一夏(ホモ)に襲われた   作:クロニ
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投稿時に憧れていた日刊一位になることができました。ありがとうございます。作者の胃が痛くなりました。

センセンシャル!!様、ユータボウ様、おとり先生様
誤字のご報告、誠にありがとうございます。


これで1D100ならまだ幸運です

 宇宙に行きたかった。
 それは自発的な願望というよりは、約束による義務感に近かったかもしれない。
 けれど虎丸にとって他に優先するような夢もなく、かといって約束への忌避感もなく。破る必要もないからこそ進んで約束の結末とはべつの道に歩いていくこともなかった。

 なんてことない契りで。
 なんの重みもない同意で。
 当時、相手にあまりアテにされていなかった程度の口約束を、虎丸は律儀にも守り続けている。たとえ無意識にしか残ってなくとも、それより楽な脇道がいくつもあろうとも。

 あれは、銀砂を散らしたような夜空の下で、手持ち無沙汰にブランコをこいでいた時だった。どうして子供がそんな時間に寂れた公園にいたのか、そこまで記憶に残ってはいない。
 ただ、虎丸の隣でブランコに座っていた少女が言ったのだ。
 こんな感じで。

「――虎丸。とりあえず一発でいいからヤらないか?」
「ん?」

 虎丸は凄まじい違和感を覚えながら隣を見ると、なぜか一夏が吊りイスに座っていた。女の子の姿はどこにもない。

「俺、思ったんだ。なんであの日、虎丸に拒絶されちまったか。――初めてだから怖かっただけだろ?」
「ん、ん? いや待て。いまの時点で凄まじい恐怖を感じてるんだけど、えっ、なんでよりにもよってお前が出てくんの!?」
「なに言ってんだよ虎丸、話を逸らさないでくれ。たしかに無理やり迫った俺が悪かった。いくら喧嘩で痛みに慣れてても、さすがに尻の痛みは怖いよな。大丈夫だ、優しくする」
「この時点で世界が優しくねえんだよタコ!!」

 虎丸が慌ててブランコから離れると、一夏もつられてヌルリと立ち上がる。総毛立った。
 それでも虎丸は己を奮い立たせながら、施設にいるあいだに整えていた対一夏用の理論武装を使うために口を開く。

「調べたんだぜオレ! 男が男を襲っても強姦罪にゃならねえが、強制わいせつ罪には適用されるんだってな! ヒャッハハハハ! ほらほらどうした正義の味方の一夏クンよぉ! それを知ってもオレに無理強いできるってか!?」

 千冬の教育の賜物(たまもの)というべきか、一夏は犯罪行為すべてを嫌うようになっていた。そのため虎丸は一夏が強制わいせつ罪を働くはずがないと見切っていたのである。
 一夏が立ち止まり、肩を震わせて動揺を見せる。虎丸はそれに安堵しながら頬を緩ませかけたが、一夏が単に笑っているのだと気付くと、途端に玉ヒュンした。

「虎丸。――和姦って知ってるか?」
「こ、こ、こっ、このクソホモ野郎! ここまで人間に殺意抱けるなんて知らなかったわ、クソが!!」
「慣れればきっと気にならなくなるさ。身体が気持ちよくなれば、気持ちなんて簡単についてくるだろ?」
「テメエの思考に頭が追いつかねえよ! おい馬鹿野郎、マジで千冬さんから勘当されんぞ!?」

 一夏がある方向を指差す。
 虎丸がそちらを見ると、千冬がいた。一夏の魔槍から守ると誓ってくれた千冬がいたのだ。対一夏決戦兵器の頼もしさに虎丸の頬が緩んだが、千冬は酒に溺れてベロベロな飲兵衛になっていた。

「虎丸ぅ……。ヒック、一夏と幸せになれよぉ」
「諦めて試合終了すんなよ、アホか!!」

 虎丸がキレると、突如として公園から場面が変わる。

「「「ホーモ、ホーモホモ、淫夢の子! ベッドの上にぃ、押し倒す!!」」」

 ジ◯リの崖の上の名作を冒涜するような合唱が聞こえると、なぜか虎丸たちはラブホテルの一室のような空間にいた。混乱する虎丸をよそに、まるで歌のとおりに彼をベッドに押し倒す一夏。

「大丈夫だぜ、虎丸。身体を預けてくれ。俺が絶対に幸せにしてやる」
「不幸せの絶頂だからってか!? ――笑えねえよ!!」

 抵抗しようともがこうとも、一夏の腕の拘束はビクともしない。救世主たる千冬は青白い顔のまま酒を煽っている。以前のように助けの手が入ることはないだろう。
 ラブホテルの窓が開いた。そこから教会の鐘の音が聞こえ、世話になった中学の教師、友人、さらには孤児院の子供たちなど、見覚えのある人間がすべて笑顔のまま花弁をばら撒いていた。さっきの歌声も彼らのものだったのかもしれない。訳がわからなかった。
 そのまま彼らはゾンビ映画のように部屋に入ってくると、手を繋いでベッドを囲むようにフォークダンスを踊りはじめた。狂気の極みだと思った。

「……虎丸」
「来ルナァ! アァ!? ヤメテ!? イヤァァアアアアアア!?」

 一夏の顔が近づいてくる。虎丸は取り乱しながら暴れる。フォークダンスをする人々が祝福の歌を口ずさんでいた。千冬は吐いた。
 すべての絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたような世界のなかで、時間だけがゆっくりと溶けていく。
 そしてなにもかもが最高潮に高まった刹那、二人の唇は――。


 ◆


「――ホァァアアアアアア!? ……ひ、ひっ、ひぃいいいい!?」

 虎丸が絶叫しながら飛び起きる。そして尋常ではない様子で部屋を見回し、毛布を頭から乱雑に被ると、部屋の隅まで情けない動きで這っていく。
 しばらく荒い息遣いでギョロギョロと目を動かしてから、五分経ってようやくここが施設の部屋であることを理解した。一夏も、千冬も、歌い狂っていた知人たちもいない。あの混沌極まる光景は現実まで侵食していなかった。

「ハッ、ハッ、ハァ……ッ」

 おぼつかない手つきでズボンを触る。なんともない。尻も痛くなければ、唇も変に湿ってることもなかった。もしあれば虎丸のSAN値はクトゥルフの神々を見るよりもゴッソリ減っていただろう。
 身体をズラすと、指先になにかが触れた。振り乱したときに殴り壊した目覚まし時計の残骸が床に散らばっている。

「――――」

 色が抜けたような顔でそれを片付けてから、精魂尽き果てた様子でベッドに崩れ落ちた。
 干からびそうなほど出た寝汗がシャツやズボンに吸われて気持ち悪い。

「……ゆ、夢……か」

 それもとびっきりのカオスな悪夢。二度と見たくないと思いながら、三度、四度と続いている現実には嫌になってくる。かといって夢の国でさえ天国とはほど遠く、ネズミの王様の職務怠慢が心配になってきた。
 ズボンをおぼつかない手つきで触り、これといって乱暴の形跡がないことを確認すると、目から溢れそうな汗を堪えるために手で顔を覆った。

「よかった。よかった……! あぁ、オレまだ処女で童貞なんだ……! 一角獣(ユニコーン)にだって乗れるんだよ!」

 映像式のカレンダーに目をやると、イベントの欄に『授業開始日』と載っている。
 時間はまだ午前の三時。しかし再び寝ることは出来なさそうだ。
 温もりのない枕に頭を沈め、時が過ぎていくのを呆然と待つ。

「あー……膝枕してくれる彼女が欲しいよぉ……」

 切実な願いだった。
 虎丸流(とらまるながれ)
 ホモによるストレスで不眠症を併発した、今日から高校生となる不憫な少年。
 かれこれ二週間、まともに寝ていない。


 ◆


 IS学園。世界を見ても、この教育機関の名を知らないものはいない。
 アラスカ条約に基づいて日本に設置された、IS操縦者育成用の特殊国立高等学校である。操縦者に限らず専門のメカニックなど、ISに関連する人材はほぼこの学園で育成されており、有名なIS関係者にとっての出身校であることが当然とされている。
 また、学園の土地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家・組織であろうと、学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという国際規約によって守られている。ここにいる限り、虎丸の安全は三年間だけ保証されてるのだ。

 ぶっちゃけ各国がスーパーの特売に殺到するオバサンであり、絶妙なパワーバランスによって生まれた隙間にIS学園が置かれているといっても過言ではない。
 なのに維持費はすべて日本もち。他国の面の皮はオバサン並みに厚かった。
 この不遇な貧乏くじに、数代前の首相は遺憾の意を示している。
 虎丸は欠伸を噛み殺しながら、その学園の校門までの道のりを歩いていた。
 
「……そういうワケでさ、最近眠れてないんだよ」
「わぁ、すごいクマ。とらとら(・・・・)、脱獄犯みたいだねー」
「現実から逃げられてねえ時点で脱獄に失敗してるけどな」

 糊の効いた制服を着ている虎丸のとなりには、長くした袖を揺らしている少女が歩いていた。
 布仏本音(のほとけほんね)。つい先ほどの自己紹介で、彼女はそう名乗った。
 施設からIS学園までの一度きりの護衛とのことだが、むしろ緩みきった本音のスタイルは気疲れした虎丸にはありがたい。すぐに「とらとら」という愛称をつくり、虎丸からは「のほほんさん」と呼ぶような関係である。

「のほほんさんが護衛役でよかったよ。癒される。ずっと笑ってくれてるから数週間ぶりに気持ちが楽だ」
「んふふ、よく言われるかなー、愚痴とか聞かされるからねぇ。笑顔で聞いてるだけでもとらとらみたく、気が晴れる人が多いみたいでさー」
「マジで? じゃあオレもひとつだけ愚痴零していい?」
「うん、いいよー」
「オレ……今日が来ることに思ってたより耐えられなくてさ。一昨日だと発狂を抑えるために鎮静剤を日に五回使いそうになったんだぜ」
「それ死んじゃうやつー」
「あっはっは、だよなー。……おい、笑えよ」

 真顔になっていた本音に向けられた言葉である。
 そして本音はあだ名通りののほほんとした微笑みを再度浮かべて、長い袖をフリフリしながら虎丸をせっついた。

「それでとらとらの愚痴ってなーにー?」
「コイツ無かったことにしやがった。……じゃあさ、のほほんさん、のほほんさん」
「なーに、とらとら」
「あんたもクラスメイトなんだよな。ならさ、オレに惚れてくれそうな女子がいるなら教えてくれね? 顔だってそう悪くない自覚はあるしさ、すぐに彼女作れると思うんだよ」
「うわぁ、びっくりー。とらとらって鏡見たことないんだねー」
「あるよ? 普通にあるよ?」

 イケメンホモ野郎の一夏に及ばずとも人並みはあると思ってただけに、虎丸には割とショックだった。

「あはは、ちがうよー。とらとらは顔は悪くないけど、悪い顔はしてるからねー。女の子は怯えて近づかないと思うんだー。……もとからカッコよくもないけどぉ」
「おい、なにが自己紹介でのほほんさんだよ! 菩薩がディスってくんなよ! ……泣くぞ!?」

 脱獄犯みたい。本音のそんな感想はそう間違いでもなかった。
 虎丸の背丈は一夏よりも高く、大柄というほどでもないが、女子生徒しかいないIS学園の特性を踏まえると学園最高身長だろう。さらに言えば目つきも優しいとは言い難い。連日の不眠によってナイフのようにギラつく三白眼が、黒ニット帽の影から周囲を無自覚に威圧している。
 いくら爆弾の解体訓練とかいう使いどころに困る技能を習得していようと、IS学園の多くの女子生徒はもとは一般人だ。こんな不良丸出しな上にホモの被害者である少年に進んで話しかけようとは思わない。

「もし彼女ができたら何したいのー?」
「膝枕してもらいたい。そろそろ本格的に眠らないとホントにヤバい気がするんだよ……。――おっ、そうだ! のほほんさんが彼女になってくれよ! そうすれば万事解決するじゃん!」
「なぁんだ、寝言が言えるならちゃんと眠れてるよねー?」
「寝言は寝て言えってか!? チクショウが!」

 菩薩のようだからといってやはり無条件に優しいわけではないらしい。
 アプローチを更にかけようとした虎丸だが、眠気がひどくてその気力も失ってしまった。

「でーもー」

 本音は和やかに微笑みながら、諦めて鬱屈としていた虎丸のとなりに寄り添うと、そのまま腕にひっしと抱きついた。

「とらとらはみんなの期待を背負ってるからねぇ。頑張ってほしいのは本当の気持ちだよ?」

 子犬のように上目遣いで虎丸を見上げる。とても柔らかかった。小さな手も、絡められた細っこい腕も。なにがとは言わないが厚い制服の下にはとても大層なものをお持ちのようで、優れた容姿もあわさるとこれにグラつかない男などいないだろう。
 虎丸はホモじゃない。女が好きだ。あんな汗臭いクリーチャーなどと比べるべくもない。
 本音の無邪気なスキンシップに内心でドギマギしないわけがなく――。

「な、なんだよいきなり優しくなりやがって! わかった、ハニートラップだろ!? 世界がこんな優しいワケがあるか!!」
「うわぁ、すごい重症だねぇ……」

 それ以上に、大親友に裏切られたことにより、虎丸は軽度の人間不信に陥っていた。
 しかし人間とは現金なものらしく、本音の小さな励ましのおかげで、翼の折れたエンジェル並みにボロボロなメンタルがちょっと回復した。安い男である。

 心に余裕ができたおかげで、段々と物事を前向きに考えられるようになってきた。
 そうだ。なにがホモ野郎だ。いかに一夏がアグレッシブなホモだろうと、まさか生徒のいる教室内で股間のデンジャラス・ビーストを解放するはずがない。つまり関わらなければ実質無害である。
 たしかに見ただけで頭痛に吐き気、蕁麻疹(じんましん)に幻覚、果ては生理痛を患ってしまうが、遠くの席ならばなんとか耐えられるはずだ。

 一夏なんてイケメンで、家事もできて、運動上手で、努力家で、コミュ力があって、家族想いで、熱血漢で、真っ直ぐで、正義に生きて、かなりモテる、たかがそれくらいのホモ野郎なのである! 欠点がなさすぎて勝てる気がまったくしないが、そこを察すると途端にSAN値直葬されるため、虎丸は本能的に考えることを止めた。

 とにかく、だ。
 虎丸の蜘蛛の糸のごとく細くなったメンタルを守る学園生活が今――はじまる。


 ◆


「よぉ、虎丸! お前と一緒のクラスになれて嬉しいぜ!」
「チクショウッ! なんでコイツの後ろの席なんだよ! え、なに。授業中ずっとコイツ視界に入れてないといけないの?」

 終わった。



やめて! いまSAN値チェックしたら、27ポイントしか残ってない虎丸の精神が燃え尽きちゃう!

お願い、狂わないで虎丸! あんたが今ここで狂ったら、この作品のツッコミ役(意味深)はどうなっちゃうの!? SAN値はまだ残ってる。ここを耐えれば正気のままでいられるんだから!

次回『虎丸、一時的な狂気で野生化』
――デュエル・スタンバイ!






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