失敗作だけど白い特等みたいになれたらいいなー   作:九十九夜

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誤字報告ありがとうございます。

本当助かります。



このところ主人公以外が出張過ぎなきもしますが取り敢えず今回も出張ります。


キャスターの始動/ライダー陣営と謎の少女

「おお、おお、なんということだ。我が同志、龍之介よ。」

 

大男の叫びが広い下水処理施設の中に響き渡る。

 

「ああ、何故神はこのような仕打ちを・・・おのれ、ジャンヌだけでは足りぬというのか。」

 

嘆きに満ちた声の持ち主の見る先には一人の男。・・・正確にはその亡骸(ヌケガラ)

先日の白いサーヴァントとの遭遇の後すぐにこの工房の中に運び込んだが、時すでに遅く彼はもう息を引き取っていた。

その手は己が血に濡れ、その顔は安らぎに満ちた穏やかなものであった。が、それでも叫ぶ男ーーージル・ド・レエ(キャスター)には許せなかった。

今生で出会った良きパートナーだった龍之介を失ったこと自体も悲しみではあった。

しかし、何よりも彼が憎悪を抱いたのは、悔いたのは、龍之介を殺した。その原因にあたる白のサーヴァント。まるで白百合を連想させるかのような白の、神々しいーーーまさしく神の様な存在(・・・・・・)によって彼が死に至らしめられたという事実が何よりも許せなかった。

 

ピタリと、先程までの嘆きの声がやむ。

 

「見ていてください。龍之介、貴方の仇は必ず。」

 

ーーー貴方の亡骸も、貴方から与えられた贈り物(令呪)も無駄にはしません。

 

キャスターはゆっくりとした足取りで男の亡骸へと歩を進める。

その手に、彼の宝具たる本を持って。

 

 

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

陽気に鼻歌を歌いながら歩く少女が一人。

腰まで伸ばしたストレートの黒髪に乱れ一つない制服を着込んだ少女、月城久遠はそんな清楚な見た目に反して行動的で、思い立ったら即行動を地で行くタイプの人間だった。

おかげで自他ともに痛い目にあうことが多々あり、本人もやっと前の失敗から学んだらしくこれからは控えよう。控え方わかんないけど。と思っていたりする。

 

ーーーまあ、聖杯戦争にさえ関わらなければいいよね?

 

「あーそれにしても・・・おなか・・・すいた。」

 

久遠は自分の腹部をさする。

実はわけあって彼女は現在住所不定の無一文状態である。

 

「それもこれも、あの腹黒魔術師のせいでっ」

 

くっそーと歯噛みする思いでフラフラと歩を進めていると一人の少年とぶつかった。

 

「あ、ごめんなさ・・・」

 

言いかけて、少年、正確にはその後ろに佇む存在に腰を抜かしそうになる。

 

「い、いやああああっ」

 

停止した思考を再起動させた結果、彼女がとったのは情けない叫び声を上げながら逃げるという行動だった。

 

「ちょっは?え?」

 

目の前で行われた逃亡劇はその場で少年の後ろに佇んだ大男・・・サーヴァントに捕獲されることで呆気ない幕切れを迎えた。

 

 

 

 

ウェイバーは目の前で美味しそうにジャンクフードを貪る少女をマジマジと観察する。

 

「むが・・・もごもご・・・ふう、ご馳走様。君、マスターにしてはいい人だね。」

 

その細身のどこに入っていくのか少女はウェイバーの軽く五倍の量を完食し、満足げな表情でくつろいでいる。

今なら簡単に質問に答えてくれるかもしれないと、善は急げといわんばかりにウェイバーは月城久遠から情報を引き出そうと試みた。

 

「なあ、お前。僕を見てマスターって言ったよな・・・もしかしてお前も・・・。」

 

「ぶぶー。残念ながら私、君の言ってる聖杯戦争の関係者じゃないんだなーこれが。」

 

参加者なのかと聞こうとしたウェイバーよりも早く少女が回答する。

にこにこと笑いながら久遠はテーブルに肘をついて、ウェイバーとライダーを見た。

 

「うーん・・・こうしてご飯も頂いちゃったし・・・いい人そうだからなあ・・・うん、決めた。」

 

ガタリと席を立ちあがりびしっとウェイバーを指差し久遠は言った。

 

「これからこの私、久遠が君に特別講義をしてあげよう!!」

 

周囲に沈黙が満ちる。

それもそのはず、現在三人がいるのはファーストフード店の中の窓際に面した一つのテーブルである。

完全に周囲から痛い奴のレッテルを張られてしまった。

そのことに気付いた彼女はかあっと一気に真っ赤になるとすとんと席について咳払いをした。

 

「それじゃ、聖杯戦争の成り立ちから・・・」

 

「待った。そんなの僕でも知ってるぞ。此処の聖杯はアインツベルン、マキリ、遠坂の御三家の奴らが造ったもので・・・」

 

「は?アインツベルンはわかるけど残りは久世、憑城でしょう?確かマキリは既に血が途絶えているし。遠坂も血が薄まりすぎてもうまともな魔術師は用意できないって話だし、聖杯戦争云々の望みは二次で潰えたって話だけど。」

 

「お前こそ何言ってるんだ」

 

お互いに疑問符をつけて会話の嚙み合わなさに四苦八苦しているとさっきまで黙って事の成り行きを見守っていたライダーから制止がかかる。

 

「待て待て。坊主も嬢ちゃんも、そうことを急くな。まず互いの主張をぶつけるだけでなく情報を互いに提示して整理せんことには話が進まんだろう。」

 

その一言に思わずわかってるよっと二人そろって噛みつくとおお、その調子だ。とライダーが笑う。

大声でギャーギャー騒いでいるので当然このテーブルが目立っているのだが当人たちは全く気付いていなかった。

 

ウェイバーがノートを取り出し自身の参加している聖杯戦争の形式を図で描いてみせる。

 

「・・・ふーん。君の所の聖杯戦争ってかなり自由なんだね。」

 

なんかゲリラ戦みたいと言葉をこぼす久遠にお前の所はどうなんだとウェイバーが先を促す。

 

「ん?私の所はねー。」

 

言いながらウェイバーが書いた図の隣に同じように図を描いていく久遠。

描きながら彼女の口が動く。

 

「ええと、まず。聖杯戦争って言うのはアインツベルン、久世、憑城、綾取、この四家から造られた儀式なんだ。

 

 アインツベルンは聖杯・・・正確には第三魔法の一端を、久世は運営システム・・・要は令呪とか異常があったときの緊急システムとか・・・まあ、ここら辺私もよくわかんないけど。で、次に憑城、ここは英霊を呼び出し使役するためのシステムを提供したの。最後に例外で綾取。正確には魔術師の一族じゃなくて魔術使いの一族で・・・手広く此処みたいな土地を管理していた整備屋にして、聖杯戦争の土地を受け持った一族だよ。

 

元々は此処の聖杯みたいにアインツベルンは遠坂、マキリと組んでたらしいけど二次あたりで通ってた霊脈が何故か消失しちゃって、こっちの話に乗ったんだって。」

 

で、事後処理に追われるうちに他の二家は没落の一途を辿ったって訳。と言いながらオレンジジュースをすする久遠。ウェイバーの図の二家にバツが引かれる。

 

「次に英霊。これは基本八騎(・・)召喚される。七騎は変わらず、残る一騎はルーラーと決まっているんだ。

 

此処のみたいに下手に監督役なんて人間を配置すると最悪最初から最後まで掌で踊らされることになるだろうから絶対に公平になるだろうサーヴァントによる裁定を行うのを基本として構築されてる戦争なのさ。

 

・・・もっともこの八騎目は第一次の時のあるマスターと監督役の不正が発覚したのが元だから割と新要素だけどね。」

 

更にルーラーと書かれた枠を増やし例外と付け足す。・・・ウェイバーの監督役の所にバツがつけられた。

次に戦い方ーと変わらず呑気な口調で久遠が続ける。

 

「決闘方式・・・みたいな?」

 

歯切れの悪い物言いにライダー陣営二人が首をひねる。

続く沈黙に苦しくなったのか、慌てて久遠が話す。

 

「決闘だよ、決闘。聖杯によってランダムに決定される決闘。告知、審判はルーラーが担当してくれる。・・・ただ、その。時々ルールを守らないやつらもいて、いろんな小細工があったりするから似非のつく決闘なんだけどね。」

 

まさかそのうちの一人が自分でしたとは言えない久遠は乾いた笑いをこぼしながら頬を掻いた。

 

以上、何か質問は?と強引に締めくくった久遠にウェイバーがうなだれる。

それは自身のノートを見てのものだった。

この三十分足らずの時間の中でバツだらけになった自身の図。もう何が本当で何を信じたらいいのかわからない。

 

「・・・かなり矛盾だらけだけど、気にしなくていいと思うよ少年。」

 

久遠の宥め染みた言葉にどこがだよっと声を上げようと彼女の方に視線を戻したウェイバーは口を噤んだ。

彼女の顔には宥めの色など一切ない。苦しそうに、けれど懸命に笑顔を作っている。

 

「・・・たぶん。この世界に私が入り込んじゃったってだけだからさ。」

 

ご飯おいしかったよ。ありがとう。それじゃっと言って彼女は席を立った。

そのまま店の中を走り去っていく。

ウェイバーとライダーは着席したままだ。

 

「追いかけんでいいのか?貴重な情報源だろう。」

 

ライダーの言葉にウェイバーが別に・・・とそっけなく返す。その両手はズボンの上で固く握られていた。

 

周囲に認めてもらえさえすればいい。自分の事が先決だ。

こんな大事な戦争中に自分以外にあんな初対面の奴を背負い込むなんて自殺行為になりかねない。

 

様々な言い訳染みた言葉がウェイバーの心中を飛び交う。

 

「---っああっもう。」

 

言ってウェイバーが走り出した。

向かった先は店出入り口にまで差し掛かっている久遠の所だ。

彼女の手をがしりと掴んで半泣きになりながら大きく息を吸う。

 

「中途半端に説明して去っていこうとするなよっ。お、お前ひとりくらいっべっ別に・・・その、大丈夫なんだからなっ」

 

いったい何がどうなってそんな回答を導き出したのか。

本人たちには本来の意味で通っているが、周りからすれば喧嘩したカップルが別れ話になって帰る彼女に追い縋る彼氏という構図に見える。

 

シュウイハ ナマアタタカイメデ フタリヲミマモッテイル。

 

はっとした二人はお互いに顔を赤くして席へと戻っていた。

その間中店内は拍手で包まれていた。野次というか・・・感動をありがとう的な言葉と共に。

 




キャスターが何故龍之介なしに生きていられるのかというと龍之介の一部をさらってきた子供の中に移植した(改造して擬似魔力供給機)からです。令呪は偽臣の書よろしく、取ったのを張り付けた。


ちなみにこの話の中で出てきた久遠さん。彼女は主人公の世界からわけあって原作の世界に紛れ込んでしまった人です。おそらくこの聖杯戦争の全容(サーヴァント)を知ったら・・・。そんな話も書いてみたいです。そのうち。

閲覧ありがとうございました。

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