっちはただでさえ汚物の集合体みたいなのに戦闘中止せざる負えなくなって困っている(イラついてる)っていうのに・・・ああ、イライラする。」

 

いやお前も乱入者じゃね?とかさりげなく責任擦り付けんなとかいろいろ言いたいことはあるだろうが、触らぬ神に祟りなしならぬ触らぬ王に祟りなし。皆反論しなかった。

 

「あ、ああ。それはすまないことをした。少年と・・・どなたか存じ上げないが高貴なる御仁。何分火急の報せとあって出ていくタイミングを見誤ってしまったようで・・・すまない。」

 

至極申し訳なさそうにランサーが謝罪する。ウェイバーは言葉を紡ぐことが出来ず口を数回開閉したのちにブンブンと思い切り頭を横に振って答え、ウル・ルガルに至っては既にあまり関心もないのか、はたまた敢えて感情を抑えているのかはい。と短く返事をして終わった。

 

「さて、こんな風な形式に整ったわけですが」

 

どうします?というウル・ルガルーーールルの問いにウルレシュテムは自らのマスターである桜の方に改めて視線を向けると微笑みとともに「大丈夫だよ。ママ。私は大丈夫。」とこちらの心情を察したかのように気遣いの言葉が飛んできた。ふと軽く溜息を吐いて彼女は再び口を開いた。

 

 

「---わかりました。やりましょう。令呪一画だなんていささか足りないような気もしますが・・・マスターも背中を押してくれましたしね。」

 

そうと決まればやはりそのための時間稼ぎが必要になるわけですが・・・と言って桜のもとに歩いていくと屈んで二、三言耳打ちする。それに対して桜はこくりと頷くと肩にかけていたポシェットの中から明らかにそれよりもサイズも量もある小枝を取り出した。

それをウルレシュテムに手渡すと彼女はそれをおもむろに握りしめる。

瞬間、有り得ないことが起こった。

先程まで彼女の手の内にあった小枝が明らかに現代には存在しないであろう濃度の神秘を内包したーーー宝具らしきものへと姿を変えたのだから。

サーヴァントはともかくこの工程を見ていた魔術師たちは目を見開き、一様に驚愕をその顔に浮かべている。

それもそのはず、いくらキャスターという桁外れの魔術師またはそれに準ずるものを呼び出すクラスがあったとしても、できることといえばせいぜい陣地作成によって工房、または神殿の作成と、道具作成によるこの時代に準じた力持つ礼装の作成程度である。間違っても今目の前で行われているような、神秘そのもの(・・・・・・)をその場で作り出すようなものは存在しないのだ。たとえサーヴァントという人の枠から外れた存在であっても無から有を作り出すなんてことはそれこそ魔法の域の話。到底信じられるものだはなかった。

その工程を枝の数分繰り返し、最後の一本を無造作に地面に投げ捨てるとウルレシュテムは息を吐いた。

 

「まあ、即席ですがこれぐらいあれば十分でしょう」

 

彼女の足元には先程の小枝・・・ではなくその小枝を芯にした剣(どう見ても神代級の代物)がおびただしい数転がっている。

 

「それじゃ、あとは頼みましたね。」

 

ふわりと現代服のコートを靡かせて水面へと歩いていく、と、海へ落ちた。

飛び込んだとかではなく、普通に。足を踏み外したかのように構えることなく落下した。

音もなくその姿は海中へときえる。

 

全員が立て続けに起こった出来事のショックで放心するなか、ギルガメッシュが落ちていた剣のうちの一つを手に取る。

 

「何をしているか、雑種ども。早々に位置につけ。」

 

 

轟音とともに何かが港に向かって飛来する。

それは空中でバラけ、中身が地上へと降り注ぐ。

ビシャリと張り付いたそれは海上に姿を現している海魔を人より僅かに小さくしたくらいのサイズの海魔だった。空からだけでなく、海からも次々と上陸してきている。

 

アイリスフィールに飛び掛かろうとした海魔を切り捨てたセイバーがアイリスフィールをライダーのチャリオットに乗せ、いくらかの問答をした後にその足で海上へと歩を進めようとする。が、それを寸での所で桜が虚数の触手で拘束した。

 

「なっ何をするのですっ。あの海魔は海からも来ているのでしょう?なら水上を歩ける私が海上の前衛に適役のはずでは?」

 

それに、桜ではなくルルが代わりに返答する。

 

「海上は駄目です。巻き込まれますから。ああ、空が飛べるとかも駄目ですよ?下が海なら同じなので。僕らはただ、ここで防戦に撤していればいいんです。」

 

にこりと微笑みを浮かべる顔には暗に余計なことをするなと言う無言の圧力があった。

 

「モードレッド。」

 

そのままルルは、自身の後ろで項垂れる少女騎士に声をかける。

 

「・・・んだよ。」

 

相変わらずブスくれたままモードレッドは投げ遣りに返事を返した。そんな様子の彼女の前に先程の剣を投げる。

 

「ほら、今度は一緒に戦いましょう?・・・と言うか君何言っても最終的に前線に出てくるでしょうし。」

 

ああ、それとと付け足すように言った一言にモードレッドは顔を真っ赤に染めて胸元を掴むような動作をした後ふいっとそっぽを向いて、仕方ねーなと言ってクラレントではなく足元の剣を手に取り立ち上がる。

 

「取り敢えず今はこのまま戦ってやる。けど後で何があったのかしっかり話せよ。ゼッテー今度こそ逃がさねーからな。」

 

あと、一発殴らせろ。と言ってルルを通りすぎて前へ出る。その様子に苦笑すると了解しました。出来れば御手柔らかにとルルが返す。

 

その様子をセイバーは複雑そうに、ギルガメッシュはそれとは対照的に僅かに笑みを溢すとそのまま海魔を切っていく。

 

と、これまたライダー陣営から声が上がった。

 

「なんだ、あれ?」

 

「海が・・・どんどん黒くなって。」

 

 

目を向けた先、ウルレシュテムが先程飛び込んだ辺りの水面から徐々に黒いコールタールのような粘度のある液体が沸きだし、海を侵食していた。

 

 


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