だが奴は弾けた 作:宇宙飛行士
◆
現在ライディングデュエルを行い、クロウ・ホーガンと対決している俺。
先行ドローが千本ナイフ(笑)、次にバフォメット、幻獣王ガゼル、そして伏せカードも次々に破壊され、まさに敗北寸前だった。
モニターから分かる客のため息、どこからか聞こえる「悔しいでしょうねぇ」の声。
無言で帰り始める仲間たちの中、今まで千本ナイフをコストとして使い続けていた俺は、独り双子の家で泣いていた。
シンクロで手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できるジャンドデッキ。
それを今のライディングデュエル(実質魔法禁止)で得ることは殆ど不可能と言ってよかった。
「どうすりゃいいんだ……」
俺は悔し涙を流し続けた。
どれくらい経ったろうか、俺ははっと目覚めた。
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たい床の感覚が現実に引き戻した。
「やれやれ、日課のカード手裏剣の練習をしなくちゃな」
俺は苦笑しながら呟いた。
立ち上がって伸びをした時、俺はふと気付いた。
「あれ……?またライディングデュエルの会場にいる……?」
夢から覚めてもクロウ・ホーガンと再戦する俺。相手の戦力は圧倒的だった。
永続的に攻撃力と守備力を半減する『疾風のゲイル』、それを筆頭したふざけたような連続特殊召喚。地鳴りのように過去の環境を荒らした実力で、相手は場を制圧する。
どういうことか分からずに呆然とする俺に、いつも目にするカードからの声が聞こえてきた。
『おい、いつまでも手札コストで使うなよ』
こちらを慈しむような声に、俺は目を疑った。
「さ……千本ナイフ?」
『なんだ、居眠りでもしてたのか?』
「あ、暗黒騎士ガイア?」
『なんだ、いつもカード手裏剣用に使いやがって』
「カース・オブ・ドラゴン……」
俺は半分パニックになりながら自分の手札を確認した。
・千本ナイフ
・暗黒騎士ガイア
・カース・オブ・ドラゴン
・融合解除
・サイレント・マジシャンLV8
暫時、唖然としていた俺だったが、全てを理解した時、もはや俺の心には曇天の空が広がっていた。
「勝てない……
次に引いたカードがブラック・マジシャンだったことを確認し、ライディングデュエルで全力疾走する俺。その目に光る涙は悔しさというより、悲しさからのものだった。
翌日、カードスリーブ投票でサイレント・マジシャンとフレシアの蠱惑魔の商品化が決定し、モリンフェンは静かに息を引き取った。
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「……夢か」
……いや多分、予知夢だコレ。
☆☆☆
ライディング・デュエル……それはスピードの世界で進化したデュエル……
そこに命を懸ける伝説の痣を持つ者たちを、人々は5D'sと呼んだ!!!
☆☆☆
◇
━━俺とバイクの強度、上がってね?
そう思った俺は自分の限界を確かめてみることにした。
早朝から双子たちと一緒に外へ出て、ある場所へと向かう。そうしてその場所に着くと俺は軽く準備体操をし、怪我をしないように万全の態勢で挑む。
いくぜ龍亞君、龍可ちゃん先輩。俺の走力を見るがよい。
その場所、デュエルアカデミアのグラウンドを貸してもらい、現在体力測定をしようとしている俺。
ちょうど今日はアカデミアは休みであり、学校の授業がないので生徒がいない。それを知った俺は、部外者だけど少しグラウンドを貸してもらっていいっすかね?と今回の俺自身の体がデュエリスト化してるかどうかの確認のための練習場として、そこを使わせてもらえないかダメもとで聞いてみたところ、その答えはオッケー。
なんでもハイトマン教頭が気を利かせてくれたらしい。ありがとう先生。これで俺のデュエリストの真価を試すことが出来るぜ。
よし、まずは50メートル。
俺のこの世界に来る前に計ったタイムは6.6秒。つまり、デュエリスト化した今の俺なら、世界新記録も狙える可能性が微粒子レベルで存在する……?
つまるところ、光よりも速く!アクセルシンクロは光をも越える……!
龍亞君にスタートラインで初めの合図を出してもらい、龍可ちゃん先輩にタイムを計ってもらう。
よし、行くぞ━━アクセルシンクロォオオオオ!!!
結果、6.8秒。
……落ちてるじゃないか!?(愕然)
なんでや!なんで前よりも遅くなってるんや!
この「帰宅部にしては足速いけど、運動会の選抜リレーに選ばれるほどじゃないよね」とクラスメイトに『地味に速い人』と言う異名がついた俺が、このような醜態を晒してしまうとは。項垂れる俺。だが、諦めてはいけない。
く、くそう。次は走り幅跳びだ!
まだいける。俺のベストは6.58メートル。チーム満足に至るには、10メートルは軽く越えなくてはならない。
自分を追い込むんだ……そうだ、今俺の後ろにはブラックホールが迫ってきている。…そしてその重力場に捕らわれてしまう直前。あと少しで素粒子レベルまで破壊されて、この世から消滅するんだ…。
そうだ!限界を越える力を!俺自身の無限の力と、可能性を!!
光を超え、未来を切り開くんだ!!
━━行け!!!遊星ーーー!!!!!
「6メートル42センチだね」
━━遊星……。
◇
やっぱり、人生そんなに上手くいかないのである。
最終的にどの身体能力もデュエリスト化していなかった。
つまるところ俺は怪我とかあんまりしなくなっただけなのかも、という結論に落ち着いた。いや、それでも凄いのだけどね。やっぱり俺も男の子なわけで。俺もチーム満足のようなアクロバティックすぎる躍動をしてみたいとか思っていたのである。跳躍力とかアップして飛び込めるようになったり、そんな無断な動きを出来ることが理想である。まあ、恐らく無力なのだけれども。うっす。俺の満足はこれからだ。
まあ身体能力については諦めることにして、デュエリストの嗜み、カード手裏剣は出来るよう努力することにした。
継続は力なり。そんなこんなで日夜努力し、それが実を結んだのか、今では忍者のような構えからでも的の真ん中に千本ナイフ(笑)が刺さるようになった次第である。
最終的な到達点はノーモーションからの千本ナイフ(笑)、幻獣王ガゼル(爆笑)、バフォメット(大爆笑)の三連カード手裏剣である。このカード達は初代遊戯王の中でも最高のインパクト(手札に来たらヤバイという意味で)を持つカードだ。
まあでも正直な話、バフォメットと幻獣王ガゼルが手札にあるときは、決まって次に融合が来るので大して困ることは少なかったり。
やはり問題は千本ナイフ(苦笑)先輩っすよ。彼はいつも手札コストで墓地に逝く運命を背負っているからね。いつになったら正しい用途で使われる日が来るのか……。それは神のみぞ知る。
話を変える。
それにしても、未だに俺が元の世界に戻る兆しが全く見えないのはマズイと思われる。
いや、まあここでとりあえずは頑張っていこうというメンタルは前回の龍可ちゃん先輩のカウンセリングで確保出来ているのだけど、ちょっと不安になっちゃうのはしょうがないと思うんだ。なんていうか、燻ってる感じ。
なんとか打開策を考えなくてはなぁ、と俺は今日も食事の買い出しをしながら考えてしまうわけである。ぐぬぬ、という心持ち。
そういえば、ここには『イリアステル』っていう荒廃した未来から現れて、誤った歴史を修正するために活動する愉快な合体集団がいるんだよな。彼らなら、俺がどうすれば元の世界に帰れるかっていう方法も知ってるかも?しれないんじゃないかも。未来には俺みたいな前例も確認されてるかもしれないかもし。なんて漠然とした推測しか立てられないのが現実だ。困った。もうどうすればいいんだ。ルドガーに聞くしかないな(確信)。
あれ?というか、俺がこの世界の人じゃないって、もしかして彼らにバレてんじゃねぇ?
━━もう何かしらのアクション起こそうとしてるんじゃねぇ?
━━そんな答えを脳内で導いた時と同じくして、俺の前に二台のバイクが行く手を阻むように停止した。
一台は見たことがない黒いボディをした大型のDホイール。搭乗者は執事服のようなものを身に纏った、かなりガタイの良い人物。
そしてもう一台は前後に特徴のある鋭利な角をつけた、全体的に赤色をしたDホイール。俺はこのDホイールに見覚えがあった。最近見たばっかの奴である。確か俺がハンバーグを作ろうとした時の……。
俺が記憶を呼び覚ますより前に、その搭乗者は被っていたヘルメットを脱ぐ。そして俺はその人物の顔を確認してそれが誰であったか思い出した。
彼女はシェリー氏、目力は遊戯王にて最強の人物である。
◇
シェリー氏は開口一番、俺に問いを投げ掛けた。
━━WRGPは知ってる?と。
WRGP。略さずに言うとワールド・ライディングデュエル・グランプリのことである。
合計32チームが参加する3人1組のライディングデュエルの団体戦で、優勝チームには最高の栄誉が与えられる大会だ。
この大会ではDホイールのオートパイロット機能がカットされ、マニュアルモードでのライディングデュエルをしなくてはいけないため、デュエルの実力だけでなくDホイールの運転技術も試される。その他にも相手を周回遅れにするとスピードカウンターが一つ増え、逆に周回遅れにされると一つ減る、のような独自のルールが存在する大会であり、ネオドミノシティでは町全体で盛り上がる大規模なものだ。
その大会の弊害で、俺は龍可ちゃん先輩と龍亞君の家にご厄介になってるわけだが。まあそんな私用は今は関係がない。
俺は自分の脳内でWRGPについて確認してから、一応は知ってるということをシェリー氏に伝える。
それを聞いた上で、彼女は俺に言った。
おい、デュエルしろよ、と。
━━なに言ってだこいつ?と思うよりも先に、目力がより一層強くなってこちらに視線を向けてきたのでブルッてしまった次第でござる。
ヒエッ(畏怖)。なんで睨まれなくてはいけないんや。とりあえず剣呑な視線をこっちに向けるのはやめていただけないか、とこちらの意思を怯えながらシェリー氏に伝える。あ、元から?じゃあしょうがないわ(
続いて、なんでデュエルするの?と理由を尋ねてみる。するとシェリー氏はその答えをこちらに返した。
要点をまとめると。
・WRGPに出る予定だけど一人人数が足りない
・ちょうどまともなデュエルの腕を持つ奴(俺)を発見した
・一応前に勝ったのがマグレじゃないか今度はミゾグチとデュエルして確認させろ
と言うことらしい。
なるほど。つまり『自分に勝ったから実力あると思うし、大会出ねぇ?』ということか。
誘われたことは結構嬉しいのだけど、
━━それ多分無理じゃねぇ?
いや、今ここでミゾグチさん(ガタイの良い人)に勝てないだろうから無理だろうという話しではなくて、現実的な話ね。
だって俺戸籍ないじゃん?エントリー出来ないと思うでござる。
そんなことをシェリー氏に伝えると、彼女は隣にいるミゾグチさん(最強執事)と視線を合わせる。多分シェリー氏は今こう思ってる。『それでもミゾグチなら……ミゾグチならきっと何とかしてくれる……!』と。だってミゾグチさん(推定握力100kg超)、目があってから若干溜め息ついたし。了承したって感じで。
ゴホン、と仕切り直しをするように、ミゾグチさん(とにかく強い)は一つ大きな咳をし、それから彼は俺に声をかける。
━━とりあえずは私に勝ってから話を進めましょう、と。
◇
『ライディングデュエル、アクセラレーション!!』
そしてミゾグチさん(苦労人)と俺のライディングデュエルは始まった。
ちなみに今回のデュエルは俺がいつものように「どうしてなんだ……どうしてこうなっちまうんだ……?(十代感)」のようにデュエルに拒否反応を示すことなく「よっしゃ、それじゃいっちょやってみっか!(悟空感)」と積極的だったのでトントン拍子で話は進んだ。
その理由として、さっきまで元の世界に戻れるかどうかでえんうん唸ってたし、少し気分転換したかったということもあるが、今回のライディングデュエルは突発的に始まったものじゃない、ということが俺が積極的にデュエルを受けた理由である。
そう、今回はいきなり『デュエル開始ィ!』とメカメカした我がDホイールが宣言したわけではない。つまり俺には準備する時間が与えられてたわけだ。そう……魔法類を初めとした、千本ナイフ(笑)などをデッキから抜くための時間が!!
現在の俺のデッキはモンスターと罠カードのみで構成された謎デッキ。これでライディングデュエルで使えないカードを引く恐れは万に一つもない!
オイオイこれじゃ……Meの勝ちじゃないか!と調子に乗りに乗ってる俺。最高にわくわくして来たぜ。
そんな俺の初期手札、
・聖なるバリア・ミラーフォース
・魔法の筒
・翻弄するエルフの剣士
・デーモンの召喚
・冥府の使者ゴーズ
完璧な手札だ……これなら最初から全力でいける(確信)
嘗てない幸運に恵まれ、更に調子に乗る俺。
クックック、蜂の踊りを見たことがあるか?(慢心)虫けらの如きシンクロモンスターよ、我がモンスターの糧となるが良い!(超慢心)
よし!勢いに乗っていくぜ!ドロー!!
次のカードは……?
・千本ナイフ←今引いたカード
……は?(困惑)
・千本ナイフ(悔しいでしょうねぇ)←再度確認
は?(半ギレ)
最初の文は有名なコピペのアレンジです。ベイスターズ日本シリーズ進出おめでとうございます。
作者はスランプなので今回も薄いし文がおかしいです。後日訂正すると思います。
次回予告
A5.君にピッタリのクズカードをね!