見るも無残な惨状となっている間桐邸前。
その辛うじて原型を保てている玄関で時臣は応対を待っていた。
胸ポケットにはハンカチと共に使い魔によって運ばれた手紙が忍ばせてある。
パタパタと何者かが駆けてくる音が扉越しに響き、時臣は姿勢を正した。
ーーーさて、お手並み拝見といこう。
ガチャリと扉が開く。
と、そこに現れたのは・・・件の警戒すべきだと認識していた白いバーサーカーだった。
何故かはわからないが黒地のワンピースの様な服の上に白のエプロンというエプロンドレスの様な・・・俗にメイド服と世間一般では言われる装いで綺麗に起立している。
まさかサーヴァントが直接出迎えに、それも使用人のフリまでしているとは思っていなかった時臣はギョッと目を見開いてしばし固まる。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか。」
アポイントメントはお済みですか?と歌声ではない綺麗な日本語での会話が発せられこれまた混乱する。
ーーーおかしい、彼女は精神汚染のついたバーサーカーだったはずだ。
昨晩の戦闘の際にステータスも確認した。
試しにもう一度ステータスを見て更に混乱する。
なんと昨晩は確かにバーサーカーと表記されていたクラス名はキャスターに変更されていたのだ。
ステータスも変わっている
筋力はB、耐久はE、敏捷は変わらずA++、魔力と幸運はともにEX。
クラスが変更されたというサーヴァントの形式を作り提供した遠坂にとっても異例の事態に頭が真っ白になりそうだった。
そんな時臣の内心など露知らず。否、おそらく興味関心も無いのだろうが。手紙を見せると目を通したバーサーカー(元)は少々お待ちくださいと言っていったん退場した。
◇ ◆ ◇
「雁夜、全身赤いスーツに身を包んだ男性が貴方に用があると玄関先に来ていますが・・・それとこれを。」
その赤スーツが持っていた本人曰く招待状とやらです。といってウルレシュテムは封の切られた手紙をテーブルに置く。中に入っていたのはセルフギアススクロールの模写とここに来るようにという旨が書かれた手紙だったのだが、肝心の雁夜は生粋の魔術師どころか一般人に毛が生えた程度の急造の魔術師である。当然知識もない。
「なんだこれ?」
頭に疑問符を浮かべる雁夜をそのままにいつの間に出したのかワイン片手に上機嫌にギルガメッシュが口を開いた。
「あーっ
つい最近知った出来事を口にする小学生の様に無邪気に口にした単語は・・・まあ酔っぱらいのいっている事なのでおいておくというのがこの場の総意である。
そんな様子を黙って見ていたウルレシュテムがあのう・・・と気まずそうに口を開いた。
「もう、この服脱いでもいいですか?なんか、あの。・・・すごく、居た堪れなくて。」
やっぱり見た目が二十歳前でもなにか滲みでてるんですよきっと・・・おばさん臭的なのが。と落ち込んでいた。
部屋の隅に蹲って膝を抱えて暗いオーラを放っている。
「ご、ごめんねウルレシュテム。あとで何か好きな服買いに行こう。」
と慌ててフォローする雁夜にじゃあ、白無地の男物のコートに男物のスーツが欲しいですとポソリと呟いた。
あまりにも小さすぎて聞こえなかった雁夜はもう一回聞くのも悪いと思いギルガメッシュの方を向く。
その意味をくみ取ったらしいギルガメッシュはちらりと姉に視線をやってから雁夜に向き直った。
「白のゴスロリに白のトレンチコート、ついでに編み上げブーツが
いや、てめーの好みじゃなくてよと雁夜は思ったがウルレシュテムも否定してこないので、おそらくそこまでの気力がないのだろうが。取り敢えずそのままにしておくことにした。
「・・・おじさん。」
ポツリと桜が呟いた。
雁夜はん?とその続きを待つ。
「私、会わなきゃダメ?」
「・・・そんなことないよ。」
なるべく優しく微笑むよう善処する。
そんな雁夜の様子にほっとしている桜を見て雁夜は寂しくなった。
間桐桜という少女にとって
憎めもしないがもう以前の様な肉親の情など持つことはできないだろう、と。
◇ ◆ ◇
遠坂時臣は先程感じていた混乱など既に無く、目の前の男。間桐雁夜に対する疑念と憤怒が心の大半を占めていた。
贈られてきたセルフギアススクロールの中身。要はこの聖杯戦争での協定を結ぼうというからその取り決めをより密なものにするための会合かとばかり思ってわざわざこうして出向いてきた。のにもかかわらず。
目の前の、この間桐雁夜という男はっそんなものは知らないと来たものだ。
そもそも彼は一般的な魔術教養すら備わっていないらしく、なんとこの手紙。セルフギアススクロールの意味すら知らなかった。
何たる態度、何たる怠慢、何たる愚者。
落伍者は所詮落伍者でしかなかったということか。
あのバーサーカー、もとい現キャスターの件にしてもきっとこの男は運よく出来の良い英霊を引いたに過ぎなかったのだ。と心中で結論付けた。
「ところで、間桐臓硯殿はどちらに?」
「あー、父は、その。亡くなった・・・と言いますか。」
歯切れの悪い回答ながら臓硯の不在を確認した時臣は席を立つ。
「そうですか・・・では、そろそろ帰らせていただきます。・・・桜は?」
「は、はあ。そうですか・・・なぜ桜ちゃんを?」
つられて席を立った雁夜は言葉の最後の方に首を傾げる。
「
時臣の言葉にギョッとした雁夜は思わず口調を荒たげる。
「ちょ、ちょっと待てよ。そんなのっ」
そんな雁夜の反論など無視して時臣は部屋を出る。とそこには丁度良く/運悪く桜が居た。
たまたま通り掛かったらしい彼女は心の準備など当然の如くできておらず、硬直する。
「ああ、桜。丁度良かった。」
ーーー何が丁度良かったのだろうか。
微笑みながらかつての父が/幸福を奪う影が桜に近づいてくる。
ゆっくりとその手が桜の腕に伸びてーーー。
掴んだ。そのまま引っ張られる。
ーーーいや。
ーーーーいや、いやっ。
ーーーー助けて、連れて行かないで。
「うっ・・・けて。」
ーーー助けて、助けてっ。
「助けてっママーーーーーーーーーっ」
涙と鼻水でその顔をぐしゃぐしゃに歪めながら桜は絶叫にも似た悲鳴を上げた。
時臣がその事実に顔色を変えるよりも、表情にするよりも早くーーー白が駆けた。
「がっ」
瞬間。時臣の、桜を掴んでいた手は取れて、腹には穴が開いていた。
桜は泣いて袖で目のあたりを擦っており、白ーーーウルレシュテムは持っていた長刀を軽く払い鞘に納めた後桜を抱え上げてなにやら優し気に話掛けている。桜がそれに頷きで返すと、部屋から顔だけ出した雁夜に桜を預け時臣に何かを飲ませた。大きめの錠剤を思わせるそれを時臣は嚥下することを拒んだが何やら水の様な物を口に流し込まれ、無理矢理嚥下させる。途端無くなった腕と腹が再生した。
君はだのなんだの言っている赤いアゴヒゲを無視してウルレシュテムはその赤いアゴヒゲの首根っこを掴んで何処ぞへと引き摺っていく。そんな彼女の隣にはいつの間にか金色の、時臣が呼び出したと思って裏切られたキャスターがいた。そのキャスターは嗤っている。
「姉上、姉上。これ、どうするのですか。」
「・・・最初は腕の一本、足の一本くらい削いでから考えるつもりだったのですが・・・」
気が変わりました。ニコリとウルレシュテムが笑う。美しいのになぜか震えの止まらない笑みで。
「足の一本、腕の一本がなくなったくらいどうってことないでしょう?なんせ、あともう一本あるのだから。」
明らかにそういう問題じゃないというような話がさらりと出てくる。
「あそこに入れようかと。」
「?生け捕りではないのですか。」
ウルレシュテムはしばし考える動作をした後、一応生け捕りですよとさらりと言ってのけた。
殺さず、生かさず。ですがね?と付け足す。
そんな他愛のない会話が交わされていくうちにその足はぴたりとある場所で停止した。
その扉がためらいなく開かれる。
「さあ、これより受けるは間桐の真髄。」
「心して受け取るがよいわ。」
どん、と二人のうちのどちらかに突き飛ばされる。
落ちた先は何か小さなものが蠢く暗い湿った場所だった。
「一名様。ご案内でーっす。」
愉快そうな明るい声が響く。
そのまま蟲蔵の扉が閉じた。
背後から何か必死にたたく音やら声にならない悲鳴が絶え間なく聞こえてくるがそれすら話題の種にして盛り上がりながら姉弟は消えていった。
おまけ
「あれ?ウルレシュテム。時臣は?」
帰ったの?と周囲を見回す雁夜に笑顔でウルレシュテムは告げた。
「蟲蔵です。」
「おいいい、一応全員生け捕りっていったよなあああ、最初から破ってどうすんの!?」
必死の形相でツッコむ雁夜に笑顔のままで補足する。
「大丈夫ですよ。文字通り身包み剥いで、胃の中には目一杯回復薬(固形)詰め込みましたから。時間になったら引き上げます。」
「あ、そうなの?」
ウルレシュテムに逆らうのはやめておこうと雁夜は固く誓った。
ちなみに己ギルは姉ちゃんに調整してもらったためセイバーになりました。
時臣さんは・・・どうなるんでしょうね。
おじさんは原作よりは体調いい感じ。
寿命が短いのは変わらないけれどね・・・。
閲覧ありがとうございました。