初音島物語   作:akasuke

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D.C.の魅力 そのじゅうなんとか。
D.C.IIのゲームの一部ルートでは、アニメのオリジナルストーリーと繋がっていることを知っていましたか?

私の青春、アニメ「D.C.S.S(セカンドシーズン)」は原作にはない、オリジナルシナリオとなります。
私はその話が大好きですし、今でも思い出せます。

D.C.S.Sで登場するキャラのアイシアの物語は、ゲーム「D.C.II.P.S」のアイシア√と連動してます。
アニメの結末を知っているからこそ、アイシア√は私にとって凄く泣けました。

ファンの中では、最高のハッピーエンドと称されているらしいですよ?

アニメを知っているからこそゲームをやりたくなる。
ゲームをやっているからこそアニメを見たくなる。
それも、D.C.の魅力なんだと思います。

それでは、本編をどうぞ。


episode-9「白雪」

「私は彼方さんのお手伝いをしても、良いんですよね?」

 

不安そうに見る由夢に、照れた様子で頷きながら、お願いしたいですと述べる彼方。

そんな彼方の様子に、よしと由夢は気合いを入れて踏み出した。

 

 

「手伝いをするのに、遠慮しあってたら駄目だと思うんです」

 

「え、ええと…そうです、かね」

 

絶対そうです、と。

由夢の発言に思わずという感じで肯定する彼方に、押せ押せと言わんばかりに話す由夢。

 

ですから、と一拍置いてから由夢は彼方に言った。

 

 

「か、かなた先輩」

 

「あ、え…えーっと……」

 

「彼方先輩ってお呼びします」

 

彼方先輩も私のこと、下の名前で呼んでくださいね。

反論は許さないと言いたげな雰囲気で、下から睨むようにして由夢は話す。

 

 

 

 

 

――いきなり過ぎたかな

 

自分で言ったことではあったが、自身の発言を思い浮かべ、不安になってしまう由夢。

 

本当は由夢は彼方のお手伝いをお願い出来たことで十分だった。

しかし、照れた表情を見せた彼方に、由夢はもう一歩踏み出したくなったのだ。

 

由夢からしてみれば、彼方とは何回も見て、聴いて、会っている。

しかし、彼方にとっては、由夢は会って2回目でしかない。

 

慣れ慣れしかっただろうか。

嫌な女だと思われていないだろうか。

それに、自己紹介した際はほかの皆と一緒だったから、名前覚えてもらえてないかも。

 

考えれば考えるだけネガティブな思考に陥り、涙が出そうになってしまう。

 

そんな由夢の表情をみて、戸惑っていた彼方は少し落ち着くことが出来た。

由夢の、涙目で睨むように見上げる表情が、昔入院していた際の照れ屋な女の子と同じだったからだ。

 

 

――ありがとっ

 

お礼を言いたいのに言えなくて。

強気な口調になってしまう女の子。

 

その女の子に話しかけたように。

安心させるように微笑みながら、伝えられるように。

 

由夢さん、と。

 

嬉しそうに頷く由夢をみて、自分の行動は間違ってなかったのだな、と思った。

 

そこから暫く沈黙が続いたが、

お互いにその間が不思議と嫌ではなかった。

ただ、由夢と彼方はお互いに、何となく顔を見合わせて照れながら笑うのだった。

 

 

 

ガチャリ。

そんな時、執筆室の扉が開き、その先には白い存在があった。

 

 

「失礼するわ……あら」

 

白い存在――杏は、執筆室の彼方と由夢を見て、表情を少し驚いたものに変えた。

そして二人に話し掛けるのであった。

 

 

――お邪魔だったかしら、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode9「白雪」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………そう」

 

由夢が執筆室にいた経緯を説明したあとに、杏がはじめに回答した言葉である。

 

その後に、由夢の方を見てつぶやく。

ニヤリとした表情を見せながら。

 

 

「義之と同じで、エロエロなのね」

 

「ちょっ、なんでそうなるんですかっ!」

 

兄さんと一緒にしないでください、と。

杏の発言に、立ち上がりながら叫ぶ由夢。

義之がその場にいたら、俺のも否定しろよと言ったであろう。

 

 

「ほんとに初音を手伝いたいんだなって思ったわ」

 

でも、それだけじゃないでしょ。

由夢に、付け足すように、杏は言った。

 

経緯を説明する間の由夢の表情をみて、彼方のことを手伝いたいという気持ちを悟った。    

そして、由夢の秘める想いも。

 

杏は、由夢の耳元に口を寄せ、彼方に聞こえないようにしながらつぶやく。

 

 

「初音の側にいたいって思ったんじゃないの?」

 

「そっ! ……そんなことないですよ」

 

由夢は思わず大きい声で返そうとし、途中で彼方の視線に気付いて小声で杏に返す。

 

まぁいいわ、と。

からかってある程度満足した杏は、本題に入るために話を切り上げた。

 

 

「実は、相談したいことがあるの」

 

今までのふざけた様子とは一変し、真剣な表情に変わる杏。

 

 

「それなら…わたしは、席を外したほうが」

 

本当の相談なのだと雰囲気を感じ、自分が居ると話せないだろうと執筆室から出る為に立ち上がる由夢。

 

だが、ここに居て良いわよ、と言う杏に止められる。

そんな杏に、心配そうにしながら由夢は尋ねる。

 

 

「でも、わたしが聞いていいんですか……?」

 

「由夢さんは他人に漏らさないでしょ。 それに」

 

こういう機会はきっと増えるわよ、と。

推測という言葉ではありつつも、どこか確信した様に言葉を返した。

 

昨日の彼方がデフォルトであれば、相談する人は来るだろう。

ある、特定の事情を抱える者にとっては特に。

自身の秘密を打ち明ける彼だからこそ、それこそ駆け込み寺の様に。

 

だからこそ由夢はそんな彼方の側に居るのであれば慣れたほうがいいと、杏は思った。

 

そして、杏は話し始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「わたし、昔は物覚えがよくなかったの」

 

「え、雪村先輩がですか?」

 

由夢からしてみれば、義之を通して杏が如何に記憶力がいいかを聞いている。

だからこその驚きであろうか。

 

「雪村流、暗記術でしたっけ。 それのおかげで記憶力がよくなったんですよね」

 

雪村流暗記術。

杏自身が、義之たちに自分の記憶力の良さを語る際に話したものだ。

そのおかげで何でも覚えていられると。

 

そう納得している由夢の質問にはこたえず、

杏は過去の話を続けた。

 

過去を思い出すように、少し天井の方に顔を向けながら。

 

 

「凄いキラキラして見えたの」

 

杏が幼い頃。

自分が覚えられないからこそか。

世の中に存在するもの全てが輝いて見えたのだ。

 

杏は、その世の中を覚えることができないのが悲しかった。

 

だからこそ、すべてのものを忘れずに覚えていられたら、きっと素晴らしいのだと感じた。

 

 

「だからね、お願いしたの」

 

過去の杏は、道を覚えるのも一苦労だった。

それでも必死に、大きい桜の樹へと向かった。

 

そして、桜の樹に願った。

 

 

――すべてを忘れないようにしてください、と。

 

息を呑む音が聞こえた。

由夢は、杏が言いたいことがわかったのだ。

杏も彼方と同様に願ったのだと。

 

 

そして、望み通りに何でも見たことを覚えることが出来る様になった。

きっと、これからは素晴らしいものを見ることが出来るのだと。

 

そう、思っていたのだ。

 

 

「でもね、違ったわ」

 

世の中には、覚えていたいこと、忘れたいことの二種類があった。

 

人の醜い部分を知ることになった。

杏を育ててくれたお婆さんが亡くなった後の、親族同士のやり取り。

その時の声、表情。

忘れたくても忘れることができない。

 

 

「……願ったことを後悔していますか?」

 

「そう、思ったこともあったわ」

 

彼方の問いに、肯定をしながらも、それだけではないと言う。

 

色々と恩恵はあった。

しかし、ネガティブな内容の方が積み重なっていくのだ。

そのせいか、歳をとる毎に、寝ることもままならなくなった。

 

 

だからこそ。

だからこそ、昨日に彼方の魔法の話を聞いても、そこまで考えないと思った。

むしろ解けた方が良いのではないかと。

 

 

「願いが解けるとしても、仕方ないって思ったはずだったの」

 

でも、違った。

彼方の話を聞いたその夜のこと。

 

いつも通りの家。

いつも通りの部屋。

 

慣れてた、はずだったのに。

 

 

「広いって感じたの」

 

大丈夫なはずだったのに。

 

 

「寂しいなって、感じたの」

 

どうしてか分からなくて。

どうすれば良いか、分からなくて。

 

漠然とした不安を抱きながらも、何を行うべきか悩んだときに、彼方の言葉を思い出した。

 

――いつでもお待ちしてます

 

だから、今日も彼方のところに向かったのだ。

 

 

杏が語った後、暫く辺りが静寂に包まれる。

 

由夢は、何と言えば良いのかわからず、

彼方は何かを考えるように、目を瞑る。

 

そんな二人の姿をみて、杏は仕方ないだろうなと感じた。

 

 

「ごめん、分からないわよね」

 

聞いて欲しかっただけかもしれない、と。

最後に締めくくる形で言葉を終わらせる杏。

 

そんなとき、彼方は突然口を開く。

 

 

「平気なんてこと、ないですよ」

 

願いが解けても平気だと杏は言った。

しかし、そんな筈はないのだと彼方は、言葉を発した。

 

ずっと覚えていられることなんてない。

彼方自身、今まで辛いことや苦しいことがあったが、その記憶もいつか忘れる。

 

その嫌な記憶を鮮明に思い出せてしまうのは、どんなに辛いことだろうか。

忘れたい記憶があるから、願いが解けても良いという気持ちを抱くことも、あるかもしれない。

 

でも。

それでも。

 

 

「覚えていたいことも、あったはずです」

 

杏は言った。

世の中には、覚えていたいことと忘れたいことの二種類があると。

 

忘れたいことがあった。

だが、忘れたくないこともあるのではないかと。

 

 

「わたしも」

 

わたしも、そう思います、と由夢は言った。

 

由夢は杏とは義之を通じての関わりでしかない。

しかし、義之から杏たちの話を聞いている。

 

芳乃家で語られる義之たちの日常は、毎日が何かないといけないのではないかと思われる程に、慌ただしくも騒がしい。

 

だけど、そんな義之たちの日常が眩しく感じた。

 

 

「兄さんや杏先輩たちが羨ましいって思いました」

 

「由夢さん……」

 

「だって、すごく毎日が楽しそうなんですもん」

 

由夢だって友達がいない訳ではない。

しかし、義之たち程の友情があるかと言われれば、ないと言えてしまう。

 

それぐらい、義之や杏、小恋、茜、渉、杉並の友情は、絆は強いと感じられるのだ。

 

だからこそ、由夢は杏に問う。

 

兄さん達との日常は、忘れたいことなんですか、と。

 

 

「それは……それ、は」

 

言葉に詰まる杏。

ただ、杏の脳裏には、記憶が残り続ける脳裏には、義之たちとの日常が蘇る。

 

 

――ふふっ、義之ったら姉妹だけじゃ飽き足らず、無口美少女まで攻略したいのね

 

――いや、攻略してないから、てか由夢に聞かれたらヤバい

 

義之の呆れた表情が。

 

 

――おい、俺のせっかくのハーレムルートが!

 

――大丈夫よ、渉の人生はノーマルルート以外、攻略できないもの

 

なんでだよー、と涙目で叫ぶ渉の様子が。

 

 

――フハハッ、まさか雪村嬢が生徒会共と協力しているとはな

 

――たまには、ね…観念なさい

 

残念だったな、と高笑いで逃げ去る杉並の姿が。

 

 

そして、

 

 

――ほら、杏、いくよー!

 

――杏ちゃーん、はやくぅー!

 

大切な親友である、小恋と茜の笑顔が。

 

 

 

どれもが鮮明に思い出すことができる、大切な記憶。

宝箱にずっと入れておきたい、大切な想い出。

 

それをはっきりと認識したとき、杏は自身の思いを理解した。

 

 

「そう、そうなのね」

 

わたしは、怖かったんだわ、と。

杏はふたりに伝えた。

 

杏には、忘れたいと思うことがあった。

でも、それ以上に忘れたくない想い出が沢山あったのだ。

 

願いが解ける可能性を聞き、

杏は大切な記憶がなくなることが寂しかったのだ。

 

大切な記憶を忘れてしまったら、大切な絆もなくなる気がして。

 

そう語る杏は、どこか泣きそうで。

それでも、どこか大切なものを見つけられた喜びも感じられた。

 

そんな杏をみて、よかったと、彼方は内心でつぶやく。

 

自分の本当の思いも願いも、気付くのは大半が後になってしまう。

彼方自身が、過去に、前世で経験したことだ。

後に悔やむからこそ、後悔なのだ。

 

だからこそ、今のうちに気付けた杏に、嬉しいと思う以上に眩しく感じられた。

 

そんな杏に、自分が言えることは。

 

 

 

 

 

 

 

「雪村さん、これは私のアドバイスですが―――」

 

杏に、彼方は自分なりの助言を送るのだった。

 

彼女が少しでも後悔しないように。

そう、願いながら。




世の中には覚えていたいこと、忘れたいことの二種類があります。
嫌なことっていうのは、どうしても良い記憶よりは思い出しやすいみたいです。

しかし、D.C.をプレイしている間は、過去の良かったと思える懐かしい記憶を思い出して欲しいです。

ちょっと学校や仕事、私生活で疲れたなって感じたときはD.C.のゲームやアニメを息抜きにでもしてみてください。

また見ていただければ幸いです。

P.S.
「初音島物語」の今後について、活動報告に少し書きました。
興味があれば見ていただけると。

では、失礼しました。

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