モモンガさんと異形の母   作:belgdol

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爆発すべき人(?)達

「おはようございます、モモンガさん」

「おはよう、アヴェ」

 

 天幕のある豪奢な寝台の中で、モモンガに巻き付けていた蛇の下半身を外しながら挨拶したアヴェ応えつつ、モモンガは唇のない歯茎でアヴェの頬に口づけして起き上がる。

そして、互いに一般メイドを呼び、その日のコーディネイトを任せながら会話をする。

 

「アヴェさん。今日はどうしますか?」

「そうですね……今日は第九階層から一層ずつナザリック内を見回っていって、地上部で見張りについているセバスたちを見舞った後は第四階層の地底湖で泳ごうかと」

「泳ぐ……ああ、スパナザリックだと水泳はできませんからね」

「るし★ふぁーさんの仕込みには驚かされましたよね」

 

 苦笑するアヴェだが、モモンガは若干……そう、沈静化が行われない程度の苛つきを覚えたのか、ガウンを羽織り終わって額の骨をコツコツと指で鳴らしながら不満の声を上げた。

 

「風呂場のゴーレムが動き出したのが、アルベド達守護者が入浴している時で良かったよ。もしアヴェの入浴している時だったらと思うと……まったく、るし★ふぁーさんは……」

 

 そんな風にぼやくモモンガに、アヴェがそこに居ないかつての友人……友人?……まぁ友人だろう。かなり困った人だったが……を取りなすように穏やかな口調で言う。

 

「まあまあ。ユグドラシルの時にフレンドリーファイアが解除されるなんて誰も思いませんよ。あれについては悪いのはるし★ふぁーさんではなく、急にルールが変わる方が悪かったんですよ」

 

 煌めく宝石で飾られたチューブトップの胸当て付けられながらアヴェが発したなだめる言葉に、モモンガも苛つきが収まったのか頬骨を掻く。

 

「んー……まぁそうですね。確かに俺達がこんな状況になるなんて、誰にも想像できませんものね。すいませんるし★ふぁーさん、言い過ぎましたね……」

「ふふ、でも心配してもらえて嬉しかったですよ」

「そうですか?なんかだしにしたみたいでるし★ふぁーさんに悪いなぁ」

「これが「リア充」っていうことでしょうか」

「はっ。そうなのか……俺とアヴェ、今はリア充なんだな……これは確かに自分でなければ爆発しろ案件だ。ははは」

 

 おどけて笑うモモンガに、一般メイドにより着飾らされたアヴェが寄り添って、人差し指を立ててモモンガの口元を抑える。

 

「ふが?」

「今は、じゃないですよ。ユグドラシル末期にはゲーム内とはいえ結婚していたんですから。私達はとっくに爆発すべき側の人間です」

「は、はは。そうですね。あー、リア充爆発といえば嫉妬マスクってありましたよね」

「ありましたね……」

「毎年微妙にデザインが違ったんですけど、結婚したら貰えなくなったんですよね。あれ」

「え?あれって配布やめたんじゃないんですか」

「違うんですよ。俺も掲示板で年ごとの嫉妬マスクのスクショ見かけて初めて気づいたんですけど。どうも結婚システム実装後は配偶者がログインしてた人には配られなかったみたいなんですよね」

「私はあれ評判悪くてやめたんだと思ってましたよ」

「まあそう思うのも仕方ないアイテムではありますけど。コンプしそこねちゃったなーと一瞬思ったんですけど」

「けど?」

「アヴェと一緒にいて貰えないなら、貰えなくてもいいやって」

「ありがとうございます。アイテムコンプより恋人ですよね」

「ですねー。あ、これはまたリア充発言ですね。爆発しないように気を付けなきゃ……」

「ふふふ」

 

 モモンガとアヴェが和やかに談笑していると、控えていた一般メイドが顔をあげ、必死の形相で声を上げた。

 

「も、モモンガ様!爆発してしまうとは何者かの攻撃でしょうか!?至高の御方を爆発させる不遜なものが居るとは……!守護者統括であるアルベド様に命じて対策を講じるべきでは!」

「え?あ、あー。こほん。リア充の爆発とは物理的、魔法的な危機を呼ぶものではないんだ。リア充……現実が充足しているものは爆発してしまえ、という慣用句だよ」

「慣用句、でございますか」

「そう。だからモモンガさんも私も本当に爆発することはありません」

「モモンガ様とアヴェ様がそう仰るのなら心配はないのですね。私お二人が爆発したらと思うと心配になって……ご無礼の段お許しくださいませ」

「ああ、許すよ。紛らわしい言い方をして悪かったね」

「心配を掛けてごめんなさい。私とモモンガさんは大丈夫」

 

 思わず一般メイドに頭を下げた二人に対し、メイドは二人以上に頭を下げようと土下座せんばかりの勢いで口を廻す。

 

「お、お二人が頭を下げることはございません!この私の愚かさがすべて悪いのです!」

「うーん。ごめんだと通じないか……。じゃあこう言い換えよう。心配してくれてありがとう、その忠義に感謝するよ」

「ひゃ、ひゃい!もったいなきお言葉……!」

「私からもありがとう。貴方達、配下の皆が毎日私の事を慮ってくれるから私は毎日を平穏に過ごせているの。本当にありがとう」

「ふ、ふえええ……!」

「え!?なんで泣くの!?」

「モ、モモンガさん。感極まっているという奴じゃないでしょうか」

「あ、ああ。そういう事ですか……相変わらず忠誠心が天元突破してるよなぁ、皆」

 

 感激のあまり直立不動になって泣き始めた一般メイドを前に、モモンガとアヴェは何もできない。

ただ、この嵐が過ぎ去るのをお互いの顔を見合わせて待つことしかできないのだった。


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