不眠転生 オールナイト   作:ビット

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 投稿が遅くなってしまい申し訳ございません。今回は少し短めです。


戦闘訓練2

 白炎をあげながら突貫する。限界まで強化した身体から聞こえてくる筋肉の軋む音を無視しながら右腕を振り上げ、常温の炎を前方に放つ。

 

 それなりにエネルギーを込めたそれは、しかし突如出現した氷の壁に塞がれる事になった。

 

 身体の半分を氷をモチーフにしたコスチュームで隠している少年を見据えながら、瞬時に右腕を構える。

 

 後ろから緑谷の息を飲む音が聞こえた。

 

 刹那、俺は左腕を振り上げ先程よりも威力を増した炎を、今の自分で可能な限りの速さで打ち出した。炎の面積は先程の一撃よりも一回り小さいが、貫通力を高めた炎は、いとも容易く氷の壁を粉砕する。

 

 目を見開く轟を尻目に、炎を放った衝撃で後ろに引かれる左腕を軸にその場で一回転。無駄を最小限まで削り、左腕でもう一撃。今回の炎は、一撃目の時よりも更に面積を大きくしたもの。エネルギーは最も控えめだ。

 

 だがそんな事等知るよしもない敵チームは、一様に壁側へと飛び退き、炎を回避しようとする。炎が纏う暴風に、顔を腕で覆いながら。

 

 -ーーーーその間を、俺の後ろにいた緑谷や切島達が走り抜けた。

 

 驚愕に声を上げる敵チーム。してやったりと笑みを浮かべ、そのままさらにもう一発。

 

 「ちょっ、不死君!?待って待って僕達まで巻き込まれ-ーー!!?」

 

 「うわああああああああ!?」

 

 緑谷や切島、その他のメンバーの悲鳴が聞こえてくるがスルーする。俺からの細やかな後押しだ。頑張れ。

 

 「ごら待てやデクゥ!」

 

 「爆豪君!?」

 

 「行かせろ飯田!お前らは八百万の所まで戻れ!」

 

 話しながら地面を凍結させ、氷塊を放ってくる轟。後ろに跳んで攻撃をかわした。

 

 「元々俺達の最重要目的は緑谷とこいつの足止めだ。作戦通り俺がこいつを足止めする」

 

 「轟君……分かった!ここは任せたぞ!」

 

 そう簡単に行かせるかよ。小声でそう呟きながら、走り出す飯田達に向けて右腕で炎を放ちながら走りだし距離を詰める。

 

 「……不死、お前の相手は-ーーーー」

 

 轟は瞬時に前傾姿勢になって腕を地面に這わせ、一気に冷気を放出した。

 

 炎が簡単に打ち払われ、壁や天井にも冷気が走り、氷の壁が向かってくる。飯田達を逃がすだけの時間を稼ぎながら、強力な攻撃を放ってきた。

 

 たまらず後方へ飛び退きながら炎で迎撃。詰めた距離がまた開かれ、こめかみから頬へながれた冷や汗が瞬時に凍結する。

 

 右も左も天井まで、完全に氷で覆われた。足元が滑りやすくなり、接近戦は危険。轟は確実にその辺りの対策はしているだろう。

 

 たった一手で飯田達を逃がしながら、俺の炎の防御・反撃に加え、更にフィールドまで整えられた。初動は完全に俺の不利。

 

 「-ーーーー俺だ」

 

 不敵にそう告げる轟。勇ましい言葉と、冷気よりも冷たい戦意に、俺の口角が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いってて、不死の野郎……後で覚えてろよ……」

 

 「まぁまぁ」

 

 走りながら不死君に対して悪態を吐く上鳴君を、尾白君が宥めている。先程の彼の行動-ーーーー僕たち対する彼なりの後押しのおかげで、僕たちは完全にかっちゃん達を置き去りにする事が出来た。

 

 読み通り、相手は範囲攻撃を得意とする轟君を筆頭に、少数でこちらの数を減らしにきていた。こちらの数の利を潰す為だろう。

 

 広範囲の拘束にも長けているであろう轟君がいるからこそ選択出来る策。今回はそこを逆に利用させて貰った。

 

 だけど、恐らく計画通りにはいかないだろう。不死君一人で相手が送り込んできた少数精鋭を長時間足止めする事は出来ない。

 

 想像していた以上に、轟君が強すぎた。

 

 不死君を過信していたつもりはない。逆だ。僕は轟君を過小評価し過ぎていた。まさか不死君相手に対等に闘えるなんて。

 

 轟君一人の足止めで精一杯だろう。それだけで十分だ。派手な技の多い不死君は核のある場所では本来の力を発揮できないだろうし、何より乱戦になった時、恐らく轟君の個性は反則的に強い。

 

 「そもそも今回の作戦、敵が完全な総力戦を想定していた場合、僕たちはかなり不利な状況に立たされてた。今回は良かったかもしれないけど、やっぱり…………ぶつぶつ」

 

 「デクくん!」

 

 「ハイっ!?」

 

 「爆豪くんが!」

 

 悪癖を発動し、思考に没頭していた僕は、麗日さんの声で我に帰る。声と一緒に耳にはいってきたのは、聞き覚えのある爆発音だった。

 

 「デェェエエエエエ」

 

 僕の前を走っていた切島君や瀬呂君を無視し、両手の平を爆発させながら正面から突っ込んでくる影に、僕は反射的に左側をガードした。

 

 「クウウウウウウ!!!!」

 

 吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。麗日さんの心配する声が聞こえるが、返答している暇はなかった。

 

 「お前の相手は-ーーーー」

 

 上から聞こえてくる声。下を向いていた視界に影が差し、必死になって前へ飛び退く。

 

 「俺だろうがああああああああ!!!!」

 

 君なら来ると思ったよ!そう心の中で叫び返しながら、立ち上がりファイティングポーズをとった。

 

 「みんな!走って!!!」

 

 「でも-ーーーー」

 

 「大丈夫だから!!!」

 

 足を止めた麗日さん達に叫ぶ。不死君が作ってくれた圧倒的なアドバンテージを失うわけにはいかない。

 

 最初の戦闘で、不死君だけでは複数人の足止めは無理だと分かっていた。最短距離のルートではなく、ほんの少しだけ遠回り。こうする事で、僕がかっちゃんと一対一の状況で立ち止まる事になっても、後から飯田君達に合流されず、かっちゃんの足止めに専念出来る。悔しいが僕だけでは、かっちゃんだけで精一杯、いや、力不足ですらあるだろう。

 

 「……君なら、来ると思ったよ」

 

 かっちゃんなら、本隊との合流よりも、僕を倒しにくる事を優先するという確信があった。小回りのきく機動力は、乱戦では猛威を振るう。だから此処で足止めさせてもらう。

 

 間髪入れず追撃してきたかっちゃんの右腕を掴み、背負い投げの要領で地面に叩き付けた。

 

 「いつまでも“出来損ないのデク”じゃないぞ……かっちゃん、僕は……」

 

 役不足上等。壁を乗り越えてこそヒーローだ。震える身体を押さえ付けて、宿敵とも言える幼馴染みに向かって吠える。

 

 「“頑張れ!!って感じのデクだ”!!!!」

 

 

    軟弱者

 猛れクソナード。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -ーーーー強い。素直にそう思う。

 

 身体能力をブーストさせ、壁を足場に縦横無尽に駆け回る不死を何とか目で追いながら思考する。

 

 壁や床に氷を張って足場を悪くするのは無駄だった。不死は足に個性である白い炎を纏わせ、足場の氷を破壊する。

 

 繰り出された右ストレートを受け流し、腹に拳を打ち込もうとするが、不死は右手から炎を噴出し、反動を利用して後退。至近距離での放出に衝撃が俺を襲い、たまらず吹き飛ばされた。

 

 追撃を仕掛けてくる敵に氷塊を発射。右腕に冷気を纏わせ放出。冷気が不死に絡み付こうとするが、放出された炎で相殺される。

 

 千日手。お互いに有効打を与えられないまま時間が流れる。足止めとしては上々だが、正直かなりギリギリだ。だか向こうもそれは同じだろう。ギリギリの綱渡り。たった一手で戦況は一気にひっくり返る。

 

 クソ親父にしごかれた俺と互角以上に闘える様な相手がいるなんてな。

 

 流石は雄英といったところか。

 

 右腕に纏った冷気を解放する。生半可な攻撃では相殺されないように、威力はかなり高めた。

 

 そのおかげで、不死を後退させる事に成功した。刹那的に自身のギアを上げ、特大級の冷気を全身に纏う。

 

 どこか嬉しかった。こうやって本気で競い合えるライバルがいることが。だからこそ負けない。俺はクソ親父を否定するために、まずは此処で一番になる。

 

 全力の内の五割。人間を相手に放つには少しばかり危険だろうが、こいつなら間違いなく大丈夫だろう。放出される前の冷気だけで壁が凍りつきパキパキと音をたてている。

 

 放とうとしたその瞬間-ーーーー不意に不死と目が合った。

 

 「-ーーーー!!!!???」

 

 生気などまるで感じさせない、はっきりとした隈に刻まれた光のない瞳。まるでそれは腐りはてた死人の瞳の様で。

 

 異質な感覚が身を貫き、凄まじい悪寒が身体中を駆け抜けた。自身の冷気を越える絶対零度の衝撃。身体の中だけが凍り付いた様な感覚。それは間違いなく、恐怖を植え付けられた人間の反応。

 

 無意識にボルテージが一気に上がった。身体から漏れた冷気はビルの様な演習場を一瞬で氷付けにする。

 

 “あれ”は危険だ。“あれ”は歪だ。“あれ”は死そのものだ。

 

 -ーーーーこの感情は、何だ。

 

 放たれた一撃は正真正銘の全力攻撃。同時に放たれた不死の炎をあっさりと呑み込み、そのまま不死へと突貫する。

 

 先端が鋭利になった氷は不死に突き刺さり、そのまま50メートルは離れていた壁へと叩き付ける。冷気の勢いはそれだけに収まらず、壁を破壊し、隣の施設すらも纏めて氷結させた。

 

 揺れるビル。オールマイトが、切羽詰まった声で俺の名を呼ぶ。だが、仲間の事も、オールマイトの事も、気にかけるような余裕は一切無くなっていた。

 

 あれは、間違いなく。“コノ世界ニ在ッテハナラナイ者ダ”。

 

 荒れる呼吸を整える最中、無機質で何処か暖かい声が、俺に語りかけてきた様な、そんな気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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