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今回はちょっとした改変の準備回みたいなものです。
後フラグ立てたりしてます。
「では、準備を整えて出発しましょう!」
なんとか2つの仕事を同時にできるように話を纏めたモモンガは、溜息をついて受付嬢に保存食を求める。用意ができたらナーベラルとXオルタにあまり余計なことを喋らないように注意してから集合場所に向かう。
準備を整え集まった8人は、エ・ランテルの街を出て森の周囲に沿ったルートでカルネ村へと向かう。護衛としては間違ったルートではあるが8人という人数による安心感とペテルとの仕事が理由だ。そもそも平原との境目なのであまり強力なモンスターもいないとのことから、行きはそのルートを取ることになった。
そうして歩き続け、エ・ランテルを出て正午を回った頃に、鬱蒼と茂る木々が見えてきた。
「モモンさん。この辺りからちょっと危険地帯になってきます。念のため注意してください」
ここに来てはじめてペテルが今までとは違う固い声で述べた。モモンガは了承の意をのべるが、若干の不安を抱いた。
これはゲームではなくリアルだ。つまり、何があるかわからないということだ。そして思いつく限りの悪い想像を働かせる。
例えば、レベル100に匹敵する敵が出て来たらどうするべきか。
現状、全力を出せるのはXオルタだけだ。防具こそベストではないが光刃は隠し持っていて、デメリットを負っている状態でもないので充分なパフォーマンスを発揮できるだろう。
しかし、戦士としては対応力の高いXオルタも、単体戦力としてみればあまり優れたものではない。単純に強い敵が現れたら自分が正体をあらわす必要が生じるかもしれない。
もしそのような事態に陥り、アンデッドである姿を見られたら記憶を消すか殺すかしなくてはならない。アンデッドとして殺人に忌避感を抱かなくなったとはいえ、モモンガにはエゴで人を殺す気は無かった。
ナザリックが殺人鬼の巣窟にでもなったら、戻ってくるかもしれないギルメンですら近寄らなくなるかもしれない。Xオルタがこれ以上ギルメンに隠し事をしたくないだろうということを解っている以上、突っ込みどころは減らすに限る。事実、ナザリックでもこれを意識できるNPCしかまだ極力、外出はさせていない。
いざという時の為にXオルタとアイコンタクトを交わす。
そんな2人のやり取りを見て何かを勘違いしたルクルットが戯けた口調で話しかけてきた。
「大丈夫だって。奇襲でも受けない限りそんなにやばいことにはならないって。そして奇襲なんか、俺が耳であり目である限りは問題ナッシング。モモンさんも安心してくださいね。2人に危害が及ぶ前にちゃんと対処できるようにするんで」
初対面でナーベラルをナンパするような軽薄な男にしては落ち着いた態度にモモンガは違和感を覚えるが、ナーベラルが「至高の……」だのボソボソつぶやき苦い顔をしているのを見て慌てたモモンガはかき消すように声を出した。
「じゃあお任せしますね。でもこの2人も結構優秀ですから。期待してください」
褒められた為に一転してナーベラルの顔がほころぶ。漆黒の剣のメンバーはナーベラルの顔を見てホッとしたような表情を浮かべた。
モモンガ達は知らないが漆黒の剣では兄弟姉妹というものは特別な意味を持つ。全員が世間知らずに見えるナーベラルや幼いXオルタのことをそれなりに心配していた。
2つのチームのやり取りを見てンフィーレアが口を挟む。
「大丈夫ですよ。実はこの辺りからカルネ村の近辺まで、『森の賢王』と呼ばれる魔獣のテリトリーなんです。ですから滅多なことではモンスターは姿を見せないんですよ」
森の賢王、Xオルタのノートの情報によるとでかいハムスターらしい。確かハムスターを飼っていたメンバーがいたはずだから捕まえたら説得の材料になるだろうと考える。
歩きながら余裕のあるモモンガはニニャに魔法やこの世界の常識を聞く。それは様々な気付きを与えてくれるものだった。特に輪作対策の魔法や海水がしょっぱくないという知識を聞いたときは隣で聞いていたXオルタも驚きを示していた。
「動いたな」
ルクルットの遊びのない重く固い声が通った。普段の緩さからは想像もつかないほど緊迫感に溢れたプロの冒険者らしい声だ。
「どこだ?」
「あれだよ、あれ」
ペテルの言葉に答えルクルットが答えた。木々の陰になっていてほとんど見えていないがその言葉を疑うものはいない。護衛対象であるンフィーレアを安全圏に下がらせると200メートル程離れた場所に6体のオーガを含む15匹のゴブリンの群れが確認できた。当たり前だがそれぞれに個体差がある。
「半分受け持ってもらえるということですが、どのように分けましょう?」
「二手に分かれ来た敵を適当に殺していくのでは駄目でしょうか?」
「それだと片方に集まって来たら厄介です。ナーベさん第3位の範囲魔法で一気にゴブリンを薙ぎ払えますか?」
「できません。使える中で最大火力は<ライトニング/雷撃>でしょうか」
そういうことになっている。背後からXオルタの声が響いた。
「私は範囲魔法ができ、ます」
Xオルタのいう範囲魔法とはオルト・ライトニングのことだ。元々は手から前方に電撃を飛ばすだけのスキルだったが転移してから範囲や威力の自由度が大幅に上がった。ダメージの最大値こそ変わらないが細かな調整が可能になったのは威力がほぼ据え置きの魔法と違い大きな利点だろう。
ペテルが確認の視線をモモンガに送る。
「大丈夫です。ゴブリンはエックスに任せられます」
「そうなるとオーガは3体ずつでいいですか?」
「もっといけますよ。というより皆さんには馬車に乗っているンフィーレアさんを護衛しておいてください」
「モモンさん……」
「あの程度たやすく倒さなくては単なる大口叩きになってしまう」
自信に溢れたモモンガの声を聞き納得したのかペテルが答えた。
「了解しました。とはいえ私達も敵の突進を見逃すわけにはいきません。出来る限りの戦闘支援はさせてもらいますよ」
ペテルの指示に漆黒の剣のメンバーが互いの顔を見合いながら一度頷くだけで了解する。戦闘方針の決定が実にスムーズでモモンガは感心した。かつての自分達には劣るだろうと思いつつその片鱗を感じられた。
ルクルットの矢がゴブリン達から少し離れた場所に突き立った。ゴブリンの油断を誘い、おびき出すための一手は呆れるほど効果的に決まった。もはやゴブリン達に防御という概念はなくオーガも僅かに遅れて走り出す。
ルクルットが全体から遅れているゴブリンを狙い撃っていく。両者の距離が徐々に縮んでいく。
「沈め」
彼我の距離が50メートルを切ったとき、Xオルタの一言とともにゴブリン達の集団に向かって赤い稲妻が走った。前方を走るオーガを打ち据えてからゴブリン達を足元の草むらに沈める。ゴブリン達に起き上がる気配はない。
漆黒の剣のメンバーが僅かに息を飲む。
耐え切ったオーガ達は痺れながらも怒りに任せてXオルタ目掛けて襲いかかってくる。ここでXオルタは一旦チームの最後尾に下がった。
ダインがオーガの1体を足止めする。
<トワイン・プラント/植物の絡みつき>
ダインの魔法によってオーガの足元の草がざわめきのたうつ鞭として絡みつく。
そんな中、モモンガが剣を取り出しオーガに向かっていった。
2本のグレートソードをそれぞれ片手で振り回す。左右の剣で1体ずつオーガを両断し、そのまま返す刀でもう2体切り捨てた。
戦闘中であるのに時が止まったかのように音がなくなった。
はじめに動いたのは拘束されてない最後のオーガだ。一目散に逃げかえろうとする。
「ナーベ、やれ」
冷ややかな声とともにナーベラルが頷く。
<ライトニング/雷撃>
雷撃が逃げるオーガを貫き同時に縛られて死にかけていたオーガにも当たる。
戦闘が終わり生臭い焦げた匂いがする中、それぞれダガーでゴブリン達の耳を切り落としていた。
「しかし……すごいですね、3人とも。モモンさんは腕に自信がある戦士だと思っていましたが、あれ程とは思ってもみませんでした」
ニニャの言葉を皮切りに漆黒の剣のメンバーが口々に褒め称える。
「すごかったですよ!同じ戦士として憧れます!あの腕力はどうやって鍛えたんですか?」
「エックス嬢に声をかけた時の言葉通りである!本人の実力もさすがである!」
「ナーベちゃんのライトニングもすごかったし、えっちゃんのあれも圧倒的だったよな。あんな魔法見たことないぜ」
「そうですね。あの魔法は一体何だったんですか?魔法詠唱者として参考にしたいです」
会話が止まりXオルタに視線が集まっていく。
「え、えっと、あれはオルト・ライトニングって呼んでいます」
「つまりライトニングの亜種ってわけか。じゃあ、えっちゃんも第3位階まで使えるってことかよ、すっげぇ」
ルクルットの賞賛を素直に受け止められずXオルタは否定した。
「いえ、私はちゃんとした魔法は使えないので……」
一同の顔に疑問符が浮かぶ。
モモンガは明かしていいものかと止めようかと思うが、この場には引抜き予定の1人とこちらに来てから会った人間では比較的信用の置けるメンバーしかいない。いっそのことXオルタの決めた冒険者「エックス」としての設定がどの様な反応を得られるのかを見る試金石としようと考え直した。
「そこまで言ってしまったならそれはもう明かしてもいいんじゃないか?」
モモンガが穏やかな声色でXオルタに話しかけた。その言葉の真意を察したXオルタは自身の2種類の魔法について語った。特異な話に空気が重くなりかけた時にニニャが話題を変えた。
「何だか大昔の物語にあるドラゴンの魔法みたいですね。そういうのが使えるってタレントもあるみたいですし。……まぁ、珍しいので隠したほうがよさそうですが」
話を聞いたニニャの言葉にXオルタは僅かに安心する。実際に似た様なものが使えた話があるのなら違和感は少ないだろうと思う。
「大昔のドラゴンですか。どんなのがいたのかわかりますか?」
未知のものに惹かれたモモンガがニニャの話に乗っていく。
「以前、エ・ランテル周辺には天変地異を操るドラゴンがいたという眉唾な伝承がありますが最近はドラゴンの話自体聞きませんね。あ、いえ、アゼルリシア山脈にフロスト・ドラゴンが多数生息しているっていう話がありますが」
「その大昔のドラゴンの名前とかはご存じですか?」
「いえ、そこまではちょっと……」
「そうですか、すいません。変なことを聞いて」
そのまま漆黒の剣のメンバーにとっては冒険者の頂点に立つだろう3人との会話を、モモンガ達にとっては新しい世界について新鮮な知識を得られる会話を満喫した。
どうでしたでしょうか?
いくつか突っ込みどころがあると思います。
前回のルクルットのナンパをニニャが止めたわけとかこっそり盛り込んでみたり
ちなみにルクルットは結構好きです。
後、違和感あったら突っ込んでください。感想、評価、コメントください。