何となく原作の時期が始まると思うと悲しい気持ちになってしまうのは何故でしょうね。
それでは、本編をどうぞ。
episode-21「物語のはじまり」
「彼方さん、もうすぐですね」
そういえば、と。
思い出したかのように、由夢は彼方に告げた。
放課後の第二執筆室。
由夢と彼方はいつもの通り、魔法の桜関連の内容について調べていた。
しかし、長い時間ずっと本を読んでいたこともあり、一息入れている最中に由夢は話題として振ったのだ。
彼女の言葉に、一瞬彼方は疑問に思ったが、心当たりがあった為に確認の意味も含めて答える。
「クリスマスパーティー、ですよね?」
「はい、そうです!」
彼方の言葉に頷く由夢。
クリスマスパーティー。
通称、クリパ。
風見学園にて12月23日から25日までの三日間に行われるイベントである。
内容自体は文化祭と同じであり、各部活やクラスで催し物を行うのだ。
それを聞き、彼方は改めて、もうその時期かと驚いた。
「もう、そんな時期なんですね」
「あっという間でしたよね……その、文化祭から」
文化祭、という部分で照れた様子で話す由夢に彼方も恥ずかしくなってしまい、何となしに頬をかく。
文化祭。
彼方と由夢の両方にとって印象深いイベントであった。
由夢は彼方に予知夢の話をし、彼方は由夢に自分の過去の後悔を話した。
涙を流した姿を周りに見られた、とても恥ずかしい出来事。
しかし、それ以上に二人にとって大切な想い出であった。
こ、こほん、と。
何だかこそばゆい雰囲気になった為、咳払いをして話題を切り替える由夢。
「そ、そういえば彼方さんのクラスは何の催しを行うんですか?」
「私のクラスはお化け屋敷ですね」
定番ですよねと、彼方は笑いながら由夢の質問に答えた。
同じように、彼方も由夢のクラスの催し物を聞いた。
「由夢さんのクラスは何をするんですか?」
「わたしのとこは、焼きおにぎり屋さんです」
焼きおにぎり屋。
普通の学園祭では珍しい部類かもしれないが、風見学園では普通の部類に入る催し物である。
「良いですね、私も食べに行きますね」
「は、はいっ!」
彼方の言葉に、由夢は是非来てくださいと嬉しそうに話す。
料理は苦手であったが、頑張って練習しようと内心で決意する彼女であった。
「そうだ、兄さん達のクラスは何をするんでしょう?」
「そういえば、まだ出し物は決まっていないと聞いたような気がします」
彼方の答えに呆れる様子を見せる由夢。
既に12月が入ってしまっているのに大丈夫だろうかと心配する。
そして、心配な部分は其処だけではない。
「あの……杉並先輩は、クリパに何か企んでますよね?」
「何もしないと思いますか?」
思いません、と。
彼方の問い掛けに即効で答える由夢。
クリパや卒パなどのイベントで何もしない筈がないと逆の意味で信頼されていた。
「何を計画しているか私は一応知っていますが、聞きますか?」
仮ではあるが非公式新聞部である由夢には知る資格があると思った為、彼方は彼女に問い掛ける。
一瞬考える由夢であったが、私は聞かないでおきますと答えた。
「わたしが聞いちゃったら、お姉ちゃん達に話しちゃいそうですから」
文化祭終了後。
芳乃宅にて講堂占拠について音姫に謝罪した後、由夢が非公式新聞部の仮部員であることがバレてしまったのだ。
義之のポロッと漏らしてしまったことが原因である。
事情など色々話したことにより、音姫には何とか許しを得ることが出来た。
しかし。
『妹ちゃーん、ちょっと来てくれるかにゃーん?』
音姫を通して、副会長のまゆきにも知られてしまったのだ。
まゆきに生徒会室に連行された後のことは思い出したくない由夢であった。
とりあえず、由夢は計画の内容をまゆきに白状してしまいそうなので無理だと感じた。
「それなら言わないでおきますね」
彼方は苦笑しながら由夢に言った。
「それにしても」
由夢とクリパの話をしながら、彼方はあらためて思う。
もうそんな時期なのかと。
あっという間に感じたのだ。
「今年も終わってしまうのですね」
それは、文化祭からという話ではなく。
彼方が魔法の桜に願ってから。
彼は、本当にあっという間に感じたのだ。
そして――
「もうすぐ、始まるんですね」
特に誰かに聞かせるわけではなく。
彼方は無意識につぶやいていた。
そんなに大きい声ではなかった。
しかし、騒音もないこの部屋では小さい声でも聞こえてしまうのだ。
「ん、何が始まるんですか?」
由夢は彼方のつぶやきの内容について質問した。
彼方は彼女が聞こえていたことに一瞬驚いたが、笑みを浮かべながら答えた。
――物語が、でしょうか。
質問に答えた彼方の表情は笑みが浮かんでいる筈なのに、由夢は何故か胸が締め付けられる様に感じた。
分からない。
分からないのだけど。
由夢は、何かが終わりを告げるように感じたのであった。
episode-21「物語のはじまり」
「ふぅ…………」
一旦は大丈夫かな、と。
芳乃 さくらは枯れない桜から手を離し、安堵の息を吐く。
深夜。
周りが既に就寝の中、さくらは枯れない桜の前にいた。
それは、枯れない桜の魔法の欠陥を補うため。
「んー、疲れたぁ」
ずっと同じ姿勢で居たことで身体が固まっているのを感じ、ほぐす様に軽く肩を回す。
そして、毎日見ている枯れない桜を見上げた。
「頑張らないと、ね」
さくらは、小さい声でつぶやく。
枯れない桜に、いや、自分自身にだろうか。
彼女は感じていたのだ。
枯れない桜の願いが少しずつ、ほんの少しずつだが欠陥が広がっていることを。
以前から枯れない桜の魔法には不具合があった。
それは、純粋な願い以外も叶えようとしてしまうこと。
初めは少しの時間だけ調整すれば何とかなった。
しかし、欠陥が広がっていき、さくらが枯れない桜に同調し、不具合を修正する時間はどんどん増えていっていたのだ。
「うにゃー、ちょっと眠いかも」
こうやって、深夜にやらなければいけない程に。
それでも彼女は止めたいなど欠片も思わなかった。
まったく、思わなかったのである。
それは――
『今日は一緒に夕飯食べましょうね、母さん』
さくらの頭に浮かぶのは、大切な息子の言葉、想い。
それを思い出すだけで、元気が湧いてくるように感じた。
大事な、本当に大事な息子である義之。
彼の為にやることが苦である筈がなかった。
「義之くんは、ほんとに優しい自慢の子」
さくらが魔法の桜に願って生まれた男の子。
彼女と純一の、あり得た未来の可能性。
自分自身で直接産んだ子供ではない。
それでも、彼女にとっては自分の命より大切な存在。
「あの時から、ほんとに親子になれた気がするなぁ」
義之が自身のことを母と呼んでくれたとき。
さくらは義之と本当に親子に、家族になれた気がした。
「ほんとに……幸せ者だよ、ぼくは」
頭に浮かぶのは、母と呼んでくれてからの、義之との日々。
――もうっ、料理中にいきなり抱き着かれたら危ないですよ!
――だって抱き着きたかったんだもーん。
注意しながらも仕方ないなと笑う彼の姿を。
――はい、あーん!
――じ、じぶんで食べれますってば。
嬉しさと若干の照れを浮かべる義之の表情を。
――その、いってきます、母さん。
――うん! いってらっしゃい、義之くん!
恥ずかしくても母と言ってくれる、息子の優しさを。
今まで生きてきた中で、1番幸せだと断言できる。
そんな、息子との大切な時間。
魔法の欠陥を補う作業量は増えていく一方。
しかし、義之との大切な時間があるからこそ、辛いとは思わなかった。
それに、彼女が嬉しかったのは、それだけではない。
枯れない桜にさくらが同調したとき。
人々の願いを集めていく中で、願い以外もこの枯れない桜に集まってきたのだ。
――あなたが叶えてくれたおかげで、わたしは大切な宝物に気付けたわ。
それは、願いを叶えた人達からの気持ち。
――あなたのおかげで、大切な友達と妹にもう一度会うことができた。
それは、願いを叶えた人達からの想い。
――あなたがくれた力、これからはその力に頼らずに頑張ってみるね。
それは、願いを叶えた人達からの決意。
――好きな人との未来を見せてくれてありがとう。
それは、願いを叶えた人達からの感謝。
純粋な願いに負けないくらいの、
純粋な気持ちがさくらに伝わってきたのだ。
それに――
『桜さん ありがとう』
「あはは、なんだか嬉しいな」
自分への感謝ではなく、魔法の桜への感謝なのだろう。
それでも、さくらは自分に対して言ってくれた様な気がして嬉しかった。
「さてと――」
義之と朝ごはん一緒に食べる為に頑張ろう、と。
再び魔法の桜へと意識を向けるのであった。
前回の話を【後編】に入れていたのですが、【前編】に移動しました。
原作開始からが後編かなと思ったので。
ひとまず、GW中に5話分を執筆することが出来て少し安心しております。
やろうと思えば出来るものですね。
祝日が終わると仕事もあるので更新ペースは落ちるかもしれませんが、見ていただければ幸いです。
すみません。
もう一点、ご連絡があります。
最近、『初音島物語』以外に新しく作品を描き始めました。
タイトル名:
『沢近さんの純愛ロード』
原作:
スクールランブル
こちらは息抜きとして書いてます。
優先度としては、初音島物語のほうが高いです。
もし良ければ見ていただければ嬉しいです。
自分で書いてて思いましたが、古かったり二次創作が少なかったり、需要が少ないものばかりだなって反省してます。
ですが、最後までしっかり書き上げます。