遊戯王異伝~史上最後のサイバー流~ 作:真っ黒セキセイインコ
ネオドミノシティ。元の名は
しかし、どんなに発展を遂げようと、過去にどんな英雄達がいようとも、必ず闇の部分は存在する。
例えばそれは、セキュリティですら立ち寄れない裏のストリート。日夜、非合法なデュエルが行われる地下デュエル場などがそれである。
そして今、二人の人間が向きあうこの裏通りもまた、そういう場所の一つであった。
片方は痩せぎすでいかにも不健康そうな大男。そしてもう片方は真っ黒なパーカーを羽織り目元をフードで隠す性別不明の人間だった。
大男と黒パーカーの背丈は男の頭一つ、いや二つは離れており、あまりにも黒パーカーの場違い感はぬぐえない。しかし、彼らがしているのは喧嘩では無く
お互いにライフは初期数値である4000をデュエルディスクに刻んでおり、まだ序盤という状況で先に動きを見せたのは男の方だった。
「クックックッ……。《スクラップ・ドラゴン》の効果発動! 自分フィールドのカード一枚と相手のフィールドのカード一枚を破壊する。オレはこのセットカードとお前のセットカードを破壊だぁ! そしてチェーンして《強制脱出装置》を発動! そのセットモンスターを手札に戻す!」
大男は顔を愉快そうにゆがめてそう宣言すると、ガラクタの寄せ集めのような竜――スクラップ・ドラゴンの咆哮が男のカードと黒パーカーのカードを破壊する。
さらに破壊された男のセットカードから竜巻が漏れ出し、黒パーカーのセットモンスターを手札へと戻していく。これによって黒パーカーのフィールドにはカードは存在しなくなってしまった。
「ハンッ! 《ガード・ブロック》か! そんでセットモンスターはリバース持ちってことは見え見えなんだよ。そして、これでお前の場はゼロ。バトルだスクラップ・ドラゴンでダイレクトアタック! さぁ2800のダメージを受けな!」
スクラップ・ドラゴンのアギトにある噴射口から炎が放たれる。
攻撃力は2800、たいして黒パーカーのライフポイントは4000。この攻撃ではライフは無くならない。しかし、こう言う場所で行われるデュエルではデュエルディスクも特別製であり、ダメージを負うとプレイヤーに電流を流す仕組みになっている。しかも、それはダメージの量に比例するため、このままでは黒パーカーは2800分もの電流を流されることとなってしまうのだ。
男は相手がその苦痛に歪む顔が見れると思い、ただでさえ醜悪な顔をゆがめたが、対する黒パーカーの反応は冷静な物であった。
「攻撃宣言時、手札から《速攻のかかし》を捨ててバトルフェイズを終了」
「アアッ!?」
スクラップ・ドラゴンが吐きだした火炎は、これまたぼろっちい案山子が現れたかと思うと火の粉を散らしながら消え、バトルフェイズは終了させられた。
「くそが! カードを二枚セットしてターンエンド」
至極残念そうに男がターンを終了させると、黒パーカーへターンが移行する。
「……ドロー。手札から大嵐を発動」
「チィッ……! 《神の警告》と《ミラーフォース》が……」
緑色に縁取られたカードを黒パーカーがデュエルディスクに差し込むと、さっき使われた荒野の大竜巻の時以上の風が吹き荒れ、男のセットカードを破壊しつくした。
二枚とも優秀なカードなため破壊されたのは痛かったらしい。
「……さらに手札から《サイバー・ドラゴン》を攻撃表示で特殊召喚」
サイバー・ドラゴン 星5/光属性/機械族/攻2100/守1600
黒パーカーのフィールド上に細長い蛇のような機械の竜が現れる。メタリックな銀色の竜はそのサイバーという名の通り純粋な機械で作られた竜であった。
「サイバー・ドラゴンは自分フィールドにモンスターが居らず、相手フィールドにモンスターがいる場合特殊召喚が可能……」
「サイバー・ドラゴン……? へぇ珍しいじゃねぇか。今時そんなカード使うやつがいるなんてなぁ」
サイバー・ドラゴンは今は無きサイバー流のキーカードだ。カードの供給が高まった今でこそ手に入れやすいが、もはやシンクロ召喚やエクシーズ召喚がある今では使われることのないカードである。
それ以前にとある理由により、もはやサイバー流系列のカードを使うものはほとんどいないのであった。
「……アンタには関係ない。手札から
黒パーカーは宣言するとサイバー・ドラゴンの口に、青白い光を放つエネルギーが充填され発射される。
スクラップ・ドラゴンの攻撃力は2800。対してサイバー・ドラゴンの攻撃力は2100だ。通常の戦闘ならば破壊どころか敗北するところだが、効果により破壊ではその攻撃力もないに等しい。
サイバー・ドラゴンの何倍もある大きさのスクラップ・ドラゴンが破壊されるのは、些か不思議なものだったが、崩れ落ちて行く屑鉄の竜の効果が発動される。
「チッ……、だが相手に破壊されたことでスクラップ・ドラゴンの効果が発動する。墓地よりスクラップと名のつくシンクロ以外のモンスター、《スクラップ・ビースト》を守備表示で特殊召喚! 残念だったな」
スクラップ・ビースト 星4/地属性/獣族/攻1600/守1300
「想定内」
「なんだとっ……!?」
スクラップ・ドラゴンの亡骸(正確には残骸)から生まれてくるスクラップ・ビーストの姿を見て呟いた黒パーカーに男が驚きの声を上げる。
「手札から《パワー・ボンド》を発動。フィールドのサイバー・ドラゴンと手札のサイバー・ドラゴンを融合。融合召喚、《サイバー・ツイン・ドラゴン》。さらに攻撃力はパワーボンドの効果により2800の倍の5600となる」
現れたのは双頭の機械仕掛けの竜。エヴォリューション・バーストによるデメリットは打ち消され、2800という高い数値はパワー・ボンドの効果によってさらに上昇した。
サイバー・ツイン・ドラゴン 星8/光属性/機械族/攻2800/守2100→攻5600
「なっ……!? 攻撃力5600だと! いや待て、それ以前にサイバー・ツインにパワー・ボンドってことは……お前まさかっ、噂の『サイバー流、最後の継承者』……!?」
「……答える義理なんてない。バトルフェイズ。サイバー・ツインでスクラップ・ビーストに攻撃、エヴォリューション・ツイン・バースト」
双頭の機械竜――サイバー・ツイン・ドラゴンの二つの口より発せられた光線は守備力1300など壁にすらならず、スクラップ・ビーストは文字通りなすすべもなく融解させられてしまった。
「だ、だが、ビーストは守備表示だ。ダメージは受けない。そ、それにパワー・ボンドの効果でお前は2800のダメージを受ける、ざ、残念だったな」
間近で5600もの攻撃の余波を受けた男はもはやろれつが回らなかったが、それに対し黒パーカーの返答は冷ややかな物だった。
「さっき想定内だと言ったはず。サイバー・ツインは二回攻撃が可能。よってサイバー・ツインでダイレクトアタック、サイバー・ツイン・バースト第二打」
再び閃光がサイバー・ツイン・ドラゴンの口に集約され放たれる。
真っ白い光線が男に到達した瞬間、男のライフがゼロを刻み、彼は声にならない叫びを上げながら汚い路地裏を転げまわった。デュエルディスクから発せられる電流が身体を走り回っているのだ。
黒パーカーはデュエルが終わったことを告げるブザーが鳴り響いたのを確認すると、転げまわる男を一瞥すらせずに裏通りを後にした。
電流が流れると言ってもさすがに人を殺すほどではない。そもそもこんな場所にいる奴が碌なやつなわけが無いのだ。同情する価値すらないし、目的はすんだので長居も無用だった。
裏通りを出て、人通りが少ない道を選んで通り、これまた人通りの少ない公園へと到達するとそこで黒パーカーはベンチへ座りこんだ。ついで深く息を吐く。
不意に風が吹くと黒いパーカーのフードが捲れ上がった。現れたのは長く鈍い灰色の髪と、性別相応の可愛らしい少女の顔。まつ毛は程良く長く、形のいい鼻に少しツリ目気味の眼。ただし、その表情はただの可憐などとは程遠い冷たい氷を思わせる。
黒パーカー――灰髪の少女がフードを深く被るのは目立つ髪を隠すためだったのだ。そして、自分の顔と性別を分からなくするためでもあった。
彼女の名は
そして、彼女が掲げる目標はただ一つ。
サイバー流が最強であることをこの世に示す。
それが彼女の現在の生きる理由であり、悲願であった。
これはそんな彼女の波乱に満ちた人生をつづった物語である。
はじめまして、真っ黒セキセイインコと言います。
この度、遊戯王の二次創作を投稿を始めさせてもらいました。
普段はモンハンの二次を書いていたり、他の方の作品を読んだりしているのですが、遊戯王の二次を読ませてもらっている時に、『ハーメルンの遊戯王の二次ってサイバー流のアンチが多いな』なんて思ったので、それならサイバー流の未来はどうなるのかと想像したら止まらなくなり、書きはじめてしまいました。
一応、話の構成は作ったのですが、作者は遊戯王でのプレイングがひどいので、色々ご指摘やご感想をもらうととても助かります。