お隣さんは幼馴染? ~俺と果南と時々ダイマリ~   作:グリーンやまこう

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作)ダイヤ姉さんって、普段何をしてるんですか?
ダ)普段ですか? 普段は勉強をしたり、テレビを見たりしていますわ。向こうにいる時は、稽古なんかでテレビを見る余裕があまりありませんでしたから。
作)ちなみに、どんな番組を?
ダ)うーん、やっぱりドラマが多いですわね。特に昼ドラをよく見ます。よく聞くセリフは『私とあの女、どっちが大事なのよ!?』ですね。憧れますわ~。
作)それに憧れちゃまずい気が……。

※ダイヤ姉さんは昼ドラが大好き。


4話 そうだ京都に行こう(果南にお酒を飲ませてはいけない)

「ふわぁーあ……ねむ」

 

 皆さんこんにちは。二宮祥平です。いきなりで悪いのだが、取り敢えず一言。すごく……眠いです。

 しかし授業を受けていて眠い、というわけではない。俺だって授業以外にも眠たいときぐらいあるのだ。

 

「祥平ってば、すごく眠そうだね」

 

 前に座る果南が眠そうな俺を見て笑っている。いつもなら果南の笑顔を見て元気百倍とか思っているところだが、今日ばっかりはそういうわけにもいかない。

 

「なんせ、朝五時起きだからな。そりゃ眠くもなるって」

 

 現在の時刻は朝の7時。日付はゴールデンウイーク真っ只中の5月2日。そして、今俺たちは新幹線の中にいる。

 そう! 今日は前に言っていた通り、果南達三人と旅行に出かけている最中だった。

 

「祥平が眠たいのは当たり前です! 昨日の夜もほとんど準備をせず、鞠莉と遊んでいましたし。それで今日朝早く起きて、慌てて準備をする……もう少し計画的に行動して下さい」

 

「そういう果南は眠たくないの?」

 

「無視をするんじゃありません!!」

 

 ダイヤ姉さんの小言を無視したら怒られました。まぁ、いつも通りなので気にしない。

 しかし眠い原因は明らかにダイヤ姉さんの言う通りである。耳が痛い。

 

「うん。全然眠たくないよ。私は昔からいつも早起きだから」

 

 俺の質問に果南は事もなく普通に答える。そういえばそうだった。果南は体力づくりと称して毎朝、5時には起きてランニングをしている。

 だから普段でも、この時間は問題なく起きているのだ。

 

 休みは昼前まで寝ていて、大学がある日もギリギリまで寝ている俺とは大違い。眠くなくて当然である。

 ちなみに一度俺も早起きして果南のランニングについていったことがあるのだが、途中で撃沈した。果南、体力ありすぎぃいいい!

 

「それにしても、眠いのは祥平だけじゃないみたいだね」

 

 苦笑い気味で果南が自分の右肩あたりに視線を向ける。そこには、

 

「すぅ……すぅ……」

 

 鞠莉が気持ちよさそうに寝息をたてていた。果南の肩で眠れるとか、是非とも場所を変わってほしい。

 

「鞠莉さんが眠たいのも当然ですわ。祥平と同じで昨日の夜に準備もせず、ずっと遊んでいたんですもの」

 

 昨日の夜、俺と鞠莉は準備そっちのけでトランプやらテレビゲームやらを楽しんでいた。

 いや、俺も終わったらやるつもりだったんだよ? それがズルズル引き延ばされ、今日の朝になったというわけである。

 朝、ダイヤ姉さんにたたき起こされました。あの時されたげんこつは忘れない。孫の代まで呪ってやる。

 

「まぁまぁ、ダイヤ。一応準備は終わったんだし、お説教はそのくらいにしてあげなよ。祥平も少しは反省してるみたいだし」

 

「果南、ありがとう!! マジ天使!!」

 

「……本当に反省してるんですの?」

 

「ごめん、さっきの言葉、全部撤回で」

 

 そんなこんなで新幹線に揺られる事約二時間。

 

「うぉおおおお!! 着いた!!」

 

 俺たちは京都に到着していた。

 

「えっとまずは清水寺に行くんだっけ?」

 

「そうですわね。清水寺にいった後、近場から適当に散策をして――」

 

「祥平! まずは金閣寺に行くわよ!!」「よしきた!」

 

 果南とダイヤ姉さんのいう事など、まるで聞かずに走り出す俺と鞠莉。金閣寺って修学旅行以来だ

 

「ちょっと、二人とも!! まずは清水寺に行くんですわよ!!」

 

「ありゃりゃ……まぁ、別にどんなルートでもいいし、取り敢えず二人を追いかけようか?」

 

「はぁ、これでは予定を立てた意味がないですわ」

 

 ため息をつきながら果南たちが追いかけてくる。

 なにやら予定を立てていてくれたみたいだが、俺は敷かれたレールの上を歩く人生は嫌なんでね。……迷惑ばかりかけてすいません。

 

 その後は金閣寺に行ったり、

 

『ベリーゴールド!!』『ほんとだねぇ~』『だけどこの金色って昔からじゃないんだよね? 確か、一回燃えてるって話だし』『祥平、今はその事を言わないで下さい……』

 

 龍安寺に行ったり、

 

『うーん、やっぱりどの角度から見ても石が全部見えないね』『これを考えた人はほんと天才だな』『流石ですわ!』『この庭にダイブしたいわね!』『鞠莉、やると捕まるから……』

 

 銀閣寺に行ったり、

 

『ここは凄く風情を感じるな』『そうだね。なんかすごく落ち着く』『私は金閣寺より銀閣寺のほうが好きですわね』『シルバーじゃない……』

 

 清水寺に行ったり、

 

『ダイヤ、お土産買い過ぎじゃない?』『別にこれくらい普通じゃありませんの?』『いやいや、ダイヤ姉さん。流石に多すぎですって』『そのセリフ、鞠莉さんを見て言えます?』『えっ?』『ここにある八つ橋、全部下さい♪』『ごめん、ダイヤ姉さんは多くなかったです』

 

 一日で回れるだけの観光スポットを回った俺たちは、くたくたになって今日泊まる旅館に到着した。

 

 

● ○ ●

 

 

『…………』

 

「今日予約していた小原です!」

 

「はい、小原様ですね。お部屋に案内しますのでどうぞこちらへ」

 

「こんな広い旅館は久しぶりですわね」「私もかな。いつもはホテルだし」

 

 目の前の二人は、この豪華な旅館に全くたじろいでいない。一方、俺と果南は開いた口が塞がらない状態だ。

 こんな旅館、二度と来ることができないだろう。

 

「な、なんというか、場違い感が半端じゃないな……」「そうだね……」

 

 言われるがままについていくと、これまた広くて尚且つ、豪華な部屋に案内された。

 

「お食事は一時間後にお持ちしますので、それまではどうぞごゆっくり」

 

 女将さんが出ていったあと、改めてこの部屋を見渡す。……普通に泊まると何万するんだろうか? 考えるのも怖い。

 

「夕食まで時間があるし、お風呂に入っちゃいましょうか!」

 

「それもそうだな。風呂に浸かってゆっくりしたい」

 

 果南とダイヤ姉さんも賛成したため、俺たち四人は温泉へ。もちろん、男女は別だよ? 

 ちなみにここの旅館のお風呂は、露天風呂をはじめとした色々なお風呂が常設されており、取り敢えずやばかった。

 そしてお風呂から上がり夕食の時間となったのだが、

 

「うわぁ~……なんだかすごい豪華だね」

 

「ほんと……言葉が出てこない」

 

 普通の家出身の俺と果南は、目の前に出てきた豪華な料理に思わず感嘆の声をもらす。

 それもそのはずで、見ただけで高いと思えるよな料理がこれでもかと並べられているのだ。豪華な旅館って本当にすごい。

 

「ダイヤ姉さんはこういうの食べたことあるんですか?」

 

 前に座るダイヤ姉さんに質問をぶつける。

 ダイヤ姉さんの家も、内浦じゃかなり有名な家だからな。鞠莉は別に聞く必要はない。だって、出てきた料理に気圧されることなく箸を動かしているのだから。

 

「そうですわね。鞠莉さんほどではないですが、これくらいならたまに食べてましたわ。それこそ、お正月とか限定ですけど」

 

 それでも食べたことはあるらしい。ほんと、お金持ちってすごいなぁ。

 

「ダイヤも鞠莉も、私たちとは全然違う世界にいるみたいだね……」

 

「そうだな果南。俺も今の会話で全く同じ事を思ったよ……」

 

 お金持ちでない俺たち二人は揃ってため息を吐く。この気持ち、きっとあの二人には分からないだろうな。特に鞠莉。

 その後、出てきた料理に舌鼓をうち(どれもこれも滅茶苦茶美味しかった)、俺たちは部屋で一息つく。

 

「ふぅ~、お腹一杯だ」

 

「祥平ってば、食べてすぐ横になると牛になりますわよ?」

 

「大丈夫ですよ、ダイヤ姉さん。人はどう足掻いたって、別の生き物にはなりゃしないんですから」

 

「それはそうですけど……」

 

 お小言の多いダイヤ姉さんを宥めつつ横になっていると、果南が冷蔵庫をごそごそと漁っているのに気付いた。

 

「何してるの果南?」

 

「ちょっと、喉が渇いちゃってね。飲み物はないかなって探してたの」

 

 そういう果南の手には、まだ空けられていない缶が握られている。どうやら、飲み物が冷蔵庫に入っていたらしい。何度でも言うが、豪華な旅館って至れり尽くせりだな。

 

「鞠莉、冷蔵庫の中に入ってた飲み物って飲んじゃてもいいの?」

 

 果南の問いかけに鞠莉はグッと親指を立てる。

 

「うん、問題ナッシングよ!」

 

「分かった! それじゃ、遠慮せずに飲んじゃうね」

 

 そう言って果南がプルタブを引き、ごくごくと飲み物をのどに入れていく。それにしても、おいしそうに飲むなぁ。いい飲みっぷりである。

 

 しかし、そんな事を考えている時間はまるでなかったらしい。なぜなら、俺は気付いてしまったからだ。

 飲み物を飲んでいる果南をみて鞠莉が怪しく微笑んだことに。俺は慌てて果南に声をかける。

 

「お、おいっ、果南! それは飲んじゃ駄目だ!!」

 

「へっ?」

 

 俺の制止にキョトンと首をかしげる果南。頼む、間に合ってくれ。

 

「ダメって言われても、ほとんど飲んじゃったよ。どうかした?」

 

 間に合わなかったらしい。俺はがっくりと肩を落とす。畜生、俺はまた果南を守れなかったのか!? 

 しかし、まだあの飲み物が変なものと決まったわけではない。そうだ、まだ希望を捨てちゃいけな――。

 

「……あれっ? なんだか体がフワフワしてきた……それに、身体も熱い」

 

 はい、希望なんて最初からどこにもありませんでした。俺は再び肩を落とす。

 身体の異常を表すように果南の目はとろんと潤み、顔も赤くなっていた。そもそも鞠莉が怪しく微笑んだ時点で全てを察し、諦めるべきだったんだよ。

 

「果南さん? 大丈夫ですか? 顔も赤いようですけど」

 

 ダイヤ姉さんが心配そうに果南の傍に近寄る。果南はダイヤ姉さんに任せるとして……俺は問題の元凶であろう鞠莉を睨みつけた。

 

「Oh! 祥平ってば、そんな顔をしちゃいけませーん! しわが増えますよ?」

 

「誰のせいでこんな顔をしてると思ってるんですか!?」

 

 鞠莉が男だったら、問答無用で殴っていたところである。しかし、これでも一応女の子なので殴ることはできない。なんてもどかしいんだ。

 

「もうこの際、悪戯を仕掛けたことにはとやかく言いません。聞きたいのはただ一つ。果南に何を飲ませたんですか?」

 

 まぁ、ある程度の見当はついているんだけど。身体がフワフワする。体が熱い。更に顔も赤い。十中八九、あれだろう。

 

「もちろん、お酒でーす! それもアルコール度数のかなりハイなやつ!」

 

「あんた、マジでバカじゃねぇの!?」

 

 躊躇なく鞠莉の頭を叩く。さっきは女の子とかどうこう言ったが、これはあまりにも酷い。

 ほ〇よい程度ならまだよかったのだが、よりにもよって度数の高いやつ……。果南が一本で酔っぱらうのも納得だ。何となく、果南ってお酒強そうなイメージがあるし。

 

「……はぁ。ちなみに、鞠莉は果南にお酒を飲ませて何をするつもりだったんですか?」

 

「もちろん、酔っぱらった姿を動画に収めて、恥ずかしい姿を記録した後、その動画で果南をいじる為よ!」

 

 最近思うのが、この人は悪魔か何かの生まれ変わりなのではないだろうか? それくらい、悪戯の程度が半端じゃない。

 果南もダイヤ姉さんも、今までよく幼馴染やってたな。

 

「祥平、果南さんの様子がおかしいんですけど?」

 

「えへへぇ~、ダイヤはやっぱり可愛いなぁ。髪もサラサラだし、いい匂いがする」

 

 困ったような声に俺が二人のほうを向くと、ダイヤ姉さんが果南にハグされていた。

 

 なんてこったい。果南は酔っぱらうと絡むタイプの人みたいだ。しかもボディタッチも激しくなる……最高だよ。

 

「なに羨ましいことされてるんですか! 代わってください、今すぐに!!」

 

「いやいや、今はそんな事言ってる場合ではありませんよね!?」

 

「今はそんな事を言っているタイミングなんです! さぁ、早くどいてください!! そして、果南による温かい抱擁を体感させてください! いやー、果南のハグを体験できるだなんて、俄然興奮してきました」

 

「興奮しているあなたに、果南さんは渡しません!! ただの変態じゃないですか!?」

 

 ギャーギャー言い合う俺とダイヤ姉さんに、鞠莉が笑いながら近寄ってきた。

 

「二人ってば、本当に面白いわね! だけど今の主役は果南なんだから、もう少し落ち着いて――」

 

「あっ! 鞠莉だぁ!!」

 

 鞠莉を視界にとらえた瞬間、ダイヤ姉さんをあっさりと捨てる果南。そして、

 

「つーかまーえた!」

 

 ギュッと鞠莉の身体を果南が後ろからハグする。一方ハグされた鞠莉はいきなり過ぎたのか、驚きのあまり目を白黒させていた。

 

「か、果南さん……ふっ、所詮私の事は遊びだったのですね」

 

「ダイヤ姉さんは昼ドラの見すぎです」

 

 この人は家を離れてから、いったい何を見ていたのだろう? まぁそんなダイヤ姉さんは置いておいて、今は鞠莉と果南だ。何やら面白いことになりそうだし。こっそりスマホを起動させ、動画をまわす。

 

「鞠莉はやっぱり可愛いなぁ。流石ハーフだよ。髪もプラチナブロンドですごく綺麗だし、サラサラだし。ダイヤと同じでいい匂い~」

 

 果南が鞠莉の首元に顔を埋め、思いっきりハスハスしている。うーん、鞠莉が羨ましい。ついでに俺の首もハスハスしてほしいものだ。

 

「ひゃあ!?」

 

 そして、いつもなら聞きもしないような可愛い悲鳴を上げる鞠莉。ほんと予想外らしい。

 

「か、果南! そんなとこ嗅がないでよ! く、くすぐったい……」

 

「え~? 大丈夫だよぉ~。私はなにも困らないから。鞠莉ってば、可愛い♪」

 

 鞠莉の抗議を無視するかのように、ハグする力を果南が強くする。見事なまでに会話がかみ合っていない。というか、果南に翻弄されている鞠莉を見るのは非常に珍しい。

 

「体もすごく柔らかいし……後ここも!」

 

 そういってあろうことか果南は、鞠莉のおっぱいを鷲掴みにした。

 

「っ!?」

 

 当然鞠莉は顔をさらに赤くさせ固まり、ダイヤ姉さんも果南の行動に信じられないとばかりに口をあんぐり開ける。

 胸を揉むと言ったら鞠莉の専売特許だからな。それを逆にやられた鞠莉が固まるのも無理はない。

 

 ちなみに俺は静かに視線をそらした。なぜなら果南の指が鞠莉の豊かな双丘に沈んでいくのが見えて……。鼻血が出るかと思いましたよ。

 

「うわぁ~。やっぱりやわらかーい! ほんと、ビッグになったねぇ」

 

 エロ親父のようなことを口にする果南。女同士だからいいものの、男と女なら確実にセクハラで警察行きだ。

 いや、女同士でも問題っちゃ問題なんだけど。俺は目の保養になるから問題なし。

 

「きゃ、きゃあああ!! ちょっと、なにするのよ果南!? 訴えるわよ!」

 

 我に返った鞠莉が、涙目になって果南を突き飛ばす。普段からセクハラしてるのに、こうして自分がセクハラされる事にはめっぽう弱いみたいだ。メモに残しておこう。

 だけど、俺が鞠莉に手を出したらただ捕まるだけなのでこの作戦は使えないな。残念。

 

「今のセリフ……まさか、あの時と逆で聞くことになるとは」

 

 何やらダイヤ姉さんが遠い目をして呟いていた。意味がよく分からないので聞き流しておこう。

 

「えぇ~、いいじゃん別に。減るもんじゃないんだし~。ほらほら、もっと触らせてよぉ~」

 

 ワキワキと指を卑猥に動かす。おいおい、エロ親父そのものじゃないか。たまげたなぁ。

 

「や、やめてっ、果南! あっ、そ、そんなとこ……だめっ……。んんっ!」

 

 ダイヤ姉さんが無言で俺の耳を塞ぐ。どうやら、俺に鞠莉のあられもない声を聞かせないためらしい。

 しかし、目の前で頬を紅潮させ羞恥に耐えている鞠莉を見るだけで興奮してくるのだから、耳を塞ぐのは意味ない気がする。

 それにしても、果南はとんだテクニシャンである。しばらく二人の様子を眺めていると、ようやく鞠莉が解放された。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 畳の上に手を突き、真っ赤な顔をして荒い息を吐いている。うーん、鞠莉のこういう姿は珍しいからかなり興奮して――。

 

「見てはいけませんわ」

 

 今度はダイヤ姉さんによって視界が遮られる。これだと鞠莉の色っぽい息遣いだけが聞こえてくるので、より一層生々しくなるんだけど。

 

「あはは~! 鞠莉ってば顔が真っ赤だよ? おかしぃ~」

 

 そして、こっちはさっぱり酔いが抜けないようだ。ケラケラと鞠莉を指差しながら笑っている。こりゃ、しばらくこのままだろう。

 

「しょ、祥平、ダイヤ、助けて……」

 

 おいおい、あの鞠莉さんがまじな顔して助けを求めてるぞ。たまげたなぁ。……俺、たまげたなぁ使い過ぎじゃね?

 

「ダメだよ、鞠莉。私から離れちゃ」

 

 逃げ出そうとした鞠莉を先ほどと同様、果南が後ろからしっかりとホールドする。鞠莉は再び果南に捕まってしまった。

 果南の力は半端じゃなく強いので、逃げ出すことはほぼ不可能だろう。それに、今の果南を相手にするとこっちまで被害が出そうなので、見守ることが最善の選択だ。

 

「ごめんよ、鞠莉。流石に今の果南は俺たちにとってどうしようもない。だから許してくれ」

 

「祥平ってば、言葉と行動が一致していませんわよ?」

 

 呆れるダイヤ姉さんの視線の先には、相変わらず動画撮影モードのスマホ。い、いや、普段から無茶苦茶なことされてんだから、多少はね? そうこうしているうちに果南が、

 

「祥平、ダイヤ! ちょっとそこへ座りなさい!」

 

 妙に据わった目で、ちょんちょんとその場に座るようアクションを起こす。ここで断るとめんどくさくなるのは目に見えているので、俺とダイヤ姉さんは素直に従い、畳の上に腰を下ろした。

 

「よろしい! それでね、二人を座らせたのは他でもないんだよ。いい? 今から言うことをよく聞いておいてね」

 

 一体、何を言われるのだろう? 首をかしげながら次の言葉を待っていると、

 

「鞠莉はね……可愛いんだよ!!」

 

『……はい?』

 

 俺とダイヤ姉さんの反応が被る。それもそうだ。いきなり鞠莉は可愛いだなんて。そんな事みりゃ分かるのに。

 

「か、かわっ!?」

 

 そして、言われた張本人は顔を真っ赤にして盛大にテンパっていた。この人、ほんと突然のボディブローに弱い。

 

「見てよ、この整った顔に金色の瞳。さらにはプラチナブロンドの髪。ほんと可愛くて、お人形さんみたいだよね?」

 

「そ、そうですわね」「そ、そうだな」

 

 あまりの迫力に肯定するしかない俺たち二人。そんな俺たちを見て、満足そうに果南が頷く。

 

「それにね、いつもは適当なことしか言ってないけど、鞠莉はいつも私たちのことを考えてくれているんだよ。初めて出会った時から、今に至るまでずっと」

 

「というと?」「か、果南!! それはダメ!!」「ダイヤ姉さん、鞠莉の口を塞いで」「合点承知ですわ!」「んー、んー!!」

 

 抜群のチームワークを発揮する俺とダイヤ姉さん。きっとダイヤ姉さんも、積もりに積もってきた鬱憤を発散したいのだろう。いつもより動きが機敏だ。

 

「祥平は知らないかもしれないけど、私と鞠莉って高校一年生の終わりから三年生の夏休み前までずっと喧嘩してたんだ。お互い、思ってる本当の事を言わずに……。私ね、ほんとは諦めてたの。もう、鞠莉とは一生話せないんだって。だけど、鞠莉は離れていても、ずっと私の事を思い続けてくれた。それがすごく嬉しかったんだ」

 

 俺がいないときに起こったことを、果南は話しているらしい。それにしても、果南と鞠莉が喧嘩をしていただなんて、すごく意外だ。

 

「私は何度も鞠莉の事を拒絶したのに、鞠莉は絶対に諦めなかった。ずっと私の事を説得し続けて、ずっと私の事を待っていてくれたの」

 

 鞠莉を抱き締めながら果南が笑顔を浮かべる。

 

「ダイヤ姉さん、別に果南は酔っぱらって適当なことを言ってるわけじゃないんですよね?」

 

「心配しなくても、果南さんの言っていることは本当です。あの時は本当に……辛かったですわ」

 

 ダイヤ姉さんの声色と表情から察するに、言っていることは正しいみたいだ。

 

「鞠莉のハグも無視しちゃったし、あの時の衣装を窓の外に放り投げたりもした。普通ならこの時点で嫌われてるよね。だけど、鞠莉は絶対に私を諦めなかったんだ」

 

「そ、そんなの当然じゃない……私と果南は親友なんだから」

 

「ふふっ! そう言ってくれて嬉しいな♪」

 

 恥ずかしさのあまり視線を下に向けた鞠莉を、果南が優しい瞳で見つめる。

 

「あの日、鞠莉にビンタされて、本音を言ってもらって、私気づいたの。なんて、無駄な時間を過ごしてきたんだろうって。もっと早く鞠莉と話し合っておけばよかった。そうすれば、大好きな友達を傷つけることもなかったのに。……ごめんね、鞠莉」

 

「……いいわよ、今更。私だって、沢山果南のことを傷つけたんだからお互い様」

 

 なんだろう。付き合いたての初々しいカップルを見ているようでむず痒い。というか、直視できない。

 

「それでも仲直りできたのは、やっぱり鞠莉のお陰だよ。びしょ濡れになりながら私を呼んでくれた。私のハグを受け入れてくれた。……本当に嬉しかったんだよ。分かってる?」

 

 そう言いながら鞠莉の頭を撫でる果南。言葉といい、行為といい、今の果南はそこら辺にいるイケメンよりよっぽどイケメンだと思う。

 俺が女なら間違いなくキュンキュンしているはずだ。

 

「はぅ~、果南さん、かっこいいですわ……」

 

 ダイヤ姉さんは果南をみてキュンキュンしている。こうなるのも無理はない。

 

「べ、別に分かってるわよ。私だって、その……嬉しかったんだから」

 

「ううん、鞠莉はぜぇーったい分かってないから、分かるまでギュってしてる」

 

 果南は女を虜にする能力に長けている気がする。そういう俺もトリコリコにされてんだけど。

 そして、イケメン果南さんはとどめとばかりに鞠莉の耳元で優しく囁いた。

 

「ありがとう鞠莉。私の事を見捨てないでくれて。今までも、これからもだけど、改めて言っておくね。……大好きだよ」

 

 妙に色っぽい声から発せられた、友達を想い続けるというセリフ。

 

 ……感動的な場面ではあるのだが、一つだけ言わせてほしい。今って、鞠莉の公開処刑中だったっけ? 

 ただただ顔が熱くなる。俺でさえ顔が熱くなるのだから、もちろん鞠莉の顔はゆでだこのようになっていた。

 果南の大好きだという言葉に、鞠莉のライフポイントはゼロになってしまったらしい。

 

「それにね、鞠莉って後輩のフォローもちゃんとできるんだよ。曜が千歌との関係に悩んでいた時も、真っ先に彼女の異変に気付いたのも鞠利だったし」

 

 やめて果南!! 鞠莉のライフはとっくにゼロよ!! 今現在、鞠莉は顔を真っ赤にして唇をかみしめています。別に悔しくて涙をこらえてるわけじゃないよ?

 

「他にも細かいことにはよく気付くし、Aqoursのメンバーをよく気遣ったりしてたし……鞠莉って普段が適当だから気付かれにくいけど、すごくいい子なんだよ!」

 

 しかし、死体蹴りに定評のある酔いどれ果南さんの攻撃の手を緩めない。傍から見たら完全に羞恥プレイである。

 

「……も、もぅ、やめて///」

 

 親友から送られるお褒めの言葉に、鞠莉の顔が尋常じゃないほど真っ赤に染まり、瞳も潤んでいた。

 確かに本人からしたらこんな話、羞恥以外の何物でもないだろう。

 

 普段、あれだけ適当なことをやっておいて、実は裏で後輩を気遣ったり、果南のことを想い続けていたり……。こっちが恥ずかしくなってくる。

 ダイヤ姉さんも気まずそうに視線をそらしているぐらいだからな。

 

「ダイヤも、あの時は本当にありがとね。私の事を必死にフォローしてくれたみたいだし。ダイヤがいなかったら、今の私たちはいないと思うから」

 

「べ、別に構いませんわ。私は自分の気持ちに従っただけですし……もっと鞠莉さんを褒めてあげるべきです」

 

 ダイヤ姉さんは自分に降りかかってきた火の粉を、しっかりと受け流す。この人、案外したたかだ。

 

「そう? ダイヤがそういうなら鞠莉をもっと褒めてあげるけど、ダイヤの事も大好きだからね。今度はダイヤの話を祥平にも聞かせてあげようっと!」

 

「お願いします。それだけはやめて下さい」

 

「どうしてそこだけ敬語になるんですか?」

 

 真顔になって頭を下げるダイヤ姉さん。敬語まで使っているという事は、本気で嫌なのだろう。

 まぁ、鞠莉の惨状を見れば当然か。それにしても、綺麗な土下座である。

 

「それじゃあ今日は、鞠莉の事を思う存分語っちゃうよ! 他にも話したいことがたくさんあるんだから! じゃあまずは子供の頃ね――」

 

 その後、約一時間の間鞠莉の話を聞かされる、俺とダイヤ姉さんだった。思ったのは、「果南、鞠莉の事大好きなんだなぁ……」ってこと。

 ちなみに鞠莉は後半いろんな意味で涙を流していました。

 

 

● ○ ●

 

 

「んんっ?」

 

 慣れない布団で寝ていたせいか、まだ暗いのに目が明いてしまった。スマホで時間を確認すると、午前三時。

 小原鞠莉羞恥プレイ事件(俺が勝手に命名)からまだ三時間ほどしか経過していない。あれは悲惨な事件だったぜ。

 

 あの後鞠莉はすぐ布団をかぶり、「果南のバカっ!! おたんこなす!!」といって眠ってしまった。

 しかし、果南は果南で酔いと疲労がピークに達していたのか、すぐに眠ってしまった為、あの言葉を覚えているかどうかはいささか微妙である。

 そんなわけで俺とダイヤ姉さんも眠りについたのだが……こうして変な時間に起きてしまっていた。

 

(まぁいいや。寝直そう)

 

 しかし、こういう時に限って眠気が襲ってこない。変な時間に起きてしまったせいで、逆に目が冴えてしまったみたいである。

 

(このままこうしていても仕方がないし、一旦夜風にでもあたろう)

 

 そう思った俺は、窓の近くにある椅子へと移動したのだが、

 

「……ん? あれ、祥平? どうしたの、こんな時間に?」

 

 既に先客が椅子の上に座り、夜風を浴びていた。彼女の青い髪が夜の涼し気な風になびく。

 

 今の彼女は、この時間独特の雰囲気と夜空にとてもマッチしていた。

 

 俺は心臓のドキドキを悟られないよう注意しつつ、座っていた彼女に尋ねる。

 

「それはこっちのセリフだよ。こんな時間に何してるの、果南?」

 

「うーんとね、変な時間に目が覚めちゃって、寝ようとしても寝られなくて、こうしてるの。そしたら祥平が起きてきて……もしかして、同じ理由?」

 

「その通りでございます」

 

 俺の返答に果南は柔らかな笑みを浮かべた。

 

 今の情景にその笑顔は綺麗を通り越して、もはや幻想的である。これは好きだという補正を抜きにしても、誰もがそう思うはずだ。

 

「あと、冷蔵庫の飲み物を飲んでからの記憶がなくて……祥平、私何か変なことしてなかった?」

 

「……何もなかったよ」

 

 冷や汗を流しながらそっぽを向く。ごめん果南。とてもじゃないけどあんな姿。何も知らない果南には見せられない。動画は俺のスマホに残ってるけどね。

 

「そう? 何もないならいいけど。……うぅ、頭もガンガンする」

 

 きっとお酒の影響が出ているのだろう。全く、どれだけ強いお酒を飲ませたんだか……。飲ませた張本人には天罰が下ったけど。

 

「それにしても全然眠くならないな~」

 

 果南と話していれば眠くなると思ったのだが、すっかり目が冴えてしまっていた。これじゃあ眠るものも眠れない。……そう言えばこの旅館、温泉が24時間営業だって鞠莉が言ってたな。

 

『ここの温泉は24時間営業だから、いつ温泉に行っても大丈夫よ! だけど深夜だけ混浴だから十分気を付けてね!』

 

 ……混浴だってのが少し気になるが、こんな深夜に入る客もいないだろう。仮に入ってきた時にはそそくさと退散すればいいし。温泉に行くと決めた俺は、早速準備を始める。

 

「ん? どうしたの祥平?」

 

「いや、眠くならないから一度温泉に行こうと思って」

 

 ちなみに果南は絶対に誘わない。だって果南の裸を他の野郎どもに見せるのなんて、まっぴらごめんだからな。……果南が一緒に入りたいと言えば、話は別なんだけど。そんな事万が一にも起こらないし、そもそも果南が嫌がるだろう。

 

「へ、へぇ~。そうなんだ……」

 

「そういうわけ。そんじゃ、俺はサクッと入ってきちゃうから」

 

 そういって俺が立ち上がり、部屋を出ていこうとすると、

 

キュッ

 

 浴衣の端を誰かに摘まれる。今起きているのは果南しかいない。

 つまり俺の背中を摘む手は果南のもの。しかしその力は、普段じゃ考えられないくらいか細い。

 

「どうしたの、果南?」

 

「えっと、その……」

 

 しばらく躊躇った後、果南が小さな声で呟く。

 

「……たい」

 

「ごめん、もう少し大きな声で」

 

「だ、だからっ! 一緒に行きたいって言ったの! 温泉に!!」

 

 ……俺の聞き間違いじゃないよね? 今、俺の好きな人、一緒に温泉に入りたいって言ったよね!?

 

「へっ!? い、一緒に、お、おお、温泉だなんて、急にどうしたんだよ!? 今時間、温泉が混浴だって知ってるよね!?」

 

「そりゃ、もちろん知ってるけど……た、ただ、久しぶりに祥平とお風呂に入りたいなぁって。こんな機会、そうそうないわけだし。ほ、本当にそれだけだからね!!」

 

 真っ赤な顔をして果南が叫ぶ。正直、聞き間違いを期待したのだが、残念ながらその線は完全になくなってしまった。

 余裕をなくしてあわあわする俺に、果南が念押しとばかりにもう一度口を開く。

 

「ほ、ほらっ、ぼやぼやしてないで温泉に行くよ! これ以上遅くなると別の人が来ちゃうかもだし」

 

 そう言ってグイグイと果南に引っ張られていく俺。

 

 どうやらこの後、俺は好きな人と温泉に入るみたいです。




 さていかがでしたでしょうか? 鞠莉の照れるところって、書くのが意外と難しい……。もう少しうまくかけたらよかったんですけど、これが限界です(笑)。

 次回の話をしますと最後の会話通り、果南との混浴回です。何一つ構想が決まっていませんが、取り敢えずイチャイチャさせようかな(笑)。

 最後に感想やら評価やらありがとうございます。これからもどうかよろしくお願いします。
 それじゃあ、また次回!

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