お隣さんは幼馴染? ~俺と果南と時々ダイマリ~   作:グリーンやまこう

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ダ)そう言えば、あなたってスクフェスはやっているんです?
作)やってないですよ。
ダ)な、何ですって……まさか、スクフェスもやっていないのにラブライバーを名乗るつもりなのですか?
作)い、いや、俺も一回やってみたんですよ? やってみたら……あまりの才能のなさ、その手が止まってしまったんです。
ダ)そんなのやる気と根性で乗り越えるに決まっているでしょ? 私も初めは下手くそでしたが、今ではかなりの曲をフルコンボできるまでに成長しましたから!
作)だ、ダイヤ姉さん、ぱないっす……。
ダ)それに、エリーチカのURが来ている時は、毎回5万円ほど仕送りをつぎ込んでいますわ。
作)……その月はどうやって生活しているんです? 確かバイトはしていませんよね?
ダ)エリーチカの為なら、身を削る覚悟はできています。だから、何の問題もありません。
作)…………。

※ダイヤ姉さんはスクフェスガチ勢。そして、ラブライバーの鏡。


7話 果南だって嫉妬する

「……というわけで、大学の食堂まで来たわけだけど」

 

「いやいや、どういうわけだよ!?」

 

 隣で順平がギャーギャーとうるさい。まぁ、今のこいつの気持ちも分からなくないけどな。

 なんせ目の前には、学年一の美少女と言われている佐藤梨沙(さとうりさ)がいるのだから。

 

「祥ちゃん!! 私の前にまずは祥ちゃんだよ! どうしてこんなところにいるの!? 祥ちゃん、卒業の時『俺、東京さいくべ。そこで頑張るべ』って言ってたじゃない!!」

 

 目の前の梨沙がプンスカ怒っている。順平と同様にかなりうるさい。というか、俺はそこまで田舎全開で言葉を発していないぞ。こっちに来て使うのはぜいぜい、「だら」とか「だもんで」くらいだ。

 確かに、俺が住んでいた場所は田舎なのかもしれないが、そこまで田舎ではない。

 そもそも、今の時代にそんな方言使ってるやつなんて、まず見たことがない。使ってるとしたら、多分それはキャラづくりだと思う。

 

「いや、俺は何も間違ったことは言ってないぞ。だって、俺はこうして東京にいる。そして、頑張っている。何も間違っていない」

 

「だったら、最初から大学に行くって言ってよ! てっきり東京に出稼ぎに行くかと思ったんだからね?」

 

 出稼ぎに行くって、何年前の話だよ? 相変わらず梨沙はあんぽんたんだ。

 

 少なくとも浜松には、ある程度就職先がある。なので、東京に行ってまで職を探す必要は全くない。

 いやはや、静岡も捨てたもんじゃないなぁ。皆さん是非静岡、特に浜松へ!

 

「えっと、それで梨沙さん?」

 

 順平が緊張しながら梨沙に話しかける。すると、

 

「何ですか? 私に気安く話しかけないで下さい。調子に乗っているんですか? 馴れ馴れしいです。というか、死んでください」

 

「し、辛辣っ!?」

 

 順平が見事ハートブレイクしたところで、俺とメグの関係について説明しておこう。

 

 メグは俺の父親の妹、つまり俺のおばさんにあたる人の娘さん。言い換えれば、俺の従妹にあたる。

 元々おばさんたちは浜松に住んでおり、そこまで関りがなかった。しかし、とある事情で内浦を離れることになった、俺と父親を引き取ってくれたことにより、関りができたというわけである。

 最初は適当にアパートでも借りればいいと、父親は思っていたらしいが、それをおばさんに話したところまさかの猛反対。

 『祥ちゃんはまだ小学生なんだから、一人寂しい思いをさせちゃ駄目。だったら、うちにきなさい!』、と言われたのでそのまま居候をすることになった。

 

 優しいおばさんで本当に良かったのだが、それ以降父親はおばさんに頭が上がらなくなってしまっている。兄妹関係が見事逆転していた。

 まぁ、父親は失業したわけじゃないし、収入は十分にあった為、みんな温かく迎えてくれたんだけどね。

 

 そして、その居候先で出会ったのが梨沙というわけである。

 

「おい、梨沙。落ち着けって。そんな口きいてると、また友達ができないぞ?」

 

「……うぅ。やっぱり初対面の人は怖いよぉ……」

 

 涙目で俺を見上げる梨沙。

 

 うーん、こうしている姿はたまらなく可愛いんだけどなぁ。いかんせん、性格に難があり過ぎて……。

 

「あ、あの、梨沙さん? 俺は大丈夫ですから、それよりも――」

 

「だから、口を開かないでくれませんか? あなたが息をするたびに、空気が無駄に消費されるんです。だから、絶対に呼吸をしないで下さい」

 

「まさかの死刑宣告!?」

 

 再び撃沈する順平。そして、同じく項垂れる梨沙。これは、そろそろ説明しないとまずいだろうな。

 

 誤解を解くために言っておくと、別に梨沙は男嫌いというわけではない。それではなぜ、あんな風になるのか?

 

「ごめんな順平。梨沙も悪気があって、こんな暴言を吐いてるわけじゃないんだ。こいつは何を隠そう、極度の人見知りなんだよ」

 

「はっ? 人見知り?」

 

 順平が意味不明、というように首をかしげる。やっぱり男がやると、その仕草は気持ち悪いだけだ。

 そんな事はいいとして、目の前でしょぼんとしている梨沙の頭をポンポンとなでる。

 

「そう、人見知り。知らない人に話しかけられると、緊張そしてストレスがマックスになって、暴言をところかまわず吐き出すんだ。その相手が男子だろうと、女子だろうと関係ない」

 

 恐らく、話しかけてきた男子が全員撃沈しているのも、この難儀な性格のせいだろう。

 そして、女子の友達ができたとも聞かないので、きっと同じように暴言を吐きまくっているはずだ。何と可哀想に……。

 

 梨沙は基本的に初対面の人間には、恐ろしいほどの暴言を吐きまくるからな。オーラを纏ってるというのも、『話しかけるなオーラ』だろう。たまにいるよねそういう人。

 まぁ今はその性格が好転して、男子にはいい意味に捉えられてるけど……。

 

「なるほど……それなら今までの暴言全部に納得がいったぜ」

 

「どうして許可もなしに話しているんですか? 先ほど、呼吸をするなと言いましたよね?」

 

「今度は発言権まで取り上げられましたよ!?」

 

 暴言を浴びせられながらも、順平はどこか嬉しそうだ。こいつはMの素質が十分にある。案外、梨沙の相手にはこういうやつのほうが向いているかもしれない。

 

「だけど、お前と梨沙さんは普通に話してるよな? どうしてなんだ?」

 

 発言権を取り上げられても、なんのその。懸命に話を振る順平。その健気さには涙が出そうだ。

 

「そりゃ、お前と俺じゃあ過ごしてきた時間が違うんだよ。なんせ6年以上、一緒に住んでたんだからな」

 

 一緒の家に住んでいて、尚且つ何も話さないのは、流石に問題があり過ぎる。その為、俺は必死に……というわけでもないけど、普通に梨沙を攻略していたのだ。

 

 ただし、俺が何の知識もなく梨沙を攻略していた……というわけではない。そんな状態ならば、かなりの時間を要していただろう。

 

「俺は、人見知りの扱いには長けてるんだよ。ダイヤ姉さんの妹。ものすごく人見知りだからな」

 

「えっ!? ルビィさんって人見知りだったの!?」

 

 Aqoursの大ファンである順平が大きな声を上げ、梨沙の肩がビクッと震える。順平さんや、あんまり大きな声を出さないでね。

 この人、人見知りプラス臆病だから。……ほんと、ルビィちゃんそっくり。

 

「スクールアイドル時代がどうだったのかは知らないけど、俺が内浦から離れるまでの間で見たルビィちゃんは、恐ろしいほどの人見知りだったぞ」

 

 初めて会った時は、ダイヤ姉さんの後ろをちょこちょこ歩いていたため、気軽に声をかけたら『ぴぎゃぁああああ!!』。

 お人形で遊んでいる時に後ろから覗き込んだら『ぴぎゃああああああ!!』。

 挙句の果てには目が合っただけで『ぴぎゃああああああ!!』。子供ながら心が折れそうになったことをよく覚えている。

 

 しかし、その時の俺は諦める様なことをしなかった。今も少しだけ残っている修造先生に教わった、諦めない心が発動し、やけになってルビィちゃん攻略に走ったのである。

 

 ダイヤ姉さんの家に行くたびに、話しかけ、お菓子をあげる。しかし、時には一切話しかけずに彼女の不安を誘う。

 不安げな瞳で、ルビィちゃんが柱の陰から俺と見てきた時も我慢して、彼女が涙目になった瞬間、お菓子を手にして笑顔を浮かべる。

 それを何回も繰り返すうちに、何とか攻略に成功したというわけだ。

 

 ルビィちゃんのほうから話しかけてくれた時には、我を忘れて抱き締めたことを覚えている。その後、ダイヤ姉さんと、なぜか果南にぼこぼこにされました。しかし、ルビィちゃんは心配してくれたので痛みは半減。

 

 そんな経験があるため、梨沙の攻略もお手の物であったのだ。

 

「メグもルビィちゃんと同じくらい人見知りだったからなぁ。いくら攻略方法を知ってるとはいえ、流石に骨が折れたよ」

 

「てめぇ!! ルビィちゃんとか気軽にちゃん付けしてんじゃねぇ!! ミンチにされてぇのか?」

 

 やだ、このスクールアイドルオタク。キモさに拍車がかかっている。目も当てられない。というか、さっきもルビィちゃんって言ってるんだけど……。

 

 ちなみに梨沙攻略も、ルビィちゃんの時と大して変わらなかった。

 

 まずはうるさいくらいに話しかけ、その後全く話しかけなくする。ここで注目したい点は、人見知りというのは得てして、寂しがり屋だということだ。

 この点をきちんと理解すると、話しかけないだけで相手は「どうして今日は話しかけてこないんだろう?」と不安になり、俺の様子を気にするようになる。

 

 だけど、そこであえて話しかける様な事はせず、ギリギリまで粘る。そして、嫌われない程度に無視した後、優しく話しかける。

 これで攻略完了だ。

 

 この研究結果は、近々本にして出版しようかと思っている。こんな経緯があって、無事梨沙と仲良くなれたというわけだ。

 家の人も、学校の友達もみんなびっくりしていた。「あ、あの梨沙が誰かと話している!?」って感じに。梨沙は家で泣いていた。俺は肩を叩いて慰めていた。

 

 ちなみに、今も昔も彼女の親しい友人は俺しかいません。将来が非常に心配である。まぁ、もしもの時は鞠莉かダイヤ姉さんあたりに預ければ問題なし。

 

「そんなわけで、こいつも悪気があってこんな暴言を吐いているわけじゃないんだ。何というか、癖で出ちゃうというか……とにかく、暴言を吐かれても許してやってくれ」

 

「いやいや、こんな美少女に暴言を吐かれるとかむしろご褒美だから、これからもどんどん俺を蔑んで下さい、梨沙さん!」

 

 こいつには金輪際、梨沙を近づかせないようにしよう。精神鑑定が必要そうな言葉を吐いた順平を、白い目で見つめる。

 

「う、うわぁ……」

 

 ほらみろ。梨沙も暴言を吐くどころか、本気で引いてるじゃないか! 

 

 こいつが暴言を吐かないときは、よっぽど相手の事を気に入ったか、全力で嫌いになったかのどちらかである。今回は言うまでもなく後者。

 つまり、梨沙はこの短時間で、順平の事を全力で嫌いになりました。

 

「順平の気持ち悪さは出会った当時からだから、あまり気にしないでくれ。むしろこれが通常運転だから」

 

「……祥ちゃん、よくこんな頭のおかしい人と友達やってるよね?」

 

「……根はいいやつなんだ。根はいいやつなんだけど……とにかく、可哀想になったとき以外はいいやつだから。信じてくれ」

 

 死んだ魚のような目をして、俺は遠くを見つめる。こういう所さえなければこいつもまともな奴だっただろうに……。

 パワプロでいうパワーヒッターとアベレージヒッターがついてるのに、パワーG、ミートGみたいな感じだ。もしくは基本能力は文句ないけど、いかんせん赤特能が多い感じ。

 どっちにしろ欠陥品である。

 

「というか、どうして同じ大学に来てるって事知らなかったんだ? 二人とも、大学に入るまでは同じ家に住んでたんだろ?」

 

 こいつの疑問も至極当然だ。同じ家に住んでいて、進路を知らないってのもおかしな話である。

 それでは、どうしてこんなことになってしまったのか?

 

「そりゃ、一緒に住んでたけど俺、梨沙に『東京に行く!』としか言ってないからなぁ~」

 

「確かにそうだったね。私も私で、「そうなんだ~。あっ、私も東京に行くんだ~」としか言ってないし」

 

「お前ら……何というか、適当だよな」

 

 そうはいっても、事実なのだから仕方がない。俺は彼女の言葉を受け流し、彼女は俺が東京で仕事をすると勘違いしていた。

 お互いの進路についてはその時しか話していないし、おばさんに聞いたりもしていないので、ここまで知らずに来てしまったというわけである。

 まぁ別に知らなかったから関係が崩れる、というわけでもない。実際にこうして俺と梨沙は、再開して話をしているわけだしな。気にしたら負けである。

 

 半眼で俺を見つめる順平を無視して、俺は梨沙に声をかけた。

 

「ま、まぁ、取り敢えず梨沙。今日の夜は予定空いてるよな? どうせ、友達はいないわけだし」

 

「友達いないって、そんな決めつけなくなっていいでしょ!? ……確かにいないんだけど」

 

 ズーンと肩を落とし、死んだ瞳で虚空を見つめる梨沙。おいおい、話はここで終わりじゃないぞ?

 

「よしっ! それじゃあ、久しぶりの再会を祝ってこれからどこか食べに行こうぜ! 今日は俺が奢ってやるからよ。お前の好きな焼肉でも大丈夫だけど、どうする?」

 

 俺がニヤリと笑うと、メグが目をキラキラと輝かせる。

 

「いくっ! 私焼き肉大好きだから!!」

 

「よしよし。分かったから、そんな身を乗り出すなって」

 

 従妹というフィルターを抜きにしてもメグは可愛いと思う。目鼻立ちはくっきりしてるし、メイクをしていなくても十分に綺麗な顔をしているし、何よりスタイルもいい。おっぱいも割と大きいしな……もちろん果南には敵わないんだけどね。

 

「そうと決まれば、早速焼き肉屋に向かいますか。早く行かないと混むかもしれないからな」

 

「祥平の言う通りだな。じゃあ、俺は焼き肉屋でも調べて――」

 

「どうして、あなたまでついていく気になっているんですか? あなたなんて、そこら辺の草で十分です。むしろ、そこら辺の草ですら贅沢なくらいです。今から死ぬまでずっと断食してください」

 

「相変わらずの暴言、ありがとうございます!!」

 

 何度でも言うが、梨沙は今みたいな暴言(人見知り)が無ければ最高に可愛い美少女である。ほんと、残念でならない。

 ……順平は、本格的に警察のほうへ突き出すべきだろう。恍惚とした表情で頭を下げる順平を冷めた視線で見つめつつ、俺たちは焼き肉屋へと向かうのだった。

 

 

● ○ ●

 

 

「うーん、今日の授業はちょっと難しかったね~」

 

「確かに。あの先生、ほんと無茶苦茶だよ! それにしても果南はよく起きてられるね? 私なんて、無茶苦茶すぎて途中から寝ちゃったから」

 

「私は他のみんなと鍛え方が違うからね!」

 

 なんて隣を歩く友達の紗枝ちゃんと笑いあう私、松浦果南。

 

 今は授業が終わり、大学内を歩いている最中だ。ちなみに横にいる紗枝ちゃんは、大学に入って初めて出来た鞠莉達以外の友達です! 

 

 裏表がなくて、一緒に居るとすごく落ち着く。気軽に相談もできるし、ほんと頼りになる。

 鞠莉とダイヤほどじゃないけど、一緒に居てすごく安心できる友達。もちろん他にも友達はいるのだが、やっぱり彼女と一緒にすごく時間が多かった。

 

「鍛え方が違う……どうりでそんなエッチな体になるわけだよ」

 

「どうしてそうなるの!?」

 

 たまにこうしていじられるのだけは、納得がいかない。まぁ、嫌な気分にならないからいいんだけど……。

 正直、祥平や鞠莉と一緒に居る時のような気分になる。あの二人が絡むと疲れるからなぁ~。主に私とダイヤが……。

 それにしても、祥平はちゃんと授業を受けているのかなぁ? うーん、普段大学の話はしないから少しだけ心配。

 少し思案顔の私に、隣の紗枝ちゃんが声をかけてくる。

 

「おやおや~? もしかして、祥平君の事を考えてらっしゃいますか?」

 

「えっ!? ど、どうしてそれを……あっ!」

 

 やられた……。ボーっとしてたからつい言葉が勝手に……。

 

「むふふ! やっぱり当たりだったか! いや~、好きな人を想ってそんな顔ができるだなんて、果南はやっぱり可愛いねぇ」

 

「う、うるさいなぁ……」

 

 頬をスリスリと摺り寄せてくる紗枝ちゃん。こういう所はほんと鞠莉そっくりだ。

 

「いやはや、こんなスタイルもよくて美人な果南に想ってもらえるだなんて、祥平君は幸せ者だと思うよ」

 

「そ、そうかな?」

 

「そうだよ、そうだよ! まぁ、祥平君もかなりイケメンの部類に入るけどね。写真を見た限りではモテそうな顔してるもん」

 

 彼女には私の好きな人が祥平ってことに加え、写真も見せてある。……まぁ、私が男子からの告白をよく断ってたから、『何で、何で?』と問いただされて、どうしようもなくなった結果、白状しただけなんだけどね。

 それ以来、告白を断ることにとやかく言わなくなったけど、祥平関連の事でよくいじられている。

 

「だけど、祥平君って果南以外は好きじゃないって言ってるんでしょ? ほんと、一途だよね~。いいなぁ、私も祥平君みたいな彼氏が欲しい!」

 

「べ、別に彼氏じゃないんだけど……」

 

「ほとんど同じだから関係ないよ……って、噂をすれば何とやらだよ。あれって、祥平君じゃない?」

 

「えっ?」

 

 紗枝ちゃんの指差す方向には、確かに祥平がいた。誰かと話しているようだが、恐らく順平君だろう。なんて呑気に考えていると、紗枝ちゃんが再び声をあげた。

 

「ね、ねぇ、果南。祥平君、女の子とも一緒に歩いてるよ?

 

「っ!?」

 

 私は急いで祥平のほうに首を向ける。彼の左隣には、友達だと言っていた順平君。そして、その右隣には、

 

「だ、誰? あの女の子……」

 

 見たこともない女の子が、楽し気に祥平と会話をしていた。女の子はともかくとして、祥平の普段は見せないその柔らかな表情。

 私の心臓がキュッと締め付けられる。すごく苦しい

 

「果南も知らないの?」

 

 こくんと頷く。祥平から女の子の友達がいるなんて聞いた事もないし、見たこともない。じゃあ一体あの子は誰? 

 気付くと私はギュッと両手握り締めていた。

 

「か、果南。落ち着いて! 顔が怖いから!」

 

 紗枝ちゃんに身体を揺さぶられ、私はハッと我に返る。

 

「……私、今どんな顔してた?」

 

「言葉に言い表せないくらい、嫉妬で歪んでた。ほんと、『私の祥平を……この泥棒猫!!』って感じに」

 

 流石にそこまでは考えていないが、彼女の言う通り私は凄く嫉妬していた。なぜなら、それだけ祥平の向けていた笑顔が魅力的だったから。

 まるで、大事な家族を見ているかのようで……顔がそこまで歪んでいたのは想定外だけど。

 

「……ま、まぁ、いいんじゃない? 祥平がどんな女の子と一緒に居ようと、私には関係のないことだから。祥平にだって、祥平の友達付き合いがあるんだから、いちいち首を突っ込んでたらきりがないよ」

 

 私がそういうと、紗枝ちゃんは呆れたようにため息をつく。

 

「そんな事言って、顔は全然大丈夫そうには見えないよ? すごく悲しそう。全く、果南って普段は落ち着いてるのに、祥平の君の事になると慌てるんだから……」

 

 前にも似たようなことを言われた気がする。私ってそんなに祥平のことになると、分かりやすくなるのかな? 私自身、そんなつもりは全然ないんだけど……。

 

「別に、慌ててなんかないもん。それに、こんなことでいちいち喧嘩してたら、祥平に呆れられちゃうよ……」

 

「まぁ、確かに嫉妬深い女って男の子は苦手かもね~」

 

「だよね。やっぱり、このまま見過ごしてあげたほうが――」

 

「甘い!! 甘いよ果南!! そんなんじゃ、祥平君は果南の元からどこかへ行っちゃうよ!!」

 

「さっき嫉妬深い女は、男子苦手って言ったばかりじゃん……」

 

 今度は、私が呆れたようにため息をつく。

 

「私が言ったのは、あくまで一般論だよ。それが祥平君にも当てはまるとは限らない。だって、祥平君は話を聞く限り普通じゃないから!」

 

「ちょっと、うちの祥平を馬鹿にしないでよ!!」

 

 少なくとも、私は祥平の事をそこまでコケにした記憶なんてない。……ただし、かっこいいとか、私を一途に思ってくれて嬉しいとか、盛大にのろけたことならある。

 もしかしたら、それが原因かも……。今思うと、私ってばすごく恥ずかしい。

 

「果南が家で拗ねていれば、少なからず祥平君は何があったのか心配になって、原因を聞いて来てくれるはず。その時にちゃんと女の子について聞いて、どんな関係なのか、好きなのか嫌いなのかをはっきりすれば万事解決だよ」

 

 祥平はそこまで単純じゃないと思うけど、確かに紗枝ちゃんの言うことは一理ある。

 きっとこのまま帰れば私自身、拗ねてしまう自信があるからだ。それに、話を聞かないと気が済まない。

 

「……うん、わかった。家帰ったら祥平に今日の女の子の事、ちゃんと聞いてみる」

 

「そうしなさい、そうしなさい! そんでもって、最後に滅茶苦茶甘えてやりな! きっと祥平君、喜ぶと思うから」

 

 あ、甘えるって……そんな簡単にできないんだよなぁ。私って一応、祥平より年上だから恥ずかしいんだよね。

 

 まぁ、甘えること自体、嫌いじゃないんだけど。祥平に抱き締められてる時もすごく安心するし、甘えてる時ってなんだか幸せな気分になるし……。

 

「……果南。顔がすごくにやけてるよ?」

 

「えっ? う、うそっ!?」

 

 私は顔をペタペタと触る。一方紗枝ちゃんは「全く、何を想像してたんだか……」と呆れつつも、ニヤニヤとしていた。

 

 

● ○ ●

 

 

「ただいま~」

 

 俺は挨拶をしつつ自分の部屋に……じゃなくて、今日はダイヤ姉さんの部屋にお邪魔する。なにやら、話があるとのことらしい。

 一体何の事だろう? と、首をかしげながら部屋の奥に入っていくと、どういうわけか、ダイヤ姉さんが仁王立ちで俺を待ち受けていた。ついでに鞠莉も。

 

「ど、どうしたんですかダイヤ姉さん? それに鞠莉まで?」

 

「……祥平。なぜあなたが今日ここに呼ばれたか、お分かりでして?」

 

「あなたの罪を数えて下さーい!!」

 

 仮面ラ〇ダーかな?

 

「いや、さっぱりわからないから、こうして首をかしげているんです」

 

「とぼけるんじゃありません!!」

 

 いきなり怒鳴られた俺は若干イラッとしたので、ダイヤ姉さんの両頬を摘み、上下左右に引っ張る。鞠莉は取り敢えず放置の方向で。

 

「いひゃい、いひゃい!! にゃ、にゃにをひゅるんでひゅ!?」

 

「わけのわからないまま怒鳴られた、せめてもの抵抗です。怒鳴るにしても、まずはしっかり理由を話してから怒鳴ってください」

 

 しばらくの間、ダイヤ姉さんのやわらかいほっぺたを堪能する俺。一分近くムニュムニュした後、名残惜しくも両手を離す。

 

「私の身体は、祥平によって無理やり汚されてしまいましたわ……」

 

「祥平ってば、とんだクソ野郎ね! どうせ、この後私のわがままボディも同じように汚すんでしょ? その白濁液――」

 

「アウトぉおおおおおお!!」

 

 お願いなんで、女の子が白濁とか言わないで下さい。男ってどうしても興奮しちゃうから。

 

「そのセリフ、外では絶対に言わないで下さいね? 俺が最低な変態と間違われますから。後、鞠莉も痴女だって思われます」

 

「鞠莉さんの事はいいとして……今の祥平は十分最低だと思いますが?」

 

 どうして俺が最低なんだ? 質問の意味を込めた視線をダイヤ姉さんに送る。

 

「だって祥平……あなた、不倫をしているのでしょう?」

 

「そうよ、そうよ! この不倫魔王!! ダイヤ、もっと言ってやりなさい!」

 

 鞠莉から溢れ出る、どうしようもない小物感はいいとして、

 

「…………はいっ? ふ、不倫!?」

 

 俺は思わず、ダイヤ姉さんに聞き返してしまった。当たり前である。マジで俺には心当たりがないわけだし……。

 

 そもそも最近、巷(主に芸能界)で流行っている不倫という言葉を、まさかこんな身近な人の口から聞くとは思ってもいなかった。

 

 一応物申しておきたいと思うが、俺は不倫ニュースを放送するためにいちいち時間を割く必要はないと思っている。

 あくまで個人的な意見だが、誰が不倫したとか、誰が浮気しただとか正直、一般人にとっては凄くどうでもいい。そこら辺、メディアの方々は本当に分かっているのだろうか?

 放送するなら放送するで、もっとためになるようなニュースを放送してほしいものである。

 

 あと、森〇学園問題はそろそろお腹一杯。お願いなんで、国会では自分たちの人気を確保するために相手を追求するのではなく、国民のための議論をしてほしいものだ。

 

 話がだいぶ逸れたが、とにかく俺は不倫などしていない。そもそも彼女がいないのだから、不倫もクソもあったもんじゃない気がする。

 

「どうして不倫なんて言葉が出てくるんですか!? 俺は何もしていませんよ?」

 

「嘘をおっしゃい!! 果南さんが見たと言っていたんです。今日、順平さんともう一人、可愛い女の子と一緒に歩いていた祥平を見たって。これはもう、不倫以外の何物でもありませんわ!!」

 

 そんな事で不倫になってしまえば、日本にいる男の半分くらいがすでに、不倫をしていることになるはずだ。

 事実は否定できないが、不倫とまでは言い過ぎである。ダイヤ姉さんはきっと昼ドラの見すぎ。

 

「どうせ、果南のことは遊びだったんでしょ? 祥平が求めていたのは果南の身体、それだけなんでしょ!?」

 

 鞠莉が俺に詰め寄る。どうしてそこまでの鬼気迫るような、迫真の演技をできるのだろうか? 

 理由は分からないけど、これは反論をしておかないとマジで俺は、ただの最低なクズ人間になってしまう。

 

「女子と一緒に歩いていたのは否定しません。でも、そいつは俺の知り合いです。というか、従妹です」

 

「殿方はそうやって嘘をつくんです。そして、自分でどんどんと墓穴を掘っていく……祥平、悪いことは言いません。今本当の事を言えば許してあげますから」

 

 菩薩のような笑みを浮かべるダイヤ姉さん。しかし、頭の中は昼ドラでいっぱいだろう。まじで勘弁してほしい。というか、ダイヤ姉さんと話していたところで意味がない気がする。鞠莉に関しては言う必要もない。

 

「ダイヤ姉さん。果南は今どこに?」

 

「謝りに行く気になったのですね! それはいい心がけですわ! 果南さんなら今、自分の部屋にいるはずですから、自分の過ちを認めて、素直に土下座でも何でもしてくるのです!」

 

「祥平が土下座したくらいで果南が許したら、警察はいらないわよ! だから、一回捕まってきなさい!」

 

 ……ダイヤ姉さん、後で覚えとけよ? 泣いても許してあげないくらい、いじめてやるからな。あと、鞠莉は適当なことばっかり言わないで! 

 なんて思いつつ、俺は果南の部屋に向かうのだった。

 

 

● ○ ●

 

 

「…………むすぅ」

 

「えっと、果南さん?」

 

 果南の部屋に行った俺だったが……目の前で分かりやすく拗ねる果南が可愛い。

 

 体育座りで胸と足の間にクッションを抱え込み、そのクッションの上に顔を乗せ、口を尖らせていた。

 そして、『むすぅ』という声をわざわざ口に出す……かわゆすぎるぜ畜生! 

 

 今すぐにでもわしわし……じゃなくて、なでなでしたいが、流石にこのタイミングはまずい。ちゃんと疑惑をはらしてからにしないと。

 

「果南が怒っている理由は、ダイヤ姉さんから聞いたよ。だけど、あれは大きな誤解なんだ!」

 

「……どういう誤解なの?」

 

「今日一緒に居たのは俺が引っ越した後、居候先で共に暮らしてた女の子なんだ。それで高校卒業後、まさか同じ大学に入っているとは思わなくて、すごく新鮮だったんだよ」

 

「一緒に住んでたのなら進学先くらい、普通知ってるはずだよね?」

 

 うぐっ、痛いところを……。これを指摘されると、順平にしたような話を果南にするほかないのだ。

 それで彼女が納得すればいいのだが……多分無理だろう。一応説明してみたところ、

 

「……納得できるわけないじゃん!!」

 

「ですよねぇ~」

 

 やっぱり怒られた。しかし、嘘をついているわけではないので、これ以上はもうどうしようもない。ここからは、いかに果南を納得させるかである。

 

「納得できなくても、納得してもらうしかないんだよ。彼女は俺の従妹で、家族も同然だから仲良く見えたかもしれないけど、別にそれ以上でも、それ以下でもないんだ」

 

「……そんなのわかんないじゃん。祥平と、その女の子すごく仲が良かったし」

 

 ぷいっと視線を逸らす果南。軽く心にヒビが入ったが、それでも必死に説得を続けるしかない。

 

「そう見えるのは、ある意味当然なんだよ。梨沙とは、小学六年生から高校三年まで一緒に暮らしてたんだから。それでむしろ仲が悪いです……って方が不自然だと俺は思う」

 

「確かに祥平の言っていることはその通りだよ。でも、逆にそれだけ一緒に住んでて、何の感情もありませんって方が不自然だと思う!!」

 

 くそっ、またしても痛いところを……。確かにそれだけの間、一緒に住んでいれば従妹と言えど、男と女だ。友達以上の感情を抱いていてもおかしくはない。

 ただし、それは一般的な男女の場合だ。俺は自覚してるが普通じゃない。

 

「不自然と思われて結構だよ。本当に俺は、梨沙に対して恋愛感情がないんだから。だって、俺はいつも言ってるだろ? 果南のこと、引っ越してからもずっと大好きだったって!」

 

 俺の反論に、果南が少しだけ顔を赤くする。多少なりともダメージはあったみたいだ。

 

「私だって、そう思ってたよ。いつも祥平に言われてるから。でも……今日の祥平、その女の子と話してるとき、すごくデレデレしてたもん!!」

 

 あの時の俺を、全力で殴ってやりたい。果南を好きだと豪語しておきながらこの始末……。

 これは、号泣しながら記者会見を開く必要があるだろう。

 

 しかし、俺は梨沙と話している最中、デレデレしていた記憶はない。

 久しぶりの彼女に、優しく微笑んでいた記憶はあるのだが……多分その笑顔を、果南が間違って捉えているだけだと思う。

 全く、うちの果南は早とちりだなぁ~。違う、違う。呑気にこんなことを考えていないで、早く何とかしないと……。

 

「優しく微笑んでたことは認めるけど、俺は決してデレデレなんてしちゃいない! 俺がデレデレするのは果南だけだ!」

 

 しかし果南は、俺の声が聞こえないよう耳を塞ぎ、後ろを向いてしまう。

 

「うるさい、うるさい!! ……どうせ、今の言葉も私をキープしておくために言った言葉なんでしょ?」

 

「なぁっ!?」

 

 果南の言葉に、少しだけカチンとくる。彼女が悪い方向に考えてしまうのも分からなくはないが、それにしたってもっと俺を信頼してほしい。

 気付くと俺は果南に向かって叫んでいた。

 

「キープとか、人聞きの悪いことを言うんじゃねぇよ! 俺は本気で果南の事が好きで、本気で果南の事を愛しているんだぞ? にもかかわらず別の女をキープとか、梨沙にも迷惑をかけるし、何より果南が悲しむじゃねぇか!」

 

「…………」

 

 彼女は何も言わなかったが、肩が少しだけピクッと反応する。どうやら、声はちゃんと聞こえているらしい。

 そして、反応があったってことは、しっかり俺の気持ちが届いているってことだ。耳も真っ赤になってるし……相変わらず果南は、こういう時になると分かりやすくて助かる。

 

「俺はどんなものよりも、果南の涙が嫌いなんだ。それなのに、わざわざ涙を流させるようなこと、誰が好き好んでするかよ!!」

 

「っ!?」

 

 今度は目に見えて反応した。そんな可愛い果南を、後ろから優しく抱き締める。いわゆる、あすなろ抱きという状態だ。

 俺は彼女のお腹の辺りに腕をまわしながら、耳もとで囁く。

 

「果南、今の言葉は全部、俺の素直な気持ちだ。それでもまだ信じられない?」

 

 これでもまだ反抗されたらどうしよう……なんて思っていたが、果南は意外とあっさり折れてくれた。

 まわした俺の腕を果南がギュッと掴む。

 

「……ごめんね祥平。私、ほんとは今までの言葉、全部本当だってわかってた」

 

「じゃあ、どうしてあんなに怒ってたの?」

 

「だ、だって……祥平が女の子と一緒に歩いてるの見たの初めてで、自分でもびっくりするくらい嫉妬しちゃってたんだもん」

 

 もじもじしながら本当の事を呟く果南。

 嫉妬深いとは言ってたけど、まさかこれほどまでとは……最高だぜ!

 

「ほんとはね、もっと抑えるつもりだったんだよ? その時、友達も一緒に居たし、もっと落ち着いて話すつもりだったんだけど……祥平がその子の事を好きかもしれないって思ったら、止まらなくなっちゃったの」

 

「えーっと、つまり……もっと落ち着いて話したかったけど、俺の事が好き過ぎて暴走しちゃったって感じでいいのかな?」

 

「好きすぎて!? えっ、あっ、その……うぅ……」

 

 きっと果南は今頃、視線を右往左往させているに違いない。想像だけど、可愛いなぁ。

 その後、しばらく唸り声が続いていたので、俺は改めて尋ねる。

 

「それで、果南は俺の事が好きすぎて嫉妬しちゃう。こんな解釈で大丈夫?」

 

 唸り声がピタッと止まった。そして長い沈黙の後、

 

「…………うん」

 

 絞り出すような声で、果南が口を開く。俺は何も言わず、果南の身体を強く抱き締めていた。

 

「どうしてそんなに可愛いの?」

 

「…………」

 

 返事がなかったので、俺は果南の顔を横から覗き込む。すると、

 

「ば、ばかっ……。今こっち見ないでよぉ……」

 

 頬をトマトのように赤くさせた果南が、両手をばたばたと動かしていた。何この可愛い生き物!? 

 取り敢えずいじめたくなったので、俺は彼女に追撃を加える。

 

「どうしてそんなに顔を赤くしてるんだ? ねぇ、果南。教えてほしいなぁ~」

 

「っ!? お、教えるわけないでしょ!!」

 

「……ふ~ん。教えないんだ……それじゃあ、果南が教えてくれるまでお仕置きしちゃおっと」

 

「へっ!?」

 

 間抜けな声を上げる果南を他所に、俺は彼女の真っ赤に染まった耳元へと顔を近づけ、

 

はむっ

 

「ふわぁっ……」

 

 果南の耳を優しく甘噛みした。

 

 すぐに果南の甘い声が漏れる。ゾクゾクっと背筋に電流が走るような感覚。その声が興奮をさらに高める増強剤となり、俺はもっと果南の耳をいじめにかかる。

 

「ば、ばかっ、祥平ってばなにをして……ひゃぁっ! ……んんっ、……や、やめっ……あぅ」

 

 ペロッと舌を這わせるたびに、軽く耳を噛むたびに、果南の口からは艶めかしい声が漏れる。

 

「果南ってさ、やっぱりエッチだよね」

 

「な、なんで?」

 

「こうしていじめるたびに反応が可愛くて、甘い声でないてくれるから」

 

「そ、それは、祥平が……ふわぁんっ! ……こうやって、……んぅん……、いじめるからでしょ?」

 

 果南が首を少しだけ横に向ける。その瞳は恥ずかしさからなのか、もしくは気持ちよさなのかは知らないが、涙で潤んでいた。

 

「んんっ……んっ……、……っ……、んぁ……」

 

 声を出すまいと必死に耐えているものの、むしろ我慢できずに少しだけ漏れる声のほうがよっぽど色っぽくて、エロい。

 しばらくいじめた後、俺はゆっくりと耳から口を離す。

 

「……祥平のエッチ、変態、スケベ、けだもの……」

 

「ごめんって果南。……それで、顔が真っ赤になってた理由、そろそろ教えてほしいな」

 

「……覚えてたの?」

 

「無論。忘れるはずがございません! さぁ、早く!」

 

 俺は都合のいいことはちゃんと覚えていて、都合が悪くなったらすべての記憶を抹消するからな。

 再び顔を真っ赤にする果南を抱き締めつつ、俺は答えを急かす。

 

「……い、一回しか言わないからね? 聞き逃しても絶対に言ってあげないんだから」

 

「大丈夫だよ、そんな心配しなくても。俺は絶対に聞き逃さないから」

 

「こういう時の祥平は本当に意地悪だよぉ……」

 

 何を言われようが、最低な人間だと言われようが、俺は気にしない。なぜなら俺は、果南の可愛い顔と表情が見れれば、それで満足なのだから。

 そして彼女の答えを待っていると、

 

「……か、可愛いって言われたからに決まってるじゃん。こんな分かりきったこと、言わせないでよ……」

 

 果南は余程恥ずかしかったのか、俺の腕をもう一度キュッと握り締めてくる。

 その仕草がいじらしくて、やっぱり可愛くて……。俺は思わず、果南の肩辺りに顔を埋めた。

 

「ずるいよ。その仕草も、何もかも全部」

 

「ど、どうしたの祥平?」

 

 思いを告げ合っても、やっぱり自覚がない果南の破壊力はすさまじい。マジで萌え死んでしまう。

 

「いや、何でもないよ。あんまり気にしないでくれ」

 

 思わず苦笑いを浮かべる俺。すると果南が少しだけ声のトーンを落とし、俺にあることを聞いてきた。

 

「……ねぇ、祥平」

 

「んっ? どうした?」

 

「私ってすごくめんどくさいでしょ? こんなことですぐに嫉妬するし、意地っ張りだし……だから、嫌いになっちゃったりしてないかなって」

 

 弱気な果南の言葉に、俺は思わずため息をつく。

 

「……はぁ。果南、ちょっとこっち向いてくれない?」

 

「? 別にいいけど……」

 

 全く。相も変わらず、まだそんなこと聞くのかよ。

 

 俺の言う通り正面を向いた果南を、胸の中に引き込んだ。

 

「えっ?」

 

「そんなに自分の事を卑下しないでくれ。俺はなにも、果南のいいとこばかりを見て好きになったわけじゃない」

 

「……そうなの?」

 

 胸の中から上目遣いで俺を見つめる果南。そんな彼女の頭を優しく撫でる。

 

「こんな場面で嘘なんかつくかよ。悪い所も全部含めて好きになったんだ。俺は果南の全部が好きなんだよ。そうやってすぐ嫉妬しちゃうところも、意地っ張りなところも……」

 

「だけど、たまには面倒だなぁって思うでしょ?」

 

「まぁ、確かにな。でも、そのめんどくささがすごく可愛い」

 

「……めんどくさいのが可愛いだなんて、祥平は変わってるよ……」

 

「変わってても大丈夫だよ。だって、そんな俺を果南が好きでいてくれるんだからな」

 

 俺が笑顔を浮かべると、果南は俺の胸に顔を埋めた。そして、

 

「……うん。祥平の事、大好きだよ」

 

 今のセリフを聞いた瞬間、胸がきゅうってなったよ。なんて幸せな痛みなんだ。しばらく抱き締めあったままでいると、果南が胸の中から声を上げる。

 

「今日は色々とごめんね。なんか私、空回りしちゃってたみたいで……」

 

「いや、俺はむしろ良かったよ。だって、嫉妬する果南が見れたから」

 

「も、もぅっ……すぐそういうこと言う」

 

 少しだけ顔を赤くする果南。今日はこの表情を、何回も見れて幸せだ。そこで果南が「こほんっ」と咳払いをする。

 

「それでね、祥平。今日私、祥平に色々悪いこと言っちゃったから……何でも一つだけ言うことを聞くよ」

 

 な、何でもひとつ!? これはまさかエロいことも!? 頭の中にゲスイ考えが次々と浮かんでくる。

 しかし、そんな考えはお見通しだったのか、果南が釘を刺してきた。

 

「エッチなこと以外で」

 

 やっぱり女の子って察しがいいよな……。

 

 少しだけ肩を落とした俺は、いやらしい考えを何とか頭の中から追い払う。うーん、エッチなこと以外でやってほしい事……。

 すると、俺は一つの考えに辿り着く。

 

「……じゃあさ、果南」

 

「うん、何をしてほしいのかな?」

 

「今度の休み、俺とデートしない?」

 

 俺の言葉が少しだけ意外だったのか、果南の瞳がまん丸に見開かれる。

 

 デートを提案したのは、こっち来てから果南と二人きりで長い時間を過ごすということが一度もなかったからだ。

 二人っきりという時間は確かにあったのだが、それはあくまで少しだけ。付き合ってはいないが両思いなわけだし、やっぱり二人きりの時間をのんびりと過ごしたい。

 

 そんなわけで俺はデートを提案したのだ。

 

 さて、俺の気持ちなど、どうでもいい。重要なのは果南の答えだ。はてさて、彼女の答えはいかに?

 

「……うんっ!! 私も祥平とデート、行きたい!」

 

 どうやら心配のし過ぎだったらしい。果南は俺の提案に、満面の笑みを浮かべて頷いてくれた。

 その笑顔を見た俺は、つられて笑顔になってしまう。

 

 俺の一番好きな彼女の笑顔だった。

 

「そうと決まれば、早速回るところを決めようよ! 私、行きたいとこたくさんあるんだ!」

 

 ウキウキと、デートの予定を立てようと提案してくる果南。その姿は少しだけ子供っぽい。

 だけど、すごく魅力的だった。

 

(俺たちって、さっきまで喧嘩してたんだよな?)

 

 いつの間にかデートの予定を決めている現実に、少しだけ驚いてしまう。まぁでも、喧嘩してるよりはよっぽどましだな。

 

「どうしたの祥平? ぼーっとしてないで一緒に行くところを決めよ!」

 

 横にいる果南を見てそう思う俺だった。




 さて、今回も読了ありがとうございます。
 おかげさまでこの作品はお気に入り100人突破。そしてバーに色がつきました。本当に皆さん、ありがとうございます!
 次回は最後の通り、デート回となりますのでよろしくお願いします。

 それじゃあ、また次回!

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