不眠転生 オールナイト   作:ビット

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感想・評価・誤字報告有難うございます。励みになっています。
感想で指摘して頂いた切島鋭児郎の件ですが、申し訳ございません、完全にこちらの認識不足でした。当二次創作では、切島鋭児郎は中学生の頃から逆立った赤髪の盛り上げ役という事にしておいて下さい。すみません……

主人公の個性については特に何も考えずに書き散らしています。


睡眠薬のガブ飲み(準備万端:自死)

硬化した自分の腕に、握り拳程の大きさ石礫が当たり、鉄をぶつけた様な音が響く。パラパラと上空から降ってくるそれの中に、人間程の大きさのコンクリートの塊や大きなガラス片が混じっていた。

 

正面から感じる膨大な熱量と衝撃、巻き起こる砂煙に目を開けていられない。眼前の巨大な敵が動く度、地鳴りが起こり付近のコンクリートがめくれ上がる。

 

既に立つことすらままならない。ここは危険だ。下手をすれば命を落とす。

 

それでも尚“彼”に手を伸ばし、声を張り上げてしまうのは何故だろう。

 

巨大ギミックの出現と同時に、ほとんどの受験生は逃げ出した。それはそうだろう、破壊しようがポイントは0。しかも到底破壊出来ない様な二十メートル程の鉄の塊だ。

 

無謀。無意味。理不尽。

 

全員の頭の中で、そんな言葉が過ぎていった事だろう。

 

確かに理不尽だ。相対しても意味は無い。破壊なんて、俺の個性じゃ間違いなく不可能。だけどそれが、ヒーローが背を向けていい理由にはきっとならない。背を向けるなら、まずは皆を助けてからだ。

 

倒れた受験生や、腰の抜けた受験生を起こし、避難させる。もう周りに人はいないかと周囲を確認した時に、あいつを見つけた。

開始直前に俯き、緊張していた様に見えた、黒いキャップを被った白髪の生徒。そいつが巨大ギミックを見上げながら、ただただ突っ立っていた。

 

迎撃するつもりなのか。確かにアイツは凄かった。プレゼント・マイクの声に誰よりも早く反応していたし、ほとんどの仮想敵を一撃で屠り、会場を駆け抜けていた。

 

けれど、見た所アイツの個性は単純な強化系。あのオールマイト程のパワーがあるなら話は別だが、アイツがそんな一撃必殺のパワーを放っている場面は見てはいない。そこそこ頑丈な3ポイント仮想敵には、蹴りや殴打を繰り返して破壊していた。

 

アイツにアレを破壊する手段はない。なら恐怖で固まってしまっているだけだろう。そう考えて声を張り上げた。

 

「逃げろおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

同時にアイツに向かって走り出す。足場の悪さも、上空からの落下物も気にしない。上半身を硬化したまま、全速力で駆ける。

 

巨大ギミックは既にアイツの目の前だ。不味い、間に合わない。もう一度声を張り上げ様とした瞬間、アイツは俺の方を見た。

 

サラサラとした、男性にしては少し長めの白髪が風になびている。黒いキャップのつばと、巨大ギミックのつくる影で目元はよく見えない。

 

アイツと目が合った。刹那、身体に痺れが走る。あの目はまるで、理不尽を覆していくヒーローの瞳。影の奥で爛々と光る瞳は強者である事の証。

 

一瞬の硬直。アイツは俺を見て微笑んでいた。口角を釣り上げただけの、ぶっきらぼうで優しげな笑み。

 

影の奥で光る瞳と、俺に向けられた優しげな笑みが、オールマイトと重なった。どんなピンチだって笑って乗り越える、最強のヒーロー。

 

気が付けば、俺はただ突っ立ってアイツを見ていた。

 

一瞬の瞬きの内に、アイツの身体から白い炎が巻き上がる。ゆらゆらと立ち上がるその炎を見て俺は直感する、あの炎には、尋常じゃない程の力が込められていると。

 

アイツが伸ばした左手に炎が収束し、膨大な力が渦巻く。それを中心に空気が震え、正面のギミックが軋む音が聞こえてくる。

 

 

 

気が付けば、巨大ギミックの中心に、大きな風穴が空いていた。

 

 

「…………は?」

 

ただただ、見つめる。理不尽の粉砕。想像の超越。あまりにも現実離れした超常に、間抜けな声が零れ出る。

 

空に向かって微笑みを浮かべるアイツは――――――確かに、“ヒーロー”だった。

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

 

 

俺、不死透也はコミュ症である。人に話しかけるのが苦手だし、何ならそこそこ仲のいい友人相手でも、自分から話しかけに行くのには躊躇いを覚えてしまう程には、人間とコミュニケーションを取るのが苦手だ。ただ愛想笑いを浮かべる事に関しては一流であると言ってもいいいだろう。

 

ふとそんな事を考えながら、最初に来た時よりも騒がしくなった教室を見渡した。

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

 

「思わねーよ。てめーどこ中だよ端役が!」

 

机に足をかけふんぞり返って椅子に座る、目付きの悪い爆発ヘアーの生徒、爆豪勝己と、プレゼント・マイクのプレゼン中に質問を投げかけていた眼鏡の生徒、飯田天哉が揉め始めてから、教室は大分騒がしくなった。

 

周りが知らない人間ばかりで皆緊張しているのか、自分の席に着いたまま動こうとしないが、皆爆豪と飯田のやり取りに目を向けている。眉を顰めて嫌な顔をする生徒もいれば、面白がっているのか、ニヤニヤと笑いながら眺める生徒もいた。

 

ちなみに俺はペン回しをしながらボーッと爆豪と飯田を眺めており、あまりの退屈さに入学数日前の合格発表の日を思い出していた。

 

 

合格発表の日、雄英高校からの郵便物が自宅に送られて来た。実技も筆記の自己採点も合格ラインに達していたとはいえ、その日は何処か落ち着きがなかった気がする。

 

ポストに入れられていた雄英高校からの郵便物を部屋で開くと、オールマイトが投影されて合格を告げられた。立体映像の内容は、合格おめでとう!実技は1位だったぞ!これからも頑張れ!といった、特に何のひねりもない結果報告と激励の言葉で終わっていた。もう少し何かあると思っていただけに、少し残念だったのは余談である。まぁ何だかんだ両手を広げて喜んだのだが。

 

そういえば、投影されたオールマイト、何処か表情が固かった気がしなくともな――――――

 

そこまで考えた時、カタン、と硬質な物をぶつけた音が教室に響いた。音の発生源は俺の右手である。水をかけられた様に余計な思考が打ち切られた。

 

いつの間にか登校し、黄色い髪の明るい女子生徒、麗日お茶子と話していた、この世界のいわゆる主人公、緑谷出久がこちらを凝視している。ふと様々な方向からの視線を感じ、首を動かさないまま視線だけでクラスを見渡すと、ほとんどのクラスメイトがこちらをじっと見つめていた。

 

静まり返った教室に内心焦りまくる。やってしまった。思考に没頭し過ぎてペンを机に当ててしまった様だ。

 

多数の視線に晒される事を苦手とするコミュ症にこの状況はキツイ。思わずキャップをより深く被り直し、緊張と羞恥で赤くなってしまった顔を隠した。

 

この状況をどうにか打破すべく、思考をフル回転させる。そうだ、緑谷と麗日が話していたという言は、もうじき相澤先生が現れる筈だ。とにかくそれでこの雰囲気を有耶無耶にしてしまえ。

 

「……先生がいらっしゃった」

 

少し小さくなってしまったが、物音ひとつしない教室で、俺の声はやけに大きく聞こえた。不味い、変な汗までかいてきた。

 

「ほう」

 

俺の言葉のすぐ後に、教室の入り口から一年A組の担任である、相澤消太先生の声が聞こえた。寝袋に収まって、廊下で寝転がっている。

 

いきなり現れた珍妙な男に気を取られたのか、皆俺から視線を外して相澤先生を見つめる。何だこの変な人は、とでも思っているのだろう。

 

寝袋を着たまま芋虫の様な動作で立ち上がり、流れる様に寝袋を下ろす。首付近に巻き付けられた包帯の様な布と、真っ黒な服が彼の不気味さを引き立てている。

 

「浮かれているだろう新入生に、合理性についてひとつ説教をくれてやろうと思っていたが……まぁいいだろう」

 

緑谷と麗日もいつの間にか着席していた。俺をやる気のなさそうな目でじっと見つめながら、相澤先生はまた口を開いた。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

教室の空気が少しだけ変わったのが分かる。まぁ無理もないだろう、ボサボサの髪に、無精髭を生やし、やる気のない目で生徒達を見回す彼を雄英高校の講師を務めるプロヒーローだとはとても思えない。

 

「早速だが、コレ着てグラウンドに出ろ」

 

無言で見つめる生徒達を気に止める様子もなく、そう言って取り出したのはジャージの様な体操服だった。

 

入学式やガイダンスが行われるのだとばかり思っていたのだろう生徒達は、更に混乱している様子だ。

 

だが前世の知識として、この後の展開を知っている俺は口角を釣り上げる。朝っぱらから睡眠薬をガブ飲みしてぶっ倒れてきたんだ。エネルギーの補給は万端。

 

これから始まるのは、楽しくも恐ろしい“個性把握テスト”である。

 

雄英に入学してからの最初の苦難。少しでも憧れの存在に近づけるように、今日も笑って乗り越えよう。

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

 

 

カタン、という硬質な音が響き、先程まで騒がしくなっていた教室が一気に無音になった。

 

一瞬で拡散させられた和やかな雰囲気の後には、ただただ奇妙な沈黙が続いている。

 

気配を消して教室の入り口付近で待機していた俺こと相澤消太は、あまりにも急に変わった、否、変えられた空気を感じ取り、少しだけ片眉を釣り上げた。

 

超難関である雄英高校合格に気が緩み、非合理なお喋りを続ける教え子達に小言をくれてやろうとも思っていたが、そんな思惑も次に聞こえたある生徒の言葉で忘れ去ってしまう。

 

「……先生がいらっしゃった」

 

「ほう」

 

思わず声をあげ、声を発した生徒を探す。アイツか。声の発生源である、黒いキャップを被った少し細身の男子生徒を見た。先程教室を静めたあの音もアイツ――――――不死透也の仕業だろう。

 

実技試験の時から目を付けていたが、なるほど、やはり中々やる様だ。“アングラ系ヒーロー”とも呼ばれる、隠密からの奇襲・集団制圧に長けた技能を持つ俺の気配を感じ取るとは。

 

アイツ以外は誰も気付いていなかった。実技試験で見せた立ち回りの上手さと、強力な一撃必殺、今見せた気配察知能力を見るに、やはり戦闘能力ではエリート揃いの雄英でも頭一つ抜けている様だ。

 

今から与える最初の苦難も、お前は軽々と乗り越えていくのだろう。だが安心しろ、お前程度に三年間楽をさせてやれる程、雄英高校は優しくない。

 

不死から視線を外し、起き上がって席に着いた生徒達を見回す。皆あの入試を乗り越えてきたエリート共だ。容赦なんて生易しい物は望んじゃいないだろう。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

折れてくれるなよ卵共。追いつけない奴は誰だろうと置いていく。俺に去年と同じ選択をさせないように頑張るんだな。

 

さぁ、最初の苦難(理不尽)の始まりだ。

 




感想への返信は今の所行っておりませんが、本当に励みになっており、嬉しく思っています。

テスト前という事もあって、更新はしばらくお休みさせて頂きますね。

>>朝っぱらから睡眠薬をガブ飲みしてぶっ倒れてきたんだ。エネルギーの補給は万端。

これは「薬の過剰摂取で死に、エネルギーを補給してきた」という意味です。分かりにくい表現で混乱させてしまい、申し訳ございません。

補足の追加に伴ってタイトルを少し変更致しました。

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