不眠転生 オールナイト   作:ビット

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前話の前書きで、『今回はこちらで言わせて頂きます〜~』と言っていましたが、前書きを見返してみると今までもちょくちょく前書きでお礼を言っていました。

挿絵を褒めらたの正直めちゃくちゃ嬉しかったです。



感想・評価・誤字報告ありがとうございます。いつも通りの拙い文章ではありますが、皆様の暇潰しにでもなれると幸いです。



雄英高校襲撃事件︰真

先日のヴィラン連合による雄英襲撃事件は、生徒を狙った卑劣な犯行として世間に向け大々的に報道された。雄英高校は雄英バリアーと呼ばれる防壁の強化、更に近辺のヒーロー事務所に雄英高校付近のパトロールを依頼する等の形で警備の強化を強め、再発防止に務める意向を発表。

 

死柄木と黒霧との戦闘を終えた後、すぐにエクトプラズム先生やブラド先生が駆けつけてくれた。右腕の治療をした後は、囮に使われていたマスコミの対応を行っていた相澤先生も合流し、警察の方と根津校長先生を交えながら、事情聴取が行われた。

 

俺が先生達に流した情報の中に、現時点で俺が知り得る筈もないだろうヴィラン連合の話は無い。オールマイトの殺害を目論んでいると考えられるヴィランの三人組が乗り込んできた所を、偶然居合わせた俺が撃退した事になっている。更に言えば、雄英高校が過剰な対策を取る事で起こるかもしれない原作との乖離を危惧し、黒霧の個性についてすら詳しくは話していない。

 

先生方からは無茶をするなとこっぴどく叱られはしたが、多対一の戦闘になり、逃亡が困難だった事もあり、特別な罰則等は特に無かった。

 

「よくやった、だが今度からは絶対に無茶はするなよ。俺達大人を頼れ」。という相澤先生からの言葉も嬉しかったが、何より嬉しかったのは耳郎響香からの「ありがとう」という感謝の言葉だった。

 

思えば人から感謝の言葉を送られた事なんて何時ぶりだったのだろう。今世で幼い頃に両親が他界して以来、ずっと聞いていなかった様な気がする。柄にもなく泣きそうになってしまったが、女の子の前で泣く訳にはいかないと涙を堪えた。

 

正直言うと、めちゃくちゃ怖かった。本物の殺意を向けられたのは、前世を合わせたって初めての事だった。

 

それでも立ち向かう勇気が湧いてくるのは、一体どうしてなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はちょっと周りの様子を確認してくる。ここから動くなよ」

 

硬い声だった。何かを覚悟している様だった。それを感じていながら不死を強く引き止める事が出来なかったのは、一重にアイツが『ついてくるな』というオーラを放っていたからなのだろう。

 

今思えば、アイツはあの時既に、ヴィランの襲撃に気付いていたのかもしれない。

 

目深に被ったキャップの影と、長く伸ばされた白い髪の隙間から一瞬だけ見えた瞳は、何だかとても疲れきっている様に見えて、それでいて活き活きと輝いていて、同時に何処か遠くを見つめている様で。

 

時が流れると同時に変化し、様々な想いが込められたその瞳は、何処までも真っ直ぐ前を見つめていた。

 

頬杖を着いて二席分程離れたアイツの横顔を見つめながら、影と髪に隠されたあの瞳をもう一度見てみたい、なんて、らしくもない事を考えている。

 

先生が黒板に書いていく英文を板書しながら、チラチラと不死の横顔を覗き見た。少し猫背気味に腰掛け、真面目に先生の話を聞いている。リカバリーガールに治療してもらった右腕の包帯が取れて、白い肌が見えた。治療の後に自らの個性を使用して一日で治したのか。

 

一日で治る様な怪我じゃなかった。右腕はヒビが入った様な傷からとめどなく血が流れていたし、素人目から見てもそれがかなり深い傷である事は明白だった。

 

私のせいで怪我をさせてしまった事に罪悪感は勿論あったし、誠心誠意謝ったつもりだったんだけど、

 

『いいさ別に。これくらい』

 

本当に些細なことだと言う様な、一種異様な“軽さ”に、こちらの方が唖然とさせられてしまった。本気で何も思っていない様なキョトンとした顔を向けられると、何だか落ち込んでいる私が馬鹿みたいに思えてきて。

 

ありがとう、そう一言だけ告げると、今まで戦闘訓練以外では全く変えなかった表情を子供の様に歪め、俯きながら嬉しそうに笑っていた。

 

そんな風な思考の海を漂っていると、いつの間にか時間は過ぎていた様で、授業終了のチャイムが鳴る。ビクリと体が跳ねたのが、誰かに見られた訳でもないのに無性に恥ずかしい。

 

人の横顔ガン見しながら何を考えているんだ私は!

 

何故か火照っていた頬に手のひらをあてる。丁度いい冷たさで気持ちがいい。

 

後で芦戸にノート見せてもらうかぁ、とため息を吐きながら、次の授業の準備を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

ヴィランによる雄英高校襲撃事件から、はや一週間後。世間では未だにその事件が注目を集めている中、しかしその日はやってきた。

 

昼食を終えてすぐの授業はヒーロー基礎学。いつも通り、チャイムが鳴るのと全く同じタイミングで入室してきた相澤先生は、いつもの様に気だるげに言葉を吐く。

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見る事になった。今日の授業は、災害水難なんでもござれ……人命救助(レスキュー)訓練だ」

 

とうとう来たか。ヴィラン連合が本格的に雄英を攻めてくる一大事件。原作では、この事件こそが“雄英高校襲撃事件”として世間に認知されていた。

 

敵の戦力は、カリキュラムを奪いに来ただけの前回とは比にならない。ヴィランの総数もそうだが、“対平和の象徴”として造られた怪人脳無が桁外れに強い。

 

衰えたとはいえ、未だ圧倒的な実力でNO.1ヒーローとして君臨するオールマイトと互角のスピードとパワー・タフネス。オール・フォー・ワンにより、複数の個性を与えられた怪人。

 

正面から勝負しては、俺は再生するサンドバッグと化すだけだろう。身体能力をブーストしたとしても、脳無のスピードに対応出来る自信は全く無い。

 

俺は雄英高校に入学する一年ほど前、後に爆豪を捕らえ暴走する“ヘドロ”と呼ばれる流動体ヴィランを追っていたオールマイトをたまたま見た事がある。

とても目で追えなかった。というか瞬きしたらその場から消えていた。NO.1ヒーローの実力には、今の俺ごときでは到底及ばない。

 

そんなオールマイトをボロボロになる寸前まで追い詰めたヴィランと正面戦闘等ただの馬鹿だ。脳無は原作通りオールマイトに任せるとしよう。

 

だが死柄木と黒霧、こいつらの相手は俺がする。先の戦闘で動きは見れた。完全無力化となると正直厳しいが、脳無とオールマイトの戦闘に介入させさえしなければ、オールマイトによる脳無無力化の成功率は確実に上昇する筈だ。

 

オールマイトに余裕を持って脳無を倒して貰えれば、黒霧や死柄木をこの事件の段階で捕らえる事も可能だろう。彼なら五分も掛からずに二人を無力化出来る。

 

相澤先生によると、今回の授業ではコスチュームの着用は各自の判断に任されている様だ。水害時の救助訓練等では邪魔になる可能性が高いが、授業は開始そうそうにヴィランに潰される。戦闘能力と手頃な自殺のし易さを考えると、コスチュームは着用していた方がいいだろう。

 

「訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上各自準備開始」

 

先生の言葉と同時に生徒達が立ち上がり、コスチュームや体操服を持って移動する。更衣室でコスチュームに袖を通しながら、戦闘時のシミュレーションを頭の中で行っていた。

 

 

場所は変わってバスの中。乗車前は出席番号順に並ぼうと、緑谷に推薦され学級委員長となった飯田が指示を行っていたが、バスの座席がややこしかったので結局皆適当に座っていた。

 

俺は当然の様に一番後ろの座席に腰掛け、流れていく景色を見ながらクラスメイトの話を聞いている。どうやら、緑谷の個性がオールマイトの個性と似ている、という話題で盛り上がっているらしい。

 

似ているというか、オールマイトの個性そのものなんだよな。力の制御が出来ずに暴発しているが、いずれ力を使いこなせる様になる時がくるだろう。

 

それより前の席が凄まじかった。爆豪と轟が並んで座っているのを見ると、何だか落ち着かない。主に爆豪が轟に喧嘩をふっかけたりしないだろうか、という意味で。実際爆豪は凄まじい殺気を放っている。

 

ふと隣を見てみると、こちらを向いていた耳郎がサッと顔を伏せ、スマートフォンをいじり出した。どうやら音楽を聞いているらしい。先程目が合ったのは、恐らく彼女も景色を見ていたからだろう。

 

何か気まずいな、とむずかゆさを覚え、足を組み直す。

 

「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪と不死だな」

 

いきなり名前を呼ばれて心臓が跳ねた。どうやら各々の個性の派手さについて話をしていたらしい。

 

爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ、という蛙吹の言葉にキレた爆豪が、上鳴にクソを下水で煮込んだ性格等と言われて怒鳴り散らしていた。完全にいじられている。

 

そんな風に少しだけ騒がしい時間を過ごしていると、もう着くぞ、と相澤先生が声を掛ける。それから数分して、バスが止まった。

 

生徒達はこれからの訓練に興奮が冷めやらぬ様で、お喋りをしながら次々とバスを降りていく。その最後尾で俺だけが無言貫き、険しい表情を浮かべていた。

 

戦闘のシミュレーションはバス内で終えた。黒霧に捕まって何処かへ飛ばされようと、訓練場の中ならばどうにでもなる。

 

バスを出て少し歩くと、様々な災害がシミュレートされた、かなり広い遊園地の様な場所に出る。そこで俺達を待っていたのは、人命救助のプロフェッショナルでもある、雄英高校教師のスペースヒーロー“13号”だ。

 

「水難事故・土砂災害・火事……エトセトラ!此処はあらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も……USJ(嘘の災害や事故ルーム)!!」

 

13号が授業についての概要を話を始める。しかし俺の頭には内容が全く入ってこない。周りの音を遮断してしまう程に集中していた。

 

まだ来ない。まだだ。まだ……ヴィラン連合が出現する、少し離れた噴水の付近をじっと見つめる。

 

時間が経つごとに、集中力は増していく。全身の皮膚を擦りむいたのかと思ってしまう程、俺の感覚は鋭敏になっていた。

 

今まで数々の試練を乗り越えてきた。雄英高校入学試験に、相澤先生の課した個性把握テスト、オールマイトの実戦訓練に、先週のヴィラン連合との戦い。

 

これから起こる試練は、そのどれもを遥かに越えて高い。

 

俺の様子がおかしいとでも思ったのか、相澤先生がいつもより少しだけ目を吊り上げてこちらに近付いて来た。それと同時に13号の話が終わり、聞いていた生徒達が彼に向けて拍手を贈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――来た。

 

 

 

深淵の中、指の隙間からこちらを覗き見る悪意の宝石に、肌が粟立つ。

 

「ひとかたまりになって動くな!!!!!!」

 

空気を裂く相澤先生の叫びが聞こえてくるほんの一瞬前に、俺はヴィラン達を目掛けて走り出していた。

 

黒い霧から次々と現れる悪意達。右腕にエネルギーを纏わせながら、敵の全貌を把握する。

 

真っ黒な肌に、ピンク色の脳味噌が露出したグロテスクな外見をした怪人脳無と思しきヴィランを発見。数は――――――二体。

 

一瞬目を見開く。しかし駆ける脚は止まらない。

 

“俺”という異物が存在する以上、イレギュラーなんてあって当然。脳無は確かに二体居るが、内一体の性能は、原作の脳無と比べれば大きく落ちる筈。対平和の象徴以上の性能は有り得ない。

 

ヴィラン連合の戦力増強は予想していなかった訳じゃない。予測出来ないのはもう一体(イレギュラー)の脳無の性能。

 

問題は、オールマイトが到着する迄の時間、俺で脳無を凌げるか。先程決めていた優先順位を変更し、ターゲットを死柄木と黒霧からイレギュラー脳無へと切り替える。

 

コンクリートの損傷等考えない。炎が俺の腕を中心に渦巻き、竜巻の様な形状へと変化。そしてそれをそのまま叩き付けた。

 

回転によってコンクリートが削られ、石礫が辺りに飛び散る。先週の戦闘では見せなかった大技だ。

 

白い炎が霧散し消えていく。あわよくばこの一撃で戦闘不能に追い込めるかと画策していたにも関わらず、イレギュラー脳無は、無傷で、無感情にこちらを見据えていた。

 

頭の中で警報が鳴り響く。絶対的上位者と相対した時の感覚。即ち生き物としての本能が、俺に警鐘を鳴らしていた。

 

――――――慢心していたのか。

 

脳無の後ろで佇む死柄木が、俺に向かって微笑んだ。

 

――――――否。

「よう。約束通り殺しにきたぜ。お前はついでだけどな」

 

――――――見誤っていたんだ。

 

何かが爆発した。爆風がコンクリートを捲り上げ、無様な形にひん曲げる。咄嗟に防御しに回した左腕が“無くなった”。血と共に白い炎が巻き起こり、俺の負傷を隠蔽する。

 

弾丸の様なスピードで空中を滑る。吹き飛ばされた先に待っていたのは、一寸先すらも見えない深淵だった。

 

「あなたは特別です。一人で“怪人”と戯れて頂きます」

 

暗闇に視界が呑まれるコンマ数秒前、最後に瞳に映った景色は、俺を追って深淵へと飛び込んでくる、真っ黒なイレギュラーの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――“悪”という存在を。




悪意との対決が始まった。

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