翔鶴ねぇ☆オンライン!   作:帝都造営

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最近投稿していなかったのでとにかく投稿。
日付ネタで例のアレです。

設定的にどうなの? とか自分の中でもあるのですが、あくまでネタ優先ということでご容赦ください。
ちなみに、章タイトルが示す通りこれまでの「駆逐艦戦記」からはだいぶ先のお話になりそう。

ではどうぞお楽しみ下さい。


【番外編】「駆逐艦乗り」と書いて「水雷屋」と読む!
駆逐艦戦記11-11


 なんでもかんでも電子化されるこの時代では、生活空間だって電子化される。だからこそ丹陽(たんやん)さんとわたしはこうやって艦娘(アバター)の姿でのんびり過ごすことだって出来る。このVR艦これはもちろん抜錨、つまり海に出て敵と戦ったり誰かと演習したりするゲームなのだけれど、たまには出撃しなくても楽しめるくらいには充実していた。

 

 ゲーム本来の機能以外を充実させて、いくらでもその世界に入り浸れるようにする。こういうユーザーの囲い込み競争は今じゃどこのVRオンラインゲームでも行われてることで、そういう意味じゃこの世界の虜になったわたしも囲い込みの対象というわけ。

 まあ、楽しければいいので気にしない。軍艦は女性名詞だからとかいう理由で女性の艦娘(アバター)しかいないのはどうかと思うけど、あえて思いっきりロールプレイに吹っ切れる理由にもなったのだから一長一短というヤツ。

 

 と言うわけで、今日もわたしは駆逐艦乗りの師匠と仰ぐ陽炎型駆逐艦の雪風……こと、丹陽(たんやん)さんの所へ遊びに来ていた。あ、丹陽ってのは自称ね。なんでも駆逐艦雪風の戦後の名前がそれで、丹陽さんはそっちを好んで使うのだ。

 

「こんにちわっー......って、なに読んでるの?」

 

 入室許可を得て入れば、丹陽さんはソファに寝そべって紙を眺めていた。

 

「これはでやがりますね……うわっ、何しやがるんですか!」

 

「いーじゃん他に乗るところないんだしー」

 

 だってしょうが無いじゃん。丹陽さんの部屋……名目上は物資保管庫(アイテムストレージ)……はあんまり家具が多くない上に拡張も最小限。つまり部屋は狭くて家具も少ない。正直言って身体を置く場所はない。その上二人がけのソファに丹陽さんが寝転がっていたら、もう座る場所は丹陽さんしかない。

 

「だからっていきなりヒトに馬乗りになるヤツがどこに居やがるんですかッ! 降りやがってください! 降りろッ!」

 

「えー、けち」

 

「誰がッ!」

 

 まあそこまで言われちゃ仕方がない。保管庫(へや)の管理権が丹陽さんにある以上は追い出されるのも困る。従って降りると、丹陽さんはため息交じりに紙を摘まんでこちらに見せてくる。

 

「ブログでやがりますよ。ほら、こないだの大規模作戦(イベント)の所感を纏めたヤツ」

 

「あー。今回もなんかスゴかったもんねー……でもそれ、普通にブラウザで見ればいいんじゃ」

 

 そう、別にブログの記事ならわざわざ紙の物体(アイテム)として出現させる必要があるとは思えない。だって丹陽さんが持ってる紙は結局電子情報に過ぎないわけで、つまり実質電子書籍。

 

「いいのでやがりますよ。大事なのは雰囲気でやがりますから」

 

「ふーん」

 

 そういう風に言って続きを読む丹陽さんは結構ロールプレイに拘る艦娘(ヒト)だと思う。まあわたしもロールプレイにハマってるのでなんとも言えないんだけどさ。

 

 ……あ、そうそう。そんな話をしに来たんじゃないんだよ。

 

「ねぇ、丹陽さん」

 

 床に座って、丹陽さんに向かう。ちょうど正座をすれば、こっちに顔だけ向けてくる丹陽さんと目線が同じ高さになる。

 

「……なんでやがりますか」

 

「私とポッキーゲームしよ?」

 

 丹陽(たんやん)さんにお願い事をするなら、突拍子のないお願いの仕方をした方が聞いてくれやすい。それが一番だと分かったのはつい最近のこと。だから今日のお願いはちょっと予想しやすくて、聞いて貰えるかは難しい。

 そして案の定、丹陽さんは目を白黒させてから、大きなため息を吐いた。

 

「やっぱり言って来やがりましたか」

 

「あ、やっぱりってことは準備してたんだよね? ね?」

 

「言っときますが、やりませんからね」

 

「えー……」

 

「えー。じゃないでやがります」

 

「11月11日なのに?」

 

(カレンダー)になんの意味があるんでやがりますか」

 

 いやまあ確かに、意味はないけど。でも意味はあるよ。だって意味があった方が面白いじゃん。11月08日(いいおっぱい)の日とか11月09日(いいおくさん)の日とか……あれ、11月10日ってなんだっけ、トイレかな?

 

「だったら、11月11日は『いい井伊』の日でやがりましょう」

 

「なにそれ暗殺されそう」

 

 そのヒトって確か桜田門外で殺されちゃう人じゃなかったっけ……。

 

「……ってそうじゃなくて! いいからポッキーゲーム!」

 

「いやでやがります」

 

「やるの! やーるーのー!」

 

 もしもやる気がないのなら実力行使あるのみ。さっき降りろと言われた丹陽さんの背中に改めて飛び乗る。

 

「もしもやってくれないと……」

 

「な、なんでやがりますか」

 

 時津風の身体は確かに小さいけれど、同じサイズの丹陽さんを押さえ込むのには十二分。背中を取られた丹陽さんの顔が青ざめる。

 

「『やる』って言ってくれるまでコチョコチョしちゃうよぉ……?」

 

 右手に五本、左手に五本。合わせて十本の指を見せつけるようにわきわきと動かす。丹陽さんの弱点は分かってるから、この攻撃からは丹陽さんも逃れられない。三分と耐えられないはずだ。

 

「や、まって」

 

「もんどーむようッ!」

 

 なんかこういう映画のシーンあったよね。命乞いをする丹陽さんにわたしは正義の指を振り下ろした。

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

「ひ、ひきょうーでやがりますっ、よ……」

 

「ふふん。初めからやるって言ってくれればいいのに。ほら乱れてるよ」

 

「誰が乱したんでやがりますか……」

 

 恨めしそうにこっちを睨んでくる丹陽さん。いやだって、抵抗にならない抵抗で勝手に服装を乱したのは丹陽さんの方じゃん。こっちは悪くない、ノーギルティ。

 とにかく丹陽さんを起き上がらせると、二人でソファで座る。ちょうどお互い向き合って、対面になるような格好になった。

 

「ほら、早く。始めるよ!」

 

 とにかく思ったよりも時間がかかってしまったので、こっちとしては早く始めたいところ。アイテムリストから問題の物体(ブツ)を顕在化させる。

 

「ほら、ポッキー」

 

「……わざわざ買ってきやがったんですか」

 

「だって、そっちの方がいいじゃん」

 

 味と香りまで再現された緻密なデータも、今や商品として通用する時代。問題は現実(リアル)と違って栄養にならないこと。まあそれを逆手にとって『VRダイエット』なる概念もあるらしいから、単純に悪い話じゃないのかもしれないけれど……。

 まあとにかく、今回は雰囲気大事ということでポッキーのデータを持ってきました。外箱のパッケージから再現されたそれを丹陽さんに突き出す。

 

「……で、どうすればいいんでやがりますか」

 

「えーと。確か両方から食べるんだよね。それで、先に離しちゃった方が負け!」

 

 そう言えば、恐らくそのゲームのルールを知っているであろう丹陽さんは憂鬱な顔をする。

 

「食べればなくなるのでやがります。なくなれば離すことになりやがります」

 

「うん。そうだね」

 

 もちろん、ポッキーゲームの至る結末はそこ。最後の最後にはポッキーゲームを離さなくちゃいけない。というか、二人がポッキーを両端から食べていった先に待つ結末は言うまでもなく接吻(キス)

 丹陽さんは少し考える素振りをしてから、重々しげに言った。

 

THE ONLY WINNING MOVE IS NOT TO PLAY

 

「……なにそれ」

 

 英語なのは分かる。他は分からない。

 

「勝つための唯一の手はプレイしないこと……それがポッキーゲームの本質でやがります」

 

「そうかな?」

 

「そうに決まってやがります」

 

 丹陽さんは、このゲームに勝ち方はないという。果たしてそうだろうか、だってポッキーゲームのルールは簡単。

 「どちらかがポッキーを離したら負け」

 ……つまり相手にポッキーを離させたら「勝ち」というわけ。

 

「じゃあ、丹陽さんは絶対に勝てないと思ってるわけね」

 

「……そ、そうでやがります。最後には二人とも負ける、そういうものでやがります」

 

 いつもみたいな勝ち誇るような笑みを浮かべる丹陽さん。でもこっちには分かる、その笑みは明らかに引きつっている。()()()()()()()ということが、何を意味するか分からない丹陽さんではないのだから。

 だからこそ、丹陽さんに挑発的な笑みを向けてやる。

 

「じゃ、もし……丹陽さん()()が負けたら、なんでも言うこと聞いてくれる?」

 

「……その手には乗せられないでやがりますよ」

 

「ふぅん?」

 

 丹陽さんにはこれだけでいい、ちょっと顔を覗き込んであげるだけで、みるみる顔が赤らんでいく。もう隠せないよね。

 

「……だいたい、アンタは私に何をさせやがりたいんですか」

 

「んー? べつにぃー? そっかー、丹陽さんはゲームしたくないんだー? 勝てないから?」

 

「『勝つための手』が、ゲームをしないことだと言ってやがるんです」

 

「ゲームをしないのに勝てるわけないじゃん」

 

「核戦争と同じでやがりますよ。ゲームをしたらどっちも負けるんでやがります」

 

 なんかスゴい大きな例えになってきた。

 

「負けるのが怖いんだ?」

 

「そんなこと……ああもう、やってやればいいんでしょーが!」

 

 そう言いながら丹陽さんは私の手から箱をひったくると、銀色の包みを破ってぽっきーを一本差し出してきた。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

 だからそのまま顔を近づけて、はむ、とポッキーを咥える。重力に惹かれて落ちてきた髪の毛を手で退けて丹陽さんを見ると、何故か丹陽さんは驚きの表情を浮かべていた。

 

ふぉうひたの(どうしたの)?」

 

「い、いきなり咥えるじゃないでやがりますよ」

 

()ぇー。ふぁって(だって)ふぉうふうふぉのふぁん(そういうものじゃん)

 

 それに、丹陽さんはチョコが付いていない場所を持っているわけで、こっちが手で受け取るとチョコを触ることになってしまう。それだったら直接咥える方が正しいと思んだけど。

 というか、あんまり長い間このままだとチョコ溶けちゃう。

 

ふぁらふぁいの(やらないの)?」

 

「やっ、やりますよ!」

 

 そういってさっさと反対側を咥える丹陽さん。初めからこうしてくれれば良かったのに。

 

「……」

 

「……」

 

 というか、思ったよりも近くなるね。ポッキーゲーム(これ)。まあポッキー自体の長さは20cmくらいだし、そりゃあ近くなるか。

 

 さて、それじゃあさっさと食べちゃいましょう! あんまり一気に食べてしまうと面白くないので、少しずつ、削り取るみたいにポッキーを噛んで……丹陽さんが全然食べてないことに気付いた。

 

ふぇ()ー。ふぁべて(たべて)

 

「……」

 

 もうこのまま一気に食べてしまおうか。とも思ったけど、それじゃあつまらない。顎をくいっと上げて、ぐいっと丹陽さんごと引っ張る。

 

「!」

 

 もちろん丹陽さんはポッキーに食いつかないと離れてしまうので、慌てて食いつく。そうやって色んな風に弄ぶウチに、どんどん互いの距離が狭くなっていく。もう半分くらいなくなってしまっただろうか。

 距離が縮まるほど余裕がなくなる。こちらの顎の動きに合わせるのもいよいよ難しくなってきたようで、丹陽さんの表情もだんだん強ばってきた。結局この艦娘(ひと)は負けん気が強い。ポッキーゲームですら勝ちを譲ってくれる気はなさそう。

 

 でも、このゲームは焦った方が負けだから。

 

 丹陽さんが反撃の一手として一気にポッキーを引っ張った。唾液で組織が甘くなっているポッキーを引っ張るのはなかなかにリスキーだけど、絶妙なバランス感覚で最大の引き幅を引き出した。

 すると今度はこっちの危機。丹陽さんにポッキーを引っ張られた分だけ前にでないと離してしまう。まあ、一発逆転を狙うならこうするって分かってたんだけどね。

 

 というわけで、そのまま前に出て……丹陽さんに身体を預けた。

 

「!!」

 

 丹陽さんの眼が見開かれる。丹陽さんが引いたところに、こっちが身体ごと丹陽さんを押した。もちろんその結果として丹陽さんは背中から倒れてしまう。流石にポッキーを強く噛んだくらいじゃ支えられる訳もなく、丹陽さんの口からするりとポッキーが抜ける。

 その一瞬で、ポッキーは丹陽さんの食べかけの部分までこっちの口に収まってしまった。

 

「……むぅ」

 

「ほら、わたしだけ勝ったでしょ?」

 

「はいはい、完敗でやがります」

 

 と口では言うけど、表情が「ほら、これで満足でやがりますか?」って言ってる丹陽さん。あーもう、そうやって意地張るんだから。

 

「というか……退きやがって下さい」

 

 そう丹陽さんは言う。まあ丹陽さんが倒れたようにこっちも倒れたものね。端からみれば押し倒したみたいな感じになってるよね。

 でもさ、もしそれがこっちの狙いだったらどうする? 丹陽さん?

 

「やだ」

 

「え」

 

「だって、勝ったら何でも言うこと聞いてくれる……って、言ったよね?」

 

 今日はあなたの負けだよ。丹陽さん。

 








はやく駆逐艦戦記の第三章かかなきゃ(使命感)


そうでした。お知らせです。今年の冬コミ当選しました。

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