・・・ということは前回言っていた美人の基準の中には手も含まれていたのだろうか。
やっぱり美の基準ってわからない。
「そこ、溢さないっ。」
言って思い切りハリセンもどきを叩き付ける。
「ぶふっ」
モロに入ったエルキドゥが吹っ飛んでいった。
現在
え?スパルタすぎる?虐待だ?
いやいや。呼び掛けようと軽く小突こうとびくともしない犬食いしている輩にどうやって注意しろと?
この子の耐久性は、作り出してからずっと一緒にいる
そう、下手したら逆にこちらが吹き飛びかねないというと言うことも。
頼むからぼろぼろ溢しながら犬食いとか止めてほしい。
折角シャムハトさんモデルにして人型にしたのに。
美人が一瞬で台無しだ。
衝撃から立ち直ったらしいエルキドゥが頬(当たった個所)をさすりながらこちらへ歩いてくる。
「ひどいなあ。いてて」
「折角人の姿になったんです。ちゃんと手を使った食事の仕方を覚えましょう。」
それとわざとらしく痛がるのはやめなさい。と言うと途端にあ、ばれた?っといたずらっ子の様な笑顔を返してくる。これで顎やら頬に食べカスがなければほんとに絵になるんだが。現実は残酷である。
「うーん。どうして人はわざわざ手を使って食事をするのだろう。
器さえあればあとはそのまま顔を突っ込んだ方が横取りもされないし、より食べ物のおいしさを感じられると思うんだけど・・・。」
「いや、人は味を感じられるのは舌だけだから。顔突っ込んでも顔面じゃ精々感触と息苦しさくらいです。あと、匂い。そもそも横取りするような輩自体いませんよ。少なくともここには。」
母さんが言うならそうなんだろうけど・・・と納得いかなさそうなエルキドゥを余所に自身の足元に目線を移す。
エルキドゥを作ったときに用いた泥。後で同じ場所を見に行っても何もなかった。
不審に思って辺りを散策してみたがやっぱりどこにもそれらしきぬかるみは見つからない。・・・今更ながら
ちらりとエルキドゥに視線を戻すとそこら辺の木に寄りかかってライオンと話し込んでいた。エルキドゥを前にして逃げない動物なんて珍し・・・ライオン?ライオンッ!?
ここに来てから見た動物の中にライオンはいなかったはずだ。ということは・・・。
「こんにちは。ご機嫌いかが?ウルレシュテム。」
「・・・やっぱり貴女ですか。イシュタル。」
今度は何しに来たんだ天災女神。
前回の来訪の時にエルキドゥの分までお茶菓子独り占めしやがって。
おかげであの後宥めるの大変だったんだからな。
「へー君も大変なんだね。あんな年甲斐もなく放蕩してる年増に連れまわされるなんて。」
おいそこの泥んこ。本人の前でデマ言うな。随獣のライオン困ってんだろ。
「・・・なんだか外野が少し煩い様ですがまあいいでしょう。私はただ様子を見に来ただけですから。」
様子を見に来ただけ?十中八九送り込んだのはアヌ神あたりだろうがイシュタルの様なただでさえ扱いずらい上位の神を
「それと伝言です。アヌ神が近々そこにいる人形には嵐の中に飛び込んでもらうことになりそうだから調整を完了させておくようにと。」
「はあ。嵐・・・ですか。」
嵐と抽象的な表現が用いられているが、今のところ神々が手をこまねくような問題なんてきっとアレのことぐらいだろう。好きにさせればいいものを。
「あら、怖い顔。ふふ、安心なさい。今のところ順調にいい男に育っていましてよ?貴女の教えの賜物かしら?最近は
まあ、いまだに欲しいとは思わないけれど。と続ける目の前の女神に溜息をついた。
「君の大丈夫、安心の類は全然大丈夫ではないんですが・・・まあ、こちらも手段がないのでどのみち現状維持の様子見ですね。」
「何なら私が・・・「様子見で」まあ、つれませんね。」
その先は言わせない。聞いたが最後共犯者にされてうまいこと利用されて事態の収拾がつかなくなるなんてことになりかねない。
伝えるべきことは伝えたので私はこれでとまで言うと再度天舟を起動させ去っていった。
去り際にエルキドゥがその辺の土塊投げつけようとしてたから経験者として必死に止めた。どんだけ根に持ってんの君。誰が後始末すると思ってんだやめろ。
「ねえ、エルキドゥ。」
頬を膨らませて不貞腐れている
「明日いいものあげるね。」
へ?いいもの?食べ物?と目を輝かせるエルキドゥ。
期待させてごめん。食べ物じゃないんだ。
エルキドゥのサラサラの頭をなでながらアイツ何やってんのかな。そろそろ結婚適齢期のはずだけど嫁さんとかいるのだろうかと弟のことを考えた。できることならこんなおばさんのことも笑顔で姉様と呼んでくれる可愛い子だといいな・・・中身を別として容姿なら隣にいるこの子みたいなかわいい子。そうだ、シャムハトさん・・・はダメか。仕えてる身だしね。あー誰かいい子いないかな。
叙事詩内でも悔しそうにしてるイシュタルに向かって肉を投げつけるほど仲の悪いエルキドゥですがこの作品内でもやっぱり仲悪いです。
主に食べ物の恨み的なもので。
そして姉は意図せずして今弟を取り巻いている状況に関して考えを巡らせているわけです。全然疎通はできないけれど。
イシュタルに至ってはただただ面白がっているだけというカオス。