お隣さんは幼馴染? ~俺と果南と時々ダイマリ~   作:グリーンやまこう

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 どうも! 始めましての人は始めまして。グリーンやまこうです。
 この度、新作を投稿させていただきました。ヒロインは果南ちゃんです!! しかし、安心してください。ダイマリもガッツリ絡んできますから(笑)。
 基本的には主人公と果南達がわいわいがやがやするだけの話になっていますが、楽しんでいただければ幸いです。

 それでは記念すべき第1話、スタートです!


1話 六年ぶりの幼馴染

 突然だが、少しだけ俺の過去話に付き合ってほしい。

 

 俺の生まれは静岡県の内浦という地域である。町の魅力は海が綺麗で、人が優しいという所。俺はそんな生まれ故郷が大好きだった。

 しかし六年前、俺はとある事情で地元である静岡の内浦から離れ、親父の実家がある浜松に移り住むことになる。詳しい理由は省略させてもらうが、誰にも別れを伝えられなかったのはとても悲しかった。

 

 少しだけ落ち込む俺に、親父は何度も謝ってきた。「事情は言えないんだ。本当にごめん」と。

 

 だけど当時の俺は小学六年生だ。それくらいになれば、ある程度の事情は察することができる。だから文句を言わず内浦を離れることを了承した。

 こんなことになって悲しいのは自分だけじゃない。自分だけ我が儘を言うわけにはいかない。俺は自分の気持ちを押し殺して、内浦からいなくなった。

 

 それからの六年間、移り住んだ浜松での暮らしは良かったと思っている。同じ静岡だけあって、方言や生活もそこまで大きな違いはなかったし、人も優しかった。ま、まぁ、多少なりとも違いはあったけど……。

 それでも、内浦から離れた六年間は凄く、充実した日々を送れていたと感じている。

 

 だけど、俺には一つだけ内浦に心残りがあった。

 

 それは、俺の好きだった人に本当の気持ちを……好きだと言えなかったこと。

 

 彼女が今、どこで何をしてるか、俺自身知りもしない。もしかしたら、かっこいい彼氏を作ってラブラブやっているかもしれない。

 

 でも……それでも俺は、彼女の事が好きだった。

 

 あの時から俺の恋心は途切れることなく、彼女の事を一途に思い続けている。恋の炎は決して消えちゃいない。

 

 俺の心を虜にしてならない、その女の子とはだれか?

 

 彼女の実家はダイビングショップを営んでおり、海のような青い髪が特徴的。

 

 笑顔が誰よりも魅力的で、ポニーテールのよく似合う。そんな女の子の名前は――

 

 

 

 

 

 松浦果南といった。

 

 

 

 

 

● ○ ●

 

「いやー、ここがこれからの4年間、苦楽を共にするアパートか!」

 

 静岡県浜松市から、電車を乗り継いでおよそ5時間。

 キャリーバックをガラガラとひきながら、やっとの思いで辿り着いたマンションは、俺を歓迎してくれるかのようにそびえたっている。

 

(それにしても、たまたまこのマンションの1部屋が開いていてよかった。他の所はほとんどいっぱいで入れなかったし)

 

 空いている部屋がなかなか見つからず、転がり込むようにして入ったのがこのアパートだ。元々四部屋しかなく、他三つがすでに埋まっていたため、他の人が入りにくかったらしい。大家さんからそう聞いた。今回はそれが功を奏した結果といえるだろう。

 

 しかし、駅まで少し時間がかかるというのが唯一の欠点だ。まぁ、その分家賃は安いので問題ない。

 

(大家さんに挨拶は済ませてるし、引っ越し屋さんは明日来るから……取り敢えず、他の三人と仲良くなるところから始めよう)

 

 地元の駅でうなぎパイを買ったのだが、その袋をもう一度しっかりと握り締める。

 

 親父にも言われてるからな。第一印象と、貢物は、仲良くなるうえで大事だって。ちなみに、俺の部屋は101号室。

 キャリーバックを自分の部屋の前に置いてから、取り敢えず横の102号室に向かう。

 

「今日からこちらに引っ越してくることになりました、二宮祥平(にのみやしょうへい)です。よろしくお願いします」

 

 柄にもなく緊張している俺は、扉の前で何度も練習を繰り返す。やっぱり最初が肝心なので、どうしても緊張が取れない。

 たっぷり五回ほど、自己紹介の練習を繰り返した後、俺は意を決してインターホンを押す。

 

(これで誰もいなかったら拍子抜けだけど……)

 

 少しだけ心配になったが、

 

「はーい!」

 

 部屋の中から返事が聞こえ、胸を撫でおろす。ご在宅みたいで、よかった良かった。それにしても、ここの住人さんは女の人か。

 可愛くて、美人だったら嬉しい……まぁ、そんな都合のよい展開、あり得るわけがないんだけど。

 

「どちら様ですか?」

 

「あっ、こんにちは! 俺、今日からこちらに引っ越してきた二宮祥平です。よろしくお願いします!」

 

 挨拶をして、俺は頭を下げる。しかし、相手のほうから挨拶が返ってこない。

 

(あ、あっれ~? おかしいなぁ……ここで挨拶が返ってきて、うなぎパイを渡す予定だったんだけど)

 

 不安になった俺は顔を上げ、住人さんの顔色を確認する。しかし、その顔色を確認する前に、俺は声をあげてしまった。

 

「も、もしかして……果南!?」

 

「やっぱり!! 祥平だよね? 久しぶり!!」

 

 目の前で笑顔を浮かべるのは、幼馴染の松浦果南だった。

 

 

○ ● ○

 

 

「うわー、本当に果南だ! 6年ぶりの果南だ!!」

 

 俺は思わず、果南の顔やら髪やらをペタペタと触る。いきなりの事だが許してほしい。それくらい、この再開はイレギュラーであり、突然だったのだ。

 

 うーん、それにしてもほっぺたはやわらかいし、髪の毛はサラサラだし、爽やかだけど、女の子っぽい匂いも漂ってくるし……。ほんと月日が経って女性っぽくなったなぁ。

 傍から見ればセクハラそのものなのだが、果南はこれくらいじゃ怒らない。……はずだよね?

 

「ちょっと驚き過ぎじゃない? 人を天然記念物のような目で見て……それに、人の顔をペタペタと」

 

 呆れたような声を出すものの、本気で怒っているわけではないらしい。

 ふぅ、六年ぶりだから心配してたけど、性格も昔のままみたいだし、変わっていなくてよかった。

 

 ひとしきり果南の顔と髪の毛と匂いを堪能した俺は、再び彼女と向き合う。

 

「……改めて、久しぶり果南。すごく、綺麗になったね」

 

「うん、久しぶり祥平。祥平こそ、大人っぽくなっててびっくりしちゃった」

 

 ニッコリ笑顔を浮かべる果南は、昔と何も変わっていない。今のセリフだってきっと、お世辞くらいにしか受け取っていないのだろう。

 

「なぁ、果南。久しぶりに『アレ』、やってほしいんだけど?」

 

 そんな果南を少しでも意識させたいため、内浦で一緒だった時よくやってもらったことを彼女に要求する。

 

「えっ!? この年になってアレやるの?」

 

「もちろん! アレに年なんて関係ないからな。さぁ、果南。早く早く!」

 

 若干戸惑う果南に、俺は躊躇なく腕を広げる。

 

「仕方ないなぁ……祥平にだけ、特別だよ?」

 

 特別……なんて甘美な響きなんだ。俺は果南の特別、特別……。

 

「なんか祥平の顔がおかしい気がするけど……まぁいいや。じゃあいくよ~」

 

 そう言って果南は……俺の体をハグしてきた。こ、これが六年ぶりの果南……。

 

「はぐ、はぐぅ♪」

 

 俺の体をハグする果南はなんだか楽しそう。一方、俺は少しだけ面食らっていた。

 

(ま、まずい。果南が大人っぽくなったとは思ったけど、この感触は想定外だ!)

 

 現在、俺は果南の胸に引き込まれるような形でハグを受けている。つまりこの体勢は、果南の胸を顔全体で味わっていることになり……。

 

(あぁ、これが桃源郷≪ユートピア≫ってやつか……。果南の胸に抱かれて死ねるなら、俺も本望だよ)

 

 温かくて、いい匂いがして、何よりやわらかい。小学生の頃もこうしてハグされていたけど、あの時とは何もかも違う。

 くっ、俺が果南を意識させる予定だったのに、逆に色々と意識させられちまっている。

 

 ちなみに、俺は果南に対してため口で話しているけど、果南のほうが一年先輩だ。それじゃあ、どうしてため口で話しているのか。

 もちろん、幼馴染だってこともあるけど、子供のスケベ心が原因だってのもある。

 

(・8・)

 

果南小5 俺小4

 

『おーい、果南! 遊びに行こうぜ!』

 

『また、呼び捨て……私のほうがお姉ちゃんなんだよ?』

 

『だって、果南はお姉ちゃんっぽくないんだもん!』

 

『そうやって、悪いこと言う祥平にはこうしちゃうぞ!』

 

 果南はケラケラ笑う俺を捕まえ、胸の中に引き込んだ。いわゆるハグってやつ。

 

『どうだ~?』

 

『……ぜ、全然平気だよ。果南って、意外と力弱いからな』

 

『むぅ……それなら、もっと強い力でハグしちゃう!』

 

 さっきよりも強い力でハグされる俺の体。ここまでくれば、俺が果南にため口を使う理由が分かるだろう。

 

『ハグ、ハグッ♪』

 

『……ふへへ』

 

 俺は果南にハグされたいがために、ため口を使っていたのだった。

 ……そこの君。変態とか言うの禁止。果南が断ってないんだから、それでいいのだ。

 

(・8・)

 

 今思い返すと、無茶苦茶な理由でため口を使っていたもんだ。

 果南の事が好きで、ハグしてほしいからため口を使う。小学生だからできる技だな。まぁ、今もこうしてハグしてもらってるから何とも言えないんだけど。

 

(それにしても、果南の胸、大きいなぁ……。昔から背も高かったし、スタイルもよくなるだろうなとは思ってたけど)

 

 成長のし過ぎは、男にとってマイナスの影響を与えるので注意が必要です。現に、目の前でハグされている男子は、下心にまみれているからな。

 

「か、かか、果南さん……あなた、一体何をしているのですか!?」

 

 果南の胸を体感している俺の耳に、女の人の声が聞こえてくる。どうやら、このマンションの住人らしい。

 バサッという音もしたので、恐らく買い物から帰ってきたのだろう。

 

(畜生、今ちょうどいいところだったのに……)

 

 果南との空間を邪魔され、俺は少し不機嫌になる。しかし、果南は果南で驚くような素振りは見せない。

 

 こんな状況を知っている人に見られれば、多少なりとも焦ると思うんだけど。もしかして同じマンションだし、相当仲良くなってるのかな? ……これが男なら問答無用で戦争だけど。やばい、嫉妬の炎が燃え盛り始めている。

 

「あっ、ダイヤ! お帰り~」

 

「はいはい、ただいま……じゃありませんわ!! 家の目の前で男性と、は、ハグなどと……破廉恥ですわ!!」

 

 胸に顔を埋めているため顔は確認できないが、彼女は相当ご立腹のようだ。顔を真っ赤にして叫ぶ姿が目に浮かぶ。というか、今さっきダイヤって言ったような……。それに、この口調も知っている気が……。

 

「そんなに怒らなくても大丈夫だよ。だって、私がハグしてるの祥平だから。ほらっ、祥平。ハグはお終い。顔上げて!」

 

 果南の要求に仕方なく顔をあげる。後、もう一時間は体験していたかった……。しかし、顔をあげて住人さんを確認したかったのも確かである。

 

「しょ、祥平!? 果南さん、祥平ってまさか!?」

 

「そう、そのまさかだよ。じゃ、祥平。自己紹介して」

 

 俺は顔をあげて、新たな住人さんと向き合う。

 

 エメラルドグリーンの瞳。さらさらと風になびく艶のある黒髪。口元にあるほくろもあの時と変わっていない。俺はそんな大和撫子美人さんに、ニッコリと微笑む。

 

「お久しぶりです、ダイヤ姉さん」

 

 そこには俺の幼馴染の一人、黒澤ダイヤが信じられないというような目で俺を見つめていた。

 

 

○ ● ○

 

 

「ダイヤ姉さん? おーい、ダイヤ姉さん」

 

 しかし、俺の自己紹介に無反応のダイヤ姉さん。どうやら、いきなりの事すぎて魂が抜けているらしい。

 

「あらら……ダイヤってば、びっくりしすぎて固まっちゃってるよ。ちょっと待ってね、すぐ起こすから」

 

 そう言って果南が、ダイヤ姉さんの耳に顔を近づける。いいなぁ~。俺も果南にあんなことをされたい。

 バカな事を想像している俺を他所に、

 

「ダイヤ、今この辺りに絢瀬絵里さんがいるんだって」

 

 果南がダイヤ姉さんを覚醒させる? 言葉を囁く。あんな言葉で本当にダイヤ姉さん、目覚めるのだろうか? というか、絢瀬絵里って誰? 

 しかし、俺に心配は杞憂に終わった。

 

「何ですって!? エリーチカがこの辺りに!? 果南さん、そうと分かれば早速向かいますわよ! それで、場所はどこです!?」

 

 おいおい、本当に覚醒しちまったよ。しかも、かなりハイテンションになっている。どういうことだよ一体。

 

「ほらね? 起きたでしょ」

 

 ドヤ顔の果南。どんな顔をしても果南は可愛い。

 

「ほらねって……ダイヤ姉さん、どうしたの? 病気?」

 

「ま、まぁ、あれは一種の病気みたいなものだね……」

 

 エリーチカ、エリーチカと騒ぐダイヤ姉さんを見ながら果南が遠い目をして呟く。

 確かに事情を知ってても、知らなくても、今の彼女は病気以外の何物でもない。

 事実、俺はダイヤ姉さんを見て恐怖を覚えていた。え、エリーチカ教っていう変な宗教じゃないよね? 俺、勧誘されないよね?

 

「ダイヤ、落ち着いて。エリーチカがいるってのは嘘だから」

 

 果南が躊躇なく、ダイヤ姉さんの脳天に手刀をおろす。それをくらって涙目のダイヤ姉さん。なにこのショートコント?

 

「はっ! わ、わたくしは今何を?」

 

「思い出さないほうがいいよ。それより、ダイヤも祥平に挨拶して」

 

 壊れていたことをしれっと流して、果南が挨拶をするようダイヤ姉さんに促す。

 

「少し釈然としませんけど、まぁいいですわ。……お久しぶりですね、祥平」

 

「はい、お久しぶりですダイヤ姉さん。それにしても、果南と一緒で大人っぽくなりましたね!」

 

「お世辞は結構ですのよ?」

 

 なんて言いながら口元が緩むダイヤ姉さん。相変わらず、分かりやすくて面白いなぁ。

 

「それにしても……6年たったのに、相変わらずわたくしの事はダイヤ姉さんなのですね」

 

「そりゃ、姉さんは姉さんですから」

 

「ぶっぶー! ですわ!!」

 

 特徴的な擬音と共に、ダイヤ姉さんが怒りをあらわにする。勢いだけなら、その場にバッテンマークを特殊召喚できそうだ。

 

「前から、わたくしの事も”ダイヤ”と呼べ、そう言っているじゃありませんか! それなのに、どうして祥平はダイヤ姉さんと呼び続けるのです!?」

 

「そんなの決まってるじゃないですか。面白くて可愛いからですよ。怒っている姿が」

 

 俺の言葉に、一瞬ポカンとしたダイヤ姉さん。しかし、あっという間に顔が真っ赤になる。瞬間湯沸かし器かな?

 

「ぶっぶっぶー!! ですわ!!」

 

 今度は、バッテンマークが二つほどシンクロ召喚できそうな勢いで、ダイヤ姉さんが叫ぶ。全く、これだからダイヤ姉さんいじりはやめられない。このアトラクションは面白すぎる。

 

「昔から祥平は私の事をいじって楽しんで……私は一応あなたより年上なのですよ!? それなのに……ガミガミ、ギャーギャー!」

 

 お説教をし始めたダイヤ姉さんを俺は微笑ましげに、そんな俺を果南は呆れたように見つめる。

 やめて果南。そんな目で見ないで! ……ゾクゾクしちゃうから! しかし、その状況を一発で変えてしまう、そんな第三者が現れた。

 

「うーん……これはダイヤと同じくらいかしら」

 

 いきなり俺の胸が、何者かによって鷲掴みにされる。胸を揉まれた俺が女ならば、可愛い悲鳴の一つでもあげたところだ。しかし、生憎男の悲鳴に需要はない。

 その為、俺はジト目で災いの元凶に視線を向ける。

 

 まぁ、こんなことをする人なんて万が一にもあの人以外ありえないので、見なくても分かるんだけど。

 それに、果南とダイヤ姉さんがいる時点で、何となくこの人もいるんだろうなとは思っていた。

 

「えっと、何をしてらっしゃるのですか? 小原さん?」

 

 少し怒ってますと言う意味を込めて、彼女名前を名字で呼ぶ。しかし、彼女は全く気にしていないようだ。「シャイニー!」とか言ってるし……。

 

 無駄にウインクが決まっているため、余計に腹が立つ。美人はやっぱり敵である。あっ、果南は別だよ。果南の可愛さは治外法権だから。

 

「ノンノン! マリーよ、マリー!! リピートアフターミー! マリー!」

 

「……それで、小原さん。あなたはどうしてこんなところに? そして、どうして俺の胸を揉んでいるんですか?」

 

 しつこいマリー推しを無視して、俺は彼女に質問をぶつける。

 

「全く、少し見ない間に随分とクールになってしまったわね。マリー、悲しい」

 

 駄目だ、一ミリたりとも話が先に進まない。昔はもう少し話の通じる人だったんだけど。

 やっぱり、時というのは人を変えてしまうんだな。あっ、果南は別だよ。果南に関しては、時の流れがいい感じに彼女を、女の子から女性へと押し上げてくれたから。

 しかし、このままではどうしようもないので、俺は仕方なく彼女に屈する形になる。

 

「はいはい。分かりましたよ。……鞠莉。これでいいですか?」

 

「うーん、発音と、敬語なのが気になるけど、一応オッケーよ」

 

 名前を呼ぶと、マリーは満足げに頷く。ほんと、何考えてるか分からんなぁ、この人。

 

 ちなみに俺は鞠莉に対して、昔から敬語を使っている。理由は先ほど言った通り、鞠莉の考えていることが読めないからだ。

 たまに真面目な時もある。しかし、基本的にはめちゃめちゃな人なので……。えっ? ダイヤ姉さんにも敬語を使っているじゃないかって? あの人は例外だよ。

 理由はもちろん、そっちの方が面白いから。尊敬はしてるから許してね。

 

「というか、いつまで俺の胸を揉んでいるんですか?」

 

「あら? 人の胸を揉むのに理由は必要かしら?」

 

 かっこいい事言っている感じだが、実際は何もかっこよくない。だけど、分からなくもない。

 

「確かにそうですね。俺も果南の胸を揉めって言われたら、理由もなく揉みますから」

 

バシッ!

 

 後頭部に衝撃が走る。振り返ると、頬を少しだけ赤く染めた果南が俺を睨んでいた。胸を腕で隠すように体を抱いている。

 うーん、恥じらってる果南も最高だな。

 

「二人とも、そろそろおやめなさい。鞠莉さんも祥平から離れて」

 

 見かねたダイヤ姉さんが助け舟を出す。

 なんだかんだ言って、ダイヤ姉さん、めちゃくちゃ優しい人だからな。困った時、助けを求めるのはいつもダイヤ姉さんだし。

 

「Oh! ダイヤってば、嫉妬してるのね。だけど、問題ナッシングよ! 世の中にはスモールサイズのほうが萌えるって人もいるらしいから!」

 

「おだまらっしゃい!!」

 

 あぁ……せっかく解放されると思ったのに。鞠莉はいろんな意味で期待を裏切らないよな。

 真っ赤な顔をして怒るダイヤ姉さん。言葉には出さないけど、気にしてるんだろう。果南と鞠莉はかなり大きいし。

 

 そう思いつつ、ダイヤ姉さんのおっぱいを眺める。……うん、あの二人と比べちゃいけないな。

 

「あなた、どうして私の胸を見ているんですの?」

 

 やばい、ダイヤ姉さんの顔が憤怒に歪んでいる。女の子がそんな顔しちゃいけません!

 

「い、いやだなぁ……俺はダイヤ姉さんの胸なんて見ていませんよ?」

 

「私の胸は視界に入らないほど小さくありませんわ!!」

 

 激高するダイヤ姉さん。理不尽にもほどがある。これがいわゆる逆ギレというやつか……。

 

「ダイヤ……意外と気にしてたんだね」

 

 果南が悲し気に呟く。

 姉さんに届かないような声量で呟くあたり、多少なりとも気を遣っているのだろう。

 

「何だ、ダイヤ。気にしてたんなら、言ってくれればよかったのに!」

 

 そして、鞠莉は相変わらずだった。果南の半分でもいいから気を遣ってほしい。火に油を注がれたダイヤ姉さんはもちろん、

 

「鞠莉さん……そこに正座しなさい!! 後祥平も!!」

 

 般若のように顔を歪ませるのだった。俺は完全にとばっちりですね分かります。

 

 

● ○ ●

 

 

「ふぅ……今はまだ荷物も少ないし、こんなもんか」

 

 俺は部屋を見渡して息を吐く。ダイヤ姉さんから実に30分にも及ぶお説教から解放された後、取り敢えず部屋に入り、荷物の整理をしていたのだ。

 ただし、冷蔵庫やベッドやらは全て明日届く予定なので、本格的な荷物の整理はまだまだである。

 

「おっと、もうこんな時間か!」

 

 俺はスマホで時間を確認して声を上げる。実はこの後、引っ越し祝いと称して果南達が手料理を振る舞ってくれるのだ。

 

(それにしても、果南の手料理かぁ……仮にまずくても文句は言わん)

 

 美味しいか美味しくないかが問題じゃない。果南が作るか作らないかが問題である。この際、果南の料理で失神しても一向にかまわん! 

 色々と覚悟を決めた俺は、果南の部屋へと歩いていく。まぁ、歩くと言ってもすぐにつくんだけど。

 

「お邪魔しまーす!」

 

 一応、挨拶をして中に入っていくと、既にダイヤ姉さんと鞠莉が机の前に座っていた。

 

「遅いわよ祥平! レディを待たせるだなんて、あなたはとんだあんぽんたんね!」

 

 いきなりあんぽんたん呼ばわりされイラッとする。それに、俺は一分も遅れちゃいない。鞠莉達の準備が早すぎるのだ。

 

「はぁ……ちょっと、手を洗ってきますから」

 

 反論するのも疲れるだけなので、俺はこの場から一時退場することにする。

 

「分かったわ! しっかり手をウォッシング! してくるのよ」

 

「ちょ、ちょっと鞠莉さん! 今は――」

 

「気にしなーい、気にしなーい! ほらっ、祥平。さっさと行ってきなさい!」

 

 何やらダイヤ姉さんが焦ったような声をあげていたが、面倒なので後回しだ。俺はそのまま洗面所へと向かう。

 

 そして、閉まっていた洗面所への扉を横に勢いよくスライドさせた。

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

 

 

 そこには果南がいた。

 いや、いるだけなら何も問題はない。問題は今現在、彼女がどんな格好をしているのかであって……。

 

「あっ……あぅ……」

 

 果南は現在、裸だった。言い直せば、生まれたままの姿。あるいはスッポンポン。

 頬は僅かに赤みを帯び、純白の肌は艶々と眩い輝きを放っている。すらっと伸びた程よい肉付きの手足。キュッとくびれたウエスト。風呂上がりのため、彼女の濡れた髪の毛が身体にピタッと張り付いている。

 

 それだけで十分暴力的なのだが、俺をさらに誘惑するのが彼女の誇るバストだった。とにかく大きい。小学生の頃は全然気にしていなかったが、こうして大人になった姿を見ると、否応にも気になってしまう。

 

(うわぁ……じっくり見ると、本当にモデル並みの体型だな。どう成長したら、こんなグラマラスな女性に成長するのだろう?)

 

 普通の男子なら、果南の裸に慌てふためく場面だろうが、俺は全く問題ない。

 

 むしろ、果南の裸を忠実に脳内保存するため、現在体のありとあらゆる器官を総動員して脳みそを動かしていた。ある意味、脳が震えている。

 

「……うぅ」

 

 果南の頬がどんどんと赤く染まっていく。照れる果南は普段とのギャップも相まって、何度見ても可愛い。

 

 さて、取り敢えず冷静に解説してきたのだが、俺の意識はあと少しでなくなってしまうだろう。なぜなら、事故とはいえ女性の裸を見てしまったのだから。

 

(うーん、どうせ意識を失うなら、何かインパクトを残したいところだけど……)

 

 すると、俺は一つの結論に辿り着く。せっかく六年ぶりに再会したのだ。あの時言えなかった言葉を、今ここで伝えよう。

 一つ息を吐いた俺は、裸の彼女に向かって爽やかな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「好きです。俺と付き合って下さい」

 

 

 

 

 

 六年間、胸に秘め続けていた俺の気持ち。……やっと言えた。ずっと言いたくて、だけど言えなくて……。

 感動のあまり、涙が零れてしまいそうだ。そして果南は俺の告白に、

 

 

 

 

 

「は、早く出てけぇええええ!! バカぁあああああ!!」

 

 

 

 

 

 答えてくれるわけがなかった。えーえー、分かってましたよ。どうせこうなることくらい。

 

 果南はそのまま、近くにあったよく分からないものを掴み、俺に向かって投げつけてきた。俺はどこぞの主人公みたいに超能力を持ち合わせていないので、避けられるわけもなく、投げてきたものが頭に直撃する。

 

(痛いけど、めちゃくちゃ痛いけど……俺は満足だ)

 

 結局、俺は妙に清々しい気持ちのまま、意識を失うのだった。彼女の裸をあますことなく脳内保存して。

 

 

● ○ ●

 

 

「ま、全く……鞠莉のせいで酷い目にあったよ」

 

「ごめんなさい、果南さん。止めようとしたら、鞠莉さんに遮られて……」

 

「ダイヤは気にしないで。悪いのは全部、この金髪元理事長なんだから」

 

 私は咎める様な視線を鞠莉に向けるも、彼女はまったく気にした様子はない。むしろ、どこか楽しそうだ。ちなみに、祥平は私の膝上で気を失っている。

 

「果南ってば、怒っちゃノンノンよ! もっとスマイルで行かなきゃ!」

 

「これがスマイルでいられないから、こうして怒ってるんでしょ!! す、すごく恥ずかしかったんだからね」

 

「別にいいじゃない、裸を見られることくらい」

 

 無言で鞠莉の頬をつねる。それも少し強めに。

 

「いひゃい、いひゃいよかにゃん!! はーにゃーひーて!!」

 

「うるさい!」

 

 しばらくの間、グニグニと鞠莉の頬をつねり続ける。今回は反省するまで許してあげないんだから。

 たっぷり、一分ほどつねった私はそこで鞠莉を解放する。

 

「い、痛かった……」

 

「自業自得でしょ! 全く……」

 

 痛がる鞠莉に、私はツッコミを入れる。彼女が余計なことをしなければ、今頃みんなで楽しくご飯を食べていたはずなのに……。

 私が頭を抱えていると、復活した鞠莉がグイッと身を乗り出して、私の顔を覗き込んできた。

 

「というか、裸を見られた原因の半分は果南でしょ! 祥平と会えたからって、いそいそシャワーまで浴びちゃってさ。普段、私たちが来てもシャワーなんて浴びないくせに」

 

「べ、別にいいじゃない。今日は少し暑かったし、汗かいちゃったんだから」

 

「百歩譲ってその言葉を信じましょう。だけど! 何で祥平の告白に答えなかったのよ! せっかく好きな人に告白されたのに! 六年越しの恋が実ったっていうのに!」

 

 いきなり色々と言われて、私の頬が赤く染まる。

 

「わわっ!? そんな大きな声で言わないでよ! 祥平が起きちゃうじゃない! そもそもどうして祥平から告白が聞こえてるの!?」

 

 驚いて祥平を確認するも、幸いに彼はまだ眠ったままだ。ふぅ、とため息をつく私だったが、問題はこれだけじゃない。

 ど、どうして祥平に告白されたことを鞠莉が知ってるの!?

 

「そりゃ、あれだけ大きな声で告白すれば、嫌でもこっちまで聞こえるよ。ねー、ダイヤ?」

 

「…………」

 

 ダイヤは何も言わなかったが、逆にその沈黙が答えになっていた。

 

「うぅ……恥ずかしい」

 

 顔やら体やらがものすごく熱い。恋愛話自体苦手ではないのだが、こうして自分に矛先が向くと、どうしてもすぐに恥ずかしがってしまう。

 

「恥ずかしがってる暇があったら、いつまでも眠りこけてる祥平を起こして、果南からもう一度告白しなさい! 果南の一途さは絶滅危惧種レベルだけど、祥平も同じく六年間、一途に果南を想い続けた変人なんだから。祥平の気持ちが変わらないうちに早く早く」

 

 ぜ、絶滅危惧種って……あまりにも酷い言い方だ。ま、まぁ、自覚はあるんだけど。

 

「鞠莉さん、あまり人の色恋沙汰に首を突っ込むものではありませんよ?」

 

 見かねたダイヤが助け舟を出してくれる。

 

「甘い、甘いわダイヤ! 恋は戦争って言うくらい激しいものなの! 現状に胡坐をかいていたら、誰かにひょいっと持っていかれる……つまり、祥平を誰かに捕られちゃうってことになるのよ!!」

 

「六年間も一途に果南さんを想っていた祥平が、今更誰かになびくなんて考えられないですわ。第一、今日だって果南さんばかり見ていましたし」

 

「それでもよ! いくら祥平が果南大好きで、ベリーラブだとしても、男の子は単純なんだから。裸で迫られたらそれこそ、コロッと堕ちちゃうくらいにね」

 

「ま、まぁ、確かに祥平はスケベですから……」

 

 ごめんね祥平。うちの幼馴染が好き勝手に言っちゃって……。後、果南さんばかり見ていたとか、果南大好きとか言わないでほしい。は、恥ずかしいから。

 

「そもそもよ! 果南が祥平からの告白を、素直に受け入れていればよかったんじゃない! どうせ、両思いなんだから」

 

 話が一周して元の位置に戻ってくる。

 

「あんな状況で、受け入れるも何もないでしょ!! は、裸を見られてたわけなんだし……」

 

「どうして裸を見られたくらいで、そんなに恥ずかしがるのよ? 別に幼馴染なんだし、裸の一つや二つくらい、見たことも見られたこともあるでしょ?」

 

 あっけらかんと言い放つ鞠莉。アメリカの血が流れているだけでこうも違うとは……。あれ、イタリアだっけ? まぁいいや。

 

「そりゃ、あるっちゃあるけど……それは小学生の頃だからであって! 今は状況も、何もかも違うの!」

 

 一緒にお風呂とかは、お互いを意識してなかったからできたことである。今やれって言われたら……多分私のほうが卒倒しちゃうな。

 だって、祥平の成長した部分が色々と見えちゃうし……。なにより私自身、そういう類の物をあまり見たことがないからね。

 耐性がついてないって言ったほうが、正しいかもしれない。

 

「だからこそよ! 果南は幸いなことにどっかの誰かさんと違って、スタイルよく「おだまらっしゃい!!」育ったんだから! 今こそ、その胸を使って祥平を誘惑するべきなの!!」

 

 鞠莉は祥平と同じで、ダイヤいじりが大好きだからな~。

 

 今もその影響で、事あるごとにダイヤをいじっている。だけど、言うほどダイヤのあれは小さくない。鞠莉が大きいだけなのだ。

 

「むぅ……果南がいつまで経ってもその調子なら、私にも考えがあるんだから!」

 

 一体何をする気なのだろう? 頭に疑問符を浮かべていると、鞠莉の顔がゆっくり、ゆっくり祥平へと近づいていく。

 ま、まさか鞠莉ってば、キスしようとしてるの!?

 

「だ、ダメっ!!」

 

 私は力の加減を考えず、近づいてきた鞠莉を突き飛ばす。

 

「あっ……! ご、ごめん、鞠莉」

 

「むっふっふ~。果南、今の反応はとってもシャイニーよ!」

 

 やられた。ニヤニヤ顔の鞠莉を見て恥ずかしさが込み上げてくる。

 最初から鞠莉は、この反応を引き出すために……。

 

「大丈夫よ。果南が大好きで、大好きで仕方がない祥平は、絶対に捕らないから!」

 

「もう、やめてよぉ……」

 

 思わず手で顔を覆う。うぅ、裸を見られた時よりも顔が熱い。ダイヤ、隠れて笑ってるの見えてるからね。

 

「もうこの話はお終い!! ほらっ、ダイヤと鞠莉は料理の準備をしてきて!!」

 

 ニヤニヤ笑う二人をキッチンへと追いやった私は、未だ意識の戻らない祥平に視線を向ける。

 

「全く……祥平のせいで大変だったんだよ?」

 

 頬をつつくも、祥平は全く起きるそぶりを見せない。むしろ、頬をつつかれて嬉しそうだ。

 

「だけど、ありがとう。また、私の前に現れてくれて。祥平の顔を見た時、涙が出るほど嬉しかった」

 

 挨拶をされた時、すぐに分かった。まぁ、それもそうだよね。別れてからもずっと好きだったんだから。

 

「さっきは怪我させちゃってごめんね? これはそのお詫び」

 

 私は彼の頬にそっと口づけを落とす。今はこんなことしかできないけど、いつか絶対に……。

 

「ワォッ! 果南ってば、ダ・イ・タ・ン!」「ま、鞠莉さん。やっぱり覗くのは……」「そう言って、ダイヤもノリノリで見てたじゃない」「うるさいですわ!」

 

 扉の陰から私たちを除く鞠莉とダイヤがいた。

 私は祥平の頭を優しく床におろすと、ニッコリと笑顔を浮かべながら二人の元へ。

 

「ふ~た~り~と~も……いったい何をやっているのかな?」

 

「わっ!? か、果南さん!? ち、違うのです。これは、えっと、その……」「しゃ、シャイニー?」

 

 冷や汗をかく二人に私はニッコリと微笑む。そして、

 

「祥平が起きるまで正座してなさい!!」

 

『は、はい……』

 

 激怒する私の言葉を向け、素直に正座する二人だった。ちなみに祥平が起きたのはそれから二時間後である。ダイヤと鞠莉が足の痺れに悶絶したのはまた別のお話。

 

 

▲ △ ▲

 

 

 俺と果南は六年越しに再会を果たした。

 それはある意味、運命的なもので、単なる偶然かもしれない。だけど、俺は一つだけ確信していた。

 

 

 

 

 これからの大学生活は、きっと楽しいものになると。




 どうでしたでしょうか? 私が別に書いている作品よりもギャグが強かったのではないかと私自身思っています。楽しんでいただければ、私自身とても嬉しいです。

 ここで一つ謝罪を。
 この作品の投稿ペースは非常に遅いです。下手したら一か月に一回投稿できるか、できないかくらいになってしまうと思います。
 ですが、全力で書き続けていきたいと思っていますので、どうか応援のほどをよろしくお願いします。
 最後に、感想や評価等、お待ちしていますので気軽に送ってください!

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