お隣さんは幼馴染? ~俺と果南と時々ダイマリ~ 作:グリーンやまこう
作)だ、ダイヤ姉さん。今回の話にお説教はないんですか?
ダ)いうつもりだったんですけど、流石に諦めましたわ……。あなた、最近こんな話ばかりしか書いていませんわよね?
作)ぜ、前回はちゃんとギャク回だったからいいかなと……。
ダ)前々回も、かなりやり過ぎたお話だったような気がしますけど?
作)あれは忘れてください。次回からはちゃんとしますから!
ダ)心配しなくても大丈夫ですわ。これっぽっちも期待していませんし。
作)ダイヤ姉さんが辛辣だぁ……。
ダ)皆さん、この話が読み終わった瞬間、低評価をつけていただいても構いませんわよ。いや、むしろ付けてください!
作)め、メンタルを病んで失踪するかもなので、やめて下さいお願いします。
ダ)自業自得ですわ!!
※深夜テンションって怖い
キーンコーンカーンコーン
「いよっしゃぁああああああ!! テスト終わったぁあああ!! なーつやーすみだぁああああああああ!!」
「うるさいんだよ、お前!」
テストが終わった瞬間、奇声を上げたわが友の頭を全力で引っ叩く。どこぞのアニメで出てきた、キャラクターみたいだったぞ?
しかし、順平が奇声をあげた理由も分からなくはない。彼の言う通り、夏休み前、俺たちを苦しめていた前期テストが、今やっと終わったのである。
順平ほどじゃなくても、教室のあちらこちらから「夏休みどうしよう?」だの「明日から旅行だぁ!」という声が聞こえてきていた。
「順平、お前は何か夏休みに予定があるのか?」
人一倍テンションが高かったので、一応聞いてみる。
「あったりまえよ! 俺はこの夏休み、気になってるスクールアイドルのコンサートに行きまくるんだ! いやー、夏休みの為だけにバイトのお金を溜めていたからな。ちなみに、これから夏休みが終わるまで多分、俺に連絡が取れなくなると思うからよろしく」
聞いた俺が馬鹿だった……。いや、別に人の趣味を否定するわけではないが、取り敢えずキモイ。順平に言われなくても、そんな奴に連絡なんて取らねぇよ。
冷ややかな視線を順平に向けつつ、俺も夏休みの予定を考える。
(予定って言っても、毎日果南の部屋に行ってグダグダするだけなんだよな~)
デートはこの前行っちゃったし、旅行も流石に厳しいな。正直、また行きたいけど、いかんせんお金がない。お金は使うと無くなる。これ重要。だけど、それこそが経済をまわす役割を担っているって、ばっちゃが言ったり、言ってなかったり……。
ちなみに月一で入ってくるバイト代は、家賃と生活費に消えていくためほとんど残っていなかった。まぁ、食費は四人で割り勘だし、安く済んでるから助かってるんだけど。
(鞠莉に頼めば行ってくれないこともないと思うけど、流石に鞠莉の両親に申し訳ないからな)
まぁ、今年の夏は果南と一緒に部屋でグダグダしていよう。そんでもって、存分に甘えることにしようっと。
果南に膝枕をしてもらおう、なんて考えながら住んでいるアパートに戻ると、
「ねぇ、せっかく夏休みになったことだし、プールにでも行きましょうよ!」
いつも通り、果南の部屋に集まって夕食を食べている最中、鞠莉がそう提案してくる。というか、食事中に立ち上がらないで。そうめんの汁が零れちゃうから!
そうそう、今日の夕食はそうめんです。そうめんだけだと味気ないと言って、果南が様々な具も机の上に用意してくれていた。ほんと、いつお嫁に出しても問題ない。
「プールって、最近この辺りにできたおっきなところ?」
果南の問いかけに、鞠莉が元気よく首を縦に振る。だから、汁を入れたお椀を一回置いてから喋ってくれ!
「そうデース! ウォータースライダーや流れるプールもあるみたいで、とっても楽しそうなの! ダイヤも、行って見たいと思わない?」
「別に構いませんけど、私水着を持っていませんわよ?」
「そんなの問題ないわよ! ダイヤには私の持っているうちの一つを貸してあげるから!」
得意げに鞠莉はウインクを決めるが、俺は一抹の不安を覚えていた。ダイヤ姉さんにばれないよう、彼女のバストサイズと鞠莉のバストサイズを見比べる。
……うん。ダイヤ姉さんが鞠莉のをつけたら、絶対にぽろりするな。間違いない。
「……祥平ってば、ダイヤのどこを見てるの?」
「べ、別に、ダイヤ姉さんのサイズが小さいだなんて思ってないぞ!」
「私、そんなこと質問してないんだけど……。ダイヤに聞かれた怒られるんじゃない?」
「きっとブチ切れられるだろうな。でもそういうのって、鞠莉の仕事だから」
「それを言われて否定できない自分がいる……」
果南が遠い目で呟いているところに、
「あっ! でも私のサイズじゃ、ダイヤの小さいお胸がコンニチワしちゃうわね! 鞠莉ってばうっかり♪」
「なぁっ!? ま、鞠莉さん……あなた、言ってはならないことを言いましたわ」
期待を裏切らないことに定評がある鞠莉さん。今回も無事、爆弾を落としてくれました。お決まりの展開に、俺と果南は耳を塞ぐ。
そして、涙目になったダイヤ姉さんがいつものセリフを叫ぶのだった。
「ぶっぶっぶーー!! ですわ!! 私の胸はそこまで小さくありませーん!!」
暴れるダイヤ姉さんを必死に止める俺と果南。その様子を当事者である鞠莉は、ケラケラと笑いながら眺める。結局、彼女の怒りが収まったのは一時間後だった。
● ○ ●
「……というわけで、水着売り場にやってきました!」
「いやいや、どういうわけだよ!?」
開幕からいきなりぶっ放してくれた鞠莉に、取り敢えずのツッコミを入れる。この人はいつもいつも、突然すぎるんだよな。
さて、水着売り場に来ているわけを説明しておくと、ダイヤ姉さんが静まった後、果南と俺も水着を持っていないと言った為、こうしてショッピングモールの水着売り場に足を運んだというわけである。
女である果南はともかくとして、男である俺は買わざるを得なかったからな。男が女物の水着とか、吐き気しかしない。
そういうわけで、冒頭のセリフに戻るというわけだった。
「んじゃ、理由も説明した事だし、三人で水着を選んでこいよ。俺は外で待ってるから」
「何言ってるのよ? もちろん、祥平も一緒! 女の子だけじゃ、見え方が偏っちゃうかもしれないからね♪」
「いやいや、鋼のメンタルを持っている俺にしても、流石に水着コーナーだけは無理だよ!! 店内の視線がきつすぎる!!」
実際に入ったことはないけど、きっと針の筵状態だろう。そんなところに自ら入ってくとか、自殺行為でしかない。
だからこそ俺は今回、外で見学を申し出たのだ。
「大丈夫よ祥平なら。きっと、周りからは『三股をかけているろくでもない男』くらいにしか見えないと思うわよ!」
「あぁ、それならだいじょ……ぶじゃないわ!! むしろ最悪だよ!!」
とんでもないことを言った鞠莉に全力でツッコむ。こ、この人は……というか、本当にそう思われそうで怖い。
入った瞬間、全力で冷ややかな視線を向けられ、最終的には通報されそうだ。終わるのが早かったな、俺の人生。
「えー、いいじゃない別に。三股男だって思われても。女を連れてない男よりはよっぽどましよ!」
「世間体を気にするんだ俺は! とにかく、絶対に俺はいかないからな。テコでも動かん!」
そう言って俺は、近くにあったベンチに腰を下ろす。いくら果南の水着姿を拝めるからと言って、今回ばかりは大地に根を生やした木の如く、動かないからな。腕を組み、毅然とした態度をとっていると、
「あのね、祥平」
果南が俺の目の前にしゃがみ込む。そして、上目遣いであるお願いをしてきた。
「私も祥平と一緒に水着を選びたいな。だから、一緒に行こ?」
果南さん。あなたはただの天使ですか?
「オーケー。任せとけ果南。そうと決まれば早速出発だ」
「私があれだけ頼んでも応じなかったのに、果南が頼むと即答。ある意味、祥平には感心するわ……」
呆れる鞠莉を放っておいて、俺は水着売り場へと足を踏み入れる。入った瞬間、店内にいた女性の視線が集中した気がするが、そんなの関係ねぇ!
果南達よりも意気揚々と店内を闊歩する変態。酷い光景が広がっていた。
「祥平、開き直るのは構いませんが、もう少し周りに気を遣って下さい! 今のあなたは、変態以上の存在ですよ!」
「変態以上の存在って、それだと俺は犯罪者か何かですか?」
「あながち間違ってはいませんわね……」
そこは嘘でも否定してほしかった……。ダイヤ姉さんの辛辣な一言に祥平艦、見事撃沈。
取り敢えず、いい感じに気持ちも落ち着いたので、こんどは果南達に合わせて店内をうろうろし始める。
「祥平、いい水着が決まったから、早速見て頂戴!」
「もう見つかったんですか?」
鞠莉は本当に決断力があるというか、何というか……。足早に試着室へとかけていった鞠莉を追いかける。
そのまま外で待っていると、カーテンが勢いよく開かれた。
「お待たせ、祥平! 私の水着姿はどうかしら?」
腰に手を当てて、ポーズを決める鞠莉。彼女が着ていたのは大人っぽく、セクシーなビキニだった。彼女の健康的な肢体によく合っている。
シックな黒い水着の上に白いレースがあしらわれており、大人っぽさの中にも子供っぽさを残す、なんとも彼女らしい水着だった。
それにしても……大きい。惚れ惚れしてしまう。
「あぁ、すごく似合ってるよ」
「ぶ~。それだけ?」
「それだけって……んじゃ、おっぱいが大きくて非常に眼福です」
「全く、祥平ってばエッチなんだから♪」
口ではエッチと言っているが、どことなく嬉しそうな鞠莉。こういう部分は子供っぽくて可愛い、鞠莉のいいところだ。
その笑顔を見ていると、こっちまで笑顔になってしまう。はじける様な笑顔をとはまた違う、本当に幸せそうな笑顔。
改めて言っておくと、この人やっぱり可愛いんだよなぁ~。
「祥平の感想も聞けたことだし、私はまた別の水着を探すことにするわね!」
そう言って再び閉じられるカーテン。鞠莉は結構色々こだわりそうだし、一着だけでは物足りないのだろう。
さて、俺はダイヤ姉さんの所にでも行きますか。俺は店内を見渡すと、一つの水着の前でうんうん唸るダイヤ姉さんの姿が目に入る。
「ダイヤ姉さん、いい水着は見つかりましたか?」
「はひゃぁ!?」
いきなり声をかけられ、可愛い悲鳴を上げるダイヤ姉さん。よっぽど真剣に選んでいたのか、俺の存在に気付かなかったみたいだ。それにしても、驚きすぎだと思う。
「祥平! あんまり私を驚かせないで下さい!」
「驚かせたつもりは全くないですけどね……。ところで何を見ていたんです?」
「えっ!? そ、それは……」
きょろきょろと落ち着かない視線の先には、チューブトップタイプのビキニ。色はワインレッドと、ダイヤ姉さんにしてはなかなか派手なものを選んでいるという印象だ。
しかし、似合わないということはなく、むしろ新鮮で可愛いと思う。なので俺は提案してみることにした。
「ダイヤ姉さん。その水着、一回来てみたらどうですか?」
「で、ですが、このような派手な水着、私にはとても……」
「百聞は一見に如かずってよく言うじゃないですか! 着てみたら意外とって場合もありますから、取り敢えず着てみましょう!」
渋るダイヤ姉さんを何とか説得して、試着室まで連れていく。最後の最後まで渋っていたダイヤ姉さんだったが、「似合わないと思いますわよ」と言いつつ、ようやく試着室の中に入ってくれた。
(似合わないわけがないと思うんだけどなぁ。だって、素材が抜群にいいわけだし)
ダイヤ姉さんって、胸が小さいことを以上に気にしてるけど、本当は気にするほどじゃない。
前にも言った気がするけど、鞠莉と果南が規格外なだけなのだ。ダイヤ姉さんはいたって普通。
それにダイヤ姉さんはウエストも細いし、足も長い。傍から見れば、彼女も完璧な美少女である。
「い、一応、着替え終わりましたわ……」
自信なさげなダイヤ姉さんの声が、試着室内から聞こえてくる。俺は「それじゃあ出てきてください」というと、ゆっくりカーテンが開かれた。
「……ど、どうでしょうか?」
少しだけ頬を染めたダイヤ姉さんが、上目遣いがちに聞いてくる。そして、俺は言葉を失っていた。
(こ、これは想像以上だ……)
思わず「おっふ……」とため息が漏れる。渋々身に着けたとは思えないほど、彼女は綺麗だった。
ダイヤ姉さんの健康的な白い肌に、ワインレッドの水着がよく映えている。普段の凛々しい顔つきとは違って、頬を赤く染め、羞恥に耐えるその表情。
チューブトップのビキニは肩ひもがない分、セクシーさがより強調されている。その姿はすらっと伸びた彼女の艶めかしい手足と相まって、暴力的なまでの色香を漂わせていた。
「あ、あまり、見つめないで下さい……その、恥ずかしいですから」
もじもじと足をすり合わせ、身体を両手で抱くようにして隠すダイヤ姉さん。これがギャップ萌えということだろうか? 彼女のエロスティックな姿に、思わずゴクッと生唾を飲み込んでしまう。
肉付きのいい彼女の太腿がすり合わされるたびに、まるでしなを作っているようだった。
「しょ、祥平!!」
「はっ!?」
ダイヤ姉さんの大きな声に俺は我に返る。なんか、色々やばいことを考えていた気がするけど……。
取り敢えずダイヤ姉さんの水着姿を見た瞬間から、頭が変に熱っぽくて、ボーっとしていたことだけは覚えている。
「わ、私の水着姿はどうでしたの!?」
頭を押さえていると、ダイヤ姉さんがやけくそ気味にグイッと顔を近づけてきた。ちょっと待って。今その格好で顔を近づけないで!! マジで興奮しちゃうから!!
心の中で何度も「俺の好きな人は果南。俺の好きな人は果南」と呟いた後、俺はようやく冷静になる。
そして、もう一度ダイヤ姉さんの水着姿を舐めまわすように……とまではいかないけど、しっかり目に入れる。
「え、えっと、その……滅茶苦茶似合ってます。なんていうか、すごく綺麗です」
恥ずかしくて、顔を逸らしながら感想を言ってしまった。畜生、どうして俺はこういう時ばかりヘタれるんだろう?
ちゃんと目を見て「すごくかわいいですね!」の一言くらい、言えればよかったのに……。恥ずかしさと情けなさに、その場を転げまわりたい衝動に襲われていると、
「ふふっ♪ 祥平は私の水着姿を見て、綺麗だと思ってくれたんですか?」
ダイヤ姉さんの、少しだけ嬉しそうな声が聞こえてきた。逸らしていた視線を元に戻すと、にこにこ微笑む彼女と目が合う。
(ダイヤ姉さんのくせに、ダイヤ姉さんのくせに……)
いつもはポンコツで、少しだけ抜けてるのに、どうしてこんな時ばかり年上のお姉さんみたいになるんだよ!? 俺が年上のお姉さんに弱いと知っての所業かぁ!?
ダイヤ姉さんファンの皆さんには、非常に申し訳ないが許してほしい。俺だって、ダイヤ姉さんがこんなに可愛いとは思わなかったんだ!!
しかし、ここで何も言わないわけにはいかないので、俺は「嫁は果南。嫁は果南」と念仏のように言葉を繰り返し、改めて顔を上げる。
心臓がばっくんばっくんと、ダイヤ姉さんに聞こえるんじゃないかって思うほどうるさい。
「そうですよ! 俺は今のダイヤ姉さんを見て、滅茶苦茶綺麗だって思いました。というか、誰が見てみんな綺麗だっていうはずです! だから自信持ってください!!」
今度は俺がやけくそ気味に叫ぶ。そんな俺を見たダイヤ姉さんは、満足そうに頷いた。
「それじゃあ、私はこの水着を買うことにしますわね。なんてたって、祥平のお墨付きですから♪」
パチッと、鞠莉さながらのウインクを決めるダイヤ姉さん。おかげでまた心臓がときめいてしまった。
複雑な気分になりつつ、ダイヤ姉さんが着替えるというので、その場を離れる。
ふぅ、色々あったけどこれで残るは果南だけだな。正直、もうお腹一杯である。しかし、好きな人の水着を選ぶだなんてイベント、今後一切来ないと思うので、ちゃんと見届けなくては……。
「あっ、祥平! 私も水着を選び終わったから、見てほしいな?」
探さなくても、果南の方からきてくれました。なんてできた嫁だろう? まだ結婚どころか、付き合ってもないけど……。
「大丈夫だぞ、果南。こっちも残りは、果南の水着を選ぶだけだから」
「そうなんだ! ちなみに、鞠莉とダイヤの水着はどうだったの?」
「……可愛かったよ」
「むっ……。最初の間は一体何?」
少しだけ返答に時間を空けたら、すぐにツッコまれました。
これじゃあ、結婚しても隠し事なんて絶対にできないだろう。まぁ、結婚どころか(ry。
「何でもないから、気にしないでくれ! それよりも、俺は早く果南の水着が見たい!」
ぶーぶー文句を言う果南の背中を押し、何とか試着室の目の前まで連れていく。
「取り敢えず着てみるけど、さっきの件は家に帰ってから、しっかり聞かせてもらうからね?」
「お、オーケー、オーケー……」
死ぬほど下手くそな笑顔で手をふると、ようやく果南は水着を手に、カーテンを閉めてくれた。
あ、危ない危ない。もう少しで果南がヤンデレるところだったぜ。まぁ、危機は去っていないんだけど……。今から言い訳を考えておかないといけないな。
俺が今日帰ってからの言い訳を考えていると、
「ね、ねぇ、祥平。ちょっといい?」
試着室の中から果南が声をかけてくる。その声は、少し恥ずかしがっているようにも聞こえ……。
「ん? どした?」
「えっと、その……水着のホックがうまく止められなくて。だ、だから、中に入って止めてほしいな」
………………はいっ!?
「か、かか、果南さん!? そそそそ、それは本気で言ってらっしゃいますか!?」
テンパり過ぎて口調がおかしくなった。取り敢えず、冗談であってほしい。というか、冗談じゃなきゃ困る。
こんなラノベみたいな展開、俺は望んじゃいないんだ!!
「そ、そうだ! 鞠莉かダイヤ姉さんを呼んで来ればいいんだ! そしたら万事解決。よしっ、そうと決まれば早速――」
強引にその場から離脱を計った俺だったのだが、右手がとんでもない力で掴まれる。あぁ、これはあかんやつや。
覚悟を決めて俺は彼女の方へと向きなおる。
「祥平じゃなきゃ、いや」
頬を真っ赤に染め、子供のような我が儘を口にする果南。そんな彼女のお願いを、俺が断れるわけがない。
「わ、分かったよ……」
そうして俺は、試着室という極めて狭い空間内に足を踏み入れるのだった。
● ○ ●
「…………」
「…………」
入った感想。
狭い。店内よりも少しだけ暑い。とっても気まずい。あと、なんかいい匂いがする。あっ、果南の匂いだった。何と芳醇な香り……申し訳ないですが、頭の思考回路が完全にショートしております。
この感じは、果南と旅行先で温泉に入った時以来だ。あの時は二人とも全裸だったが、今は俺が完全着衣。果南は下が今日はいてきたショートパンツ、上が裸となっていた。
ちなみに、上のビキニは首だけ紐でくくられており、あとは本当にホックを止めるだけになっていた。健康的な白い肌の背中が眩しい。……というか、何なんだよこの状況!? 冷静に考えると、酷いにもほどがあるぞ!?
「そ、それじゃあ、お願いします……」
緊張気味な果南の声に、俺の思考は現実世界へと引き戻される。ゆ、夢なら良かったのに……。
「お、お願いされました」
どもりつつ、俺はまず果南の背中を見る。
相変わらずシミ一つない、瑞々しく、美しい背中。とても子供のころから海に入って遊んでいたとは思えない。もはや奇跡である。
(んなことはどうでもいいとして、水着のホックはこれでいいのか?)
脇辺りにプラプラしていたホックを指でつまむ。すると果南が、俺の方に顔だけ振り返ってきた。
「しょ、祥平……優しくしてね?」
少しだけ潤んだ瞳に、上気した頬。色々と想像してしまう、そんな甘い言葉。
「…………ちょっとタンマ」
俺は一度水着のホックから指を離すと、顔を覆いながらその場にへたへたと座り込む。
「ちょ、ちょっと!? どうしたの祥平?」
果南は焦っているようだが、もちろん理由なんて言えない。あえて言うとしたら、とある事情で立っていられなくなったというべきか……。
「大丈夫だよ。後少ししたら元に戻るから」
「元に戻る? 一体何のことを言ってるの?」
「深く考えないでほしいです……」
しばらくしゃがみ込んだのち、俺は頬をぱんぱんと叩いて気合を入れる。
こんなことでいちいち動揺していては、ホックをつけるのなんて一体いつになるか分からない。
「よしっ! もう大丈夫だから、もう一回前を向いてくれない?」
「う、うん」
果南がもう一度、視線を前に向ける。俺も興奮を抑えつつ、水着のホックをもう一度指でつまんだ。
(この端と端を合わせるだけだ。何も難しいことはない。平常心、平常心)
心の中で念仏と唱えるがごとく、物々呟きながら俺は摘んだホックを少しだけ引っ張る。
「んぁんっ……」
「っ!?」
聞いてるこっちが、恥ずかしくなるような声をあげる果南。平常心があっという間に崩れ去り、心臓がバクバクと狂ったようになりだした。
「な、なんて声出すんだよ!?」
まともな思考が、もう半分ほど焼き切れてしまったが、幸いにしてまだ理性は若干残っていたらしい。
俺は抗議の声を果南に向かってあげる。
「だ、だって、祥平がいきなりホックを引っ張るから。こすれちゃって……」
恥ずかしそうに果南が身体をよじる。いじらしくも、情欲を掻き立てるその仕草。彼女の首元を汗が流れていくだけで、身体中に熱い血が駆け巡る。
「じゃ、じゃあ、今度はゆっくり引っ張るな」
「わ、わかった」
冷静に答えたつもりだが、俺はもう限界に近かった。誰かに見つかるかもしれないという緊張感と、試着室でこんな事をしているという背徳感が二人の興奮をより一層煽る。お互いの身体は、信じられないくらい熱っぽい。
(早く、終わらせよう。俺は今、水着のホックを止めるだけの機械だ)
僅かに残った理性を総動員し、俺はホックの端と端を重ねにかかる。
しかし、緊張で震える手では、なかなかうまく重ね合わせることができない。
「んんっ……ぁん……」
俺が手間取るたびに果南の口から艶めかしい声が漏れ、身体がピクッと反応する。
声を抑えようと口に手を当てているものの、完全に逆効果だ。手の隙間から僅かに漏れる声が理性の糸を痺れさせる。
その後、何とかして水着のホックを止め終えたのだが、お互いの興奮はピークを迎えていた。
「……はぁ、はぁ」
背を向ける果南の耳は真っ赤に染まり、吐き出す吐息が妙に色っぽい。それは俺も同じで、さっきから緊張感と興奮で、頭がまともに働いていなかった。
更にホックを止め終えた後も、彼女から立ち上る甘い香りが、ゆっくりと残った理性を蝕んでいく。
本来ならここで試着室を出ればよかったのだが、足が張り付いたように動かない。
「祥平、水着を見てほしいからそっち向くね」
そう言って、果南が俺のいる方向へと向きを変える。
「どう、かな?」
振り返った彼女が着ていた水着は、白い生地に小花模様のフリルがあしらわれている、可愛らしいビキニだった。
普段、あまり身に着けないような可愛い水着は、彼女の持つ、また違った魅力を引き出してくれている。
「すごく、似合ってるよ」
俺がそう答えると、彼女はニッコリと笑顔を浮かべた。
しかし、彼女がビキニを見せていたのは、ほんの僅かな時間だけ。
「……ごめん、祥平」
一言謝ってから、果南が俺の首に腕をまわして抱き付いてくる。
彼女の上半身は水着しか身に着けていないため、体温や柔らかさがほぼダイレクトに伝わってきた。
火照った身体が絡まり合い、それがさらに興奮を引き起こしていく。嫌な暑さじゃない分、余計に悩ましい。
そんな果南を避けることなくしっかり受け止めると、俺はその身体を強く抱き締めた。
「……祥平も同じだったの?」
彼女の問いかけに、俺は抱き締める腕を緩めずに答える。
「……当たり前だろ。好きな女の子とこんな状況。興奮しないわけがないんだ」
いつもの日常ではありえないような状況で、目の前に大好きな女の子がいる。
そんな状況で興奮しないやつがいるとすれば、多分そいつはホモか、よっぽど感情の起伏に乏しいやつだろう。
俺の言葉を聞いた果南は嬉しそうに微笑むと、今よりもさらに自身の胸を押し当ててきた。
豊満な彼女の胸が、俺の胸板辺りに押し当てられ、ふにょんと形を変える。
「うん、そうだよね。私も同じ。さっきから身体の奥がすっごく熱くて、どうにかなりそう……。私の身体、おかしくなっちゃったのかな?」
ゾクゾクするくらい官能的な声。俺の理性が完全にぷつっと焼き切れた。
「何もおかしくないよ。……俺だって同じだから」
そう言って俺は、果南の唇を乱暴に奪う。そのまま彼女の唇を強引にこじ開けると、無理やり咥内に舌を侵入させた。
駄目だとは思っているが、壊れた理性ではもうどうすることもできない。
「っ!? ……んむっ……んちゅ」
突然のことで目を見開いていた果南だったが、すぐに俺の舌を受け入れると、丹念に自身の舌と絡ませ始める。
時に激しく、時に優しく、強弱をつけながら舌を動かしていると、果南の顔がうっとりとしたものに変わっていく。
その表情は俺の興奮をさらに高めるには、十分すぎるほどだった。
「んぁっ……、んぐっ、ぁん……」
蕩けてしまいそうな彼女の表情。頬は朱に染まり、快感を求めて一生懸命に舌を動かす果南に、いつもの清楚な雰囲気はどこにもない。
一人の女として俺を求めるその姿は、言葉にならない快感を身体の奥底から引き起こし、俺は夢中になって舌を動かす。
(だめなのに、こんな場所で。だけど……もぅ、むり)
果南もまた、祥平と同じく熱いキスの虜となっていた。
自分から求めるように舌を絡ませる。
だけど祥平は、私以上に激しく舌を動かしてきた。変則的な舌の動きにどうすることもできず、ただただ、それを必死に受け止めるしかない。
(だけど、不思議。祥平に口の中を舌で蹂躙されるのが、こんなにも気持ちいいだなんて……)
二人の唾液が咥内で混ざり合い、無意識に喉が動く。気づくと瞳には、涙が浮かんでいた。
舌同士が絡まり合うたびに身体がビクッと反応し、びりびりとした快感が身体中を駆け巡る。
「んっ、れろっ……んちゅっ、んぁん……」
祥平の目は既にいつもの優しさを失い、獲物を見つけた猛獣のようにギラギラとした光を放っていた。
一方的に咥内を刺激され、私はなすすべがない。快感から逃れるようにして目を瞑る。
だけどその事実がより一層、私の興奮を高める要因となっていた。
(私、祥平に無理やりされるの、すごく好きかも……)
多分祥平以外なら、もの凄い嫌悪感を抱いていただろう。だけど、祥平だから……。
「ぁんっ……んぐっ……れろっ、むちゅっ……」
私はこんなにエッチになってしまう。
膝がガクガクと震え、力がうまく入らない。
キス以外にも、さわさわと首元を触られたりして、私はあられもない嬌声をあげてしまいそうになる。
そのたびに祥平は乱暴に私を引き寄せ、口から出る嬌声をキスで塞ぐ。
年下の祥平に好き放題されているという、普段との激しいギャップ。
私はそれを意識するたびに、猛烈な快感に襲われていた。
(だめっ、もう立っていられない……)
私は祥平に体重を預けるようにして、僅かに汗ばんだ身体を密着させる。
二人の鼓動が、爆発するんじゃないかと思うくらいに混ざり合った。
年下の男の子に無理やりディープキスされて、興奮しているなんてものすごくはしたない。
だけど身体はもっと滅茶苦茶にされたいと、言葉にならないシグナルを発している。
もっとしたい、もっとされたい……。心の奥がキュンキュンと疼く。それに、
(祥平、気付いてないのかな……)
自己主張の激しくなった部分が密着した影響で、私の太もも辺りに押し付けられていた。
ショートパンツ越しでさえ、その部分の持つ圧倒的熱量が伝わってくる。
それだけでおかしくなりそうだった。
「んぁん……ねぇ、祥平」
何とかして唇を離す。そして視線を、彼の腰よりも下に移して言った。
「そこは、大丈夫なの?」
祥平も、すぐに言葉の意味を理解する。
「大丈夫……ではないな。正直、きつい」
「そっか……。それならさ」
果南の瞳が、淫乱に揺らめいた。
「私が、楽にしてあげようか?」
……何気に凄いことを言われた気がする。
こんな状況で、しかもこんな場所で……。だけど今の俺に、まともな理性なんて働いちゃいない。
「……楽にしてほしい、かな?」
考えるよりも先に、首が縦に動いていた。
「うん。分かった。それじゃあ、すぐにしてあげるね?」
唇に人差し指を当て、妖艶に微笑む。
そして果南の手がズボンをおろそうと、ゆっくり降下し始めた。俺はその様子を、熱っぽい頭のまま見守るしかない。
彼女の細くて綺麗な手が、とても卑猥に見えてしまう。
もう少しでズボンが下ろされる……まさにその瞬間だった。
「お客様~。一応ここはお店の中なのでもう少し遠慮していただけませんか?」
『っ!?』
突然の声、というか、聞き慣れた声に振り返ると、鞠莉がにやにや、ダイヤ姉さんが顔を真っ赤にして、試着室のカーテンから中を覗き込んでいた。
俺も果南も、びっくりしすぎてしばらく動けなかったが、
「うわっ!?」「ひゃあっ!?」
状況を理解し、凄まじいスピードで左右に飛びのく。無くなっていた理性が、ここでようやく戻ってきた。しかし、今更身体を離したところでどうしようもない。
俺は手で顔を覆うと、へなへなとその場に座り込んだ。
「ちなみに、いつから見てた?」
俺が真っ赤な顔で尋ねると、鞠莉が楽しそうに微笑む。
「もちろん、二人が濃厚なキスをしている時からよ! 試着室なのに二人の靴が置いてあって、おかしいなと思ったのよね。それで、ダイヤを誘って覗き込んでみたら……らっぶらぶの光景が繰り広げられてたってわけ!」
「み、見ているこっちが恥ずかしかったですわ。あのような卑猥なキスを、しかもこんな所で……果南さんも祥平も、破廉恥です!!」
「全く、ダイヤが叫ぼうとした時、止めるのが大変だったのよ?」
「何で止めたんだよ!?」
全力でツッコんでしまった。見られていたのには変わりないので、幾分かは諦めもつく。
しかし、なぜダイヤ姉さんの叫びを止めてしまったのか。そこで止めてくれれば、被害も、心の傷も最小限で済んだというのに……。
「それにしても、覗き込んでた私たちに気づかないほど、夢中になっていたなんて……二人とも、どれだけ溜まってたんだか。最後のは流石にやばかったわよ?」
鞠莉のセリフに、お互いの顔が真っ赤になる。
「ち、違う! そもそも誘ってきたのは果南であって――」
「た、確かに誘ったのは私だけど、終始夢中になってたのは祥平の方でしょ!?」
「はぁっ!? バカも休み休み言ってもらいたいね。ものすごくエッチな表情で舌を動かしてたくせに!」
「あれは祥平が無理やりしてきたからじゃん! そ、それに、あんなに大きくして……」
「う、うるせぇ!! 生理現象だから仕方ないだろ!?」
ギャーギャーと、バカみたいな痴話げんかを始める俺たち。そんな俺たちを見た鞠莉とダイヤ姉さんは、心底呆れたような表情を浮かべた。
「祥平と果南って、いつからこんなバカップルになっちゃったのかしら?」
「付き合っていないのにこれでは、付き合ってからが大変そうですね。お二人とも、年がら年中、発情してそうですし」
『そんなことない(よ)!!』
身も蓋もないことを言ったダイヤ姉さんに、俺と果南の声が被る。
「二人とも、発情するのは構わないけど、そろそろ祥平の水着を選びに行きましょう! 早く行かないと、時間が無くなっちゃうからね♪」
「そうですわね。私たちの水着を選ぶだけで、意外と時間がかかってしまいましたから」
「あっ! でも祥平はまだ動けないかしら?」
「余計な気づかいは無用だよ!」
「あらっ? 本当に?」
ありがたい。ありがたいけどね、その気遣い!! しかし、ここでその気遣いを受けてしまっては負けな気がする。
なので俺は、若干前かがみ気味に立ち上がった。
「祥平? お腹でもいたいんですの?」
不思議そうに尋ねてくるダイヤ姉さん。今は彼女の知識のなさに、感謝したいくらいだ。
「…………うぅ」
果南は知識がある、というか現場を目撃したため、顔を赤くしている。一方鞠莉は、
「……今度ダイヤにあの本でも見せてあげようかしら? 厳重に隠されていた、祥平の本を。いくらなんでも、知識がなさすぎるわよ」
何やら、とんでもないことを口にしていた。というか、ちょっと待て鞠莉。どうしてお前があの本の存在を知っているんだ!?
誰にもバレないよう、厳重な場所に隠しておいたのに……。こりゃ、帰って速攻、隠し場所を変えないといけないな。それにしても、
(……今日は水着を選びに来たはずなんだけどなぁ~)
どうしてこうなってしまったんだろう? 俺は心の中で深くため息をつきつつ、歩き出した鞠莉達の後をついていくのだった。
ちなみに、果南はちゃんとつけていた水着を購入しましたからね!
そして、この後宣言通り、俺の水着を選びに行ったのだが……5分とかからず買い物は終了した。まぁ、男なんてそんなもんだよ。
「そういえば祥平。さっきの光景を写真に収めたんだけど、いる?」
「すぐに消せ!!」
「動画もあるわよ?」
「お願いだから、すぐに消せ!!」
読了ありがとうございます。
今回の話は本当に、反省しかありません(だけど後悔はしていない)。最初はみんなでワイワイ、水着を買いに行く話にしようと思って書き始めてたんですけどね……。気付いたら、こんなわけわからん展開になっていました。前書きでも言いましたが、深夜テンションって怖いですね。((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
さて、一通り反省したところで、次回は夏休みプール回になります。次回こそはまともな状態で書こうと思っているので、どうかよろしくお願いします。
そしてお気に入りや、感想等ありがとうございます。これに懲りず、これからもよろしくお願いします。
それじゃあ、また次回!!