お隣さんは幼馴染? ~俺と果南と時々ダイマリ~   作:グリーンやまこう

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ダ)…………。
作)ど、どうしたんですか、ダイヤ姉さん?
ダ)また、やってくれましたわね。見ましたよ、今回の話。
作)えぇっ!? ど、どうやって今回の原稿を手に入れたんですか? 今回は流石にやり過ぎたと思って直前まで隠していたつもりだったのに……。
ダ)鞠莉さんから受け取りましたわ。
作)あ、あの野郎……ダイヤ姉さんだけにはみせるなと、あれほど言ったのに。
ダ)さて、覚悟はできていますの? あんな破廉恥なシーンを書いたんです。それ相応の罰を受けていただかないと。
作)ひいっ!! ま、待ってください。あれは俺の欲望が現れただけであって、決して他意はなく――。
ダ)余計悪いじゃありませんかっ!! 今日は一日中説教です!!
作)お、お慈悲を……。

※悪気はなかったんです。だけど後悔はしていない!


9話 初めてのデートは砂糖が多め 後編

「祥平、どこまで行くの?」

 

「まぁまぁ、黙って俺についてきなさいな」

 

 首をかしげる果南の手を引きながら、どんどんと小高い丘を登っていく。

 

 先ほどは満腹という事もあって見苦しい姿をお見せしたが、今回は俺が果南を引っ張っていく番だ。お腹も落ち着いているので、気持ち悪くなるなんてこともない。

 唯一の心配事と言えば、目的地までの道のりなのだが、別に難しいルートを通るわけじゃないので特に問題ないだろう。

 それに、道も補正されていてかなり歩きやすく、パンプスを履いている果南でも安心。……あの人、パンプスで全力疾走してたっけ。足は痛くならないのか、すごく心配である。

 ま、まぁ、パンプスの人でも問題なく登れるほど歩きやすかったため、登り始めてから約十分で目的地に辿り着くことができた。

 

「ここって……一体どこ?」

 

「まぁ、普通分からないだろうな。ガイドブックには載らないような場所だし。だけど、一部の人には有名なんだ。……果南、顔をあげてみて」

 

「う、うん。分かった……っ!!」

 

 俺の言う通り顔をあげた果南がハッと息をのむ。そして、

 

「うわぁ……すごく綺麗」

 

 感嘆の声をもらした。期待通りの反応してくれて、俺は満足だよ。

 そんな果南の反応をしっかりと確認した俺も、同じように夜空に視線を向ける。そこにあったのは、

 

「ここって、天体観測の名所なんだよ。丁度開けた場所に会って、夜空を遮るものが何もないから、よく星が見えるんだ」

 

 夜空には無数の星たちがキラキラと輝いていた。

 ここが果南を連れてきたかった場所。天体観測の、隠れた穴場スポットである。

 

 果南とのデートコースを考えていた時、たまたまこの場所の事を書いていた記事に出会い、そのまま採用となった。

 人もほとんどいないし、人工的な建物だって一つも無い。あるとしたら、目の前にある池と、無造作に置かれているベンチだけである。

 こんな状態なので、カップルに比較的人気があるとのこと。

 

「内浦にいる時は家からでもよく見えたけど、東京でもこんな場所があったなんてね。びっくりだよ!」

 

「だろ? 東京って田舎に比べると少しだけ星が見えにくいけど、ここは別みたいだからな。周りも木に囲まれていて、マイナスイオンに溢れてるし」

 

「そうだね。あっ! あの星座、さっきプラネタリウムで見たやつだよね?」

 

「おっ! 確かにそうだな。じゃあ、あれもかな?」

 

 そんな事を話しながら、俺と果南は星を見続ける。取り敢えず、さっきの説明をちゃんと聞いておいて良かった。

 

 ……しかし、俺が果南をここに連れてきたのは、何もただ天体観測をしたかったからではない。

 もちろん、天体観測も重要なことの一つだけど、本当の目的は少し違う。……幼いころにした、彼女との約束を果たすために連れてきたのだ。

 

 星座トークがきれるタイミングを見計らって俺は口を開く。

 

「……なぁ、果南。ちょっとそのままで聞いてほしいんだけど」

 

「どうしたの?」

 

「覚えてる? 俺が引っ越す少し前かな。二人で一緒に淡島神社の頂上まで、星を見に行ったこと」

 

「っ! ……もちろん、覚えてるよ」

 

 俺が引っ越す少し前、果南に誘われて淡島神社の頂上まで星を見に行ったのだ。

 

 もちろん、星を一緒に見たことはあったのだが、淡島神社、しかも頂上まで行って見るというのは初めてだったから、当時の記憶は今でも色濃く残っている。

 

「あの時みた星空や道中での出来事は、今でも記憶の中にちゃんと残ってるよ。だけど、俺には一つ、やり残したことがあるんだ。それは――」

 

「また一緒に天体観測をしようね……私、そんな約束を祥平としたんじゃないのかな?」

 

「ちゃんと覚えてたんだ」

 

「そりゃね。だって、好きな人との約束だもん……忘れるわけないよ」

 

 子供の頃の記憶だし、忘れていても無理ないと思った。だけど果南はこうして覚えてくれている。

 それがたまらなく嬉しかった。

 

「本当はその約束を果たすのは、まだずっと先かなって考えてたんだ。でも、果南がデートをしたいって言ってくれて、この場所を見つけて……約束を果たすなら今日しかないなって思ったんだよ」

 

 心に引っかかっていた彼女との約束。うん、と頷いた時に見せてくれた、彼女の嬉しそうな笑顔。

 ずっと、ずっと気になっていた。

 

「望遠鏡もないし、淡島神社から見た星ほど綺麗じゃないけど、それでも果南と一緒に天体観測をしたかったんだ。約束も果たせず、勝手にどこかへ行っちゃった、せめてもの罪滅ぼしだよ」

 

 そう言って俺が笑うと、果南は少しだけ不満げな表情を浮かべる。

 

「……祥平は、罪滅ぼしの為だけに私をここに連れてきたの?」

 

「えっ!? い、いや、そんなわけじゃ……」

 

 ギクッとした顔を浮かべた俺の腕に、果南が優しく抱き付いた。

 

「か、果南!? あ、あたってる……」

 

「……うるさい。変なことを言った祥平への罰だよ?」

 

 罰というよりは、むしろご褒美なんだけど……。

 この世の物とは思えない感触に、俺が顔を真っ赤にしていると、果南がぽつぽつと話し出した。

 

「……いいんだよ、別に。罪滅ぼしとか、私の為とか色々考えなくても。私はね、祥平とこうしてデートに来れるだけで嬉しい。一緒に星を見られるだけで幸せ。それだけで十分なんだよ」

 

 祥平が自分自身を責めたところで、私は何も嬉しくない……。果南はギュっと抱き付く力を強くする。

 

「だからね、もう勝手にどこかへ行ったことを責めないでほしいの。……いいんだよ。私だって最初は凄く悲しかったけど、冷静になって考えれば祥平が内浦を離れたのは、ある意味当然のことだったから」

 

 あの時の俺には後悔しかなかった。果南達にさよならを言えなかったこと。ずっと一緒に過ごしてきたのに、別れの言葉を言えなかったことは凄く悲しく、悔しかった。

 

 そして、もう一つは母さんを――。

 

「また、暗い顔してる……駄目だよ、そんな顔しちゃ。そんな顔してたらきっと……あの二人も悲しむと思う」

 

「…………うん」

 

 俺の頭の中に二人の面影が浮かんでは、消えていく。

 

 あれから約7年の月日が経過したが、俺は未だ内浦に……二人が眠っている場所に行くことができていない。

 

 どんな顔をして、どんな言葉をかければいいのか。

 

 俺はぐるぐると同じところを回るだけで、どこにも辿り着かない。……いや、辿り着かないと自分に言い聞かせているだけだろう。

 本当は答えなんてすぐそこに、ほんの少し手を伸ばした先に転がっているはずだ。

 

 何もできないのはただ単に、自分が臆病なだけ。

 

 普段は適当なことを言って誤魔化しているけど、多分俺は誰よりも臆病で、傷つくのが嫌いだ。

 それだから俺は、いつまでたっても先に進めない。二人と向き合うことができない。

 

 モヤモヤとした影が俺の視界を覆う。すると果南が腕を離し、俺に向かって手を広げた。

 

「おいで、祥平」

 

「……な、なにしてるんだよ。俺は今そんな気分じゃ――」

 

「私はそんな気分なの。ほらっ、意地張ってないで早くしなさい」

 

 これは何言っても押し切られるだけなので、俺は渋々果南の腕の中へと向かっていく。胸の中に俺が収まったことを確認した果南は、ゆっくりと背中に腕をまわした。

 

「祥平がどうしてそんな顔をしているのか、どうして二人のことに対して、責任を感じているのか……。細かいことは悔しいけど、私には何もわからない。だから、祥平の問題は祥平が解決するしかないと思うの。でもね、これだけは覚えておいてほしいんだ」

 

 彼女はそこで一度言葉を区切る。そして、次に見せた果南の表情は、今まで見たどの表情よりも優しい光を放っていた。

 

 

 

「私はどんなことがあろうと、祥平の味方だよ。……ずっと傍にいるって約束する」

 

 

 

 彼女の優しい言葉が、温かい体温が、俺の凝り固まった思考を少しだけ溶かし、靄を霧散させる。どうして彼女はここまで俺の事を……。

 溢れた温かい雫を、ばれないようそっと拭い、俺は顔をあげた。

 

「……ごめん。なんか俺、考えすぎてたのかもしれない」

 

「うん。祥平は優しいからね。色々考えちゃうのも無理はないよ。だけどね、まずはやっぱり……私とのデートを普通に楽しんでほしいな!」

 

 ニッコリと笑顔を浮かべた果南に、改めて俺は思う。

 

 彼女の事を好きになってよかったと。

 

「さて、話してるばっかりじゃ天体観測を楽しめないから、この話はお終い! ベンチもあるし、あそこに座ってゆっくり星を見ようよ!」

 

 果南の提案に俺は首を縦に振り、ベンチへと歩いていく。

 

「やっぱり座って見たほうが、落ち着いてみられるね」

 

「おいおい、そんなにはしゃいでると後ろに倒れるぞ?」

 

「大丈夫、大丈夫。だって、倒れそうになったら祥平が支えてくれるでしょ?」

 

 どうしてそんなに俺を信頼してるんだよ? まぁ、倒れそうになったら身体を投げ出してでも支えに入るので、果南のいう事はあながち間違っていない。

 そんな果南に注意しながら夜空を見上げ続けていると、一筋の光がキラッと輝きながら夜空を横切っていった。

 一瞬、言葉を失ってしまったが、

 

『な、流れ星だぁ……』

 

 何ともまぬけな声を上げる俺と果南。

 流れ星を見た人の反応としては普通、驚いてはしゃぐのがほとんどだろう。しかし俺たちは口をポカンと開け、信じられないと言った感じで、夜空を見上げ続けていた。

 

「……お願いするの、忘れちゃったな」

 

「……うん。でも、流れ星って案外そんなものじゃないかな? だって、見えた時にはもう消えちゃってるんだもん。だから、見られただけでも幸せだと思わなくちゃ!」

 

 果南の言う通り、流れ星というのは見ることができただけで意味があると思う。

 何時みられるかもわからないし、どこに流れるかもわからない。見られるのは、ほんの一瞬……。

 だからこそ、見られただけで価値がある。そして、貴重なのだ。願い事ができなくても気にする必要なんて全くない。

 

「それに、私の願いの一つはもう叶ってるわけだし……」

 

「……確かに、俺も願いの一つはもう叶ってるな」

 

 お互いの願いがなんであるのかなんて、今さら言う必要もないだろう。考えていることは二人とも同じ。

 俺と果南は、どちらからともなく身体を寄せ合った。触れ合った部分がじんわりと熱を持つ。

 

「……あっ、そうだ! これを渡すのを忘れてたっけ」

 

 俺はごそごそと鞄を漁り、ラッピングの施された紙袋を取り出した。それを果南に手渡す。

 

「なにこれ?」

 

「いいから、取り敢えず開けてみてよ! 俺からのプレゼントだから」

 

 首をかしげながら、果南がラッピングを丁寧に解いていくと、

 

「っ! こ、これは……」

 

 中から出てきたのはネックレスだった。鎖の先には、プラチナに輝く三日月がついている。

 

「さっきのプラネタリウムで見つけて、買ったんだよ。ちょっとシンプルすぎる気がするけど、これくらいのほうが果南に似合うと思ったから」

 

 今は果南の顔を見るのが恥ずかしい。我ながら柄にもないことをしてしまったからな。

 その為、俺はそっぽを向きながら果南に答える。

 

「どうしてこれを私に?」

 

「いや、こっちに来てから果南に何もしてあげられてないと思って。だから買ったんだよ。……まぁ、こんなんで代わりになるか分からないけどな」

 

 引っ越してきてからというもの、俺は果南のお世話になりっぱなしだ。果南は俺にたくさんの事をしてくれるのに、俺は何もしてあげられていない。

 さっきだって俺の事を優しく抱き締め、ずっと傍にいると言ってくれた。

 

 そんな彼女に俺は何時だって甘えている。好きな人に何もできていない……それがたまらなく嫌だった。

 だからこそ、俺はこうしてネックレスをプレゼントしたのである。

 

 しかし、正直なところ代わりとしては全くと言っていいほど不十分だ。こんなもので果南が満足してくれるなんて、到底思えない。……そう思ってたんだけどな。

 

「そんなことないよ!」

 

 果南がネックレスをギュッと握り締めて声を上げる。その瞳は、とても真剣なものだった。

 

「祥平は十分すぎる位、私に色々してくれてるよ。ぬいぐるみだって取ってくれた。私の告白を受け入れてくれて、何度も大好きだって言ってくれた。それに、今日だってデートをしてくれたでしょ? だから、何もしてあげられていないなんて思わないで。祥平は、祥平が思っている以上の事を私にしてくれているから」

 

 少しだけ頬を染めつつも、自分の気持ちを果南が素直に伝えてくれる。嘘偽りのない彼女の気持ちが、俺の心を少しだけ軽くした。

 

「……俺って、そんなに果南の力になれてるのかな?」

 

「もちろんだよ。むしろ、私の方が心配なくらい。祥平に何もできてないんじゃないかって」

 

「いやいや、そんな事あるわけないだろ!? 毎日、朝ご飯と夕ご飯作ってくれてるじゃん!」

 

「あれはなんというか……あんまりしてるって感じじゃないんだよね。一年生の頃からずっとやってるわけだし。今更一人増えたところで、どうってことないよ」

 

 果南はケロッとしているが、四人分のご飯を作ってその後、食器を洗うのが楽なわけない。

 俺も皿洗いくらいは手伝ってるけど、四人分の料理は流石に作れないからな。一度やろうとして挫折したくらいだし……。

 俺、料理の才能が絶望的にありませんでした。

 

「……というか、果南にお礼を言いたいのは、ご飯の事だけじゃないだよ」

 

「まだ何かあるの?」

 

「果南はいつも隣で笑ってくれてる」

 

「……えっ? そ、それだけ!?」

 

「うん。それだけ。でもな……」

 

 俺は果南の頭の上に手を乗せ、優しく撫でる。

 

「それだけでいいんだよ。俺は果南の笑顔が何よりも大好きで、その笑顔が何よりも愛おしいんだから」

 

 笑顔の果南が隣にいてくれるだけで、すごく力になる。言い過ぎかもしれないが、なんだってできる気がするのだ。

 

「だから、果南。これからもその笑顔を、俺だけに見せてくれよな」

 

 自覚はあるのだが今のセリフ、かなりくさい。うーん、デートの最初と言い、俺はくさい言葉しかはけないのだろうか? 

 でも、俺の気持ちを正直に伝えたのだ。だから、恥ずかしくなんて……すいません。無茶苦茶恥ずかしかったです。

 

 自分の言ったセリフに頬を赤くしていると、果南が俺の胸に顔を埋めてきた。

 

「祥平ってば、今のはずるいよ……」

 

「ず、ずるい!? 俺なんか変なこと言った?」

 

「言ったの! ……ばかっ」

 

 耳まで真っ赤にする果南。どうやら俺のくさいセリフ、果南にはクリティカルヒットしたらしい。

 ちなみに果南以外の人に言うと、自分の心に痛恨の一撃が入るので要注意。

 

「……い、今のセリフ、くさくなかった?」

 

 困惑しながら訪ねると、

 

「もちろん、くさいうえに若干寒かったよ。でもね……祥平が本気でそう思ってるって、私分かってるから」

 

「お、おぅ……」

 

 ここで、気のきいたセリフの言える男になりたいと切実に思う。何と情けのないことか……。

 俺は自身の情けなさに、悲しみの涙を流す。

 

「……私だって祥平の笑顔、大好きだもん」

 

 涙を流している俺の耳に、とんでもないセリフが聞こえてきた。確認の為に視線を下げると、悪戯っぽく笑う果南と目が合った。

 

「えへへっ♪」

 

 や、やばい……。死ぬほどドキッとした。心臓が止まったかと思ったぜ。今頃、俺の脈拍はとんでもないことになっているだろう。

 俺が必死にドキドキを押さえていると、果南がネックレスを俺の前に差し出してきた。

 

「……ねぇ、祥平。このネックレス、私に付けてくれない?」

 

 小首をかしげつつ、果南が小さな声でお願いをしてくる。

 

「えっ? もう着けるのか?」

 

「だって、せっかくもらったんだし、早くつけたいの。ほらっ、早く早く!」

 

 なんか少し強引な気がするけど……まぁいいや。俺は果南の首にネックレスをつけるため、後ろに回ろうとする。

 しかし、その動きは果南によって止められてしまった。

 

「正面からつけて……」

 

「で、でも、それだと、顔が近く――」

 

「いいから、早く!!」

 

「ひぃっ!! ご、ごめんなさい」

 

 果南に怒られた俺は急いで正面へ。

 そして、緊張で若干震えながら彼女の首にネックレスをまわし始める。

 

 いつものポニーテールならつけやすかったのだが、今日の果南は髪をおろしているため、少しだけつけにくい。なので、まずは下ろされている髪を少しだけ上げて――。

 

「……ひゃあ!」

 

「どわぁっ!?」

 

 手が首に触れた瞬間、果南が変な声を上げる。そして、バクバクとうるさくなる俺の心臓。

 

「か、果南。お願いだから、変な声をあげないでくれ!」

 

「しょ、祥平が悪いんでしょ? 変なところを触ったから……ひゃん!」

 

「ま、また……俺、変なところなんて触ってないぞ!?」

 

 どうして俺はこんなことをやっているんだ? 

 

 目の前には頬を赤くし、恥ずかしさのあまりキュッと目を瞑る、果南の整った顔がある。そして、時たま上がる甘い嬌声。

 こんな状況でムラムラしないほうがおかしい。あ、頭がボーっと……理性がゴリゴリと削られていく中、ようやく果南の首にネックレスが装着される。

 

「や、やっと終わった……」

 

 いろんな意味でため息をつく。人生で一番疲れた瞬間かもしれない。

 

 果南は首が弱点だと、混浴の時に知ったつもりだったのだが、まさかこれほどとは……。頭の記憶を上方修正しておかなければならない。

 更に視線を少し下に下げると、果南のわがままボディ(胸)が否応にも視界に入って来てしまって……。

 今日の果南は可愛さ倍増、無防備さ三倍増しな気がする。俺はネックレスを付け終わった瞬間、すぐに彼女から視線を外しました。

 

「全く……ため息ついてないでちょっとこっち向いて!」

 

「い、今はいいかな……?」

 

「…………えいっ!」

 

 逡巡していた俺の顔を果南が両手で挟み、そのままグイッと上に持ち上げる。

 いきなり過ぎて首がぐきっとなったが、果南の顔が目の前に来たことに比べれば些細なことだった。

 

 首元では先ほど着けたネックレスが、星明りに照らされて煌めいている。それが今の果南をより可愛く、より美人に輝かせていた。

 

「ど、どど、どうしたんだよ!?」

 

 相変わらず、攻められると弱い俺。視線が右往左往し、言葉にはどもりまくる。責めてるときはいいんだけどな……。

 何度でも言うけど、果南が可愛いのがいけない。

 

「どうしたって……ただこうしたかったの。……だめ?」

 

「っ!? ……だ、ダメじゃないです」

 

「ふふっ♪ 顔真っ赤にしちゃって。祥平ってば可愛いなぁ~」

 

 ニコニコと果南が俺の頬を撫でる。

 

 お姉さんモード全開の果南は久しぶりだが、やっぱりこっちの果南もいいな。祥平はこっちの果南も好きだよ!! ……凜ちゃんファンの方、ごめんなさい。

 

 その後しばらく、なすが儘に撫でられていると、果南が上目遣いで俺を見つめていることに気付く。

 

「えっと……何でしょうか?」

 

「あ、あのね、祥平はネックレスをくれたでしょ? だから、私も祥平に何かあげないと割に合わないなって……」

 

「いやいや、そんな事気にしなくて大丈夫だから。俺があげたくてあげたわけだし」

 

 果南の前世はきっと、天使か女神のどちらかだろう。じゃないと、こんなことは絶対に言えない。普通は貰って終わりだからな。

 

「ううん。それでも私の気が済まないから……だ、だからね。少しだけ目、つむって」

 

 ……これは首にキスされる流れだな。以前、混浴回でも同じ展開になったし、今回もそうだろう。唇じゃないのが残念だけど、首にされるだけでも十分なので問題ない。

 そう思って俺が目を瞑ると、果南の気配がゆっくりと近づいてきた。しかし、

 

(おかしいな。いつまでたっても首に吐息もかからなければ、やわらかい感触も来ない。うーん、どういうことだろう?)

 

 確認したいがために薄目を開ける。するとそこには、信じられない光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

「……目、瞑ってて。そう言ったでしょ?」

 

 

 

 

 

 俺と果南の距離は、もう一センチもない。それだけ近くに、果南の顔がある。いつもとは少し違う、その色っぽい表情。

 

「えっ……えっ!?」

 

「……まぁいいや。あのね祥平。これは今日のお礼。だから、受け取って……」

 

 驚いて目を見開く俺を他所に、果南の瞳が静かに閉じられる。果南が俺の首に腕をまわし、より一層近づいた吐息が俺の唇を震わせる。

 

 

 

 

 

 そして、ゆっくり俺と果南の唇が重なり合った。

 

 

 

 

 

「んぅん……」

 

 果南の甘く、くぐもった声が重なり合った部分から漏れる。

 

 彼女の唇は信じられないくらいにやわらかい。しかし、何よりも嬉しかったのが人生でした初めてのキスが、大好きな女の子。果南だってことだった。

 

 しばらく触れ合うだけのキスをした俺たちは、どちらからともなく唇を離す。

 

「……しちゃった、ね」

 

 唇に人差し指を当て、妖艶に微笑む果南。彼女の唇がキスをしたことにより、少しだけ濡れている。星明りが濡れた部分に反射し、てらてらとした輝きを放っていた。

 

「ちなみに、今のキスは私のファーストキスだから。唇以外にはしちゃったし、されちゃったけど」

 

「……うん。俺も唇通しでしたキスはこれが初めてだよ」

 

「祥平は良かったの? ファーストキスが私で?」

 

「もちろん。むしろ、果南でよかったよ。初めてキスするなら、やっぱり好きな人としたかったから」

 

 俺が笑顔を向けると、果南も同じくニッコリと微笑んだ。

 

「良かった。祥平も私と同じ気持ち。初めてが祥平で、本当に嬉しかったよ。それに、ずっとキスしたいって待ち望んでたから……」

 

「……そういう事、あんまり言わないでくれない?」

 

「可愛くてドキッとしちゃう?」

 

「はぁ……ほんと、察しのいいことで」

 

 ため息をついた後、再び彼女の身体を抱き締める。

 

「果南は自覚が足りないんだよ。何度も言ってるけど、自分の可愛さをちゃんと自覚して」

 

「……ごめん、さっきの言葉。祥平をドキドキさせたくて言ったんだ。だからね、ちゃんと自覚してたんだよ?」

 

「それは尚更困る。心臓がいくらあっても足りないから。俺、マジで心臓発作か何かで死んじゃうから」

 

「うーん、祥平に死なれたらすごく困るなぁ~。でも、嬉しいよ。私の言葉で大好きな人が、それだけドキドキしてくれるんだから」

 

「……今のは自覚あり?」

 

「えっ? 何のこと?」

 

 どうやら無自覚だったらしい。これだからうちのお姫様は……。俺は先ほどよりも抱き締める力を強くする。

 

「わわっ! どうしたの祥平?」

 

「いや、うちのお姫様は本当に可愛いなぁって。ちょっとギュッとしたくなった」

 

「な、何言ってるのよ。もう……」

 

 俺の脇腹をギュッと摘んだ果南が、肩付近に顔を埋めてきた。視線を彼女に向けると、口元がめちゃくちゃ緩んでいて……。

 

 だめだ、うちのお姫様が分かりやすくて可愛すぎる。

 

 星空の下、しばらく果南を抱き締め続けていると、

 

「ね、ねぇ祥平」

 

 不意に果南が顔をあげ、俺の瞳をじっと覗き込んできた。その瞳はウルウルと潤んでいる。

 まるで何かを『おねがぁい!』されそうな瞳だ。あ、あれっ? 今、脳をも蕩けさせるような甘い声が……。

 

「どうかしたの?」

 

「い、いや、何でもない。それより、どうしたんだよ?」

 

「え、えっと、祥平が嫌だったらいいんだけど。……あ、あのね!」

 

 こんなに意気込んで果南は一体何を『おねがぁい!』するつもりなんだろう? こ、今度は誰かの幻影が……。き、気のせいだろうから、忘れよう。

 

 そして、果南が口にしたのは予想をはるかに超える言葉だった。

 

「も、もう一回、キス……してくれない?」

 

「はいはい、もう一回キスね……って、もう一回キスゥ!?」

 

「ちょっと、大きな声で繰り返さないでよ!」

 

 驚く俺に、果南が真っ赤な顔でツッコミを入れる。しかし、これが驚かずにいられるだろうか? 自信を持って言ってやるが、無理!

 

「いやいや、流石に驚くって! ……まさか、果南の方からおねだりされるとは思ってなかったし」

 

 してきたのは果南だから、もう満足したと勝手に思っていた。しかし、うちのお姫様はわりと欲求不満だったらしい。

 そんな俺の言葉に、果南がわたわたと慌て始める。

 

「ち、違うの! いや、なにも違わないけど……。べ、別に、さっきのキスが気持ちよくて、もう一回したい……なんて、全然思ってないから!」

 

 完全に墓穴を掘った果南。目をぐるぐるさせている果南が可愛い。というか、やっぱり果南はエッチだ! 

 失礼なことを考えつつ、俺は果南の頬に手を添える。さっきから責められっぱなしだったから、ここらで形勢逆転といきますか! 

 

 しょ、正直、俺も一回だけじゃ全然満足できなかったし……。

 

「……そんなにキスしたいの? ほんと、果南はエッチだなぁ~」

 

「なぁっ!? ち、違うもん!! べ、別にキスなんて……本当はしたくないもん!! 祥平が物欲しそうな目で見てたから仕方なく……」

 

 本当はしたいのに、それを必死に隠してそっぽを向く果南が可愛い。うーん、さっきから果南のことを可愛い!! としか思っていないな。

 まぁ果南が可愛いってのは事実だし、しょうがないよね?

 

「それじゃあ、別にキスしなくていいよな。俺はさっきのキスで十分だし」

 

「えっ……」

 

 あからさまに悲しげな顔しないで! 我を忘れて滅茶苦茶にしちゃいそうだから。

 

「よしっ、もうすっかり遅くなっちゃったし、そろそろ帰ろうか」

 

「ほ、本当に?」

 

「うん、本当本当。遅くなるとダイヤ姉さんたちも心配するだろうし」

 

 そう言って俺はベンチから立ち上がる。すると、

 

「ま、待ってよ、祥平!」

 

 俺の背中に果南が抱き付いてくる。押し付けられる果南の柔らかな胸。そして彼女は、凄まじいことを口にした。

 

 

 

 

 

「したいの……祥平ともっとキスしたいの!」

 

 

 

 

 

 あっ、この言葉はまずい。

 気付くと俺は果南の方に向きなおり、我を忘れてその唇に吸い付いていた。

 

「んぅっ!?」

 

 完全に理性の糸が焼き切れている。考えられるのは、目の前の果南を愛したい。ただそれだけ。

 俺は同意を得ることなく、彼女の口内に舌を侵入させる。

 

「っ!? ……んちゅ……ぬちゅ……んぁん」

 

 果南は俺の行為に一瞬、ビクッと反応するがすぐに受け入れてくれた。

 果南の咥内で二人の舌がねっとりと絡まり合い、そこから卑猥な音と甘い声が漏れる。

 

「んぁ……んちゅ……んむぅ……ぬちゃ」

 

 トロンとした瞳で一生懸命舌を動かす果南。その姿は普段の清楚で、しっかりしたお姉さんというイメージからはかけ離れていて……。

 否応なしに俺の興奮が高まっていく。

 

「かなん……」

 

 ここが外であるという事も忘れて、夢中になって果南の咥内を蹂躙するように舌を動かす。

 もうやめよう……そう思っても、舌が自分の意志では止まってくれない。

 

「れろ……んんっ……ちゅぁ」

 

 果南も同じなのか、舌の動きが落ち着くどころかどんどんと激しく、そして淫猥に動いていた。

 

 お互いがお互いの事だけを欲して舌を動かす。

 

「んんっ……ぷはっ」

 

「はぁ……はぁ……」

 

 途中で苦しくなり、俺と果南の唇が一度離れる。束の間の休憩。

 

 唇を離した瞬間、混ざりあった唾液が俺たちの間に銀色の橋をかける。

 荒い息を吐いて俺を見つめる果南の頬は紅潮し、目もどこか虚ろだ。俺は果南の肩を掴んで軽く揺する。

 

「果南? 大丈夫か?」

 

「……しょうへい」

 

 そういう俺も、こんなキスなんてしたことがなかったので、かなり疲れていた。理性も戻ってきたし、これでお終いにしよう。

 

「…………すきぃ」

 

 甘えるような声で口を開いた果南が、俺に笑顔を向けてきた。

 再び失われる俺の理性。あぁ、畜生……。

 

「……俺もだよ」

 

 これは全部、果南が悪い。自分自身にそう言い聞かせた俺は、もう一度その唇に貪り付く。

 

 その後、俺たちは時間を忘れるほど、甘い甘いキスを繰り返したのだった。

 

 

○ ● ○

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 我を忘れてキスをしあった俺たちは今現在、来た道を引き返している最中だ。しかしここまでの道のり、会話はゼロである。

 理由はもちろん、先ほどしたキスを思い返してお互い、恥ずかしがっているから。

 

 ちなみに俺は、どうして自分を抑えきれなかったんだという罪悪感に押しつぶされそうになっている。

 せっかく、果南を大事にしようと思っていたのに……。あんな無理やり、しかも襲うようにして、ディープなキスをしてしまった。

 果南が受け入れてくれたからよかったものの、もし状況が違っていたらどうなっていただろう? 考えるだけでも恐ろしい。お、俺はなんてことを……。

 

「ちょっと、祥平! な、何でもいいから話してよ!」

 

「はひぇっ!?」

 

 いきなり声をかけられた俺は、変な声をあげてしまう。でも果南の言う通り、今のままでは非常に気まずいので、何かしゃべらなければ……。

 

 取り敢えずとばかりに口を開く。

 

「え、えっと……今夜は月が綺麗ですね?」

 

「プロポーズかっ!!」

 

 夜空に月が見えたから……という適当な理由で発言したところ、果南に全力でツッコまれました。

 確かに月が綺麗というのは、有名なプロポーズの言葉である。お、俺はまた変なことを……。

 

「何でもいいって言っても、適当なことを話せとは言ってないよ!」

 

「ご、ごご、ごめん! えっと、じゃあ……そろそろ俺と同じ苗字にならない?」

 

「結局プロポーズの言葉じゃん!!」

 

 /(^o^)\ナンテコッタイ。常日頃から考えていることを素直に話してしまった。……普段からプロポーズの事ばかり考えるとか、どんだけ変態なんだよ俺。

 

「ふ、普通の事でいいの。普通の事で!!」

 

「ダメだ……普通が分からない」

 

 頭を抱える俺。

 ふ、普通ってどうやったらいいんだ?「頑張ります!」とか言ってればいいのか? 二宮祥平、頑張ります!

 

「って、ちがーう!!」

 

 頭の中にとあるアイドルが浮かんできたが、それを急いでかき消す。じゃないと、俺が3〇6プロに消されてしまうからな。

 そもそも、いつも通り話せばいいのに、どうして俺はこんなに混乱しているんだろう? 再び頭を抱えた俺だったが、

 

「……ふっ、ふふっ……あははっ! しょ、祥平ってば本当にどうしたの? はー、おかしい!!」

 

 果南がお腹を抱えて笑い出した。どうやら意味不明な俺の言動やら行動が、よっぽどおかしかったらしい。

 最初こそ恥ずかしかったのだが、しばらくしているうちに俺もつられて笑いだしていた。

 そして、ひとしきり笑いあった俺たちは、笑顔でお互いを見つめ合う。

 

「どう? おかしいのは直った?」

 

「果南のお蔭ですっかりな。ほんと、ありがとう」

 

 もう二人の間に先ほどの気まずさはない。ほんと、どうしてさっきまでこの感じを忘れていたのか。やっぱり人間は冷静が一番だよ。

 そのまま俺たちは、帰り道を改めて歩き始める。しっかりと手を繋いで。

 

「ねぇ祥平。電車じゃなくてバスで帰らない?」

 

 ある程度下ったところで、果南がそんな提案をしてくる。アパートまでは、電車でもバスでも帰れるので問題はない。ただし、バスだと電車よりも時間がかかるのだ。

 

 理由は本数自体も少ないし、信号もあったりするからである。あと料金が高い。そんな事で、普段は使わないのだが……。

 

「別にいいけど、どうしたんだ急に?」

 

 首をかしげる俺に、果南は頬を少しだけ染める。

 

「電車だと人が多くて……祥平に甘えられないから」

 

「……勘弁してくれ」

 

 まさか、そんな理由だとは思わなかった。不意打ちすぎて顔がすぐに熱くなる。バスに乗りたい理由が可愛すぎだろ!?

 

 そして、歩くこと数分。俺と果南はバス停に到着し、やって来たバスに乗り込む。最寄りのバス停までは、およそ一時間ほどだ。

 都市部から少し遠ざかったところに向かうせいか、バス内に俺たち以外の乗客はいない。

 

 その為、席に座るや否や、俺の肩に頭を乗せる果南。そして、しっかりと指を絡ませながら手を握ってきた。

 

「今日はありがとね。すごく楽しかった。多分、一生の思い出になった思うよ」

 

「うん、俺もだ。ありがとう果南」

 

 握る力を少しだけ強くすると、果南もそれに合わせて握る力を強くする。果南のやわらかい手の感触が心地いい。

 しばらくにぎにぎしていると、果南が眠そうに目を瞬かせていることに気付く。

 

「果南。眠たかったら寝てもいいぞ?」

 

「ふわぁ……うん、ごめん祥平。少し眠たいから、寝てもいい?」

 

「もちろん。着いたら起こしてやるよ」

 

 そう言って果南の頭を撫でると、甘えるようにすり寄ってきた。

 

「ふふっ♪ それじゃあ、家に帰るまでよろしくね」

 

「おう! 任せとけ!」

 

「あとね、家に帰ったらなんだけど……」

 

 果南がニッコリと微笑む。あぁ、何となく彼女に言いたいことが分かった気がした。彼女の言葉を待っていると、

 

「帰ったら……ダイヤと鞠莉にお説教をしなきゃね」

 

「……果南の言う通りだよ。のこのことついてきたあの二人には、しっかり言ってやらないとな」

 

 もう一度、頭を撫でると果南は安心したように目を閉じる。すると、すぐに寝息が聞こえてきた。

 

 天使のような寝顔で眠る果南に微笑みを向けた後、俺は窓の外へと視線を移す。

 

(ダイヤ姉さんと、鞠莉。どうなるんだろう?)

 

 この後のことを考え、少しにやける俺と隣で眠る果南。そんな二人を乗せたバスは、ゆっくりと目的地までの道のりを走っていくのだった。

 

 

○ ● ○

 

 

 ちなみにアパートに帰ってきた後、果南の部屋にて。

 

「鞠莉~、それにダイヤ~。どうして部屋に呼び出されたか。分かってるよね?」

 

 ゴゴゴゴッという効果音が聞こえてきそうなほど、果南が怒っている。もちろん怒られているのは鞠莉とダイヤ姉さん。俺はその様子を見学していた。

 

「ち、違うのよ果南! あ、あれは何というか、魔がさしたというか……」

 

「か、果南さんが心配だったんです! 信じてください!! 別に果南さんの顔が真っ赤になったところなんて、一度も見ていないですから!」

 

「ちょっとダイヤ!! それは言っちゃ駄目ってあれほど……あっ!」

 

 二人して口を滑らす。何してんだこの二人は……。

 

「やっぱり見てたんだね。ふふふ……これは明日からお仕置きが必要かな?」

 

 笑ってるけど、笑ってない。果南は凄く器用である。

 

「お、お慈悲を! 果南さん、私たちにどうかお慈悲を!!」「シャイニー!!」

 

 鞠莉はバカにしてるのかな? なんにせよ、あの二人にお慈悲はない気がする。

 

「慈悲なんてあるわけないでしょ? 私たちのデートを無断で見ていた二人には、これから私のトレーニングに毎日付き合ってもらいます」

 

『っ!?』

 

 二人の絶望的な表情。ある意味、死刑宣告だからな。果南のトレーニングについていくって。

 さて、デートの疲れもあるし、俺はそろそろ眠らせてもらいますか。

 

「んじゃ、果南。俺は寝るね。今日はありがとう」

 

「うん、こちらこそ。それじゃあ、おやすみ」

 

「ま、待って祥平! 私たちを助けてから……」「祥平、お願いですから、私たちをお助け下さい!」

 

「すいません。めんどくさそうなんで、却下です。改めて、おやすみなさい」

 

『しょ、しょうへーい!!』

 

 そして次の日。朝起きて、果南の部屋に向かおうと外に出ると、二人の屍が転がっていた。

 なので俺は、しっかり掃除しておきました。




 デート回の文字数なんと23000字越え。そして、序盤のシリアスを吹っ飛ばす後半の展開。やり過ぎた気がしないでもないが、俺は後悔していない!!

 さて、これでも付き合っていないこの二人ですが、そろそろ本格的にくっつけないとやばそうです。その為には祥平の過去をちゃんとまとめないと……。

 しかし、次回は多分普段通りの日常回になるのでよろしくお願いします。

 最後に、お気に入り等ありがとうございます。これからも頑張ります!
 それじゃあ、また次回!!

 

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