それはある日の事だった。
モモンガは森林を越えた所にある蜥蜴人の暮らしをレポートしますよ、とちょっとした息抜きにでかけ。
アヴェが一人で玉座の間に座りモモンガの代理としてアルベドの報告を受けていると、ふとアヴェがアルベドに問いかけた。
「ねえアルベド」
「はい。何か報告に疑問や問題点がおありでしたかアヴェ様」
「こんなことを聞くのは恥ずかしいのだけれど……」
「アヴェ様が恥ずかしいとは、それは重要な問題でございましょう。モモンガ様が居ない場で聞いたという事は女性特有のお悩みですか?もしや月経がこないであるとか」
月経が来ない、の部分に大いに喜色を乗せるアルベド。
彼女の中ではモモンガとアヴェの御子が自分の手製の産着を着ている姿が浮かんでいるのだ。
「いえ、月経は問題ないと思うわ。日々スキル多産なる母神による自動POPのモンスターを生み出してスクロールにしてもらっているから」
「では、どのような問題が……?」
問いを重ねるアルべドに、恥ずかしそうに頬を染めながらぬるりとアヴェが近寄り耳打ちする。
「実はね……同じベッドで寝てはいるのだけれど、モモンガさんとその、ね、どう子作りをすればいいのか解らなくて」
「……まぁ!まあ……まぁ……まぁ……」
アルベドにとっては晴天の霹靂。
予想外の難問。
言われてみれば確かに、である。
アルベドはサキュバス、ある意味こういった問題のエキスパートではある……が。
「申し訳ございませんアヴェ様!無知な私ではその問いに対する答えを持ち合わせておりません!この失態を償うためなら吸精無期限禁止といった処分も甘んじて受けます!
「あ、いやそこまで深刻にしなくても……」
「いいえ!これは大・問・題でございます!モモンガ様にアヴェ様という王妃がいらっしゃるのに御子ができないなど……ああ、世界単位での損失でございます!」
「そ、そこまでかしら?アルベドは少し大げさではないかしら?」
「何を仰いますか!同じことをデミウルゴスやコキュートス、シャルティアに……子供であるアウラやマーレでもお二人に御子様ができないとなれば残念がるに相違ありません!」
「そう、そうね……ねえアルベド、その、メイクラブの専門家としてなにか良い案はないかしら?」
「申し訳ございませんアヴェ様。この問題は正直私一人の手に余ります……せめてデミウルゴスと協議した上でモモンガ様の作成なされたアンデッドとアヴェ様のPOPさせたキマイラ等のモンスターを使って検証するご許可を戴きたく」
「あの人には内緒にしてくれる?」
「そ、それは……」
両手を胸の前で合わせて聞くアヴェに、アルベドは言葉を濁す。
ナザリックの運営に関わる者として理由なき事業の隠匿は不敬ですらある。
が、それも至高の御方の片割れから直接請われたとあっては難しい問題である。
「お願いアルベド。同じ女として男に希望を持たせて駄目でした、というのが怖いのは解ってくれるでしょう?」
「そう、ですね。この問題はモモンガ様にも極秘のプロジェクトとして進ませていただきます。ですがモモンガ様にアンデッド作成で作成していただいた段階でモモンガ様自身で気付かれた場合にはどうかお許しくださいませ」
「そうね……そこで気付かれたら私も大人しく諦めて全てをモモンガさんに話すことにします」
「ではそういった条件で事を進めさせていただきます」
「お願いね、アルベド。私の方でも色々、その、試してみますから……」
「了解致しました。最善を尽くしますわ、アヴェ様」
「ありがとうアルベド。はぁ、この悩みを誰かに言えて楽な気持ちだわ」
「その、思いつめていらしたのですか?アヴェ様」
「思いつめて、は居ないと思うけれど。やはりそう簡単に相談できることではないからアルベドに話せて気は楽になったわ」
「まぁ、お労しい……でももう大丈夫ですわ。私とデミウルゴスに全てお任せください」
恭しく頭を下げるアルベドに、心底ほっとしたという表情でアヴェが胸を撫でおろし。
どうかこの件をよしなに、という事でその場は収まった。
そして……。
「ふむ。なるほど……アヴェ様はモモンガ様との御子を作る方法そのものでお悩みでしたか」
「そうなのよ。でも実際頭の痛い話なのよ?」
「と、言いますと?」
「私はサキュバスだから、精が取れる相手ならアヴェ様と交接できない種族でも種を取って胎内に植え込むくらいは容易いのよ」
「なるほど。サキュバスの姿で精を取りインキュバスとして女性に仕込む、というのは聞く話ですからね」
「問題はオーバーロードで在らせられるモモンガ様は取るべき精……種が無いのよ」
「モモンガ様はアンデッドですからね。問題はそこからですか」
これにはさすがにナザリック一の知恵者デミウルゴスも頭を抱える。
「一応、アヴェ様にモモンガ様の作成なされたアンデッドとアヴェ様の御産みになるモンスターの掛け合わせ実験のお許しはいただいているのだけれど」
「何を試すか、というところから手探りですね」
「そうね、時間はかかると思うわ。いっそ貴方と私のように即物的な手段が取れれば問題は解決なのだけれど」
「もしそれができるならアヴェ様の母胎はお強いですからね。今頃モモンガ様とアヴェ様の御子をお手入れさせていただくだけで人手が足りなくなったかもしれませんね」
「私としてはそういう人手不足なら歓迎だわ」
「私も同感ですねアルベド」
「まぁ……そういうわけだから、速やかに問題の解決にあたりましょう。デミウルゴス」
「そうですねアルベド。全ては」
「「栄光あるアインズ・ウール・ゴウンの為に」」
なお、アルベドとデミウルゴスの実験は実を結ぶことなく。
結局は数十年後、モモンガの持つ流れ星の指輪でアヴェがモモンガの絶望のオーラレベル五を受けた時に、モモンガの子を孕むようになると願って妊娠することになる。
補足:この作品ではアルベドのビッチ設定は変わっておらず。じゃあアルベドがビッチっぷりを発揮する相手って誰よ?となったところ「デミウルゴスと割り切ったお付き合いをしている」という結論に行きつきました。
ナザリック外の男はビッチ設定でも歯牙にもかけないでしょうし、コキュートスやマーレにも手を出すと下手すると責任問題(特にコキュートス)になりそうだし…と考えていくとビッチ設定を演じるのにデミウルゴスが一番都合のいい相手なんですよね。
勿論うちのアルベドさんはバイコーンにも乗れます。