だが奴は弾けた   作:宇宙飛行士

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A2.ああ!

 

 

 

 

 

 

「王者の鼓動、いまここに列を成す。天地鳴動の力を見るがいい!シンクロ召喚!

我が魂、レッド・デーモンズ・ドラゴン!!!」

 

 

━━初手レモンかぁ。たまげたなぁ。

 

突然始まったライディングデュエル。俺は何故このような状況に追い込まれてしまったのか理解できなかった。

 

バイクの異常?いやでも、これジャック氏のDホイールを強制的にライディングデュエルにシフトさせてるから、故障とかそういうの超越してねぇ?なにかしらのパワーがこのバイクに働いてねぇ?

 

何故、何故こんなことになってしまったのか。……一体誰が悪かったというのか。

俺のこのイライラ☆は何処にぶつけたらいい!今のこの気持ちは、何処に向かえばいい!答えろ!答えてみろルドガー!俺は一体、どうやってこのデュエルを遂行すればいいんだ!

 

絶対ぇ袋叩きにされるじゃねぇか!キングのデュエルはエンターテイメントでなくてはならないんやろ!?初手レモンはやめろよォ!?ちくじょー!!完全態(ジャンドデッキ)になれさえすればー!!

 

そう心の内で悪態をつきつつ、俺のターン!よし、魔法カード『地割れ』!これで勝つる!!

 

そのまま引いたカードをデュエルディスクに挿☆入。そしたらデュエルディスクから読み込み拒否反応のアラーム音が発☆動。地割れのエフェクトが使えない☆

 

……ファッ!?なんでや!なんで俺のフェイバリットマジックが発動しないんや!?

そう思い何度も挿☆入し直しても結果は同じ。

ファファファッ!?落ち着け、落ち着け。考えるんだ。なんで魔法カードが発動出来ないのか……。

 

 

あ、そうか。これライディングデュエルじゃん。

 

 

━━ライディングデュエル。

それは通常のデュエルとは違いDホイールと呼ばれるバイクに跨がりながら行われる、この世界で流行しているものだ。

このデュエルは『スピードワールド』と呼ばれる専用フィールド魔法のもと行われ発展してきたものであり、現在はそれが進化し『スピードワールド2』となってデュエルにバリエーションが増えている。

このフィールド魔法はライディングデュエルをしていく内に貯まっていくスピードカウンターと呼ばれるものによって、出来ることが増えてくるのだが、まあそれは今回省略しよう。

 

だって今、俺バイク運転するのに必死でそれを使う余裕ないし。

 

……なんでや!!ライディングデュエルが始まると自動操縦(オートパイロット)に移行するのではないのか!?そりゃたしか手動操縦(マニュアルモード)でもいけるっぽいのは聞いてたけど、これ俺にはそもそもの選択肢与えられてねぇじゃねぇか!!

あ、なんかジャック氏後ろ向きに運転してこっちに声かけてるけど、反応できねぇや。そんな余裕ないんだよ!

 

はっはっは、つーかまたこのバイクブレーキ利かないんですけど超ウケる。蟹は蒸す。

 

 

━━話を戻す。それでこのライディングデュエルは、通常のスタンディングデュエルとは異なる部分が多々あるのだ。それが現在俺の通常魔法が使えないことの理由ともなっている。

 

そう、ライディングデュエルではSp(スピードスペル)と名前の初めについた魔法カードしか、使うことは出来ない。

 

 

 

 

……アクセルシンクロォオオオオ!!!!

 

 

俺そんな魔法一枚も入ってねぇよォ!!!

千本ナイフ(笑)すら投げられねぇじゃねぇかァ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ってくるのおそいなあ」

 

「そうね、事故とか起こしてなければいいんだけど」

 

 

━━今日の夕御飯はカレー!!そう言って買い出しに出かけた青年は、未だに龍亞と龍可の家に戻ってはいなかった。

龍亞はソファに座りながら足をぶらぶらと揺らし、その様子から見るからに退屈であるということがわかる。それとは対照的に、龍可は大人しくその隣でちょこんと座り、落ち着いた態度で龍亞と会話を続けていた。

 

「……そういえばあの、『ブラック・マジシャン』なんだけど」

 

龍可はそのまま、龍亞に自分が気になったあのモンスターについて話す。

━━ブラック・マジシャン。あのカードは、異様だった。精霊が理解出来る龍可はあのモンスターの別格さが一目で分かった。

効果の持たないただのノーマルモンスター。だが、あれは違う。なにか決定的な、言葉にするならば、『次元が違う』そんな印象を龍可はもっていた。

 

「確かに━━超カッコ良かったよな!!」

 

龍亞は目をキラキラとさせ、龍可の言葉に声を返す。

実際にそのカードと相対していた龍亞は、あのモンスターの姿を嬉々として語った。やれ迫力があっただの、やれ強かっただの。先程とはうって変わってはしゃいで語る龍亞の様子を龍可は横目に見つつ、龍亞に対してのいつもと同じ呆れた気持ちを感じながら、あのカードについて一人考える。

 

黒衣を纏ったモンスター、ブラック・マジシャン。それを扱うあの青年。

あの青年には謎が多い。初めて自分たちと話していたときの挙動不審な態度。自分のことを、記憶が混乱して、何も分からないと語った姿。だが、夕食を作ってほしいと頼み、それを了承した後の思い詰めたような表情。

 

彼は何か隠していると思った。退学をかけたハイトマン教頭とのデュエルの時は、彼は子供のように喜びを表していた。元気に明るく、それが彼の得意分野だと言っているかのように。

だが、あの時だけは。思い詰めた表情をした時だけは、彼は慣れない悲しみのような、そんなものを背負ってしまったかのように見えた。

 

でも、それだけ。

龍可はそれ以外のことは何を考えても分からなかった。ただ、これから青年について、知っていかなくてはいけないということだけを思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

ライディングデュエルも佳境に達していた。

 

いけ!ぼくのこうげきりょく、しゅびりょくさいこうくらすのまほうつかい!ぶらっく・まじしゃん!いけー!がんばえー!

 

そんな俺の期待に応えるかように、最上級魔術師はジャック氏のエースに黒・魔・導!最強のドラゴンは消失する。

 

やったか!?そんなふうに俺が心の中で呟いたのが悪かったのか。ジャック氏は俺に恐ろしい悪夢を見せる。とどのつまり、

 

 

 

━━バック・トゥ・ザ250円。

 

 

ヒエッ(恐怖)

ようやく倒したと思ったらパワーアップして帰ってきたでござるの巻。

 

お引き取りいただけないか、お引き取りいただけないか!またしても攻撃力3000という純粋な脅威が俺を襲う。

お、オエー!!俺のこのデッキにはミラフォは一枚しか入ってないんや。……この意味が分かるね?

 

グワー!グワー!なんということだ、なんということだ。このままじゃ普通に敗☆北。そしてジャック氏のことだからきっとそのまま、

 

このゴーストヤロウ!→いや人違ry→問答無用!(胸ぐらつかみながらの混じり気の無い右フック)→ぐへぇ!(俺氏気絶)→牛尾さんこの人です(身柄引き渡し)

 

こんな流れになるんじゃないかな(白目)

 

……くそう!どうにかせねばならんぜ、コイツは!でも魔法も使えず、スピードカウンターも満足に扱えず、一体どうすればいいというのか。追い込まれた現実を直視する俺。

 

無理だ!もう……体が……動かないんだ!なに、諦めるな?勝手なことを言わないでくれ!俺は全力で戦った……でも、前のターン、千本ナイフを引いた時悟ったんだ……どないせぇと!

 

もう今度ばかりは無理なんだ(^o^)!もう戦えないんだ(^o^)!

 

そう諦めの気持ちを抱いてしまった俺の視界に、バイクのディスプレイ右端に表示されている、現在時刻が目についた。そして俺はそれに、

 

 

絶句した。

 

 

もう、こんな時間じゃないか。

まだスーパーの中にも入ってない。

そもそも開いてるのかさえ定かではない。というか多分もう閉まってる。

 

お腹を空かせて俺の帰りを待っている子供たち。

ぐぅと鳴るお腹の音。

もう良い子は寝るんだぜ?と言うために確保するべき睡眠時間。

 

━━俺は、ジャックを自身の怒りのままに睨みつける。

そもそもこうなってしまったのは彼のせいではない。多分俺が全面的に悪い。断言してもいい、俺に全ての非はある。迷惑をかけてしまっているの俺であり、その事については申し訳なく思っている。

だが、だがである。

 

━━俺のターン。デッキに手をかけて、次のカードを引く。

 

そう、だがである。

じゃあこの思いは━━何処にぶつけたらいいというのだろう?

何度もいうが、何処へ向ければいいというのだろう。

 

 

つまるところ━━八つ当たるしかねぇ。

 

 

 

 

 

 

━━お前のせいでぇ!今日はレトルトだぁ!!!!

 

 

そう気持ちを込めて、俺は次のカードをディスクに、叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ━━このモンスターは」

 

ジャック・アトラスは唖然としたまま呟いた。

目の前に広がる禍々しいまでの光と闇。その奔流。その中から現れた戦士に、ただ息を飲んだ。

 

 

 

━━カオス・ソルジャー ━開闢の使者━

 

 

その姿に声が震える。

 

「なんだ!?それは!?」

 

本当にソリッドビジョンなのかと疑ってしまう、それほどの圧力、迫力。その言い様のない悪寒の存在が、背後から迫ってくる。戦士でありながら、まるで死へと誘う死神のよう。鋭利な剣と重厚な盾を持ち、それは相手の命を消失せんと動き出す。

 

 

ジャックは見た。そのモンスターの持ち主、その主の表情を。

ヘルメットに隠れた目元、だがその口元を見ることによって、ジャックは相手がどのような感情を浮かべているのか理解できた。

 

 

そいつはただ━━楽しそうに笑っていたのだ。

 

 

 

━━やれ!カオスソルジャー!『開闢双刃斬』!

 

 

それを確認したのを最後に、ジャックの意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

レトルトでゴメンね?と子供たちに謝り倒している現在。少しライディングデュエルをやることになってしまい、遅くなってしまいましたと正直に話す。

 

本当に申し訳ない。だからってレトルトカレーってやっぱだめよね、と龍可ちゃん先輩に言うと「そもそもカレー作るのって時間かかるから正直どうなの?とは思ってた」とマジレス。最近の子供って天才だわ。確かに言われてみればそうだわ。納得してしまったのでした、まる。

 

 

それにしても、強制的にやったとは言え初めてのライディングデュエル。手動操縦だからかもしれないが、難しすぎてヤバかった。教習所の教官の特訓がなければ出来なかったと思う。

 

ありがとう教官!あなたの「え?その技術必要?」と実は密かに思ってた教えはこの世界で活かされてますよ!積み重ねは無駄じゃない、改めてそうおもった。

 

 

そういえばライディングデュエル終わった後、ジャック氏突然停止しちゃってたけど大丈夫かな?無視してコンビニに直行しちゃったから何も声かけなかったけど、まあ大丈夫よね。そもそも勘違いされてたから何されるかわからんし、これで良かったでしょ。うん。

 

 

取り敢えずはこれからどうするか考えなくては。元の世界に戻るにはどうすれば良いのか。このままお世話になるわけにはいかんし、まず明日は再度牛尾さんの元を訪ねよう。

 

そのあとはどうなるのか分からん。一体これから俺はどうなってしまうのか。

あ、そういえば、あのメカメカしたバイクは極力使わないようにしたほうがいいな。ライディングデュエル中ブレーキきかなくなったと思ったら、終われば普通に運転出来るように何か直ってたし。正直、異常がありすぎて恐いしなぁ。

 

……でもその原理でいくと、ライディングデュエルしなければ普通にいけるのか?運転中Dホイールを見かけたら離れるようにすれば、強制的にデュエルにはならないからオールオッケーかも、いや、やっぱだめっすわ。流石に危険すぎるなぁ。

 

 

カレーを食べながら一人思う。

 

ここにいるからにはデュエルも重要になってくるかもだし、カードもどうにかせねば。この運が続くとは思えない。まぁでも、それは自分の状況に余裕が出来てから。迷惑かけないようになってからじゃないとアカンぜ。ここで迷惑をかけないように出来るかなんてことも思ってしまうけれど、せねばならんのです。

 

 

再度気合い入れて行きましょ!!

 

 

 

 




今日のキーカードは……これ!!

『カオス・ソルジャー ━開闢の使者━』

……ガチカードだよ!


『追記』
作者のミスでライディングデュエルではライフポイント2000を払えばSp以外の魔法も使えることが判明しました。なので、
初手後攻レモンパワーフォース!→ぐえ(ライフ2000以下)→よし魔法使うぞ!→使えへん(白目)
という感じで補完しておいてくれるとうれしいです。
書き直すのが一番だとは思うのですけど、先に進めるのが遅くなるといけないのでまた後で手をつけようと思います。うっす。

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