とある廃工場。
その人気など全くない倉庫の中。
バチリと電流が奔るような音がした。かと思うとその音は徐々に大きく連なっていく。つられてその場一面が光りだす。
最後に一際大きく音と光が辺り一帯を支配すると、その中央には人影が一人立っていた。
それは華奢な少女だった。
金の髪はポニーテールに結わえられ緑の瞳には強い意志が感じられる。
服装は白の飾り気の無いブラウスに胸元に赤のスカーフが、おそらく高価なものであろう緑の宝石を填め込んだブローチとともに添えられている。
赤のロングスカートにキャメルの編み上げブーツ。
勝ち気で口よりも先に手が出そうな雰囲気とは裏腹に服装はかなり上品な装いだ。
「ふーん。一応は着いたみたいだな。」
声はどうでもよさげな様子だったが、表情はそれとは真逆・・・口元は固く引き結ばれ、眉間には深い皺が刻まれている。
しばらく沈黙した後、少女ははあっと息を吐くとガリガリと頭を雑に掻く。
「さーて。ここに
しゃーねえ、取り合えず歩くか。言って少女は歩き出した。
片手を閉じて開いてという確認動作を数回繰り返し、自身の肉体の状態を把握したらしい少女は閉じた手をそのまま握りしめ、拳を形作る。
「・・・いまの
無意識なのだろうか少女は胸元のブローチを握りしめる。
「待ってろよ■■。必ずお前を・・・。」
少女は夜を歩く。
いつかの
少女はブローチを撫でている。
優しく優しく撫でている。
◇ ◆ ◇
ウルレシュテムが朝食を作っていると足元に何かが当たった。
当たったというより、ぶつかってきたと言った方がいいだろうか。
『おはようございます桜。どうしたんです。』
足元に当たったもの改め自身のマスター(仮)である少女、桜に問いかける。
しばらく黙ったままだったがちゃんと聞いてくれると分かったためか口を開いた。
「ママが・・・起きたら・・・いなく・・・て。」
ぽそぽそとか細い声で話す。
「ママが、いなく・・・なっちゃう・・と、おもっ・・・て。」
言い終わるとそのままぎゅうっとウルレシュテムの脚に抱き着いた。
何だこの子、子ギル君女の子バージョンか。超かわいい。
桜本人も
こうして、いろいろ差異はあるものの親子という関係が二人の間に発足した。
『おいしいですか?』
朝食を摂りつつ桜にたずねる。
ちなみに今朝のメニューは甘めのだし巻き卵にほうれん草ともやしの和え物、鮭と大葉と白ごまのまぜご飯になめこと豆腐の味噌汁だ。
こくりと桜は頷く。心なし満足げに頬が緩んでいるのできっとおいしいのだろう・・・と思いたい。
おかずを口に放り込んでは一所懸命に咀嚼する様を見て和む。
やはり子供はいい。良くも悪くも素直だし、我が強い。そして何より手はかかるが可愛くて、癒される。
ーーー
ーーーせめて、この力が、呪いが。もう少し弱ければ、あるいはーーー
考えても詮無い事だと思考を中断する。
いくら願えどあの時間は帰ってこない。繰り返すことはできるだろう。それこそ、やり直すことだって。
けれど、それこそあの時間への冒涜であることはウルレシュテム自身がよく分かっていた。
シャラシャラと召喚された時から自身を拘束している黄金の鎖を見る。
ーーーあの子たちも頑張ってくれたしね。
「ママ?」
「お食事のお膳・・・多い。」
言って桜は用意されているお膳を指差す。
そこには綺麗に盛り付けられたお膳が二つ鎮座している。
『ああ、それは他の人の分ですよ。』
その言葉に桜は首を傾げた。
「じゃあ、少ないの?」
お父さんとおじいさまとおじさん・・・と指折り数えて確認する桜。
その様子に今度はウルレシュテムが首を傾げる。
ーーーはて?三つも人らしき生体反応はあっただろうか。
実は桜曰くのおじさんとやらと対面したとき、ウルレシュテムは桜以外の生物をまともに認識できていなかった。
桜以外は等しくサーヴァントであれ人であれ黒い人型の何かにしか見えず、蟲も同様。黒い小さい何かであった。
幸いおそらくサーヴァントであろう方を取り込んだ際に不完全ながらも目の機能をこちらの世界になじませることができた。これでまずあの黒いモザイクにまみれた世界とはおさらばできたわけだ。
しかし、だからといって警戒を怠るのもと思ったウルレシュテムは即席ながら間桐家の内外に糸を張り巡らせ様子を探ることにした。で、この家を把握するに至ったのだが・・・。
ーーー確か昨日の死に掛けおじさんと酒浸りのアル中と大量の蟲ならいたが・・・。
おじいさま?お父さん?そんなのいたか?
ま、いっかテキトーに部屋片っ端から開けてって片っ端から叫んで片っ端から流し込めば一緒だろう。
この時鶴野は「歌声が、歌声がこっちに近づいてくる。うっ。来るなっ。来るなあっ」とウルレシュテムに怯えていた。
◇ ◆ ◇
所変わって蟲蔵。
そこでは現在ある1人の男が体を貪られる苦痛に声を上げてのたうち回り、その様子をもう一人の人物がニヤニヤと笑いながら見ている。
「ほれどうした雁夜よ。なにかいつもの様にいってみろ。ん?」
「ぐっ。がひゅっがひゅっ。」
何か言おうにも最早声帯すらまともに動かない雁夜の口から洩れるのは声というには失敗作の荒い呼吸混じりの音だけである。
「・・・ふん、所詮バーサーカーを引いたところでこの程度。そのバーサーカーすら御すことができず開戦前に消失とは・・・やはり半人前はどこまで行っても半人前よのう。」
しかし、その瞬間。翁・・・間桐臓硯の身体は切り裂かれた。
引き続いてのそれぞれの序章。
そして、出てくる謎の参加者。
果たして戦争は戦争としてちゃんと動くのか?
そんな予感の話でした。
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