翔鶴ねぇ☆オンライン!   作:帝都造営

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大変お待たせしました。

文字数で見ても、掲載期間で見てもずいぶん長くなってしまった北方3-5編も、今回でおしまいになります。
一応あらすじを載せておきますけれど、もし良ければ前話か前々話くらいから見て頂けると嬉しいです。

《前回までのあらすじ》
翔鶴を事実上喪失した瑞鶴たちの艦隊は、再び北方AL海域へと挑む。空母は瑞鶴一隻のみという状況に榛名は空母艦娘の応援を呼ぶことを提案するが、翔鶴を待つと決めた瑞鶴はこれを固辞。航空劣勢を免れない戦いを強いられた艦隊は奮戦するが、空を覆い尽くす敵艦載機群にいよいよ追い詰められてしまう。

その時、北の海に瑞鶴たちを救う翼が舞い降りた。


鶴の矜持は。その伍

「翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴……参る!」

 

 その高らかな宣言と共に、一斉に飛びかかる海鷲達。ダイヤモンド型に陣形を組んだ戦闘機小隊は、二機に分かれ、四機に合わさることはあれど、決して一機一機を離ればなれにしたりはしません。

 戦闘機とは、結局は前にしか攻撃できない単純な生物。それを組み上げたにすぎない航空戦とは、その実決して複雑なモノではないのです。誰かの尻尾を新鋭機(タコヤキ)が食い破らんとすれば、僚機がすかさず食ってかかる。他の獲物に狙いを定めた戦闘機ほど無防備で脆い存在はありません。20mm機関砲に打ち抜かれた新鋭機(タコヤキ)は変形して、それから空中に華を咲かせます。

 

 私の航空隊は今や北方海域の空を自由自在に動き回っていました。どんよりと曇る空は彼らにとってのキャンバス、己の芸術に従うままに彩っていく。稲妻が走り、朱が咲き、黒が舞う。緩やかな、もしくは俊敏な曲線を描き、深緑が空を覆っていきます。

 四機一個小隊による連携を保ちつつの航空戦は、慣れれば決して難しい操作が必要なわけではないと聞きます。要は誰がどの敵機に照準を向けるかが肝心、必要なときにだけ制御し、確実に伸びていく撃墜数(スコア)

 

「騎兵隊の演出なんて、好きではないのですが……」

 

 しかし、この際となっては致し方ありません。そもそも榛名さんが悪いんですよ。なんであんなあっさり補充戦力を引っ張ってこれるんですか。私たちの艦隊(クラン)は六隻のみで編成されるからこそ最高の連携が保てるのであって、そんじょそこらの艦娘を連れてきた程度ではむしろ足手まといにしかならないはず。

 

 しかし、戦闘機の眼を借りて戦場を見下ろしてみればなるほど納得です。あの比叡さんは艦隊(クラン)《Tea Party》の副旗艦(マスター)も務める比叡さん。正直瑞鶴以外はどうでもいい私でも知っています。榛名さんが《Tea Party》を脱退しても未練たらたらで、旗艦(マスター)である金剛さんとはいつも所有権を争う――一般論として、比叡さんの所有権は比叡さんが保つべきモノだと思うのですが――ほどの高練度艦娘。

 

 となれば榛名さんとは阿吽の呼吸というものでしょう。この艦隊の呼吸は榛名さんが決めるのですから、まさか榛名さんを熟知して居るであろう比叡さんが付いていけないハズがない訳です。

 

 にしても、おかげで無駄な手順を散々踏むことになりました。まあ、相変わらず調子を変えることもない榛名さんはそのままでいてもらいましょう。

 

 問題は、瑞鶴ですよ。

 私の大事な妹。瑞鶴さえ居なければ、私がこの戦場に舞い戻ることはなかった……いえ、出来なかったことでしょう。それほどに瑞鶴は大切な存在なんです。瑞鶴なくしてこの翔鶴は存在し得ない。

 

 ――――――それだというのに。

 

 瑞鶴、何故貴女はそんな悲しそうな眼で空を仰ぐのですか、無線に乗ったあのぱっと開いた一点の曇りもないヒマワリのような声の調子は消えてしまいました。ただ黙々と、空襲に備えて空中待避させていたのであろう艦載機を収容するのみ。

 

 そして、その表情に色を乗せる――――洋上迷彩。

 

 瑞鶴、私の瑞鶴が、あの迷彩を身体に纏っていたのです。

 

 

★ ★ ★

 

 

「まったく、やれやれですよ」

 

 瑞鶴さんの収容作業は既に始まっています。最低限の航空打撃力として瑞鶴さんが動員したのは流星。急降下爆撃も可能でかつ十二分な搭載量(ペイロード)を誇る万能攻撃機。爆弾を搭載すれば、再び瑞鶴さんの強力な刃となることでしょう。

 私はあくまで戦艦ですので、砲撃戦でなければ大きな出番はありません。撃ち漏らして瑞鶴さんの方へと寄ってくる爆撃機を三式弾で粉砕しつつ、空を仰ぎます。

 

「本当に、やれやれです」

 

 お姉ちゃん特権なんて意味不明な(よくわからない)ことを言った翔鶴型の一番艦は、多少のブランクは屁にもしないよう。まあ、この世界での一、二週間は思考加速の使いようによっては現実(リアル)での数日にも満たないわけですから、思えば随分と早く帰ってきたものです。

 

 ですけれど、それが瑞鶴さんの時間と釣り合うわけではありません。

 

 瑞鶴さんは無言で補給が済んだ流星を放っていきます。戦闘機も追加投入。翔鶴型が一隻増えても制空権が取り戻せるわけではありません。瑞鶴さんのダメ押しあってこそ、拮抗に戻されたシーソーゲームは徐々に傾き始めていきます。

 そう、瑞鶴さんが異様なまでに無言なのです。さっきはあんなに嬉しそうな声を上げたはずなのに、それを思わせないほどに静かな表情を保った瑞鶴さん。

 

「……榛名はさ、ホント心配性だね」

 

「比叡、お姉様」

 

 いつの間にか、私の背後には比叡お姉さまが。お姉様は声だけは随分と優しく。対空攻撃の手は一切緩めることなく言葉を続けます。

 

「榛名はさ、瑞鶴が怒ってると思ってるんでしょ?」

 

「私は怒ってますし」

 

 いくら窮地を救ってくれたとはいえ、そもそもこの窮地が生まれたのは勝手に沈んだ翔鶴さんのせいです。一度無事な姿を見てしまえば、後に沸き起こるのは身勝手な翔鶴さんへの憤り……憤りと表現するほどでもありませんが、いずれにせよ彼女の尻拭いをさせられているわけですから。言いたいことは山ほどあります。

 

 まあ、散々帰ってこいとか言いながら帰ってきた途端怒るわけですから、なるほど勝手な話です。翔鶴さんにとってもそれは理不尽でしょうね。

 ですが、人間なんですからそういうものなのです。顧みる気はありません。

 

「あはは……榛名は素直だよね」

 

 笑う比叡お姉さま。私は本気で言ってるんですけどね。

 

「私はともかく、瑞鶴さんには怒る権利がありますよ……というか、怒って欲しいです」

 

 来る者拒まず、去る者追わず。そんな言葉もあります。一艦隊(クラン)旗艦(マスター)として、その姿勢は最低限守りたいモノ。だから私は翔鶴さんに軽口は言っても、それ以上は言わないつもりです。

 だから怒るというの瑞鶴さんと翔鶴さん、二人の関係あってこその権利。というか瑞鶴さんが怒らないと意味がないんです。瑞鶴さんが怒らなければ翔鶴さんはきっと戦い方を改めることはないでしょう。また未改造のままで戦い続けて、そして……。

 

 だからこそ、瑞鶴さんにはしっかり怒って頂かないと。

 

「いやー。榛名から聞いた話だけで判断するのはどうかと思うけどね。怒らないでしょ」

 

「それは分かっています」

 

 どうせ瑞鶴さんは翔鶴さんに盲目的な好意を抱いているんでしょうし……まあ、逆もまた然りなのが厄介なのですが。

 

「第二次攻撃隊、稼働機全機発艦!」

 

 瑞鶴さんは補給作業を終えたようです。艦載機の向かう先は北方棲姫。制空権を回復した以上、反撃に出るのは当然です。

 

「まあ一つ言えるのは、全て瑞鶴さんの胸三寸ということです。今回ばかりは、翔鶴さんにも主導権はありませんよ」

 

 

★ ★ ★

 

 

 制空権を取り戻したこともあり、艦隊の空から敵の航空隊は消え去りました。防空戦はこれで終いです。

 

「全航空隊、稼働機発艦してください!」

 

 となれば次はいよいよ攻撃の時間です。瑞鶴を助けるためですもの、私だって無策でやって来たわけではありません。かの大戦では長らく主力攻撃機として戦線を支えた天山。確かに後継機である流星が実装された今となってはこれを使う艦娘はほとんどいないのですが、私が用意したのは只の天山ではありません。

 

 そう『天山一二型(村田隊)』。空母艦娘の誰もが欲しがる、最強の攻撃機です。今は陸用爆弾である800㎏爆弾(八〇番)を腹に抱えた私の翼は北の空へと争うように飛び立っていきます。

 そりゃ当たり前です。なにせ私の瑞鶴と随伴艦の皆さんを苦しめたのですから。私は本当に思うんですよ。あの北の列島の端っこに座ってるだけで大きいお友達の皆様にチヤホヤされるお姫様というのはですね、その実攻撃性の超高い(エネミー)なんです。

 

 私の瑞鶴が艦載機を切らしているのをいいことに散々いじめ倒す凶悪犯。この私、翔鶴の敵です。それ以外に形容の仕様がありましょうか。瑞鶴の敵は、姉である私が責任をもって倒さなければなりません。そう、たとえこの命に代えてでもです。

 

 天山の視界を借ります。この村田隊はいわゆる熟練(ネームド)機と呼ばれるもので、他の艦載機よりも操作性がいいというのが定説です。爆弾の着弾補正が掛っているとか聞いたことはありますが、実際どこまで補正がかかるのかは怪しいもの。とはいえ、補正があるなら使わない理由はありません。

 

 それと同時に、上空で監視の任につく彩雲で攻撃の最大効率化を図りましょう。今回は瑞鶴と無線を繋いでいませんが、私は瑞鶴の考えることなんてお見通しです。補給を終えた瑞鶴が艦載機を放ちます。友軍(わたし)の成果とはいえ制空権確保は確保です。何にも妨害されることなく瑞鶴の雷撃隊も空へと舞い上がり、隊長機と思しき流星改が私の村田隊の横に付けます。

 

 ああ、そうです。この高揚。どんなに敵新型艦載機(たこやき)を撃ち落としても満たされることのなかった私の何か。欠けていた身体の一部分。まさしくこれこそが私の求めていた光景です。私は瑞鶴を護り、導かねばならなかった。それを一度は、轟沈という形で丸ごと失いかけたのです。本当に、どうしてこんな大事なことを私は忘れていたのでしょうか。

 確認の言葉も、わざわざ無線を交わす必要もありません。私たちの攻撃隊は一斉に別れると、各中隊ごとに精密無比な爆撃を敢行するのです。

 

「翔鶴航空隊、突撃!」

 

 深海のマスコットと呼ばれることもある北方棲姫。うじゃうじゃと群がる護衛要塞(でかいたこやき)をなぎ倒したことで彼女はすっかり丸裸となりました。それでも空を護らんと上がってくるタコ焼きも、私の翼にかかればたちまち完食です。タコ焼きって食べた後が大変なんですよね。あれって外側は冷めても中身がなかなか冷めなくて熱いんですよね。

 そんなことを考える間に、タコ焼きも全滅。

 

「ここで北方棲姫もしっかりと撃滅しておきたいところですが……」

 

 彩雲が伝えてくる戦況は、未だ決して芳しくはありません。なにせ敵艦隊の大量の随伴艦が残っているのです。既に榛名さんや比叡さんの強力な砲撃、そして北上さんたちによる統一雷撃によりその勢いは急速に衰えてはいましたが……それでも健在な敵艦艇が多いのは事実です。

 

 仕方がありません。北方棲姫を甚振るのは、次の機会にいたしましょう。

 既に投下した艦攻は帰投させ、爆弾未投下の機を集合させます。瑞鶴にも私の考えは伝わったようで、瑞鶴航空隊も集まってきました。

 

 よもや敵機のない空、残るは鈍重な輸送艦や戦艦に、あとは軽巡ツ級(クソッタレの早漏対空ビッチ)

 

 私と、そして瑞鶴の艦載機の敵ではありません。

 

 

 

 

 

 

 

 北方棲姫をスルーし、他の全ての敵艦を撃沈した私たち。当然ながら作戦は終了で、これより帰路に就くことになります。

 普段なら多くの艦娘(プレイヤー)が何の感傷もなくYesを選ぶであろう《帰投しますか?》の問いかけ。私はそれを無視して、瑞鶴の方へと駆け寄ります。

 

 考えてもみてください。もちろん皆様のご慧眼ならご推察いただけると思うのですが、はっきり言ってもう限界なんですよ。私が――つまりこの翔鶴ですが――どれほど長い時間瑞鶴と顔を合わせていないと思いますか? 思考加速を鑑みればもう数か月とか会っていないんじゃないでしょうか。

 

 と、そこへ艦隊(クラン)旗艦(マスター)である榛名さんが立ちはだかります。いえ本人には立ちはだかる意図はないのかも知れませんが、普通に瑞鶴への進路上に立つということは妨害でしかありません。

 

「翔鶴さん」

 

 しかし、榛名さんにもご迷惑をおかけしたのは事実です。無下にはせず、しっかりとご挨拶することに致しましょう。

 

「御待たせしました、榛名さん」

 

「全く、翔鶴(あなた)というヒトは……」

 

「ちょっとその話は後で、今は失礼します」

 

「え」

 

 はい、とりあえず挨拶完了です。さあ、瑞鶴に会いに行きましょう。文句言いたげな青葉さん、いつも通りの北上さんに楽し気な時津風さん、そして物珍し気に私のことを見てくる比叡さんの横を通り――――瑞鶴のもとへ。

 

「瑞鶴!」

 

 迷彩に身を包もうと、瑞鶴は瑞鶴です。私は瑞鶴に駆け寄ります。私が何度も結んであげたツインテールが揺れて、その整った顔立ちが私に向けられ――――

 

「あ、さっきはありがとうございました。()()()()()、ですよね?」

 

 その瑞鶴の言葉に、私は息が詰まりました。

 

「ず、ずいかく……?」

 

 はじめまして? はじめましてといいましたかこの子は?

 

「はい。私、()()()()()()()()()()の瑞鶴です。よろしくお願いいたします」

 

 い、一番艦? 瑞鶴は、私の瑞鶴は二番艦でしょうに。私たちは翔鶴型の姉妹で、私が一番艦、そして瑞鶴が二番艦。

 だというのに、瑞鶴は一番艦と名乗り……よりにもよって、一番艦だと。

 

「ず、瑞鶴?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 待って下さい瑞鶴。その普段よりも完成された微笑みと丁寧語はなんですか。瑞鶴というのは元が完璧なんですから完璧な笑顔なんて要らないんですよ。そしてなんですかその敬語は。

 いえ、まさか。そんなはずがありません。

 

「私よ? 翔鶴型一番艦の翔鶴」

 

「はい。存じ上げておりますが……」

 

「え、え?」

 

 てっきり飛び込んで来ると構えていた両腕が北の空を彷徨います。あからさまに困惑の表情を貼り付けられては、こちらも困惑で返すほかありません。

 そんなはずがありません。だって、どう考えても瑞鶴の筈なんです。ここは私の艦隊(クラン)で、ここに所属する瑞鶴は私の、私だけの瑞鶴のはずなのに。

 

「あ、あの……榛名さん?」

 

 困った時の旗艦(かみ)頼み。榛名さんを振り返ると……。

 

「……」

 

 なんですか。なんなんですかその笑みは。榛名は大丈夫です的な何かですか。翔鶴は大丈夫じゃないんですけれど?!

 え、でもアレですよね。ここまで綺麗に笑ってるってことは含み笑いですよね? 瑞鶴が私のことを綺麗さっぱり忘れてるとかそういうのではないですよね??

 

「ね、ねえ瑞鶴……その、覚えてるわよね?」

 

「なにをですか?」

 

 瑞鶴の太陽みたいな笑顔が突き刺さります。そ、そんな話があってたまりますか。私は確かに沈んだ、もしくは撃沈判定に相応しい損傷を受けました。

 にも関わらず、私はこの場所に今立てています。何故かなんて私だって理解できていないんです。ともすれば消去法的に私が瑞鶴を忘れなかったからこそここに居るんですよ。

 

「私のこと、貴女のお、お姉ちゃんの……」

 

「?」

 

 それだというのに、これは……あんまりですよ。

 いや、流石に悪い冗談ですって。そ、そうに決まってます。だって榛名さんだって深刻そうな顔全然していないじゃないですか。

 

「ず、ずいか、く……本当に、覚えてないの?」

 

 私が手を伸ばすと、瑞鶴が――――血相を変えます。

 

「覚えてない……? なに、貴女は……私がこんな簡単に忘れるって思ってるんだ。本気で?」

 

「え……?」

 

「忘れるわけないじゃないですか。私にこの空を、空母艦娘を教えてくれたのは貴女ですよ? この世界で、唯一の姉妹艦を、この瑞鶴(わたし)が忘れるとでも……?」

 

「そ、それは……」

 

「ねぇ。翔鶴ねぇだって知ってるんでしょ? 私が翔鶴ねぇのこと忘れるわけないって。でも、今思ったでしょ? 私が翔鶴ねぇのことを忘れたかもしれないって。少しでも本当にそう思ったでしょ?」

 

「それは」

 

 ええ、そうですよ。分かっています。まさか瑞鶴が私のことを忘れることがあるわけない。

 だからこそ認めねばなりません。確かに私は、瑞鶴が私を覚えていてくれたことに心底安心している。当然の摂理が証明されただけのはずなのに。

 それは、瑞鶴に存在を忘れられることが、どれほど恐ろしい事であるのかの証明でした。

 

「……翔鶴ねぇが轟沈した(やった)のは、そういう事なんだよ?」

 

 瑞鶴は、私に一歩たりとも歩み寄ることなく……そこに立っていました。私が護らなきゃいけなかった。護れるはずだった純白を棄て、迷彩に身を包んで。

 

 

 

★ ★ ★

 

 

 

 本家では鎮守府ごとに管理される資材。ですが私たち艦娘一人一人に大きな裁量権が与えられるこの世界では、もちろんそんなシステムは存在しません。故に資材は一人一人の財産です。出撃入渠に使われる普通の資材に、装備を開発するための特殊な資材。他にも高練度艦娘(エンドユーザー)向けとも言われる、課金でも手に入れるのが難しい特殊機材。

 

 その一つである試製カタパルトと、数千に及ぶ鋼材と弾薬の消費は、流石の私でもかなり重たい出費でした。なにせ一回の出撃でどんなにこっぴどくやられても精々数百の消費ですからね。その十数倍ともなると重たいというか、破綻してもおかしくないレベルですよ。

 

 それでも。

 

「……」

 

 極端にデザインこそ変わらないものの、新しい服に袖を通すというのは緊張するものです。ましてや、それを誰かにお披露目するとなると。もちろん姿見で落ち度がないかの確認はしていますし、全く問題はないと思うのですが。

 いえ、大丈夫に決まっています。間を開けてしまったことで僅かながらの齟齬(ラグ)が生じていた身体ももう完全に使いこなせますし、新機軸の艦載機運用システムの調律はこれからですが、それも私にかかれば完璧にこなせますとも。

 

 なにせ私は、翔鶴型航空母艦の一番艦。翔鶴なのですから。

 

 カーテンに手をかけます。大きめの更衣ロッカーとしか表現のしようのない大規模改装施設を出ます。

 

「……ど、どう? 似合うかしら?」

 

 翔鶴改二。翔鶴型の大規模改装であるそれは、射出機(カタパルト)を搭載、各種艤装を大幅にアップデートしたまさに正規空母艦娘の完成形と言うべき装備です。私が立てば、目の前にいる影は向日葵のように笑顔を咲かせます。

 

「うん! とっても似合ってるよ、翔鶴ねぇ!」

 

 ああ、やはり瑞鶴には笑顔が似合います。無表情でも、哀愁漂うわけでもなく、完全というわけでもない、いろんな色を混ぜたようなその笑顔。

 それが私に向けられていることが、私にとっては、なによりもの幸福なんです。

 

「ねえどう? 瑞鶴も似合ってる?」

 

「えぇ……瑞鶴も、とっても似合ってるわ」

 

 装束を換えたのは私だけではありません。瑞鶴も迷彩のそれから一転、輝くような純白の衣装になりました。ですがそれは決して、私が瑞鶴に強いてしまっていた未改造(むじるし)のそれではありません。

 

 瑞鶴改二甲。噴式航空機運用能力を付与した、最高の名が相応しい艤装です。

 

「これでまた、お揃いだね。翔鶴ねぇ」

 

 瑞鶴、貴女はすぐそういうことを言うんですから。

 

「えぇ……」

 

 もう居ても立っても居られません。私はゆっくりと瑞鶴に近づいて、そっと抱擁します。

 

「しょ、翔鶴ねぇ?!」

 

「ありがとう。瑞鶴、ありがとう」

 

 私の側に居てくれて。一度は契りを破った私を赦してくれて。

 

「もう、翔鶴ねぇってば……」

 

 ダメですよね。こんなすぐに妹に抱きついてしまうお姉ちゃんなんて。

 

 でも今日だけは、今だけは許して下さい。

 私は瑞鶴を導いているつもりだった。瑞鶴に全てを与え、瑞鶴を脅かす全てから瑞鶴を護るのだと。そう決めて突き進んできたはずだった。

 

 なのに気付けば、瑞鶴から私は、こんなにも大きな宝物を与えて貰っていたんです。それを改めて確かめたかったんです。

 

「瑞鶴。私、頑張るわ。貴女との約束を、今度は絶対に破ったりなんてしない」

 

「うん。翔鶴ねぇ……だから瑞鶴にも、翔鶴ねぇのこと、護らせてよね?」

 

 今は噴式機も使えるんだから。そう腕の中で意気込む瑞鶴。きっと瑞鶴はこれからも成長するのでしょう。そして私も。

 だから私は瑞鶴の肩に手を掛けて、それから精一杯の笑顔で応えるのです。

 

「あら。瑞鶴を護るのは私よ? だって、それがお姉ちゃんですもの」

 

「もう、調子いいんだから!」

 

 

 
















榛名「まあ、ゲームの出来事なんですけど」
翔鶴「ぶち壊すこと言うの止めてくれません???」


お久しぶりです。帝都造営です。
平素より「翔鶴ねぇ☆オンライン!」をご愛読くださっている皆様に、すこしばかりお知らせがあります。

私、帝都造営はコミックマーケット94に参加します。もちろんサークル参加です。

お恥ずかしながら、私は先日東京にて開かれた同人誌即売会「砲雷撃戦よーい!」にて、「翔鶴ねぇ☆オンライン!」の同人誌版(書き下ろし)を製作しました。

本当なら更新を待ちわびて下さっている皆様に真っ先にお伝えするべきことではあったのですが、その原稿にかかりきりになっていたことやリアルの事情も重なり、読者の皆様にお知らせする機会がなかった(次話更新出来なかった)のです。

ひとまずC94金曜日マ-26a「帝都ファンタジア」で参加予定です。
同人即売会関連の詳しい話は、活動報告に掲載しますのでそちらをご覧下さい。

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