遊戯王異伝~史上最後のサイバー流~   作:真っ黒セキセイインコ

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第一話 宣言

『なぁ、知ってるか』

『んっ、なんだ?』

『この試験会場に二年前消えたはずのサイバー流がいるんだってさ』

『へー、そりゃ珍しいな。……っというかまだ生き残ってたのかよ、あの糞流派』

『そうらしいんだ。ホント目障りだよなー。でも最後の継承者らしいぜ』

『そりゃ、めでたい。あんなのつぶれて当然じゃん』

『そんなこと言ったら、連中怒るんじゃねーの。リスペクト、リスペクトって』

『ははっ、リスペクト(笑)ってか。ブハッ、笑いが止まんねー』

 

 異常な雰囲気を纏うデュエルアカデミア本土校の実技試験会場で、濃紺の制服に身を包む灰髪の少女――霧雨(きりさめ) 紫音(しおん)はそんな会話を耳にした。

 最強を目指す紫音がそんな場所にいる理由は単純だ。次世代へ優秀な人材を育てるデュエルアカデミアに入学できれば強くなれる。そう思っての行動だった。

 

 そして、そんなピリピリと神経が高ぶっている時に聞いた会話に、紫音はにある種のいらつきを覚えた。

 サイバー流。

 昔栄えたデュエルモンスターズの流派であり、二年前に最後のマスターが他界し表の世界から消えさったはずの流派の名前である。過去にとある理由により世間から冷たい批判が集中し、屑達の象徴とまで呼ばれていたこともあるあらしいが、紫音はその流派の最後の継承者なのだ。

 

 だからこそ普段は他人へ無関心を貫く紫音はいらつきを覚える。

 そもそもにして、ああいう連中は情報端末からメディアを読んだだけでそう判断し、ある種の人間的快楽のために批判するのだ。

 彼女が小さい頃に聞いた今は亡き師匠からは、サイバー流のリスペクトは相手に敬意を払い全力をもって決闘(デュエル)し、勝敗の概念を超えて称えあうものだと教えられていた。

 それはデュエルモンスターズにおいて当たり前の物のはずであり、それが無ければ単なる蹴落としあいだ。楽しくないものなど誰も続けない。

 だからこそ、紫音はああいうのが大嫌いだった。確かに勝つために強いカードを使うのは当たり前である。紫音だって《神の宣告》といったカウンターやバーン、ロックメタは使うし、否定することは断じてしない。

 しかし、さっきの連中みたいな人間達は、サイバー流が蔑まれる理由を作った人間の言葉を鵜呑みにし叩く要素を見つけ出しているだけなのだ。

 サイバー流はべつに所謂『舐めプ』でもカウンター、バーン、ロックメタ否定集団でもないはずなのに。

 過去にサイバー流に何があったのかは紫音は知らないが、彼女は自分が信じるサイバー流を蔑まれるのだけは本当に腹が立っていた。

 

「……っ」

 

『受験番号一番、霧雨 紫音。デュエルフィールドCへ』

 

 一度文句でも言ってやろうか。いら立ちが頂点に達した紫音が席を立ったところで放送が入る。

 少々軽い深呼吸をして紫音はさっき文句を言おうとした自分に叱咤した。

 ああいう連中は文句を言ったところで主張を改めるような奴らではない。むしろ言い合いとなり、試験会場で問題を起こしてしまうことになりかねない。そうなれば、強くなるためにデュエルアカデミアへ行くという目的が崩れてしまうのだ。

 

(落ち着け……、落ち着いて私。アイツらがああ言ってるのなら、見せてやればいい。()()()は強いんだって)

 

 自分が最も信じるデッキを見つめ、もう一度深く深呼吸をすると、何時しかさっきまで渦巻いていたいらつきは嘘のように取り払われていた。

 

(師匠見ていてください。私は絶対サイバー流に最強の名を飾ります)

 

 紫音は今は亡き恩師へ静かに呟くと戦いの場へと足を進めていく。

 

◇ ◆ ◇

 

 紫音達、受験生がいる場所、デュエルホールはかなりの広さを持つ場所だ。会場の大きさは野球などのスタジアムの大きさとそうは変わらず、縦が10メーターそこそこはあるデュエルフィールドが二十も並び、周りにはデュエルの観戦をするための席がデュエルフィールドを囲むのは、さながらイタリアの闘技場(コロッセオ)を連想させる。

 とにかく大きな建物なため、自分が行くデュエルフィールドを捜すのは骨が折れるだろうと思った紫音だったが、それはいらぬ心配だった。普通にABC順に並んでいたため、探す手間がなかったのである。しいて言えば、このだだっ広い場所を移動するのが面倒なぐらいだろう。

 となりのBやDではまだデュエルが繰り広げられており、受験番号も上位の者ばかりだからなのか結構な腕前だったが、別に紫音の眼に着く者はいなかった。

 そして、着いた先にはやはり、黒スーツに黒グラサンという()のつく職業に見えてもおかしくない服装をした試験官が立っている。何処を見渡しても試験官は全員同じ格好なので、何かの集会に見えなくもなかった。

 

「受験番号一番、霧雨 紫音。よろしくおねがいします」

 

「フム、今年の一番は君か。いいデュエルになることを期待する。それでは、はじめようか」

 

 試験官の言葉に紫音はもう一度深呼吸をすると、左手につけられている円盤状の機械――デュエルディスクを構えた。そして両者が息を吸い込み、一言。

 

『デュエル!』

 

 デュエルディスクに先攻を表すランプが輝いたのは紫音だ。

 

「私の先攻、ドロー。モンスターをセット、カードを三枚セットしてターンエンド」

 

「無難な盤上だな。それでは私のターン、ドロー。……まずは試させてもらおうか。《カードガンナー》を召喚」

 

カードガンナー 星3/地属性/機械族/攻 400/守 400

 

 試験官が宣言するとコミカルな色彩のロボットが現れる。両腕が銃になっているためガンナーという名前は伊達ではないようだ。

 そして、紫音はこのモンスターを見て露骨にいやな顔をした。彼女はこのカードの厄介さはよく知っている。

 

「どうやら知っているようだな。カードガンナーの効果を発動! デッキトップより三枚までカードを墓地へ送り、このカードの攻撃力をエンドフェイズまで墓地へ送った枚数×500ポイントアップさせる。私は三枚墓地へ送り、1500ポイント攻撃力をアップ!」

 

カードガンナー 攻 400→攻1900

 

 カードガンナーの効果により、墓地へ送られたカードは、《次元幽閉》、《ラビードラゴン》、《レベル・スティーラー》のカードだ。一枚は強力な(トラップ)カードなのを除き、最上級の通常モンスターのであるラビードラゴンと容易に場に復活するレベル・スティーラーが落とされるのは、非常に厄介なものである。

 カードガンナーの厄介なところはそこで、アタッカー兼墓地こやしを一体で行い、さらにもう一つの効果もまた厄介だ。

 

「バトルだ! カードガンナーでセットモンスターへ攻撃。カードショット!」

 

 カードガンナーの両腕の銃より弾が発射され、紫音のセットモンスターに銃弾の雨が降り注ぐ。するとセットされた紫音のモンスターが露わとなるや否や、黒い影のようなものが飛び出し試験官と紫音の手札を全て飲み込んだ。

 

「セットモンスターは《メタモルポット》。効果によりお互いの手札をすべて捨て、その後五枚ドローする」

 

「くっ、セットモンスターはメタモルポットだったのか」

 

 試験官が悔しげに呟いた。どうやら良いカードを捨てさせることができたらしい。

 メタモルポットの効果は相手にも墓地こやしと手札交換をさせてしまうデメリットがあるが、手札消費の激しい紫音のデッキでは貴重なドロー源でもあるため、少々のデメリットは無視するしかない。

 

「……私はカードを二枚セットしターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー」

 

 相手の場にはセットカードが二枚。さらに攻撃力が元の400へ戻ったカードガンナーが坐している。紫音は六枚になった手札を確認してから動きを見せた。

 

「手札から《ナイト・ショット》を発動、左側のセットカードを破壊」

 

 セットカードしか破壊できないのと速攻魔法では無い点では、似た効果の『サイクロン』に劣るナイト・ショットだが、破壊対象のカードにチェーンさせず破壊できる効果は紫音のデッキの弱点を補うのに非常に最適な効果である。

 そして、破壊されたのは《魔宮(まきゅう)賄賂(わいろ)》だ。魔法・罠の効果を無効にする効果をもつカウンタートラップを破壊できたのは大きな収穫といえるだろう。

 

「《サイバー・ヴァリー》を召喚。さらに魔法カード《機械複製術》をサイバー・ヴァリーを対象に発動。効果によりデッキから二体のサイバー・ヴァリーを特殊召喚」

 

 サイバーモンスターでは珍しく生物的な個所がある蛇のようなモンスターが三体、紫音のフィールドに並んだ。

 

「《精神操作》を発動。カードガンナーのコントロールを奪取。コントロールを得たカードガンナーの効果を発動し三枚墓地へ送る。そして、サイバー・ヴァリーの効果を発動、このカードと他のモンスターを除外することで二枚ドローする。私はサイバー・ヴァリー一体とカードガンナーを除外し二枚ドロー。さらにもう一体の効果を発動し、サイバー・ヴァリー二体を除外して二枚ドロー」

 

 破壊時にドロー効果を内蔵するカードガンナーだが、除外にはその効果も発動することができず、カードガンナーはサイバー・ヴァリーと共に次元へと姿を消した。

 二枚まで手札が減少した紫音だったが、初期の手札だった六枚にまで増加するのを見て、試験官が関心した声を上げる。

 

「破壊されたときに、ドロー効果を発動するカードガンナーをこう対処するとは……、さすが受験番号一番なだけあって伊達ではないようだな。だが、召喚権はもう無い。どうするのかね?」

 

「大丈夫。このターンで終わるから」

 

「何?」

 

 紫音の言葉に試験官が訝しげに眉をひそめると、紫音がカードの効果を起動させた。

 

「ライフを半分支払い《サイバネティック・フュージョン・サポート》を発動。このターン機械族の融合を行う場合、手札・フィールド・墓地から融合素材としてモンスターを除外し、融合を行うことができる。私は『融合』を発動し、墓地のサイバー・ドラゴン一体と《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》一体と手札のサイバー・ドラゴン一体を融合」

 

霧雨 紫音 LP4000→2000

 

 融合の効果により現れた渦に、二体のサイバー・ドラゴンと墓地ではサイバー・ドラゴンとして扱うサイバー・ドラゴン・ツヴァイが吸い込まれ消えると、光の渦はやがて一体の巨大な機械竜の形を成した。

 

「融合召喚! 《サイバー・エンド・ドラゴン》!」

 

サイバー・エンド・ドラゴン 星10/光属性/機械族/攻4000/守2800

 

 サイバー・エンド・ドラゴン。その竜は紫音にとって、いやサイバー流にとって象徴であり、紫音が何よりも信用するモンスターだ。そして、サイバー・エンド・ドラゴンは主である紫音の期待にこたえるかのように、三つある頭で咆哮を上げた。

 

「サイバー・エンド・ドラゴン……、そのカード、まさか君は……」

 

「バトルフェイズ! サイバー・エンド・ドラゴンでダイレクトアタック! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 

 紫音は試験官の言葉を待たず、サイバー・エンドへ攻撃を命令した。その攻撃に対し試験官のリバースカードが起動される。

 

「くっ……、リバースカードオープン! 永続トラップ『正統なる血統』! 効果により墓地からラビードラゴンを攻撃表示で特殊召喚する!」

 

ラビードラゴン 星8/光属性/ドラゴン族/攻2950/守2900

 

 ラビードラゴンは通常モンスターの中では、世界に四枚しか無いカード――《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》に次ぐ攻撃力を持つドラゴン族のモンスターだ。どうやら試験官のデッキは通常モンスターを主軸に置いたもので、墓地へ送った大型モンスターを次ターンに復活させ紫音に大ダメージを与えようとするデッキのようである。

 しかし、攻撃力4000を誇るサイバー・エンド・ドラゴンの放つ青白い閃光は、通常モンスター№2の攻撃力を誇るラビードラゴンをいとも簡単に焼き尽くした。

 

試験官 LP4000→2950

 

「くぅっ……! だが、私のライフはまだ2950。このターンで倒すことは不可能だ!」

 

 確かにいかにサイバー・エンドの攻撃力が4000であろうと、壁となるモンスターがいるならば初期ライフである4000は削りきることはできない。しかし、紫音の攻撃はまだ終わっていなかった。

 

「いいえ、終わりよ。――トラップカード発動、《異次元からの帰還》! ライフを半分払い、除外されている自分のモンスターを可能な限り自分フィールドに特殊召喚する」

 

霧雨 紫音 LP2000→1000

 

「私はサイバー・ドラゴン二体とサイバー・ドラゴン・ツヴァイとヴァリーを特殊召喚。これで終幕(ジ・エンド)。二体のサイバー・ドラゴンでダイレクトアタック! ダブル・エヴォリューション・バースト!」

 

 異次元より帰還した二体のサイバー・ドラゴンの攻撃は、残り2950の試験官のライフを削りつくす。

 

試験官 LP2950→ 0

 

 試験官がライフに0を刻むと、辺りの観戦者達が静まり返った。別に試験官に勝ったことで驚きを見せているわけではない。正確には紫音が召喚し、試験官を倒したモンスター――サイバー・ドラゴンの系列のカード達に驚きを見せているのだ。

 

『おい、サイバー流みたいだぞ。アイツ……』

『いやでも……、サイバー流って数年前に滅んだんじゃ……』

『でも、サイバー・ドラゴンを使う奴なんて、アイツらしか居ねーだろ』

 

 口々に観戦者達が呟く中、紫音は右手を高く上げ宣言した。此処にいる受検者達に、いや世界に。

 

「私はサイバー流、霧雨 紫音。さっきサイバー流を笑った連中も、サイバー流を罵った連中も見てなさい。私が、いいえ、サイバー流が最強であることをアンタ達に見せてやる!」

 

 その時から物語は始まった。サイバー流最後の継承者が世界最強を目指す物語は今始まったのである。

 


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