だが奴は弾けた 作:宇宙飛行士
◇
今の俺は答えてみろルドガー状態だ。
だって、よく考えてみたら戸籍もねぇ、お金もねぇ、自分の事情も話せねぇ。なんというトリプルコンボ。一体どうすれば良いといいのです?
何故自分の事情を話せないのか。それは勿論、話したら頭可笑しいやつだと思われるからだ。想像してみてほしい。アクセルシンクロしようとしたら本当にアクセルシンクロ出来る世界に瞬☆間☆移☆動してしまったんだ(^○^)!僕は異世界から来たんだ(^○^)!と言ったとしよう。━━コイツ(中二病)極めちまってんな、と思うやろ!!
だから今セキュリティの牛尾さんに事情聴取されても、俺は「何も覚えてないんだ(^○^)!」、「戸籍とかが登録されてない?……知ったこっちゃないんだ(^○^)!」と言うしかないわけで。マジで俺どうすればいいの?とお先真っ暗なわけなのである。
というか夢だったら早く覚めてほしいのです。元いた家族が恋しいのも勿論だが、ここだと俺本当に何も出来ない超ハードモード。飢え死に待ったなし。ふえ、人ってとっても無力だよぉ。一人で死のダンスでも踊ってろってか?……ダンスは、嫌いだな。これが絶望である。
まぁ取り敢えず、現在どうして牛尾さんのとこにいるのかというと。俺が双子にこのセキュリティの人のとこまで案内してもらってね。こうして自分の状況を実際に(記憶喪失っぽいんやでと嘘をついて)話して「どうにかなりませんかねぇ?」と俺をなんかそういう然るべき機関に放り込んでくれるよう頼んでる訳なんだけども、どうにも厳しいらしい。
なんでもライディングデュエルの頂点を決める大会、『WRGP』があるんだけども、それが近いだかなんだかでDホイーラーと観光客で施設がいっぱいになってるのが今の現状。俺を置いておくとこはないという現実が突きつけられたのである。ぐへぇ、運命マジ逆らえねぇ。オーバーデステニーしてえ。
え、マジ?と俺が戦慄してるなか、ここまで俺を案内してくれた双子が「自分たちのとこにくれば?」と言ってくれる。
君たち……!なんて良い子なんやと僕は一人咽び泣き。子供ってやっぱり純粋で天使みたいに見えるよ。今はこの優しさがありがたい。彼女らを見てると歳をとるにつれて自分が大事なことを失ったことを痛感します。まあその気持ちだけは貰っておくぜ、と俺は涙を拭きつつ彼女らに返答し、牛尾さんに「そこをなんとかなりませんマジ?マジマジ?」と再度頼み込んでみる。
だって、子供に保護されるわけにはいかないでしょう?しかも俺ここじゃあ何も出来ないニート人。パラサイトのごとく住み着く訳にはいかないのである。希望としては何かしら働きつつ住まわせてもらうパターン。厳しいのはわかっているけども、切実にどうにかしてほしいのである。
無理?……どうしても駄目なんすか?そこをなんとか、頼みます!お願いします!なんでもしますから!!と俺は超すがり付く。
ヒェ、やっぱ人生ハードモードだよぉ。もぅまぢむり、デュエルしょ。
散々粘った後、取り敢えず今日はもう遅いんでお引き取りいただいてまた明日こいや、みたいな感じになって。セキュリティそれでいいんすか?みたいなこと言ったら、随分好かれてるみたいだからその好意に甘えとけと放り出される始末。
結果として俺は双子の家に一時的に居させてもらうことになり、なんていうか情けねぇと、現在落ち込んでいるのでした。
これからどうしましょう?
◇
双子の部屋に結局カムバックしてしまった俺は、どうにも申し訳ない気持ち。
部屋に入って開口一番「なんか俺に出来ることありません?」と双子たちに聞いてみる。だって情けなさすぎるからね、俺。何が気持ちだけ貰っておくだよ。結果的に優しさ享受してるじゃないっすか!!ダサいぜお前!激ダサだぜ!!
なのでこの気持ちを誤魔化したいがため、何か俺にしてほしいことを聞いたのだ。
すると双子の男の子の方━━龍亞君が「デュエルしようぜ!」と元気に言ってきた。
違う、そうじゃない(困惑)
そうじゃないんやで、工藤。こう、俺をここでどのようにこきつかっていくかの方針を決めたいんやで。
俺は苦笑しつつ、そう意志を伝えようとする。すると双子の女の子の方━━龍可ちゃんが「いいんじゃない?やってあげれば?」となんのことでもないように言ってくる。
そして続けて「良い気分転換になるんじゃない。お互いに」と俺を見上げて言った。
━━なんつーか、龍可ちゃんから大人力を感じる。精神年齢絶対高い。これから心の中で龍可先輩って呼びます。
龍可先輩の気遣いをありがたく受けとることにし、俺はメカメカしたバイクからデュエルディスクを外し、自身の腕に装☆着!
そしてケースからデッキを取り出して、デュエルディスクに挿☆入!
この俺が今所持している遊戯デッキもどきだが、後になってこれが何なのか、その正体が分かった。━━これ、俺が初めに使ってたデッキである。
俺が今まで作ったことのあるデッキはジャンドデッキしかないと言ったが、それは嘘ではない。
じゃあこの遊戯デッキ(笑)なんなの?となるわけだが、これは俺がデュエルモンスターズを始める際に使っていた、正確に言うとデッキではなく、『寄せ集め』なのだ。
この寄せ集めは「お?主人公が使ってるんなら強いんやろ!俺も使うぜ☆」という、幼少期の俺が詰めに詰め込んで、ただぶちこんだだけの60枚である。団結の力三積みなのは力こそパワーという子供のころの俺が原因だったのだ。
この寄せ集めで今から龍亞君とデュエルするわけだが、断言出来ることがあるのだ。
━━絶対勝てねぇ!!!
カードパワーが違いすぎるのである。龍亞君の使うディフォーマーデッキ、そしてパワーツールドラゴン。
俺は知ってるんだ。正面から挑んだら粉砕されるって。
俺もシンクロしたいよシンクロシンクロ。アクセルシンクロ。力をあわせてデルタアクセルシンクロ。
ハッ!勝手に勇気と力をドッキングしてろや!俺は一人で
絶対こうなるだろうけど。ま、デュエルは勝てなくても、やること自体が楽しいものだからね。
それじゃあ、頑張っていきましょ。
そうして場所を変えて、デュエルの準備はお互いに完了。
いやぁ、それにしても。思ったこと一つだけいいっすか。
━━お前んち、庭広すぎねぇ?
◆
━━来い!ブラック・マジシャン・ガール!
フィールドに一人の少女が現れた。
金色の髪。宝石のように綺麗な瞳をした女の子。空中でくるりと華麗に舞い、相手にウインクするその姿は誰が見ても美しいというほどの美少女であった。
「……すげぇ!こんなモンスター見たことないや!!」
そう、龍亞はそのモンスターを見て声を上げた。
龍亞は知らなかったが、そのモンスターはデュエリストならば知らないものはいないほど有名なカードだった。
数十年前ならば伝説の決闘者の所持したものとしての認識が残っていただろう。時代の流れからその歴史は薄れてしまったが、それでもこのカードはこの時代のある一部の業界の生ける伝説となっている。フィギュア化もされていた。つまり、そういうことである。
龍亞ははしゃいでいたが、彼ら二人のデュエルを見ていた龍可はそのモンスターを見て━━若干引いていた。
別に、ブラック・マジシャン・ガールに非があるわけではない。それを召喚した男性に、その非はあった。
つまるところ━━意気揚々と可愛い、俗に言う萌えモンスターを扱っている青年のことを、もしかしてやべぇ奴なんじゃないかと思いだしたのである。前のハイトマン教頭のデュエルの時も、幼い魔法少女を扱ってハイテンションで勝利していた。龍可の目には見るからに犯罪者予備軍に映る。そんな彼女の心境をいざ知らず、青年は嬉々として語る。
━━フッ、これはまだ序の口だぜ?こっちが本命だ!
ま だ 始 ま り な の か。
龍可は戦慄した。これ以上青年のイメージが下がるのは、マズイ。これから彼は少しの間、自分たちの家に居ることになっているのだ。退学を取り消してくれたことによる中々の好感度から、身の危険を感じるレベルまでの好感度まで落ちるのは精神的にキツい。
だが、そう危惧していた最悪の未来は訪れなかった。
━━魔法発動、賢者の宝石!このカードの効果により、俺はデッキから最上級魔術師を召喚する!来い!
青年はデッキからカードを引き抜き、その名を呼びながらディスクにセットする。
━━ブラック・マジシャン!!
それは黒衣を纏った闇の魔術師。攻撃力、守備力ともに最高クラス。洗練された、だが、異質な雰囲気を身に纏うモンスターだった。
龍可は、その魔術師の独特の雰囲気に息を飲んだ。
これほどのオーラを持ったモンスターは今まで見たことがない。静かに自分を召喚した者に仕える姿、瞳に宿る鋭い光。これは異様であり、完成されていた。
一つの芸術作品を見ているかのよう。その佇まいに、龍可はただただ圧倒的された。
その黒衣の魔術師の主は、胸を張って言う。
━━満足したぜ。
◇
満足した後、パワーツールドラゴンが召喚されて最強の
ヒエッ(恐怖)
勘弁してくれないか、勘弁してくれないか!混じり気のない攻撃力という暴力が俺を襲う。攻撃力3000超えはやめていただけないか!こっちのメインデッキにそれ超す奴入ってないんやぞ!やべぇよ、マジか。
どうするどうすると思いながら、俺は次のカードをドロー。ほ?こんなカード入れてたっけ?まぁいいや。取り敢えず死者蘇生を発動!
そして最強の
━━成し遂げたぜ。
なんとかデュエルに勝利した俺。だがやはりというべきか、この世界でのカードパワーの差を感じました。パワーツールで装備魔法ランダムに手札に加えられると言ってもさ、全部強い装備魔法だったら外れはないと思うの僕。強力なエフェクトだぜイヤッホォ!
そうして現在、俺に何か出来ることはないかと龍可先輩に問いを投げかけてる次第。え?料理?俺は料理出来る系男子だぜ。大丈夫っすよ。了解っす。
ちなみに俺は家事はだいたい出来る系男子でもある。俺の家は下に兄弟が三人いてね。帰りの遅い両親の代わりに、基本面倒見るのは俺の仕事。鍛えられた家事スキルが人の家で役にたつ日がくるとは。
━━そうだ、俺は早く家に帰らなくてはいけない。
そこでハッとした。今までは夢心地でいたけど、現実を振り返ってみたら俺って早く帰らないとヤバくない?
これって俺だけの問題じゃないのだ。お腹を空かせた兄弟やたまった洗濯物、風呂掃除とか。そもそも人が突然消えるって大問題。今まで俺はこの世界でなんとか生き続けることだけ考えてたけど、元の現実に戻るにはどうすればいいのか、何の手がかりも無い。これってマズイんじゃないだろうか。
「……大丈夫?」
俺が一人考え込んでいた姿を見て、龍可ちゃん先輩は心配して声をかけてくれた。
その言葉に大丈夫だぜと焦って返答し、俺は夕食を作るための準備を始める。
いけないいけない。せっかく保護してもらってるのにこの始末では。取り敢えず考えることは後にして、まずは恩を返す。それが今の俺に出来ることである。
よし、気合い入れますか!まずは冷蔵庫の中をみて、今何を作れそうか考えよう。よっころせっと。
━━何も入ってないやん(驚愕)
◇
あれは!!ホイールオブフォーチュン!ホイールオブフォーチュンじゃないか!
あの前見えんの?と問いかけたいフォルム!間違えない。あれはジャック・アトラス氏がのるDホイール!……感動的だぜ。
冷蔵庫の中身が空だと判明した後、俺は買い出しをするために、遊星先輩に直してもらったメカメカしたバイクに乗って道路を走っていた。
すると目の前に無駄に特徴的な無駄に場所をとる無駄にカッコいいDホイールがあるのを確認する。
やべぇテンションあがりんぐ。こんな間近で見ることが出来るなんて、感涙ものである。ちなみにDホイールの遊星号はデュエルアカデミアでもう目にしてたりする。その感想として、超赤ェと思いました、まる。
へぇ、すっげぇなあ、と感心しつつワクワクした心持ちでジャック氏のDホイールをガン見していたのだけど、そんなとき、突然俺のメカメカしたバイクからアラーム音が鳴る。
ほ?なんや?と思って前に何故か設置されてたディスプレイを見ると『DUEL mode Stand by』の文字が。
……ファッ!?
「何!?強制的にライディングデュエルだと!?」
俺の思った事と同じ内容の声が前から聞こえる。
その声を発したのは件のジャック氏で。彼はそれから俺の方を見てさらに一言。
「貴様……まさかゴーストか!」
……ファファファッ!?!?!?
次回予告
また主人公にバイクの異常という矛先の見えない悪意が襲いかかる。
Q.ライディングデュエルって?
A.ああ!
Q.オートパイロットって?
A.ああ!!
Q.スピードスペルって?
A.ああ!!!
次回『A.ああ!』
デュエル、スタンバイ!!