翔鶴ねぇ☆オンライン!   作:帝都造営

6 / 28
ズールー(Zulu)――――本艦は引き船が欲しい。


燃ゆる沖ノ島沖!その弐

「……」

 

 

「…………」

 

 

「………………」

 

 

 フルダイブVRというのはそもそも、医療向けのコミュニケーションまたは訓練ツールとして発展してきた経緯があります。

 

 

「……っぱぁ。翔鶴ねぇ……」

 

「ふぅ、瑞鶴……」

 

 

 故に身体に関する事象の演算はほとんど完璧……単なる表皮のふれあいだけでなく、胸の鼓動から、吐息の熱。分泌される体液に至るまで再現されています。ですから、肺の酸素濃度が低下すれば呼吸が求められるのは至極当然。少々惜しいですが、代償としては些細なもの。

 

 

「翔鶴ねぇ、みんな来ちゃうよ……」

 

「いいじゃない。まだ全員そろったわけじゃな」

 

 

「時津風、ちゃくにんしましたー! って、うわー……二人とも、何やってんの」

 

 

「しっー! 時津風氏、外野は黙って見ていろです」

「えーなんでさ。というかなんで青葉死にかけてんの?」

「青葉のことはどうでもいいのです!」

「時津風さんこんばんはー……おや、百合ですね!!」

「戻ってきましたか榛名氏。突然ですが、出撃前の景気づけにAV視聴と参りましょう!」

「ええ、皆さんがよろしければ、榛名もご一緒します!」

 

 

 

 

 

 

 ……さて、突然ですが。はい本当に突然ですが。このゲームにおける出撃についてご説明しましょう。

 

 艦隊これくしょんというゲームは、基本的に6隻を上限とする艦隊によって戦闘を行います。それによって深海棲艦という存在(てき)の支配下にある海域に赴き、主力(ボス)艦隊を叩くわけですが……このゲームの出撃拠点は鎮守府、つまり内地です。いや、当たり前と言われれば確かに当たり前なんですが。そりゃ軍艦は母港から出発するわけですしね。

 

 それから、主力艦隊目指して頑張るわけですが……道中には私たちの道をふさぐ敵がいます。私たちはこれらを最小限の損害で切り抜けなければなりません。ここで大事なのは、それら道中の敵を全て殲滅する必要はないということです。

 

 つまり、迂回も立派な手段です。

 

 このゲームでは、ひとたび母港を発てばどこへでも行けます。もちろん航続距離(ねんりょう)という限界はありますが、基本的にどこへでも行けます。例えば、瀬戸内海から日本海に移動する時、道は関門海峡だけではありません。九州回りで対馬海峡を通ってもいいですし、それこそ本州周りで津軽海峡を通ったっていいのです。艦艇(かんむす)というそこまで足の速くないプレイヤーと、マップの大部分が特に何もない海――潜水艦がいるなら海中のデータも生成されますが――である故の自由度ですね。

 

 ところが、自由というのは多くの面倒を生むものです。私たちは自由な編成で艦隊を組み、自由に七つの海を渡り歩く?ことができるわけですが、それは敵も同じです。あ、少し違いますね。敵主力艦隊の編成は多少のランダム性こそあれど傾向はあります。で、まあ正直それはいいんですよ。どんな敵が出てこようが倒せばいい話ですし。

 

 しかし、敵主力艦隊が自由に動き回るのは少々厄介です。いえ少々なんて生易しいものではありません。大変厄介です。

 

 

 ……はい。もうお分かりいただけたかと思います。これ、一戦当たりにすごい時間かかるんです。

 

 

 敵を見つけ、距離感を図りつつ接近し、そして戦う。戦争において血と硝煙が舞ういわゆる「戦場」というやつは戦争の最も華々しい箇所を切り取ったものに過ぎません。VR艦これではどちらかといえば戦いに主軸を置いているはず――それこそ、艦娘ひとりひとりが基本独立しているという意味では傭兵ゲームともいえるかも知れません――なのですが、索敵から始めるとなると本当に大変です。

 

 

 まあしかし、私にとっては苦でもありません。航空母艦というものは索敵と超遠距離攻撃においてこそその真価を発揮するものですし、それに瑞鶴と一緒出来るのです。苦などという言葉が存在するはずもありません。

 ……それに、任務のマップにはクソッタレの運営が日本近海に――瀬戸内海にすら――わんさか深海棲艦をバラまいてくれているので、否が応でも沖ノ島までドンパチ賑やかな弾丸旅行になってくれることでしょう。

 

 

 さあ、玄界灘の沖ノ島まで日帰り旅行の始まりです。

 

 

 

 

 

 2-5の出撃拠点は舞鶴。なるほど玄界灘に近くはなく遠くもないといった距離ですね。原速12ノットで向かうなら丸一日以上かかるでしょうが……VR艦これにおいて原速でのろのろいく艦娘なんていないので、まあ半日もあれば敵艦隊を攻撃圏内に収めることが出来るでしょう。

 

 ちなみに、以前は佐世保鎮守府や呉鎮守府からも出撃できたのですが……航空母艦六隻による主力艦隊への初手航空攻撃がセオリーになったため廃止されてしまいました。これだから大艦巨砲主義者は。

 

 

「では時津風さん、前方警戒(ピケッター)をお願いします」

 

「はーい。時津風、せんこうしちゃいまーす!」

 

 舞鶴湾を抜ける直前に金剛型戦艦である榛名さんがそう言い、陽炎型駆逐艦の時津風さんがのほほんと返事を返して増速します。

 

 

 さて、湾を抜けるということは即ち安全圏(セーフゾーン)から抜けるということです。もはやいつ敵の飛行機が飛んできてもおかしくありません。それに、どんな作戦であれ鎮守府周辺にはだいたい敵の潜水艦が潜んでいます。雷撃を躱しさえすればいいのですが、攻撃に勝る防御はありません。時津風さんが敵潜を殲滅してくれることに期待しましょう。

 

「んー……とっきーだけで大丈夫かねぇ?」

 

 そう心配げに漏らすのは球磨型軽巡洋艦の北上さん。カーキ色の制服と三つ編みおさげ、ですがそれ以上に目を引くのは四連装の魚雷発射管。

 ゴツゴツした見た目のそれは北上さんの華奢な身体を埋め尽くすように装備されていて、それが全部で十基あります。つまり合わせて魚雷四十射線。重雷装巡洋艦と呼ばれる所以です。

 ちなみに、出撃直前まで雷撃の訓練に励んでいたはずですので、先ほどの【騒動】については知らないはずです……恐らく。

 

 

 とともかく、これで全員の紹介が終わりましたね。はい。

 

 今回の沖ノ島沖(2-5)攻略は私と瑞鶴、そして榛名さんと青葉さん、時津風さんに北上さん。以上六隻で行っていきます。

 

 

「北上さんも先行しますか?」

 

 榛名さんがそう言います。いくら駆逐艦が潜水艦に相性がいいとはいえ、確かに一隻だけで戦わせるのは危険でしょう。対潜攻撃が可能な北上さんをつけるのは手かもしれません。

 

「んー……いいや。やめとく。まあなんとかなるっしょ?」

 

「そうですね。まあ、北上さんを前に出して誘爆したら大変ですし、陣形はこのままで」

 

 榛名さんがそう結論付けます。はい。この艦隊の指揮は榛名さんが執っています。普段は変なことばかり私たちに吹き込んで、挙句の果て「誰も上がってないときはひとりえっちしている」と公言して憚らない榛名さんですが、誠に遺憾なことに私たちの中では最高練度を誇る司令官(クランマスター)でもあるのです。

 

 

「敵潜はっけーん。さあー、はじめちゃいますかー!」

 

 おや、どうやら始まったようですね。とはいえ、私には何もできません。翔鶴型にも対潜装備が搭載されたことはありますから、多少のお手伝いは出来るような気はするのですが……まあ出来ないんですけどね。システム的に。

 

 というかすごい思うんですけど、なぜ航空攻撃が有効ではないのでしょうか。潜水艦の装甲板は敵の攻撃ではなく自然の水圧に耐えるために作られています。機銃弾が一発でも当たりどころさえよければ沈降できないはずなのですが……いや、愚痴を言っても仕方がありません。

 

 

「榛名さん、索敵機を発艦させてもよろしいでしょうか?」

 

 榛名さんへ意見具申。

 

「……ええ、そうですね。青葉さん、翔鶴さん、瑞鶴さん。索敵機の発艦をお願いします。索敵は二段索敵。道半ばの敵艦隊を全て見つけましょう」

 

「「「了解!」」」

 

 

 私の本領は航空攻撃。

 

 今はただ、待つのみです。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。