失敗作だけど白い特等みたいになれたらいいなー   作:九十九夜

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新章開幕です。

悩んで悩んで悩んだ結果ZEROから始めることにしました。
結局ZEROかよとか思う人もいらっしゃるかもしれませんがごめんなさい。

ちょっとこれには他の登場人物の都合もありまして・・・申し訳ありません。




fate/zero
間桐桜は安堵する。


ーーーどのくらい時間がたったんだろう。

 

虚ろな心にポツリと疑問が浮かぶ。

 

底なしの闇の様な暗い天井を見上げながら少女ーーー遠坂改め間桐桜は思考する。

 

あたりにはギチギチという蟲の出す音と自身の呼吸音だけが響いている。

桜以外に人の気配どころか動物の気配すら感じられない。

当たり前である。ここは人を貪り食う、拷問部屋より悍ましい魔術師の工房・・・その一端なのだから。

 

 

ーーーあ。

 

 

キィ。と工房ーーー蟲蔵の扉がわずかばかり開く。

遠目で分かりずらいがそこから見えたのは誰か人型のシルエットときょろりと動く目だった。

それを見てまた桜は落胆する。

 

 

ーーーなんだ青髪の人(お父さん)か。

 

 

自分をただこの場所に放り込んでいくだけの人。

いつも何かに怯えているお酒臭い人。

それがこの家に来てからの桜のお父さんとやらに対する認識だった。

 

お母さんとやらはいない。

 

兄さんとやらとはここしばらく会ってすらいない。

ただ魔術(こんなもの)に憧れる可哀そうな人だという印象が強い。

 

ーーーかわいそう。

 

ーーーかわいそうかわいそう。

 

心の中で反復してふと桜は思う。

 

ーーーそれなら、私は、なに。

 

途端懐かしい/苦しい光景がフラッシュバックする。

 

日の射した公園の日陰で本を読んでくれた優しいお母様。/助けて

 

自分たちが談笑しているのを黙って微笑んで見ている厳格なお父様。/痛い

 

ここに来る前に餞別としてリボンをくれたしっかり者の姉さん。/苦しい

 

「桜、大丈夫だとは思うけれど・・・体に気を付けてね。」

私を抱きしめて涙ぐむお母様。

「桜、魔術に多少の苦痛は付き物だ。大丈夫だとは思うが・・・励みなさい。」

いつもの厳格さの中に多少の寂しさを滲ませながら語るお父様。

「桜、なんて顔してるの。はい、これ。餞別。向こうに行っても元気でね。」

いつも以上に明るく、気丈に振る舞いリボンをくれた姉さん。

 

「・・・いや。」

 

次々と頭の中で画像が記録が流れていく。

 

姉、母、父。姉、姉。父、母。

 

母姉母ーーーーーーーーーー。

 

どうしてこんなに痛いの。

 

どうしてこんなに苦しいの。

 

どうしてこんなに虚しいの。

 

どうしてーーーどうして、誰も(わたし)を助けてくれないの。

 

あの白いおじさんは言った。桜ちゃん(わたし)を助けに来たって。

お母様も姉さんも心配していたって。

なのに、なのにどうして誰も助けてくれないの。

 

こんなに我慢してる(苦しんでる)のに

 

こんなに頑張ってる(痛くて虚しい)のに

 

助けて、助けてっ。

 

「助けてーーーーーーーお母さん。」

 

 

バキリーーー何かの割れる音がした。

 

 

ーーーA----aaーーー

 

ジャラリーーーどこからともなく黄金の鎖が生えてくる。

 

ーーーA--aa--aaaaaーー

 

ミシミシとバキバキと細くしなやかな両手が蟲蔵の床の一部を突き破って出現する。

その腕が蟲蔵に開いた穴を広げるたびに聞こえてくる歌の様な音は大きくなっていく。

 

歌声と共に手が腕が頭が胴がスルスルと蟲蔵へと浮上していく。

その浮上してきた身体にはすかさず漂っていた鎖が巻き付き出現したもの・・・彼女を拘束する。

 

その様を蟲に群がられながらも桜は凝視し続ける。

 

白。

 

まるで桜の呼びかけに答えるかのように出現した人物に対する第一印象。

 

どこまでも白い。

 

純白の髪に白い肌。その中で唯一爛々と輝く深紅の瞳。

少女の様な可憐さと聖母の様な清廉さが共存しているかのような風体の女性。

しかし、その美しさよりも何よりも桜はーーー

 

ーーーそんなのあるはずない。あるわけない。

 

ーーーこんなにも違うのに、あんなにも違うのに。

 

唐突にあの公園の時間が、戻ってきた気がした。

 

ずる、ずる、と這い這いの躰でそれに歩み寄る。

それは拘束されていたため動くことができず。代わりに跪いて桜へとその両腕を広げた。

その胸に必死で抱き着く。いや、縋りつくといった方が正しいのかもしれない。

確かなそれの暖かさにしばし惚けたあと再度強く抱きしめる桜。

それはただ、静かに受け入れ桜を抱きしめ返す。

 

「・・・お母さん。」

 

桜の瞳から一筋だけ雫が滴り落ちる。

 

ーーーAaaaaaaaaaaaa

 

安堵した少女を眠りへ誘うかのように、子守歌の様な歌声は響いていた。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

「げほっ・・・はあっ」

 

薄暗い廊下を間桐雁夜は歩く。

多少足を引きずってはいるもののできる限りの速さで。

・・・というのもいけ好かない当主とは名ばかりの化け物。間桐臓硯の発言が発端だ。

 

「ほう・・・これは奇妙なこともあるものだ。」

 

いつもと変わらぬ薄気味悪い笑みを貼り付け化け物は言う。

 

「雁夜・・・蟲蔵を見てこい。侵入者じゃ。」

 

「はあ?そんなの自分で・・・」

 

「ほう?今は桜が調整中のはずだが・・・はて、どうしたものやら」

 

お前のバーサーカーがいればすぐに終わる話のはずじゃが?言って臓硯はトントンと杖でわざとらしく床を叩いた。

この糞爺っ。思うが早いか雁夜はすぐに部屋を出で行く。

後には更に笑みを深める爺のみが残ったのだが雁夜本人はそんなことは露知らず桜の下へと急いだ。

 

 

 

扉を開けた先にいたのは正体不明のーーー明らかに人間ではなかろう類の女とその女の腕の中にいる初恋の人の大切な子だった。思考するより先に口が動く。

 

「っ・・・ばーさーか「やめて、おじさん。」桜ちゃんっ。」

 

まだ生きているということに安堵するが同時になんでそんな得体のしれないやつを庇うのかと納得がいかなかった雁夜は警戒態勢をとったまま「そいつから離れるんだ」とそれとなく桜に逃げるよう促す。

その意をくみ取るどころか桜は離れはしたもののその女の前に、まるでその女を守るかのように立ちはだかった。

 

「だめ。お母さん・・・ううん、ママを傷つけないで。」

 

「っそ・・・!!」

 

そんな奴っと言いかけて雁夜の中にある可能性が浮上する。

 

ーーーもしかして桜ちゃんはあの女に騙されているんじゃないのか?

 

古今東西その手の者は様々な姿を取って人を騙すというのは常套手段だというし、何よりさっきの言葉・・・彼女の母親は遠坂葵ただ一人。

 

ーーーそんな女は桜ちゃんの母親じゃない。そこに立つのはふさわしくない。そこにいるべきなのは葵さんだっ。

 

そんな彼の心情をくみ取ってかそれとも勝手になのかは不明だが突如漆黒の騎士・・・バーサーカーが顕現する。

 

「Arrrrrrrrrrrr」

 

急な魔力の供給によって雁夜の中の蟲が蠢き、魔力を生成すべく活動を開始する。

 

「がっ」

 

雁夜はその痛みに顔をしかめつつ膝を付く。その顔には痛みの苦悶と共に確かな笑みが張り付けられていた。

 

「いいぞ、ばー・・・サーカー・・・殺せっ。」

 

誰に聞かれるともなくただせわしない呼吸音と共に呟いた。

 

バーサーカーが女・・・牽いては桜に向かってその白刃を振り上げる。

が、桜は一歩もその場から動こうとしない。

 

「さ、桜ちゃ・・・」

 

にげ・・・そこまで言おうとしたところでやっと桜が再び口を開いた。

 

「いいよ、殺しても。」

 

出てきた言葉に雁夜が固まる。

まるでスローモーションにでもなったかのように思考だけが加速する。

 

「どれだけ叫んでも、どれだけ待っても・・・おじさんも遠坂さんも誰も私を助けてくれなかった・・・でも、ママだけは。ママだけは私の所に来てくれた、ママだけは私に答えてくれた。だから、もしどうしてもママを私から取るって言うならもうどうなったっていい。私はママと一緒にいたい。」

 

言って再度桜は後方にいた女に抱き着く。

女は桜をしっかり抱きとめると、ただ無感動に迫り来るバーサーカーを見ていた。

 

ーーーAaaaaaaaa

 

女が何事かを呟く。

その声は歌声じみて・・・否、実際に歌声であった。

同時に足元から何かが噴き出し眼前へと迫ったランスロットを覆う。その噴出した何かが消えたとき、中にいたはずのランスロットの姿も最初からそこにいなかったかのように何も残さず消えた。

 

ーーーこうして、聖杯戦争の本格的な開戦を目前にして戦うにも至らず間桐雁夜の敗北が決定した。

 




桜ちゃんがなぜわざわざ「お母さん」ではなく「ママ」と呼ぶのかというとお母さんだと何となくお母様と被るので区別するためにわざと変えています。
ちなみにお気づきの方もいらっしゃるでしょうがこの召喚には呪文も魔方陣も聖遺物すら使われていません。要は召喚()というわけです。

では、閲覧、そして感想ありがとうございます。

これからも精進していくのでどうぞよろしくお願いします。

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