遊戯王異伝~史上最後のサイバー流~ 作:真っ黒セキセイインコ
その魔術師が姿を露わした時、観戦者達からの声が文字通り消え去った。次いで、今度はそれこそ建物自体が揺れるのではないかと思うほどの歓声が上がる。
ブラック・マジシャン。
その名を聞いて、知らない、と答える人間はまずいないだろう。
元々のレアリティもさることながら、伝説にして最強の
そしてそれが今、紫音の目の前に立ちはだかっている。特待生、花咲椎奈の統べる魔法使いの一体として、その伝説に違わぬ威圧感とともに
歴戦のモンスターの威圧感が紫音を襲う。伝説の決闘者が使用したカード。使用している人間が本人ではないにせよ、デュエルモンスターズ創生期より存在したモンスターの威圧感は凄まじいのだった。
「まだバトルフェイズは終わっていません。ブラック・マジシャンでダイレクトアタックです。
「――――ぐっ!」
紫音 LP3000→500
紫音の場にブラック・マジシャンの攻撃を遮るものは一つもない。黒魔導師の代名詞とも言える必殺技が紫音を襲った。勿論、これはソリッドビジョンによる演出だ。しかし、それでも本当に攻撃されたように感じるほど、かの魔術師の技は洗練されたものだったのだ。
「メインフェイズ2に移行します。私は見習い魔術師に装備されたワンダー・ワンドの効果を発動。このカードと装備モンスターを墓地に送り、カードを二枚ドローします。カードを一枚セットしターンエンドです」
観戦者の歓声がなお一層強くなる。なんせ噂のサイバー流をたった一ターンにして残りLP500まで追い詰めたのだ。それに特待生の名に違わぬほとんど無駄のないプレイング。さらにはブラック・マジシャンの登場。これだけあれば彼らが熱狂的に歓声を上げても可笑しくはないのだ。すでほとんどの者は紫音が勝つことは無いと思っているに違いないだろう。
しかし紫音はこの絶体絶命の中、久しく感じることが無かった何かを感じたような気がした。
サイバー流の根底の理念が。決闘者としての本能が。伝説のカードの出現が。そして強者との決闘が紫音を熱く滾らせ、諦めると言う愚かな選択肢を消し去っていく。
「――――私のターン、ドロー!」
引いたカードを見て紫音は微笑んだ。デッキも紫音の勝ちたいという心に応えてくれたのだ。
「私は手札からサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」
もう一度、現れる機械竜サイバー・ドラゴン。何度倒されても彼らは現れ、何時だって紫音を勝利へ導いてくれている。そして今回も逆転のための布石となってくれるのだ。
「さらに墓地の光属性モンスター、シャイン・エンジェルを除外し、
霊魂の護送船(ソウル・コンヴォイ) 星5/光属性/悪魔族/攻1900/守1000
墓地の光属性モンスター、シャイン・エンジェルが除外され光の粒子が河となっていく。やがてその川を下ってくるように一隻の船が見えた。やがてフィールドに漂着するとその容貌は露わとなる。
しかしその船はそんな神々しい登場の仕方に対し、かなりおどろおどろしい姿をしていた。
言うなれば
ただし、その攻撃力はたかが1900。攻撃力2500のブラック・マジシャンを討ち倒すのには程遠い。しかし大事なのは、同じレベルのモンスターが二体並んだことだった。
そして、このモンスターが現れたことがどういう意味かを、いち早く特待生花咲椎奈は気付く。
「レベル5のモンスターが二体……!?」
その召喚方法はつい最近、一般的になったものだった。しかし、歴史をたどればこの召喚方法の基礎の欠片の無い時代――――サイバー流に悲劇が起きたあの時代に存在していたという事実があるのだ。
使用したらしいのは、とある決闘者達だったという。そして、彼らは世間にとっては大事件を起こしたのだ。それはリスペクトデュエルを批判し、サイバー流に壊滅的な被害を与えたこと。
勿論カードには罪は無い。しかし、それが分かっていても、そのカード達は紫音にとっては忌むべきものだった。もし存在さえしていなければ、サイバー流はここまで衰退することは無かったかもしれなかったのだ。そう考えてしまうと恨んでも恨み切れない物でしかない。
だが、紫音はそれを乗り越える。恨みを捨て、強くなるために、勝つために、最強になる為にその力を使用する。
「私はレベル5のサイバー・ドラゴンと、同じくレベル5の霊魂の護送船で
二体のモンスターが光球となって、出現した穴に吸い込まれていく。
憎かった。腹立たしかった。消えてほしいとさえ思った。だが紫音はそんな凝り固まった思考を打ち切って、勝利を得るために次の句を述べる。
「エクシーズ召喚! 《始祖の守護者ティラス》!」
始祖の守護者ティラス ランク5/光属性/天使族/攻2600/守1700
現れたのは純白の翼を持つ天使だった。エクシーズモンスター、始祖の守護者ティラスは剣を高々と掲げ紫音のフィールドに舞い降りる。ニターンまでだが、効果による破壊を受け付けないという、強力な効果を持つランク5エクシーズモンスターである。
確かに神々しい姿だ。もしも紫音がサイバー流でなければ、そもそもサイバー流が衰退していなければ、お気に入りの一枚だっただろう。
眩むような光球が彼の周りを周回する。それは勿論、紫音のデッキのエースたるサイバー・ドラゴンと霊魂の護送船が変質した姿だ。彼らは光となってもエクシーズモンスターを支える力となる。
こみ上げる苦さに似た感覚を振り払うために、紫音はさらに次の行動に打って出た。
「さらに手札のサイバー・ドラゴン・ツヴァイと自身を墓地に捨てて、《マシンナーズ・フォートレス》を特殊召喚するわ」
マシンナーズ・フォートレス 星7/地属性/機械族/攻2500/守1600
巨大な戦車――マシンナーズ・フォートレスがキャタピラを回しながら紫音の場に現れる。マシンナーズ・フォートレスは手札からレベルが8以上になるように機械族モンスターを捨て、手札または墓地より特殊召喚される効果を持つ。コストにはこのカード自身も使用でき、実質一枚の消費で特殊召喚出来る優秀なカードだ。
そして、破壊された場合に発動する効果もあるため、機械族の多い紫音のデッキでは役立ってくれているカードの一枚である。
「バトルフェイズ! 始祖の守護者ティラスでブラック・マジシャンを攻撃!」
紫音の指令にティラスの剣技がひらめく。さしずめ伝説の魔導師でも、攻撃力で勝るティラスの攻撃にはなす術もなく破壊された。
「ブラック・マジシャン!」
椎奈 LP4000→3900
花咲椎奈の悲痛な叫びと共にLPに初めて傷が入る。まだ浅いが、それでも確かな一歩だ。そして紫音の攻撃はまだ終わっていない。
「まだよ。マシンナーズ・フォートレスでマジカル・コンダクターを攻撃! バーストショット!」
マシンナーズ・フォートレスが全砲台の照準を一斉にマジカル・コンダクターへと向け発射する。攻撃力は歴然の差だ。ひ弱な魔法使いでは止めることは、絶対にかなわない砲撃が一切の情も無く放たれていく。
しかし、粉塵が晴れた先には、盾の影に依然として健在なマジカル・コンダクターの姿があった。盾にあるのは『我』の一文字。
「……《ガガガシールド》を発動させていただきました。このカードは魔法使い族モンスターの装備カードとなり、二度まで戦闘・効果による破壊を防ぐことができます」
椎奈 LP3900→3100
「破壊できなかった……。でも盾は剥がさせてもらうわよ。バトルフェイズ終了時、ティラスの効果を発動。このカードが攻撃を行った場合、バトルフェイズ終了時に相手フィールド上のカードを破壊するわ。私は装備カードとなったガガガシールドを破壊」
マジカル・コンダクターを守っていた盾はティラスが引き起こした落雷により消滅させられた。これにより盾は引きはがせたが、それでも紫音の顔は優れない。
よりにも寄って最も厄介な魔法使いが破壊されずに残ってしまったのからだ。これではまた新しい魔法使い族モンスターを呼ばれてしまうのは間違いないだろう。
だからこそ、紫音はもう一枚のカードを発動させる。
「メインフェイズ2に手札から《一時休戦》を発動。互いにカードを一枚ずつ引き、次の相手のターン終了時まで互いに如何なるダメージも無効になるわ」
一時休戦は互いにダメージを与えられないという制約はあるが、発動フェイズに指定は無い。メインフェイズ2に発動すれば、そのデメリットは相手だけに課され、自分にはダメージを受けないというメリットのみが残るのである。
紫音の残りLPは500。そして決闘は終わるまでその戦況が変化していく。この布陣が何時まで持つか分からない以上、互いにドローできるデメリットは無視するほかに無い。
「私はこれでターンエンド。ティラスの効果により、エクシーズ素材となっているサイバー・ドラゴンを墓地へ」
「私のターン、ドロー」
ゆっくりとした動作で、花咲椎名がドローする。手札の合計は三枚。場はマジカル・コンダクターだけという状況だが、それでも油断はならない。
マジカル・コンダクターの魔力カウンターは8つまでたまっている。これではブラック・マジシャンはまた復活するのは間違いない。そしてまだブラック・マジシャンだけならばまだ良いが、それ以上の隠し種がある可能性だって無いとは言えないのだ。
「《手札抹殺》を発動します。互いに手札をすべて捨て、その数だけドローします」
マジカル・コンダクター カウンター 8→10
手札抹殺の効果により、紫音は一枚、花咲椎奈は二枚捨ててドローした。一見すれば手札交換のように窺えるが、花咲椎奈の狙いはそこでは無かった。
「そして、マジカル・コンダクターを発動。魔力カウンターを七つ取り除き墓地のブラック・マジシャンを復活させます。さらに手札からもう一度、装備魔法ワンダー・ワンドを発動。マジカル・コンダクターに装備し、そのまま墓地へ送って二枚ドローします」
マジカル・コンダクターが墓地へ送られる。普通ならば悪手ともいえる行動だ。それに紫音の場には、戦闘破壊時に相手モンスターを道連れにするマシンナーズ・フォートレスが居る。ただ攻撃力が高いだけのモンスターではこの効果に潰されてしまう。
それならば何をしてくるか。そして場のカード達の弱点を知っている紫音は、花咲椎奈の行動に神経を研ぎ澄ましながら見ることしかできない。
そして浮かんだ微笑みに紫音はこれまで以上の戦慄を覚えた。
「――――来ました。私は墓地の見習い魔術師と《マジシャンズ・ヴァルキリア》を除外し、このカードを特殊召喚します。――――出て来てください《カオス・ソーサラー》」
カオス・ソーサラー 星6/闇属性/魔法使い族/攻2300/守2000
見習い魔術師の闇とマジシャンズ・ヴァルキリアの光が混ざり合い渦となる。そして、現れたのは光と闇の力を持つ魔術師。カオスモンスターの一角、カオス・ソーサラーは不敵な笑いを浮かべ現れた。
「カオス・ソーサラーの効果を発動……と行きたいところですがまだ終わりません。私はガガガマジシャンを召喚します」
ガガガマジシャン 星4/闇属性/魔法使い族/攻1500/守1000
カオス・ソーサラーの後に引き続き現れたのは、ブラック・マジシャンの風貌によく似た学生風の魔法使いだった。攻撃力はブラック・マジシャンに遠く及ばないが、エクシーズ召喚においては自身のレベルを変化させる優秀な効果を持つカードである。
考えられるランクは6か7。そのどちらもが強力な効果を持つモンスターが多いため、紫音は警戒を強めた。どれが出たとしても紫音の場は壊滅する。
「ガガガマジシャンは一ターンに一度自身のレベルを一から八のどれかに変化させることができます。私はガガガマジシャンのレベルを7にします」
「……ランク7のエクシーズ!?」
ガガガマジシャンのベルトに7つの星が点ったのを見て紫音が呟く。
しかし、花咲椎奈は小さく微笑んでから言った。
「いいえ、違います。私が呼ぶのはこのデッキの切り札です。
……――――私は場のブラック・マジシャンとレベル7となったガガガマジシャンをリリースし、このカードを特殊召喚します。最強の魔術師よ、その本当の力を解き放ちし、最上へと駆けあがりなさい」
高レベルの魔法使い族二体をリリースし特殊召喚されるモンスター。その召喚方法から連想させられるのは一体しかいなかった。
「来てください、《黒の魔法神官》!」
黒の魔法神官《マジック・ハイエロファント・オブ・ブラック》 星9/闇属性/魔法使い族/攻3200/守2800
幾つもの戦いをくぐりぬけ、かの魔法使いはその姿に変化していく。漆黒の衣を纏うそれは、まさしく最強の魔法使いが後に辿り着く全盛期の姿だった。
「ま……黒の魔法神官」
「黒の魔法神官はいかなる罠も許しません。このカードが場にいる限り、全てのトラップカードの発動を無効にし破壊します。そして、ここでカオス・ソーサラーの効果を発動。
攻撃権を捨て、マシンナーズ・フォートレスを除外します。さらに私の手札は0なので、マシンナーズ・フォートレスの効果は発動しません」
マシンナーズ・フォートレスがカオス・ソーサラーの作り出した次元の穴に吸い込まれ消える。花咲椎奈が言った通り、マシンナーズ・フォートレスにはモンスター効果の対象になった時、相手の手札を墓地へ送らせる効果があるが、相手の手札が0枚ではその効果も見込めない。
その上、簡単に墓地より特殊召喚ができるマシンナーズ・フォートレスだが、除外されてしまってはその効果も発動できなくないのだ。
「ダメージは通りませんが、モンスターは破壊させてもらいます。黒の魔法神官で始祖の守護者ティラスを攻撃。セレスティアル・ブラック・バーニング!」
たとえ一時休戦がいかなるダメージを無効にしてくれても、場のモンスターは守ってくれない。
守護者たる光の天使に、最上位の魔術師の砲撃が殺到する。そして、貫通。最上位の一撃はエクシーズモンスターの中でも平均以上の攻撃力を持つ天使を、灰も残さず消し去った。
その攻撃力の差は600。もし紫音が一時休戦を発動していなければ、500程度のLPなぞ簡単に消し飛んでいただろう。
「私はこれでターンエンドです」
「私のターン、ドロー」
引いたカードは逆転のカードでは無かった。しかし、敗北を決定づけるカードでもない。そして、もう一枚はこの局面では役に立たないカードだ。もしそれが生きるのなら次のターンである。
すなわち今、紫音にやれることは一つだけだった。
「私はカードを一枚セット、モンスターをセットしてターンエンド」
「私のターン、ドロー」
まずは第一段階。もしここでモンスター除去をするカードを引かれたならば、間違いなく紫音は負ける。だからこそ、その一挙一動に紫音は見守るしかできない。
やがて右手に握られたカードは、モンスターゾーンに置かれた。
「《魔導騎士 ディフェンダー》を召喚します。このカードは召喚時に魔力を自身に乗せます」
魔導騎士 ディフェンダー 星4/闇属性/魔法使い族/攻1600/守1000
青い鎧を身に付けた魔法の騎士が花咲椎奈の場に現れる。効果は自分フィールド上の魔法使い族モンスターが破壊されるときに、カウンターを取り除いてその破壊を無効にできるというもの。
厄介な効果だが、それで済んだともいえる。もし破壊効果を持つモンスターであったなら、間違いなく紫音は敗北に喫していたのだから。
「――――カオス・ソーサラーでセットモンスターに攻撃」
カオス・ソーサラーの攻撃がセットモンスターを穿つ。その姿を引っ張り出されたのは単眼の壺だった。
「この瞬間、メタモルポッドのリバース効果を発動! 手札をすべて捨て五枚ドロー」
「ですが、もう貴女の場にモンスターは居ません! 黒の魔法神官でダイレクトアタック!」
「――――それを受けるわけにはいかない! 手札から速攻のかかしを捨てて、このターンのバトルフェイズを終了させる」
最上位の魔術師の攻撃を、土壇場で引き当てた速攻のかかしが受け止める。いくら罠を無効化する黒の魔法神官でも、モンスター効果には対応できない。
今度こそ花咲椎奈は驚いたように目を丸くしていた。
「まさか、さっきのドローで引くとは……」
紫音自身もこれは本当に賭けだったとしか言いようが無い。デッキには三枚入れてある速攻のかかしだが、それでもこの土壇場で来てくれたのは奇跡とも言えるだろう。
「ですが手札が増えたのは私もです。メインフェイズ2に移行し、フィールド魔法《魔法族の里》を発動します」
さっきまで広がっていた景色が唐突に変わり、その高い木々が辺りを覆う。魔法使い族デッキを相手にする場合、おそらく最も警戒すべきルール介入型のフィールド魔法が発動された。
「このカードの効果により、私のフィールド上に魔法使い族がいて、貴女の場に魔法使い族モンスターがいなければ、貴女は魔法カードを発動させることができません。
その代り、私の場に魔法使い族モンスターが居なくなれば、私が魔法カードを発動できなくなります」
これにより完全なロックが完成させられてしまった。片や罠カードを無効にする攻撃力3200のモンスター、かたや魔法使い族がいないプレイヤーの魔法カードを封じるフィールド魔法。
ようは魔法使い族モンスターがいればいい話なのだが、紫音のデッキに魔法使い族モンスターはほとんどいないのだ。一応、居るには居るのだが普通は召喚されないモンスターである。
「カードを一枚セットしてターンエンドです」
「私のターン……!」
デッキに手をかけながら、紫音は静かに息を吐く。この状況を打破できるモンスターは確かにいる。だがそれを引ける確率は限りなく低い。さっき速攻のかかしを引いた時よりさらに。
静かに目を閉じ、脳裏にモンスターの姿を思い描く。それが来なければ十中八九紫音の敗北が決定するのだ。だからこそ今できることは己のデッキを信じドローするのみ。
「――――ドロー!」
閉じた目を開きそのカードを見て――――――紫音は微笑んだ。そして感謝する。自分の願いに応えてくれたデッキに、そして目の前に立つ
「――――ありがとう。アンタは本当に強かった。だから……私の最強の切り札を見せてあげる」
その言葉に花咲椎奈は無言だった。だがその表情は何が起きるのかを期待する笑顔だ。
「私は墓地の光属性、機械族モンスターのサイバー・ドラゴン二体とサイバー・ドラゴン・ツヴァイとプロト・サイバー・ドラゴンを除外して、このカードを特殊召喚」
紫音の墓地から四つの星が宙へと昇っていく。そして、それらは一つの星となり舞い降りる。
「――――星天より舞い降りなさい《サイバー・エルタニン》!」
サイバー・エルタニン 星10/光属性/機械族/攻 ?/守 ?
それは巨大な龍の頭だった。竜座の頭である星の名を冠した機械竜の頭はフィールドに舞い降りると、その巨大さを如実に表す。その巨大さは否やサイバー・エンド・ドラゴンに匹敵するほどだ。
「攻撃力が決まっていない……?」
「このカードの攻撃力と守備力は特殊召喚時に除外したモンスター×500ポイント分の数値になるわ。よって、その攻撃力は――――2000!」
サイバー・エルタニン 攻/守 ?→2000
「ですが、その攻撃力では私の黒の魔法神官は倒せません!」
黒の魔法神官の攻撃力は3200、対してサイバー・エルタニンの攻撃力は2000。その攻撃力の差は歴然だ。だがそれでも紫音は不敵な笑いを浮かべた。
「それはどうかしら」
「…………?」
その瞬間、紫音の傍らを滞空するサイバー・エルタニンに変化が訪れた。いや正確にはその巨体から四つの竜頭のユニットが現れたのだ。やがてそれらはしばし滞空すると、こちらに杖を構える魔法使い達に照準を向ける。
「サイバー・エルタニンの効果を発動! 特殊召喚に成功した時、自分以外のフィールド上に表側で存在モンスターをすべて墓地へ送るわ。――――コンステレイション・シージュ!」
小さな竜頭のユニットより放たれた光線が魔法使い達を貫く。それは破壊というレベルではない。言うなれば末梢とも言えるものだった。単なる破壊で無く、無駄の欠片も無い末梢。
破壊でなく直接墓地へ送り込むこの効果の前には、巨大な盾を持つディフェンダーの破壊耐性も意味は無い。一切の慈悲も無く純白の光は、消しゴムで絵を消すかのように全てを無に帰していく。
「さらに続いてサイバー・ドラゴン・ツヴァイを召喚」
サイバー・ドラゴン・ツヴァイ 星4/光属性/機械族/攻1500/守1000
サイバー・ドラゴンによく似た機械の竜が現れる。その攻撃力は1500、そしてサイバー・エルタニンの攻撃力は2000。合計攻撃力は3500でそれに対して花咲椎奈のLPは3100。
これが恐らく最後のチャンスとなるだろう。もしこれを逃せば次ターンには十中八九巻き返され敗北するのは想像に難くない。
だからこそ、紫音はこのチャンスを逃さず機械竜達に命令を下す。
「バトルフェイズ! まずはサイバー・ドラゴン・ツヴァイでダイレクトアタック! エヴォリューション・セカンド・バースト!」
「――――……くぅっ!」
花咲椎奈 LP3100→1600
まずは一発目。やっとのことで花咲椎奈のLPがサイバー・エルタニンの攻撃力圏内に到達する。そして、紫音は滞空するサイバー・エルタニンに一撃を命ずる。
「これで終わりよ。サイバー・エルタニンでダイレクトアタック! ドラコニス・アセンション!」
サイバー・エルタニンの青白い砲撃が花咲椎奈に殺到する。これが通れば紫音は勝つ。周りの生徒達もそう思っていただろう。しかし特待生の名に恥じない強者である花咲椎奈だけは諦めていなかった。
「リバースカード、オープン! 《ドレインシールド》を発動します。サイバー・エルタニンの攻撃を無効にし、その攻撃力分LPを回復させます」
花咲椎奈 LP1600→3600
サイバー・エルタニンの攻撃は突如生じた盾に吸収され、あろうことか花咲椎奈のLPを回復させてしまう。そしてこの時、花咲椎奈は勝利を確信した。
先程メタモルポットにより加わったドローカードの中に、魔法カード《死者蘇生》が含まれていたのだ。次ターンに手札にいる魔法使い族モンスター、《魔導戦士ブレイカー》を召喚して里の効果を打ち消し、墓地のブラック・マジシャンを復活させる。そして専用カードの《黒・魔・導》で相手のセットカードを破壊し尽くせば、花咲椎奈の勝利が決定する。
しかし、一つだけ花咲椎奈には誤算があった。
それはすなわち――――勝利を最後まで疑わなかったのが自分だけでは無かったことだ。
「――――この瞬間リバースカード、オープン! 速攻魔法《ダブル・アップ・チャンス》! このカードは自分のモンスターの攻撃が無効になった時、その攻撃力を倍にしてもう一度バトルを行うわ」
サイバー・エルタニンの攻撃力は2000。そして、その倍は――――4000。
「これで本当に
正真正銘、勝利を告げる一撃が花咲椎奈のLPを消し去った。