それと、さりげなく能力が徐々に開示されていく主人公。
全部・・・というか大体だすまでにどのくらいかかるのか。
先は(いろんな意味で)前途多難です。
がらがらと荷車を押しながら歩く一団の姿がある。
皆一様に風避けのついた白の装いに身を包んでいるその一団は一見
陽射しの強い日中の装いとしてはごく普通の格好であるはずが、目元すら覆い隠す肩まである薄布と過剰なまでに肌を覆い隠す両の手のみしか見えない装束が異様さを放っている。
そして、何よりも荷車の中身。
白の布で隠されてはいるが隙間からは食料品と龜に入った水と砂がみてとれた。
前者はどこぞの都市への行商なのだと納得出来ただろうが、後者は工事に使うと言えどわざわざ売りにいくにしては粗末なものだ。
いったい何に使うというのか。
荷車を押していた一団の一人が横を歩いていた同じく白装束の一人に近づく。
「隊長。もうすぐ奴の
平静を保った。しかし、それでも隠しきれない不安の滲んだ声。
その声に返す白装束はポツリと呟いただけだった。
「ああ、そうだな。」
部下と思わしき近づいてきた男が呟きしか返さない男に
戸惑いを感じていると、更に白装束の男は言葉を続けた。
「そう焦るな。迎えが来る手筈になっている。」
男が言い終わるのとほぼ同時に轟音が響き渡る。
否、巨大な何かの飛来によって地面が抉れ、轟音が響き渡ったのだ。
「やあやあやあみなさん。ヘアフスさん一行であってるかな?」
女か男か、老人か子どもかすら判別しかねる声が開いたまま動きのない何かの口から漏れる。
「ああ。」
男が顔の薄布を頭までずらす。
「久しぶりだな。エルキドゥ。」
男...ヘアフスが先程と変わらぬ平淡な声で言った。
◇ ◆ ◇
何年か前。謎の子供と衝撃的な邂逅を果たしたヘアフスはジッグラトまで来ていた。
正確にはジッグラトへと続く道の途中。その地点を行ったり来たり。
あの出来事の後、珍しく息を荒立てながら店に駆け込むように戻ってきた父親が自身の両肩を掴みガクガクと揺さぶった。
「お前、いったい王に何したんだっ。」
父親の勢いと剣幕に気圧された自身を置いてけぼりにして尚、話を進める。
「まあ、いい。いざとなればお前がだめでもスドムがいる。いいか、絶対に俺の顔に泥は塗るなよ。」
スドムとは自身の4つ下の弟の事だ。なぜここで弟の名前が出てくるのか。どうして跡継ぎである兄ではないのか。そもそも、いったい何のことを言っているのか。疑問は次々浮かび上がるが、自分が口を開くより先に父親が粘土板を置き、顎をしゃくった。
どうやら見ろと言いたいらしく、その通りに粘土板をのぞき込む。
刻まれている内容を読んで今度こそ固まった。
「王が、お前をご指名だそうだ。」
それは今のヘアフスには死刑宣告も同然だった。
曰く、神から与えたもうたその類稀なる美貌で男どもを意のままに操る魔性の女。
曰く、たった一撃でキシュの精鋭軍を壊滅させた護国の英雄。
・・・等々どれが嘘っぱちでどれが本当なのかわからないがその噂一つ取ってもとんでもない規格外、女王ウルレシュテム。
かたや、そこまで裕福ではないそこらの商家の
ヘアフスは頭を抱えた。
今朝から父親は「女王に見初められた。これで我が家にも箔が付く。」と上機嫌に母や弟に触れ回っていたし、兄は兄で差して興味なさげに「見初められたにしろ失礼があったにしろ下手したら首が飛ぶな」と平然と言ってのけた。
そして、母は母でどうしたらいいのか迷った結果。とりあえず精の付くものをと思ったらしく、いつもより朝から重めの食事になってしまった。
緊張から胃が重いのか、食事のせいで胃が重いのかわからないが気持ちが悪い。
というよりハッキリ言って逃げたい。しかし、それを許す父ではなく、身支度を整えるとすぐに家を追い出された。
そして現在。ヘアフスは逃げるべきか行くべきか決めかねていた。
逃げればきっとただでは済まない。自分だけではなく家族も。王族の命に逆らったのだから一族郎党問答無用で死体を晒すことになるかもしれない。
けれど、それは逃げなくとも同じではないのだろうか。それこそ、これから向かった先で本物の死刑宣告が待っているのかもしれない。
そう思うとまた身体が重くなった。
「迷子?」
突然の声に振り向くと先日の子供が背後に立っていた。
思わず後ずさる。
「きみ・・・はっ」
冷や汗が米神を伝う。
あの出来事が脳内で勝手に再生される。
心音が速度を上げ、より大きく聞こえる。
膨れる身体。
身体を這いずる何か。
風船。
風船に突起物を三つつけたような。
はじけ飛ぶ何か。
飛び散った肉。肉。赤が孤を描くように。
赤、赤。赤っ。
そこまで考えたところでポンと何かが、違う。目の前の子供の手が自身の肩に触れている。
「あ、ああ、あ。」
逃げられない。
逃げられない。
「ねえ、少し。
呟くように子供が言った。
「あ・・・あ・・・・・?」
嗚咽が止まる。まるで波が引いていくかのように不安が、恐怖心が引いていく。
おかしい。なぜ自分はこの自分よりも幼い子供に恐怖心を抱いていたのだろう。
この間、
何かが変わったようなそうでないような曖昧な感情を持て余しつつ、もう一度子供を見た。
「落ち着いた?」
「へ?・・・あ。は、へい?」
返事をしようとして間抜けな言葉が口から零れる。
「・・・本当はジッグラトについたら話そうと思ってたんだけど。」
わたし、今日はあまり時間がないんだ。と残念そうに子供が言った。
どうやらこの子供もジッグラトに用があったらしい。
丁度いい。きっと一人で行くよりこの子と一緒の方がきっと何倍も(精神的に)心強い。
「なら、俺と一緒に行かないかい?」
「はい?」
子供が小首を傾げる。
そして、自分が今何を口走ったのか理解して弁解に走った。
「あ、待って。別にそういったことじゃ・・・いやあのなんというか。」
・・・ら、もっとしどろもどろになっていく。
傍から見れば完全に変質者じゃなかろうかと思いつつさらに言い訳をしようとしたヘアフスの耳がクスクスという笑い声を拾った。
「あ、いえ。ごめんっ・・・なっさ。ふふっ・・・。」
貴方のその反応、いいですね。と言った子供は失礼。と言ってぐるぐると己の頭部に巻き付けていた包帯のみを解いていく。目深に被っていたフードも外すと出てきたのは混じりけ一つない黄金に輝く髪。こういう時はせめて誠意として顔くらいは見せなきゃねと言って、噂の神より与えたもうた美貌が薄く微笑んだ。
「初めまして。厳密には先日ぶりですね。ヘアフス。
わたしはウルレシュテム。此処の王をしています。よろしく。」
「 。」
その紹介を聞いてまずヘアフスがしたのはここにはまだない日本という国の文化。
土下座であった。
この後、貴方のその非凡なまでの平凡さが気に行っただの言いだしたウルレシュテムによって鍛え抜かれ、武器を与えられ、彼女の私設部隊の隊長に任命されたり。
訓練と銘打った国境防衛線に現地調達の木の棒一本で臨もうとする彼女に驚愕したり。
彼女の命を狙ってきた暗殺者集団に囲まれた状態で戦闘態勢のまま仮眠をとっている彼女を傍目に部下に指示を出したりと彼女によって様々な出来事に巻き込まれていくこととなる。
すっかり人が変わってしまったかのようなドライな姿勢で彼は言う。
「はあ、いつもこうなのか?そうだよ。いつもこうだよ。
◇ ◆ ◇
「ああ、よく来てくれましたね。ヘアフス。皆もお久しぶり・・・とそっちの人は新人ですか?エルキドゥもお疲れさまでした。」
エルキドゥに案内されたヘアフスたちは女性・・・ウルレシュテムにぺこりとそれぞれ頭を下げた。
一番早く頭を上げたヘアフスが粘土板を持ってウルレシュテムに近づく。
「これが今回の目録です。」
「・・・はい、確かに。」
しかしよくラピスラズリなんて積めましたね。というウルレシュテムにドゥゼに少し頼みました。とこともなげに切り返すヘアフス。淡々としてはいるが決して嫌悪等の類は見受けられない。
「それと、陛下のご様子ですが。」
これまでと変わらぬ淡々とした口調でヘアフスが新たな話題の口火を切った。
「時々前に言われていた我とかいうのが出てますが半日程度です。日によっては柱に頭を連打するなどして無理矢理
・・・連絡を入れずに書置きのみを残して旅という名の失踪をすることがあるらしく、祭司長のシドゥリはじめ、中枢の者が手を焼いているそうです。」
彼の口から出てくるとんでもない出来事に小隊メンバーは皆下を向いている。
報告を聞いているウルレシュテム自身は特に表情を動かさずその報告を聞いていた。
「それ以外の活動はありません。・・・が、最近妙な噂が流れてきています。」
「妙な・・・噂?」
ウルレシュテムが微かに眉根を寄せた。
「はい・・・まだ、確証はないので定かではありませんが・・・なんでも国中の花嫁を奪うとかなんとか。発信源は一致しません。村娘だったり、聖娼だったり・・・。しかし、どの発信源となっている人物も女で、高い
以上です。と締めくくったヘアフスにウルレシュテムが口を開いた。
「・・・何か、裏にいますね。
引き続き調査をお願いします。と言ってこんばんは泊っていくといいでしょうと寝床を造り出す準備に取り掛かろうとする彼女にヘアフスがぽつりと言った。
「今度は何を考えてるんですか。いったい。」
今日の荷にしても。という問いに聞こえていないのか、はたまた聞かないふりをしているのか。答えが返ってくることはなかった。
というわけで、ヘアフスさんは平子さん立ち位置になってもらうことになりました。
ちなみに主人公。戦の時は最初こそ意図して有馬さんみたいなお惚けだけどすごいみたいなエピソードが欲しいな・・・と思っていましたが結局素で天然なのでそれとなく本人無意識のうちに有馬さん的なエピソードが出来上がっていくという。ある意味勘違い拡散機。