失敗作だけど白い特等みたいになれたらいいなー   作:九十九夜

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今回はモーさん回想回。


マスターに関しては・・人によっては地雷注意な案件になるかもしれないです。
此処では敢えてまだそこまで詳しく書きませんがお気を付けください。


取り敢えず、一発殴らせろ。

ーーーおはようございます。セイバー。

 

自分に向かって微笑むかつてのマスターの姿にああ、これは夢なんだなとモードレッドは自覚した。もう過ぎ去ってしまった記憶を観ているのだと、自分の女々しさに舌打ちをしたくなる/胸に何かが込み上げてくる。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

ーーーそんなに前に出すぎないでください。間違って貴女まで貫いてしまいそうではないですか。

 

敵対サーヴァントとの戦闘になったときの言葉。その麗しい容姿とは打って変わって好戦的だったマスター。その言葉に自分はなんと返したのだったか。

 

ーーーはっやってみやがれっお前みたいな腰抜け野郎にオレが負けるかよっ。

 

最初は最悪だった。相性召喚だと聞いたときは聖杯は欠陥品じゃないかと疑うほどに。

魔術師らしく緻密な作戦と準備をして万全の状態で臨む。確かに、それ自体は悪いことではない。魔術師には魔術師なりの戦い方がある。かくいうモードレッドも魔術師でこそないものの勝てれば何をしてもいいと騎士としては姑息な手段を用いることも躊躇わない。

 

だから、例えモードレッドの様に前衛として戦うことができなくともそこは自分が何とかすればいいのだと思っていた。

 

だが、それは・・・そもそも根底から違っていた。

マスター・・・男は自身で立てた緻密な計画を自らの手で滅茶苦茶にした。

 

 

 

なにせ、自分を召喚したマスターは勝敗すら/聖杯などどうでもよかったのだから。

 

ーーームカつく。

 

男の采配や手段を問わない戦法を、モードレッドは気に入っている。

割と好きに(暴れ)させてくれるし、あの忌々しい優等生(太陽の騎士)等の様な正々堂々、騎士らしくみたいな反吐の出る説教も騎士道精神とやらもない。そのあたりも好感が持てた。

 

ただ。

 

ただ、全てを見通して楽しんでいるかのようなあの顔。あの目が。あのクソ魔術師(花の魔術師)を見ているようで気に食わなかった。

極めつけは勝ちにすら拘らないときた。

 

かくしてモードレッドの不満はサーヴァント戦を前に爆発。敵対サーヴァントを放って味方同士の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

どういった原理かは理解しかねるが男の打ち出す数多の宝具級の攻撃を持ち前の直感でよけ続ける。弾く、掴むといった芸当はしない。してはならないと、これも直感が言っていた。

 

モードレッドはそのまま男の下に走っていく。

・・・そして、勢いをつけて推進し。男の懐に迫る。

 

ーーー取ったっっ

 

そう、モードレッドは確信した。その直後。

 

 

 

 

これまで、ずっと男は微笑んでいた。まるで聖人か何かの様に。

けれど、モードレッドは見た。見えてしまった(・・・・・・・)

 

一瞬の無表情の後。

 

氷の様に冷たく、闇夜の様に昏い。美しくも恐ろしい笑みがそこに在るのを

 

悪鬼の様なその存在を

 

 

思わず、反射的にモードレッドは飛び退く。

 

ーーーふ、ふふ。

 

嗤いが響く。それは発音するたび大きくなる。

 

ーーーふはははははははっこの(ボク)の懐に飛び込んでこようとは・・・面白いな貴様。

 

赤い瞳は獲物を見つけた肉食獣の様にぎらついて獰猛な輝きを帯びている。

穏やかな聖人君主の如き仕草など、セリフなど、姿勢など仮初の物に過ぎなかった。

モードレッドはここでようやく男の視界(価値あるもの)に入ったのだ。

 

 

 

結局、残念(幸福)なことに決着は着かなかった。

その代わり、お互いのことを認め、理解するように努めるようになった。

 

悪友の様な恋人の様な家族の様な他人。

互いに関係に名前など付けていなかったが、それでも別によかった。

 

サーヴァントとマスターの繋がりから互いの過去も知った。

 

ーーーああ、なんだ。こいつとオレ似てるのか。

 

何故かは分からなかったが、その記憶()を観たとき。

モードレッドはただ嬉しかった。

 

記憶を共有できたことが嬉しかったのか。

はたまた同類を得たからこその親近感から来るものだったのかはわからない。

ただ、だた嬉しかった。

 

 

場面が変わる。

 

 

ーーーなあ、■■。お前は聖杯に何を望むんだ?

 

ある時、ふと気になったことをそのまま聞いてみたときがあった。

 

ーーー聖杯に・・・ですか?

 

珍しくキョトンとした表情でモードレッドを見てから男は首を傾げて言った。

 

ーーー特にありませんね。君が使ってくれて構いませんよ。セイバー。

 

ーーーってねえのかよ。なんで参加したんだお前。

 

ガリガリと頭を掻きながら困ったような表情を作ったモードレッドにクスリと男は笑う。

 

ーーー強いて言うなら探し物・・・ですかね。もう見つかってしまったので、今はただの趣味。ついでですね。

 

聖杯戦争(コレ)は何度見ても飽きませんし。セイバー()にも会えましたし、ね。と笑みを深くする。男の肩に掛かった長い金髪がサラサラと滑り落ちる。

 

ーーーなっおッ前なあ。

 

狼狽えるモードレッドを余所に今度は男が質問した。

 

ーーーそれならセイバー。君の願いは?

 

ーーーオレか?決まってんだろ。選定の剣に挑戦することだっ。あ、■■。折角だ、お前もオレの勇姿をその目に焼き付けろよ。

 

胸を張って答えるモードレッドに男は穏やかに微笑んだ。

 

 

場面が切り替わる。

 

 

 

聖杯とは名ばかりの、黒い、溢れんばかりの泥。

 

ーーーんだ、こりゃっ。

 

ーーー懐かしい。いや・・・あれより些か薄い・・・か?ああ、セイバー。安易に触ると飲み込まれますよ。

 

忠告に出していた手を引っ込める。

 

ーーーおいおい、ほんとにこんなんで願い叶えられんのか?ロクでもねえぞきっと。

 

ーーーでしょうね。これは早急に処分すべきです。

 

言った直後。バーサーカーの投擲が迫る。

弾いたモードレッドは舌打ちをするとサーヴァント戦を開始した。

これまでに脱落したサーヴァントは五騎。あとはこの目の前にいるバーサーカーのみだ。

そう思って更に攻勢に出ようとしたモードレッドの背後に更に別の影が迫る。

小柄なその影に突き飛ばされる形で泥の中に堕ちた。

 

ーーー八騎目、だとっ!?

 

ザバンと勢いよく入ったそこは怨嗟や侮蔑、負の側面をありったけ集めたかのような。

響くのは悪口雑言と言っては生易しい。呪いの集合体だった。

 

ーーーが、あああああああああああっ

 

どんなに抗おうと終わることのないそれに徐々にモードレッドの精神も削られていく。

 

と、ガシリと温かな人の手の感触に引っ張られ外界へ帰還する。

 

ーーーあ、がぐっ。ぐっ。

 

されどそれはもう泥に浸かってしまったというその時点でもう遅かった。

完全に黒化するのも時間の問題だろう。

さすがに自身の現状を冷静に把握したモードレッドは男に最後の言葉を告げようと向き直る。男はなぜかいつもと変わらぬ笑みを浮かべて言った。

 

ーーーおやすみなさい。モードレッド。君の願いがきっと叶うことを願っています。

 

突然眠くなる。視界が暗転する。

 

 

次に目を開けたとき。そこには敵対サーヴァントも泥もない。---もちろん信頼し、慕ったマスターも。

 

そして、自身の身体を蝕んでいた呪いも。

 

転がっているのは聖杯のみ。泥に持っていかれたかと思ったが思いの外残存魔力が残っているそれは忌々しいほど光輝いている。

 

ーーーざ・・・ん・・・。

 

 

ーーーざけ・・・・ん・・・な。

 

 

 

ーーーざけんなよ。・・・・ざけてんじゃねーぞっっテメエエっ。

 

 

その願望器を手にモードレッドは吼える。

びりびりと周りの空間を震わせるほどのそれは泣き叫んでいるかのようにも聞こえた。

 

ーーー認めねえ。こんな終わり。

 

在ってたまるかっ。そう言い放ったモードレットは聖杯を使用した。

 

果たして、彼女の願いはーーー。




閲覧ありがとうございました。


ちなみにモーさん登場時に来ていた服もこのマスター縁の品だったりして。

そういえばこの作品って笑顔の描写が多いよねって書いてる作者自身思います。
・・・下手な怒り顔より笑顔とか無表情の方が怖いよねっていう経験からなんだけれどもね・・・ほんと、怖い。

あと、マスターの口調ですが素はあの恐ろしい笑顔のときのセリフみたいな。
普段の丁寧な口調はある人物に対しての当てつけでやってます。

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