そんな、抑止力の凄さを知らないとんでも主人公。
それが我が家の主人公です。
コツリコツリと裸足でも、具足でもない靴音が響く。
夜営の兵士が音の発生源である前方に目を凝らすと女が一人。
白い外套が夜風になびく、うなじ辺りで括られた白銀の髪がサラサラと絶え間なく揺れている。
そしてーー肌も髪も装束も明度は違えど白で統一された中に一点だけ。
爛々と輝く血のような紅い瞳が兵士を見据えていた。
唐突に、おそらくは本能的な恐怖を感じ、武器を持つ手に力を込める。
しかし、兵士は二人とも目の前の女以外の周囲の変化に気が付かない。
なぜ、目を凝らさなければならないほど遠くの女の靴音が聞こえた?
否
なぜ、女の靴音が聞こえるほどこんなにも周囲が静かなのか?
そこにさえ気づけていたのならまた違ったのかも知れない。
少なくともーー
女に声をかけようと息を吸う。瞬間。
兵士2人の足元から何かが噴き出した。
兵士を飲み込んだそれは、そのまま地面に吸い込まれるように消えていき、兵士が取り残される。
「いいですか。」
女が口を開く。
「貴方方は何も見ていないし何も聞いていません。・・・ですよね?」
兵士は女の元に跪くと頭を垂れた。
「はい。母上。」
「私共は何も見ていませんし、何もお聞きしていません。」
少なくとも、この様に自己を変貌させられ、ただの傀儡として使われるという事はなかったはずだ。ーー例え、命は助からなくとも。
女はそのまま門を通り抜ける。
その顔は僅かに微笑みを浮かべていた。
◇ ◆ ◇
歩く。只々、歩く。
門さえ無事であれば後はどうとでもなる。
あんまり気乗りはしないが向かってくるのなら仕方がない。
容赦なく自分の行く手を阻まんとする輩を刺していく。
なるべく苦しまないように
なるべくきれいであるように
ふと、元来た道を振り返った。
人が倒れている。小さな丸い穴以外の外傷はなく、気絶しているかのようだ。
ただし、それはトクトクとゆっくりと/早く流れ出る
それも、1、2体では済まない数が。
ここの王は慕われているのだろうか?
自然と口角が上がる。
あの子のいるウルクもこうあってくれるだろうか。
あってくれたらいいなと思いながら王の自室へと赴いた。
「素敵な国ですね。」
こちらを振り向こうとした王の首を刎ねる。
「でも・・・。」
転がり落ちた王の首を無造作に掴んで、自分の目線くらいの高さに持ち上げる。
「
首を片手にぶら下げたまま、窓の外へと歩いていく。
外の明かりは門などの最低限の所以外一切見られない。
言葉とは裏腹に不思議と心は凪いでいる。
その顔には、やはり微笑みが浮かんでいた。
タイトルのわりにアッガさんの出番がない。
ごめんねアッガさん。
タイトル詐欺でごめんなさい。
閲覧してくれた方々。
ほんとに申し訳ない。