もちろん皆さんも私の瑞鶴をちゃんと活躍させてくれましたよね?ですが瑞鶴の活躍はあの程度では収まることを知りません。西村艦隊ももちろんいいですけれど、私にとってしてみれば今回のイベントは前座、次回はいよいよ本番です。次回こそ瑞鶴が全てを制するのです。迫りくる月刊空母、週間護衛空母を蹴散らし、レイテ湾の輸送船を撃滅してみせましょう。
……出来ることならば、私もその場に居合わせたかったのですけれど。
「……まあ、初手の水上打撃部隊はこんなものでしょう」
そう言いながら用具納め……戦闘終了を宣言する榛名さん。極寒の海に浮かぶのは深海棲艦の死骸死骸死骸。まあ死屍累々もここまでいけば恐ろしいモノです。
結論から言えば、やはり随伴艦を連れない主力艦艇など恐るるに足らぬということです。私たちが小型艦の撃破を徹底しておかげもあって榛名さんと青葉さんが砲撃を始めるころには敵の戦艦は丸裸。
「まあ流石にこのくらいなら負けはしませんよぉ」
自信ありげに主砲を仕舞う青葉さん。かすり傷すらついていません。まあ先制攻撃で大分削りましたからね。当たり前と言えば当たり前です。というか瑞鶴と私がこれだけ頑張ったというのだから、むしろ傷ついて貰っては困るというモノ。
「……あ、レベル上がった」
と、ぽつりと呟いたのは瑞鶴の声。「れべる」というのが何のことだかは知りませんが……わざわざ呟くぐらいだから何かあったのでしょう。
「どうしたの? 瑞鶴」
「あ、翔鶴ねぇ。瑞鶴ね、
練度……あぁ。戦闘を重ねれば増えていくアレですね。ええもちろん知ってますとも。ちなみに私の練度は95。まだまだですね、瑞鶴。
それにしても90ですか。それって確か……
「改二甲の錬度ね」
「うん!」
そうですか。ついに瑞鶴も改二甲が実装できる錬度まで上昇しましたか……私たちにとって錬度とはどれほど多くの戦場を駆け抜けてきたかの証明です。
皆さんもご存知の通り錬度が上がれば私たち艦娘の各種ステータスは上昇、そして
ここにおいての改造というのは大規模改装のことを指します。私たち翔鶴型航空母艦はまさに洗練され完成された航空母艦ですからまあなんの問題もない訳ですが、三段腹……間違えました三段甲板を装備していた赤城先輩や加賀先輩となるとろくに戦えるようにするためには大規模な改装が必要な訳です。
まあ、私たち翔鶴型は先ほども申し上げた通り完成された空母ですので? 実際私も改造なんかせずにここまでやって来たわけですが……それでも改造が悪い話とは思いません。
例えば私たちの
さて、そして完成された私たち翔鶴型にも、完成されているからこその改造が存在します。
それが「改二甲」という訳です。
「……そういえば、翔鶴氏は『改二甲』は実装されないんで?」
そう聞いてくるのは青葉さん。敵機動艦隊を偵察中なだけででこのタイミングでその質問はちょっと呑気……いえ、のんびりではないでしょうか。
まあ、悲しいことに手持ち無沙汰なのはこちらとて同じ。少し話に付きあってあげましょう。
「わざわざ改二甲なんて実装する必要があるんでしょうか? 私は甚だ疑問ですね」
「えぇ。そういうものですかねぇ……?」
そもそもですね、青葉さん。改二甲実装といえば聞こえはいいですが、これ要は錬度を上げることで手に入る
それにですよ! 瑞鶴に改造なんて実装させちゃったら迷彩装備になっちゃうんですよ?! 迷彩ってことはつまりアレですよ、
「ねぇ翔鶴ねぇ……でも瑞鶴、ちょっと景雲とか使ってみたいなって」
「瑞鶴?」
「ほら、噴式? とかってのも使ってみたいし……」
ふんしき……あぁ。私の部屋でインテリア扱いされているアレですか。まあ飛ばしたら強そうではありますよね。カタパルトも耐熱甲板も備えない今の私では運用のしようがありませんが。
「噴式ですか……確かに、航空戦略の幅は広がるとは思うけれど……」
ですけれども、近代化改修を捨ててまで取るべきものでしょうか? 私たちの近代化改修は方向性の違いこそあるとはいえ基本的には航空系ばかり。それによって生み出される運用の幅はとても大きいものです。
「翔鶴さん。別に大規模作戦とかが近いということもありませんし、この機会に噴式攻撃を試してみては如何です?」
私が迷っているのをもう一押しとでも思ったのか、榛名さんまでそんなことを言ってきます。
「ねぇ翔鶴ねぇ~。瑞鶴使ってみたいよぉ~噴式攻撃機~」
そう言いながらすり寄ってくる瑞鶴。装備を肩や腰の艤装に戻し、控えめに腕を広げています。
それから瑞鶴は腕を広げて私のことをぎゅっと拘束。
「ず、瑞鶴ったら……」
「しょうかくねぇ~」
胸当て同士がぶつかり、瑞鶴は私の首元に顔を埋めます。ツインテールが私の首を撫でて、ふんわりとした洗剤の匂い。それは私にとってはどんな香水よりも甘美なものです。
これはアレです。お姉ちゃん特権ですね。
「ねぇー、いいでしょぉ。おねがい」
「瑞鶴……」
……そ、そう言えば改二甲は迷彩じゃなかったような気がしなくもないですね。しなくもないです。ということはこれは許される……のでしょうか?
……ハッ!
危ないところでした。改造ツリーとしては瑞鶴は「無印」から「改(迷彩)」になってそこからさらに「改二(迷彩)」といって「改二甲」の順番で実装していくことになります。つまりどうやっても瑞鶴は迷彩衣装に袖を通すことになってしまうではありませんか!
そう、これが瑞鶴の「おねだり」なのです。今みたいに私と目を合わせないように「おねだり」するのです。本当にずるいと思います。ずるいですよね。いつも割を食うのはお姉ちゃんの方なんです。最高に幸せですね。
「いいでしょ。ねぇえ……」
「そ、そんなにいうなら……まあ。いいのかしら?」
「ホント! やったぁ!」
次の瞬間、私から離れて飛び跳ねる瑞鶴。そんなに噴式攻撃機を使いたかったんですか……なんでしょう、お姉ちゃん。利用されたみたいでちょっと寂しいです。
「相変わらず妹馬鹿ですねぇ。翔鶴氏は」
青葉さんがそう私の肩を突きます。突かないでください、というか貴女なんでそんなニヤニヤしてるんですか。失礼な。
「……瑞鶴が幸せなら、まあいいんです。はい」
それに、改二甲ならばまあ、瑞鶴の装束は紅白ですし。まあ、私としては許容範囲内なのです。ぴょんぴょん跳ねる瑞鶴のツインテールを眺めながら、そう結論付けます。
「ところで翔鶴氏は、改二甲の実装はなさらないんで?」
「私は……そうですねぇ」
瑞鶴が改二甲を実装するならば、私も確かに改二甲を実装してもいいのかも知れません。しかしどうなんでしょう。現実に軍艦翔鶴が噴式機を運用した歴史はないわけですから、それはどうなんでしょう。
え? 瑞鶴もないじゃないかって? それはいいんですよ。今の私たちは人の形をしてますし、瑞鶴の願いを叶えてあげるのはお姉ちゃんである私の特権であり、義務でもありますからね。
瑞鶴を傍目に、北の空。私は……翔鶴は、瑞鶴の姉としてどうすればいいんでしょうか。
「翔鶴ねぇ!」
瑞鶴。私の可愛い妹。
「――――危ない!」
え。
直後、電探に感。
ああ、完全に忘れていました。私としたことが。
なにかあれば偵察機が教えてくれるだろうなんて考えていたのではないでしょうか。これだけ晴れているのだから対空見張りを怠るなんてありえないなんて、そんなことをどこかで思っていたのではないでしょうか。
敵機直上。急降下。