ある日突然聖杯戦争に   作:満足な愚者

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非常に申し訳ない話なのですが、もしかしたら消すかもしれません。ステイナイト編難しい……。このプロローグでも他に三パターンあったりするのです。

書き直す時は何処かで報告させていただきます。


プロローグ

――運命というものを君は信じるだろうか。

 

すまん、話のしょっぱなからこんな詩的なことを言って申し訳ない。キャラに合わないのは重々分かっているんだが、それでもここは一つ聞いておきたい。そう、運命についてだ。人との縁やら赤い糸やら、星の廻りあわせやらを総称する運命とやらを君は信じるだろうか?

 

ちなみにだ、俺はここ最近まで運命という、うさんくさい存在については全く信じていなかった。全ては科学的に物理的にそして学術的に証明出来ることであり、そこに運命やら主人公補正やら神様の気まぐれなんてない、なんてつまらない考えを抱いていた。お金の動きは神様の見えない手ではなく経済学で証明できるし、ある人が恋に落ちる理由は運命ではなく心理学で実証できる。雨が降るのは誰かが悲しいからではなく、低気圧のせいであり、その雨が止むのは別にその誰かが立ち直ったからではなく、高気圧のおかげだ。

 

まぁ、もちろん最近までという前置きが付いたからには今は違う。何せ、少々特殊な事情があり、科学的でも物理的でも学術的でもない、とんでもな体験をした身としては、運命というものが存在しても可笑しくないと思い始めた。

 

なんせ、竜が空を舞い、骸骨兵が剣を振り回し、サーヴァントと呼ばれるとんでもない奴らが宝具という兵器で戦っていた世界を体験したんだ。運命くらいは信じるようにはなるさ。

 

竜? 骸骨兵? サーヴァント? 何言ってんだコイツ。そう思った人は多いだろうが、本当の話だからしょうがない。あの時の俺の体験をそのまま話すとなると今どき中学生でも考えつかないようなファンタジー溢れる話になってしまう。いや笑えるだろ、『タイムスリップして聖女に恋をして、世界を救ってきました』なんて……。

 

俺がそんな与太話を聞かされたのなら間違いなく精神科を紹介する。そんなことを素で言っている人間がいたら間違いなくソイツは正気ではないだろう。それに証拠もないと来ている。これはもう信じろという方が不可能だ。だから俺も信じてくれなんて言わないし、誰にもこの話をしたことはない。今日、アンタに話したのは特別だ。だからアンタも今日のこの話は誰にも言わずに胸の内に秘めておいてそのまま墓場まで持って行ってくれると助かる。

 

まぁ、でもここまで話したんだ。そのついでに一つだけ言っておこう。誰の記憶にも残らず、その歴史にも残らなかったとしてもあの物語は確かにあった。どうしようもなく冴えない青年が、どうしようもなく美しい聖女に、どうしようもないくらい恋をした物語は確かにあって、そして終ったのだと。

 

おっと、閑話休題、いつも通り話が逸れているな。

 

俺が何でいきなり運命やら言い始めたかというと、それは、あの冬のある日、このファンタジー要素の欠片も無かった筈のこの街であの血に塗れた戦争に巻き込まれたのは、きっとただの偶然ではなく運命だったのではないか、と今振り返ってみれば思うわけだ。

 

今回の話は中世のフランスに飛ばされた話でも、フランスっぽいファンタジーな世界に飛ばされた話でもない。現代日本のとある地方都市で行われたファンタジー要素溢れる血みどろの戦争の話だ。救いのない話かも知れないし、ハッピーエンドで終る話かもしれない。まぁ、物語がどう進むのかはページを捲ってからのお楽しみと言うことで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うー、やっぱさみぃな……」

 

吐いた息は白かった。一月後半の冬真っ盛りのある夜、俺は寒さに震えながら歩いていた。家から少し離れたコンビニからの帰り道の事だった。目的は気分転換がてらの散歩とそのついでにブラックコーヒーを買う事だ。古今東西気分を落ち着かせようと思ったのならまずはブラックコーヒーというのが相場で決まっているのだ。

 

凍てつく様な寒さだが、天気はよく晴れていた。冬の夜のしかも晴れとなると空には星が良く見える筈なのだが、お生憎さま現代日本の地方都市では夜になってもビルからの光で空は明るくあの星の海のような光景を目にすることは叶わない。あの中世フランスで見た満天の星空を見ることが出来ないのは残念なことだが、その代わりに便利な文明の利器を享受できると思ったら文句の付けどころに困る話である。

 

あの満天の星空とこの便利な生活、そのどちらを取るかと迫られれば俗な俺は少しばかり答えに困るのだ。

 

手袋をした手をポケットにいれ、更に首元にはマフラーを巻き、コートをしっかりと着こんだ寒冷仕様でも今日の寒さは少しばかり堪えた。確か、今朝の天気予報でこの冬一番の寒波だと言っていたな。それも納得する話だ。天気が悪ければ雪でも降ってもおかしくない。

 

事あるごとに地球温暖化、地球温暖化と言われているが、この寒さを体感してみるに、地球の温度がそこまで上がっているとは思いにくい。もし、温暖化という奴が本当に起っているのなら夏だけでなく冬の気温も挙げて少しは過ごしやすい気候にしてくれても罰は当たらないと思う。

 

そんなバカみたいなどうでもいい考えをしてた時だった。目の前の交差点の信号が赤に変わった。仕方なく立ちどまり、ふと何となく右を見た。視界の少し先には見慣れた入り口が無機質な街灯に照らされていた。

 

「たまには寄ってみるか」

 

俺が住む冬木市は中央を流れる未遠川を境界線に大まかに二つに分けられる。川から東側の近代的に発達した「新都」と、西側の古くからの町並みを残す「深山町」だ。その新都の中心から少し離れた所に一つのこざっぱりした公園がある。その名を冬木中央公園。数年前に合った大火事で何もかもが焼け野原になった後、何も建つことなく残された公園だ。

 

普段は立ち寄る用事もないためその横を通り過ぎるだけなのだが、その日は何となく気まぐれに寄ってみることにした。どうせ、このまま帰ってもやることもないのだ。気分転換の散歩の意味合いも兼ねて少し離れたコンビニへとわざわざ足を運んだんだ、少しくらい寄り道したところで何の問題もない。

 

そんな簡単な思い付きで公園へと踏み入れた俺だったが、俺はこの日この公園で久しく感じていなかった――■というものを思い出すことになる。

 

そう、それは一歩公園へと足を踏み入れた時だった。

 

――――ッ。

 

寒さではなく何か別の要因によって体の芯の部分から凍り付く様な感覚に陥った。そう、それは忘れることのできないものだった。それは感覚であり、匂いであり、感触であり、音であり、誰しもが本能的に嫌悪するものだった。日常生活を送っているだけではまず感じることがないものだ。

 

あの仲間と共に駆け抜けた戦場で、あの(はりつけ)にあった広場で、そしてあの燃え盛る炎の海で――

 

ずっと俺の横にいたソイツが確かにそこにいた。

 

音が消えた、呼吸をするのを止めた。ただじっと集中する。一瞬でも気を抜けばすぐに飲み込まれる。この夜空にも似た深い闇の底に飲み込まれる。

 

この心の底から感じるこの感覚は間違いない。長い間戦場に立っていた俺なら分かる。他の誰にも分らなくても二度もそれを身をもって体感した俺にだけは分かる。

 

そう、この感覚は――。

 

――死だ。

 

コツコツとやけにその足音ははっきりと聞こえた。公園の奥、深い闇の中からゆっくりとした歩調の足音が。

 

数秒後、公園に疎らに設置されている街灯の下にその姿が現れた。

 

――白。

 

その姿を見た俺の頭に最初に浮かんだ言葉がそれだった。

 

白い少女だった。長い長い銀髪が街灯の無機質な光を受けて神秘的に光る。歳の頃はまだ若い、いや幼いと言っていも良い位の年だろう。少なくとも俺よりは一回り近く違うはずだ。顔はとても整っており、まるで職人が作り上げた人形のような愛らしさと美しさを兼ね備えていた。黒いコートに身を包んだ彼女はまるで絵本に出てくるお姫様のようだった。

 

しかし、俺の本能が告げる。

 

少女の周りには死が蠢いていた。感覚が告げる。少女は強者だと。しかし、それだけではない。彼女の近くに何かがいる。そのナニカかが危険だ。あのシュヴァリエ・デオンやジャンヌそして竜の魔女にすら匹敵するナニカがそこにいる。

 

目にも見えない。匂いもしない。音も聞こえない。でも、確かにソイツは少女の近くにいる。本能が警鐘を鳴らし、悪寒が体を覆う。死の感覚が頭をクリアにさせる。

 

――動揺を表に出すな。悟られるな。死に呑まれるな。あの戦場のように心を強く持て。決してあきらめるな。

 

ここを乗り切りさえすればいい。ここさえ乗り切れば生き残ることが出来る。

 

動揺を表に出さないようにゆっくりと歩き出す。公園には俺と少女の以外の人影はなく、季節もあいまって何処か寂しげに見えた。

 

少女は俺の事を気にも留めていないようでその足取りを変えることはない。

 

――一歩、そして二歩。

 

少女との感覚が近くなる。近づけば近づくほど美しい少女だと言うことが分かった。

 

しかし、美しい外見とは裏腹に近づくたびに彼女の近くにいるナニカの馬鹿らしさも同じに分かってくる。この感覚は間違いない。よく知っている感覚だ。生身の人間ではどうあがいても太刀打ちできないであろう。その感覚は、半年ほどの前に嫌というほど――。

 

そして、少女とすれ違う。

 

――大丈夫、顔には出ていない。

 

そう心の中で呟いた。嘘は得意だ。

 

「ねぇ、お兄ちゃん」

 

声が聞こえた。凛と張りがありながらも幼い声だった。

 

「お兄ちゃんの目は面白い目をしてるね。普通の人では出来ないような目をしてるね。今は隠しているようだけど、公園に入って来た時はまるで戦場の兵士の様な目つきだったよ。私、目は良いんだ。日本にもそんな目が出来る人がいたんだって少し驚いちゃった。でももしも、お兄ちゃんが変なモノを見れるんだったら注意してね。今回は見逃すけど、次は――」

 

「次に会った時は――殺しちゃうかもだから。だから、これから暫くは家に閉じこもって出歩かない方がいいよ。少なくともこの“戦争”が終わるまでは」

 

振り返った所でもう少女はいないだろう。足音はもう聞こえない。

 

――あぁ、まだ生きている。

 

久し振りの感覚だった。まるで戦場にいるかのようだった。圧倒的までに濃い死の色がそこにあった。冬だと言うのに冷や汗が額を伝った。

 

大きく一つ息を吐いて、ポケットの中から缶コーヒーを取り出して一口。

 

「あぁ、苦い」

 

ほろ苦い甘さが口の中に広がった。

 

見上げた空には相変わらず星はなかった。

 

あの戦争の始まりはどこだったか、なんて俺には今でも分からないが、少なくとも俺がこの住み慣れた冬木という街で異変を感じ取った瞬間はここだった。


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