失敗作だけど白い特等みたいになれたらいいなー   作:九十九夜

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糸の望み、鎖の願い。

湯気が立ち昇る浴室。

 

「最近水浴びばかりだったからなあ・・・。ふふっ。」

 

そう言ってエルキドゥは顔を緩めた。

 

「それなら良かった。久々のお湯を楽しんでいって下さいね。」

 

切り返して微笑むウルレシュテム。

焼き菓子騒動の後、ギルガメッシュをぼこぼこにして鎖でぐるぐる巻きにした後放置したエルキドゥはウルレシュテムの手を引いて風呂まで直行したのであった。

現在二人はウルレシュテムお手製のお風呂に浸かっている所だ。

 

「エルキドゥ。」

 

ウルレシュテムがエルキドゥではなくたゆたう水面に目線を落としながら声を投げ掛ける。

 

「?」

 

エルキドゥは疑問符を浮かべつつウルレシュテムを見るが、その目線は水面に固定されたままだ。

 

「・・・(ボク)を倒しに来たんじゃないんですか。」

 

「・・・。」

 

突然の問いにエルキドゥが目を見開く。

 

「それは。」

それは(・・・)?」

 

固まっているエルキドゥの方にウルレシュテムが目線を移した。優しい微笑みのままだ。

ただし、何処と無く悪戯を隠す子どもに確認をする親のように有無を言わせない雰囲気が醸し出されている。

エルキドゥは何と無く居心地が悪くなり少し首を竦めながら「まだ、分からない。」と、呟いた。

その答えに満足したのかしないのか。「そう。」と短く返事を返したウルレシュテムから、少なくとも居心地の悪い雰囲気は消えた。

その様子に内心ほっと息をついた。

 

「ごめんなさい。少し狡いことをしてしまいましたね。」

 

「?」

 

はて、ずるとは何のことか。エルキドゥに思い当たる節はない。思考するエルキドゥを置いてきぼりにして尚、ウルレシュテムは話す。

 

「さっきの質問をあなただけにしたというのもそうですが・・・実のところ(ボク)は何故ここに貴方たちが来たのかも、神々の動きも把握しています。」

 

絶句する。

自分たちの動き所か神々の思惑すら分かると目の前の母は言った。今のところエルキドゥにとってはどうでもいい討伐の件ももう耳に入っていることだろう。勿論、自分やギルガメッシュがそのための駒に抜擢されていることも。

 

疑問が浮上する。

何故、彼女は自身を討たんとする勢力を放置するのか。

そして何より、何故自分たちのような下手すると寝首をかかれかねない要素を積極的に内側へ誘導したのか。

自信がある。というより慢心しているとしか言い様のない行動だ。

しかし、それは彼女の人柄を知るものなら真っ先に否定する。エルキドゥもその一人だ。

 

故に、問う。

 

「どうして・・・」

 

どうして自分たちを懐へ入れたのか。

 

「あら?愛し子に会うのに理由が必要ですか?」

 

はぐらかしているのか、笑いながら彼女が質問する。

 

「違うっそうじゃなくっ「エルキドゥ。」」

 

いつになく真剣な、ともすれば無表情にも見える顔で名を呼ばれる。思わず口をつぐんだ。

 

「一つ。知恵を授けます(いいこと教えてあげます)。」

 

 

 

「世界の滅びを避けるためにも(ボク)は殺されなくてはなりませんし、例え別の打開策を実行しても貴方たちの目指す世界の幕開けは(ボク)の死なくしては成しえません」

 

 

「どのみち、(ボク)は誰かの手によって倒される。遅い(あなたたち)早い(他のだれか)かの違いがあれど、ね。」

 

 

 

言って、(彼女)は微笑みを浮かべる。

そこには憤怒も恐怖も不安も、諦観すら浮かんでいない。

あるのはただ、自身()を見守る母の貌だけだ。

 

「な・・・んで。」

言葉が出てこない。

 

なんで、どうして。そんなことは。

 

浮かんでは消え、浮かんでは消える。

 

「仕方がないのです。・・・ああ、でも。ギルにはまだ秘密ですよ。」

 

今言ったらきっといろんな意味で(ボク)の安全が保証されかねるので。内緒噺をする少女のように無邪気に笑った。

 

 

それなら、何故自分には最後まで秘密にしてくれなかったのか。

 

これから自分はどうすればいいのだろうか。

 

 

ぐちゃぐちゃの(中身)をそのままにエルキドゥ()ウルレシュテム()に抱き付いた。

甘えるというより何かを訴えかけるかの様に、縋るかのような抱擁に一瞬驚いたウルレシュテムだったが、恐らく分かっていないのだろうがエルキドゥの頭を撫でた。

エルキドゥは時折頭を左右に振るがそれでも自らの頭を撫でる手をただ享受する。

 

「エルキドゥ。外の世界はどうだった?」

 

「・・・とても、楽しかったよ。友達も出来たし。けど。」

言葉を切ってもう一度頭を振った。

 

今は少し、苦しい(悔しい)な。

 

ただただ、優しい手と温かい体温を、一時の幸福を享受していた。

もう少しだけ、もう少しだけ続いておくれと心の何処かで願いながら。




はい、と言うわけで風呂場での母子対談でした。
ウルレシュテムは出来ることなら彼らに最期を
エルキドゥはこの時間が続くことを
とバラバラなわけですが。

何故弟には言わなかったのか。
・・・姉としても弟が無意識に自分に依存している節を感じ取っているためです。
で、あ、これいったらだめなやつ。
と言うわけで鎖に託しました。

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