モモンガさんと異形の母   作:belgdol

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ナザリック地下大墳墓の応対

「モモンガ様。御耳に入れておきたい儀があります」

「ん?なんだいアルベド」

 

 アヴェがスパナザリックへと出向いている時間に、アルベドが緊急に、と面会を求めてきた。

モモンガはそれを受けて即座に、ベッドに寝そべって大図書館から持ち出した本を読むのを止め、自室に据えられた執務机に座って彼女を迎える。

 

「先日、ナザリック大墳墓付近に人間が訪れたのはお聞き及びの事かと思います」

「ああ。そんな話あったなぁ。それがなにか不味い事になったの?」

「いえ、そのような……いえ、モモンガ様のご指示を仰ぐべきですね。ナザリック大墳墓を発見した人間達に念のため、恐怖公の眷属による追跡を行わせていたのです」

「ふむ」

「その結果、その人間達がナザリックを調査するための人員を送り込もうとしている、という事が判明いたしました」

「ナザリックに調査か。うーん、どう対応するのがいいのかな……」

 

 机の上で両手を組んで視線を跪くアルベドに投げかけることでモモンガは彼女に返答を促した。

 

「私共が取れる手は二つだと思います。一つ、神聖不可侵なる至高の御方が作り出した墳墓を荒らさんとする下等生物どもを抹殺する。……これはあまりお勧めしたくありませんが、友好的に調査員を歓待し、好感を持った状態で帰らせる事です」

「ふーむ。デミウルゴスはなんと?」

「ユリ・アルファと現地の虫けらどもとの交戦を見る限り、生半可な敵であれば問題なく撃退できる、と。ただ……」

「ただ?」

「送り込まれる塵芥をただ殺すだけでは、繰り返し調査の手を伸ばされた場合に無駄なコストがかかるのでは、と」

「コストか……確かにただ殺して、その結果何度も警戒を要する事に成るのは問題だね」

「はい、そこで折衷案といたしましてデミウルゴスから策があると」

 

 きりりと引き締められた美しい顔をモモンガに向けながら、アルベドがデミウルゴスの献策を申し奉る。

 

「まず地上にセバスとプレアデスを置きます」

「セバスとプレアデスをかー。セバス達に接待をさせるのかな?」

「いえ。セバス達にはナザリック大墳墓の墓守を演じさせます」

「墓守?」

「はい。ナザリック大墳墓はセバス達の主人が眠る墓所、というカバーストーリーを展開することで、もし侵入者が手向かえば討ち取る大義名分を手にします」

「ふむふむ」

 

 アルベドの言葉に、モモンガが何度も頷く。

 

「もし、セバス達が敵わない場合にはセバスが時間を稼いでいる間に当番のプレアデスを撤退させ、報告。その報告を受けて守護者を纏めて迎撃隊を編成。ソレによりより確実な侵入者迎撃を行います」

「うーん、まるでセバスを捨て駒にするような策なのが気になるな……」

 

 腕を組み、顎骨に指を掛けたモモンガが難色を示すと、アルベドは首を振る。

 

「捨て駒ではありませんわ。もし侵入者が敵対的でない存在だった場合、穏便に事を勧めることができる人員として考えられるのはカルマが中立、ないし善に偏ったもの。その中から最も確実に応対した相手が敵対的だった場合自衛ができるものを選んだ結果です。もちろん私もデミウルゴスも、徒にセバスを死なせるようなことは致しません」

「そうか……すまない。捨て駒というのは良くない表現だった」

「いえ、セバスもそこまでモモンガ様がお気に掛けてくださったと聞けば感涙にむせぶことでしょう」

「それで……ええと、なるべく外部との軋轢を少なくする人選がセバス、ということでいいのかな?」

「はい。その通りでございます」

「んー。セバスだけだと索敵が弱くないかな?八肢の暗殺者も配置するのは?」

「索敵でしたら、モモンガ様のご裁可を頂こうと思っていた腹案がございます」

「なにかな?」

「これを機に、私の姉のニグレドによるナザリック上空からの監視網の構築をさせていただければ、と」

「ふむ……許可するよ」

「ありがとうございます。これ以後も今回の提案を元にデミウルゴスなどと検討を重ね、より完璧なナザリックの防衛体制を築かせていただきます」

「うん。頼むよ。しかし、侵入者か……」

 

 モモンガが椅子に深くもたれ、ローブから除く肋骨の前で手を組む。

そして眼窩に浮かぶ炎を瞬かせ、燃え上がらせると一段低い声になってアルベドに言いつける。

 

「危急の時には俺自身がアヴェさんを守るけれど……侵入者がアヴェさんに近づくことが絶対に無いように計らってくれ」

「は、はい。それは勿論でございます。アヴェ様は直接戦闘をなさる御方ではございませんので。敵対的侵入者が大墳墓内に侵入した際には構築した連絡網を介してアヴェ様には宝物庫に避難していただくことも考えております」

「そうか。ならいいんだけど……アヴェさんが傷ついたら、俺は自分が何をするか解らないからね。重々気を付けてほしい」

「はい。承知いたしております」

 

 頭を垂れ承知するアルベドの内心に、深い敬愛の念が湧き上がる。

モモンガのアヴェを愛する姿勢、それに心打たれない僕が居るだろうか、という思いの為に。

ナザリック地下大墳墓、それはこの世界に転移して以降は愛の墓場と同義である。

 

 なお、ナザリック地下大墳墓への調査を試みる者たちを「穏便」に帰す策が取られたため、幾人かの運命が変わったことは、誰にも知られていない事である。




そういえばこの話ではナザリック地下大墳墓の隠蔽とかしてなかったなーと思ったので書きました。
ここらへんの違いで帝国のワーカー達の運命はなんとか虎口から抜け出す事に成ります。
まあ、セバスに対して強圧的に出れば墳墓でブラックカプセル逝きに成るかもしれませんが。

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