遊戯王異伝~史上最後のサイバー流~   作:真っ黒セキセイインコ

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 新ストラクチャーデッキ、機光龍襲雷キター!
 という訳でテンションマックスな内に第六話です。


第六話 特待生

 歓声が、耳を打つ。

 いや歓声というよりは、あの女の話術により作られた空気と言うべきか。なにはともあれ、当初こそ見学のつもりで来たはずの大規模デュエルリンクの上に紫音は立っている。

 

 そして相対するは白い白い照明が照らすデュエル場に立つ少女。白いライトに映えるように長い黒髪は艶やかに輝き、その美貌と双眸から放たれる光は正に強者にふさわしいだろう。

 それは奇しくもあの路地裏で見た状況とそっくりだった。いや正確には、あの少女があの時路地裏に現れた少女――花咲椎奈張本人なのだから当たり前だ。

 ただし、彼女の顔は闘志に満ち溢れているというより、未だに困惑の色が見て取れた。なんせいきなりの指名で有無を言わせずに決闘をさせられているのだ。ただの困惑ですんでいるのはむしろ意外なことだろう。

 実際不本意としか言いようが無いな。と紫音は今頃冷えてきた頭で自己分析を始めた。そもそもあの女の言葉に惑わされず完全な無視を決め込んでいれば、こうはならなかったはずなのだ。

 気の短い自分に頭が痛くなる。

 結局、あの女の言うとおりに事は動いてしまっていたのだ。あの女はまるで飴玉を舌の上で転がすように、場の空気を『自分と霧雨紫音の対立』から『花咲椎奈と霧雨紫音の決闘』につくりかえてきた。

 そして、こういうことをしなければならないという空気を作り上げたのだ。むろんそこで下手に断れば、サイバー流の名前に傷がつくように。例えば、特待生が怖くて決闘から逃げたとか。

 冷静に対処すれば避けれたものを避けれなかったのは、非常に腹立たしい。

 

 ――――とは言っても、特待生と戦えるということは別段紫音にとっては悪い物では無い。むしろ、強い相手との決闘は願ったりかなったりだ。たとえ、ある程度の情報漏えいがあったとしても。

 理由は簡単。特待生という言葉にはそれだけ大きな意味があるからだ。

 簡潔に述べれば特待生制度とは、優秀な成績を収めたり大きな功績を残したりした者を、学校側が授業料の一部または全額を免除して入学させるというもの。

 もちろんこのデュエルモンスターズの専門校であるアカデミアでも、その制度は適用されている。そして、その内容も言わずもがなでデュエルに関する成績である。

 しかし、ここがデュエルの先進校であるからこそ、特待生の称号を得るのにはそれだけの実力が必要だ。例えば、大きな大会などに出場し優勝といった功績を上げるというもの。猛者が集まるなかで優勝するのは本当の人握り。それだけ大会の出場者とは、強大なのである。

 紫音はある事情により、大会にはほとんど出場はしていない。そのため、奨学金制度での入学となっている。しかし例え出場していたとしても、それを受ける条件がそろえることができたかといえば、分からないとしか言いようが無いほどなのだ。

 相手になる花咲椎奈には悪いかもしれないが、この決闘には付き合ってもらうしかないだろう。

 別に親しいわけではないし、ただあの路地裏で黒パーカーの時に出会っただけなのだ。後のことは知ったこっちゃない。

 そもそもあの少女にだって、野次馬に囲まれていようと拒否権はあったのだ。しかし、それを彼女はしなかった。それに今の表情からは勿論、困惑も感じられるが、今では逆に闘志も感じられる。

 きっとこの決闘は自分を強くするためのピースとなるはずだ。あのブルーの女の手のひらの上に居るとしても。

 そうやって無理やりに割り切って前を向く。向こうも準備ができたらしい。こちらに闘志の宿る瞳を向けてきていた。

 

「一つだけいいでしょうか?」

 

 唐突に花咲椎奈があの時の路地裏に響いた綺麗な声で、紫音に投げかけてきた。

 ステージへ上がる前は無言だったが、この場に来て何を質問するのだろう? 疑問を浮かべながら紫音は訝しげに応じる。

 

「何?」

 

「貴方はサイバー流の方なのですね。この決闘が終わった後、聞きたい事があるんです。応じていただけますか?」

 

 真っ直ぐとした視線。そこにあったのは何時も紫音に向けられていた悪意ではなく、まったくの透明といっていいほどの純粋な疑問の視線だ。

 応じるか。応じないか。紫音の脳裏で二つの選択が現れる。しかし、それはほどなく決まった。

 

「…………いいわよ。――――ただし、この決闘で私がアンタを強いと思ったらね」

 

 我ながら意地悪な答えだと紫音は思う。結局は自分のさじ加減だ。これが自身では無く自尊心の高い者が言ったのならば、自分はどうせ無い物だと諦めていただろう。

 しかし、この意地悪な返答に花咲椎名は笑顔で応じてきた。

 

「――――分かりました。ならば私は実力で貴女を認めさせます」

 

 へぇ、と紫音は静かに感心する。あの路地裏の時は馬鹿だと思ったが、それは自分の強さからくる自信なのだと今更ながら気付いたのだ。

 ならば紫音もそれに応えなければならない。相手に敬意を払い全力を持って向かえ討つことが、サイバー流の信条だ。そして、何よりも決闘を楽しむことこそ、サイバー流の根である。

 経緯は不本意でしかなかったが、この決闘には決闘者としての血が沸き立つように感じた。

 

『デュエル!』

 

 両者の視線が交錯し、言葉は決闘の始まりを告げた。

 

 

◇ ◆ ◇

 

 

「あんた、ホンマ性格悪いな」

 

 大規模決闘場の観客席に座るこの騒ぎの発端であるラビエルブルーの女子に、あきれたように一人の女子生徒が語りかけた。

 黄色いブレザー型の制服は彼女がハモンイエローの生徒であることを露わしており、途端ブルーの女子の周りに控えていた生徒たちが女子生徒を睨みつける。

 一年生の繰上り組の中でも、トップの成績を持つブルーの女子にあまつさえ、『性格が悪い』とため口で格下のイエローが言ってきたことが激しく気に入らないのだ。

 しかしブルー女子は気にもしない様子で彼らを下がらせた。そして、気の合う友人に話しかけるように饒舌に語り出す。

 

「あら~、久しぶりね~。自らハモンイエローに配属された第三位さん。ここまで来ていきなり何のことかしら?」

 

「単刀直入に言うで。この決闘、どっちが負けて潰れるのをあんたは狙ってるんやろ?」

 

「…………」

 

 無言。ブルーの女子は微笑みの表情のままで沈黙する。歓声が遠くに聞こえるほどの沈黙は、それが肯定であることを如実に表していた。

 この女のそういう所を知っているイエローに属する第三位は、静かに語り出す。

 

「ただでさえ大勢の前での決闘や。しかもどっちも今回の編入生では有力株。そんなの同士がやりあって、そんで負けた方はいらん噂が付く。例えばサイバー流の子やったら『やっぱりサイバー流は弱い』って感じでな」

 

「それで、私の何のメリットがあるのかしら~」

 

「自分で分かり切ってること言うなや、()()()()()()()

 

 今度こそ、ブルーの女子の瞳が第三位を冷たく射抜く。

 第一位と第三位の視線が交錯する中、目下のデュエル場では決闘が始まった。

 

 

◇ ◆ ◇

 

 

 二つの視線がぶつかりあう中、決闘は始まった。先攻を示すランプが点ったのは花咲椎奈の決闘盤。彼女は小さくお辞儀をするとデッキよりカードを抜き放つ。

 

「私のターンからです。ドロー! 私はモンスターをセットしカードを一枚セット。ターンエンドです」

 

「私のターン、ドロー」

 

 花咲椎奈のフィールドは先攻としては無難な立ち上りだ。得体のしれないセットモンスターと一枚のセットカードはそれなりに威圧感がある。

 そして何より、相手は特待生に選ばれる決闘者だ。たとえ後攻が有利なサイバー流だとしても、迂闊に攻め込むには危険である。しかも今の紫音の手札に除去用のカードは存在していないのだ。下手に融合すれば大きな損失があるかもしれない。

 

「私は手札からサイバー・ドラゴンを特殊召喚。さらに《シャインエンジェル》を召喚」

 

サイバー・ドラゴン 星5/光属性/機械族/攻2100/守1600

 

シャインエンジェル 星4/光属性/天使族/攻1400/守 800

 

 もはやお馴染となった機械仕掛けの竜と、光り輝く翼を持つ天使が紫音の場に現れる。

 花咲椎奈のセットカードが発動しないことを確認すると、紫音は次の行動に移った。

 

「バトルフェイズ! サイバー・ドラゴンでセットモンスターを攻撃」

 

 まずは探りの攻撃。サイバー・ドラゴンの青白い光線がセットモンスターへ直撃し、正体が露わとなる。

 

「セットモンスターは《見習い魔術師》です。このカードは戦闘によって破壊されるとデッキからレベル二以下の魔法使い族モンスターをセットします。私はもう一度見習い魔術師をセット」

 

見習い魔術師 星2/闇属性/魔法使い族/攻 400/守 800

 

 紫色の衣をまとった金髪の魔術師が破壊されると、新たにモンスターがセットされる。セットされていたモンスターと、再びセットされたモンスターの名前に紫音は苦い顔をした。

 魔法使い族限定のリクルーター、見習い魔術師といえば彼女がなんのデッキなのかいやでも分かってしまったのだ。気が付けば呟いていた。

 

「魔法使い族デッキ……」

 

 魔法使い族、又はそれの専用カードにはトリッキーな効果が多い。例えば、カオスモンスターの一角で除外効果を持つ《カオス・ソーサラー》。強力な破壊効果を持つシンクロモンスター、《アーカナイト・マジシャン》。そして、何より融合が主体のサイバー流にとって天敵であるあのフィールド魔法がある。

 

「……メインフェイズ2に移行するわ。カードを一枚セットしてターンエンド」

 

 これ以上の攻撃は無意味と名残惜しくターンを終了させる。魔法使い族を相手にする場合は時間をかけてはいられない。しかし今は何もできないのも事実だ。相手のターンは凌ぐほかならない。

 

「私のターン、ドロー。《マジカル・コンダクター》を召喚。そして見習い魔術師を反転召喚。このカードが召喚・反転召喚に成功した時、フィールド上の魔力カウンターを置けるカードに一つ置きます。私は魔力カウンターをコンダクターに置きます」

 

マジカル・コンダクター 星4/地属性/魔法使い族/攻1700/守1400 魔力カウンター0→1

 

 緑色の衣を纏う長い髪の女魔法使いが現れる。ついでその姿を露わしたのは見習い魔術師。

 彼が生成したほのかに輝く光――魔力カウンターがマジカル・コンダクターの周囲を旋回し始めた。魔力カウンターは一部の魔法使い族モンスターの力となり、彼らの効果を使うためのコストとなるのだ。

 

「さらに装備魔法《ワンダー・ワンド》を発動し、見習い魔術師に装備します。ここでコンダクターの効果を発動、魔力カウンターをさらに二つ充填します」

 

見習い魔術師 攻 400→ 900

 

マジカル・コンダクター カウンター 1→3

 

 先っぽに丸い球が付いた杖――ワンダー・ワンドを見習い魔術師が装備すると、マジカル・コンダクターの周りに今度は二つ追加される。

 

「《おろかな埋葬》を発動、私は《魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)》を墓地へ。さらにコンダクターの効果によりカウンターを置きます」

 

マジカル・コンダクター カウンター 3→5

 

「そしてコンダクターの効果を発動。カウンターを任意の数だけ取り除き、その数と同じレベルの墓地の魔法使いを復活させます。私はすべて取り除き魔法の操り人形を復活」

 

マジカル・コンダクター カウンター 5→0

 

 マジカル・コンダクターが呪文を紡ぐと、周りを旋回していた魔力カウンターが一際輝いて消える。そして代わりに両手にナイフを握った人形とそれの操り手と思われる仮面の魔道師が墓地より復活した。

 

魔法の操り人形 星5/闇属性/魔法使い族/攻2000/守1000

 

魔法(マジック)カード、《魔力掌握》を発動。このカードはフィールド上の魔力カウンターを置くことができるカードにカウンターを置きます。私は魔法の操り人形にカウンターを乗せ、さらに自身の効果で乗せます。その後魔力掌握の効果により魔力掌握を手札に加えます」

 

魔法の操り人形 攻2000→2400 カウンター 0→2

 

マジカル・コンダクター 0→2

 

 魔力掌握の効果により魔法の操り人形にカウンターが充填される。コンダクターとは違い人形のナイフに光が点っているのは、効果に関係しているのだろう。

 

「カードを一枚セットし、《闇の誘惑》を発動します。二枚ドローし手札から見習い魔術師を除外。魔法カードを発動したことによりまたカウンターが乗ります」

 

魔法の操り人形 攻2400→2600 カウンター 2→3

 

マジカル・コンダクター カウンター 2→4

 

「魔法の操り人形の効果を発動、カウンターを二つ取り除くことでフィールド上のカードを一枚破壊します。私はシャインエンジェルを破壊」

 

 操り人形が持つナイフがシャインエンジェルに突き刺さり、天使は破壊される。

 シャインエンジェルは戦闘で破壊されたときに光属性モンスターを呼ぶ優秀なリクルート効果を持つ。しかし、効果破壊ではそのリクルート効果も生かせず、ただ墓地に贈られることとなった。

 

「バトルフェイズに移行します。魔法の操り人形でサイバー・ドラゴンに攻撃、アサシンマリオネット!」

 

紫音 LP4000→3900

 

 仮面の魔道師が操るマリオネットから無数のナイフが投げ放たれる。さしもの鋼の肉体を持つサイバー・ドラゴンといえど、ぎらぎら輝く無数のナイフには応戦できず破壊された。

 

「さらにマジカル・コンダクターと見習い魔術師でダイレクトアタック」

 

「マジカル・コンダクターの攻撃宣言時、罠カード、ガードブロックを発動! ダメージを0にしてカードを一枚ドロー。――――…………っ」

 

 攻撃力高いマジカル・コンダクターの攻撃はガードブロックで0にできたが、さすがに見習い魔術師の攻撃は止めることはできない。紫音のライフから900ポイント削られる。

 

紫音 LP3900→3000

 

(先手はとられたか……! だけど、これで攻撃は――――)

 

 LPはまだ3000ある。先手を取られたのは痛いことに変わりないが、幸い手札はまだ潤沢だ。手札とLPが1さえあればまだ勝つことはできるはず。

 しかし、次のターンへと紫音が思考を切り替ようとした時、まだ花咲椎奈の行動は終わっていなかった。

 

「リバースカードオープン! 速攻魔法、《ディメンション・マジック》を発動。場の魔法使い族をリリースし、手札から魔法使い族を特殊召喚します。私は魔法の操り人形をリリースし、このカードを特殊召喚!」

 

 魔法の操り人形がリリースされ墓地へ送られると、大きな棺が姿をあらわす。やがて、それが開き中から()()()()()が覗くのを見て、紫音は凄まじいプレッシャーを感じた。

 そして、漆黒の魔法使いは棺の中から現れる。

 

「――――来てください。《ブラック・マジシャン》!」

 

 伝説の決闘者の最強の僕が、今この場に降り立った。

 

 

 


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