鬼哭血風録~相思相殺~【FGO×ドリフターズ・捏造コラボイベント】   作:みあ@ハーメルンアカウント

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【唐突な注意書き~必読でお願いします~】

いつも閲覧下さっている皆様、ありがとうございます!
今回は完全に「沖田さんヒロイン回」です。どういうことかと申しますと、(魂が)イケメンな沖田さんを期待、或いは(魂が)イケメンな沖田さんでなければそんなの沖田さんじゃないやい!という嗜好の方には少々、読むのがきつい展開かもしれません…。
以上のことを踏まえたうえで、「大丈夫だ、問題ない」という方のみ、本文へお進みくださいませ!

【おしらせ】
また、当シリーズの外伝として「咲いて、結ばず」を投稿致しました。あらすじにも記載しておりますが、そちらはこの鬼哭血風録における土方さんと沖田さんの生前を描いたものになっております。サーヴァントになる前のふたりの関係がどのようなものであったかを描いておりますので、先に「咲いて、結ばず」の方からご覧になると、展開の咀嚼がスムーズかもしれません…!
ご興味がございましたら、是非ご一読くださいませ。



Act.7 悪鬼咆哮

――ヂギィィィイン!!

 

夜闇に浮かびあがる雪原に、鉄(くろがね)を打ち合う音が冴え冴えと響き渡った。白雪に映える赤と黒、二騎のサーヴァントは、互いに一歩も引かぬ攻防を繰り広げている。

豊久の大太刀による奇襲じみた跳び込みを、対する土方は打刀脇差、二本の刀で上へ滑らせるようにして捌き、刀の柄元を蹴り上げて跳ね退ける。雪上に片手を突いた豊久は、即座に大太刀を横薙ぎに振るって土方の足元を狙った。土方はそこに下段の太刀を合わせてから後方に飛びずさり、すかさず二刀を中段に据え、突撃の構えを取る。

彼らの剣速は既に、人の領域を超えていた。剣に生き、剣に死した英霊同士の戦いであれば、さもありなん、と言った所だろう。

 

「死ね、島津ぅッ!!」

「……おおおぉぉぉッ!!」

 

――ぎぎぎぎぎぎィィッ!!

 

二刀を重ねての突進に、豊久は八双に刀を構え、真っ向からぶつかった。合わせた刀から跳び散る火花が、夜の雪原を一瞬、真昼の明るさに変えるほどの激突だった。刀を交えたまま、土方が豊久を後方へ凄まじい膂力で押していく。移動するふたりの身体が深雪を削って、彼らが通った後に掘り返したような一本道を作り上げた。

豊久の背後に、冬枯れた桜並木が迫る。豊久は大木に足を掛け、それをバネにして土方の刃を押し退けた。バランスを崩した土方の腹を蹴り飛ばし、豊久は大太刀を横薙ぎに振るう。その一閃を背面で交差させた刀で受けざまに身を翻し、遠心力を乗せて脇差を豊久の頭部目掛けて投げつけた。大木に突き立った刀身が縫いつけたのは――髪一筋。追撃を転がって躱しながら、豊久は土方との距離を取る。再び、両者の睨み合いが始まった。

 

「今回は、あの“まやかし”は使わんとか。手ぇば抜かれっどは、好かんど」

「抜かせ、この“いかれ”が」

 

――オルテで散々俺を虚仮にした貴様が、何を言う。

以前と変わらず挑発のような口を利く豊久に、土方が鼻を鳴らして一蹴した。双方共にあれだけの大立ち回りをしたにも関わらず、息一つ乱れていない。

 

「だが――貴様がそうまで言うなら、冥土の土産にもう一度、見せてやる」

 

ゆらり。

豊久に向かい刀を突き出す土方、彼の纏う空気が不意にその密度を増した。彼の全身に纏わりつく白い靄が、怨嗟に満ちた人の顔を作ってはまた、形を崩す。それはさながら、質量のない粘土細工のようだった。

 

「――行け」

 

土方の声に応えるかの如く、不定形だったそれらが明確な人型を取った。髷を結い、刀を構える武士たちの纏う羽織には、白染め抜きの誠一文字とだんだら模様。

死して尚、鬼の副長に殉じる御霊衛士。空中を自在に移動できる彼らは、四方から一斉に豊久へと斬り掛かった。山攻撃破剣――新撰組が最も得意とした、多対一で囲んで叩く集団戦術である。

 

「むんッ!」

 

しかし、彼らと交戦経験のある豊久はあくまでも冷静だった。襲いかかる亡霊たちを幾ら刻んだところで、意味がない。ならば防戦に全力をつぎ込むだけだ。

躱す、受ける、躱す――。矢継ぎ早に迫る無数の刃を紙一重で避け、縦横無尽の太刀筋が弾き返した。躱しきれなかった最後の一撃が、豊久の頬に裂傷を刻む。それでも、豊久の顔色は変わらない。ニヤリと口端を吊り上げて刀を振るえば、目の前を覆う靄が切り裂かれた。

――が、その時。四散した靄の向こうから、大きな人影が飛び出してくる。鉛色の瞳が、僅かに見開かれた。

 

「これが俺たち、新撰組だ――…!」

 

眼光をぎらつかせた土方が、振りかぶった兼定を袈裟掛けに斬り下ろす。豊久は刀身を振り上げ、間一髪、頭上で土方の一撃を受け止めた。歯を食いしばる薩奸の首目掛け、土方は押し潰さんばかりの勢いで刃を押し込んで行く。

 

ギヂッ、ギィィィィンッ!!

 

刀が撓り、鎬が弾ける。突き返しは成功したものの、その反動で豊久の身体は遥か後方へと吹き飛ばされた。

積雪の上に転がった豊久に、駆け寄ってくる足音があった。

 

「――何事ですか!?」

 

驚いたような声と共に、線の細い手が豊久の背中を支える。膝を突いて立ち上がると、豊久は平然とした顔で相手の名を呼んだ。

 

「おう、沖田か。主ゃも無事、切り抜けたようじゃの」

 

たった今斬り飛ばされてきたというのに、この男は笑っている。やっとのことで合流を果たした沖田だが、今が気の抜けない状況だと察しているのか、その表情は険しかった。

豊久の姿を眺め、大きな負傷がないことを確かめる。安堵の息を吐いた後、沖田ははっとなって豊久の背から手を離した。休戦協定を結んだとは言え、相手は憎き薩摩者である。ほんの束の間でもこの男の心配をした自分が、信じられなかった。

 

「こほんっ!……そんな事より、あなた一体誰と戦っているんです。敵のシャドウサーヴァントですか?」

「……そいがまあ、何じゃ」

 

豊久が珍しく、言葉尻を濁した。その様子を見て、沖田は怪訝そうに眉根を寄せる。返事を急かす言葉を口にしようとした瞬間――鎌鼬のような剣閃が、ふたりを襲った。

 

「くぅっ!」

「ちぃッ」

 

二者は左右に分かれるように飛びずさり、迫り来る剣風を躱した。着地した沖田は、直ぐさま辺りに警戒の視線を馳せる。たった今までふたりがいた場所は、大地が口を開けたように深く抉れていた。

 

「……逃がさんぞ、島津ゥッ!」

 

猛烈な吹雪の中、黒い外套がはためいていた。癖のある髪を振り乱し、刀を提げて揺らめく長身は、まるで影の怪物のようだ。

 

(シャドウサーヴァント?……否、これは――!)

 

相手の身体から放たれる魔力が、痛いほどに肌を刺す。今までの影兵たちとは、桁違いの強さだ。沖田は菊一文字を抜いて、素早く身構える。

 

「何奴!?」

 

沖田の声に、黒外套の男は動きを止めた。舞い飛ぶ粉雪から垣間見えたその姿に、男――土方は目を眇める。

 

「……女?島津の手先か」

 

よく見えない。目を凝らしながら、土方はじりじりと沖田の方へと近づいた。いつでも斬り込めるよう、霞の構えを解かぬままに。

 

――だが。

 

「―――ッ!!?」

 

土方の目が、驚愕で見開かれた。薄い唇が戦慄く。

 

「その淡い髪の色、浅葱の羽織。……まさか、そんな……あり得ん、こんなことが」

 

その声は震えていた。土方は刀を持たぬ方の手で顔面を覆った。夢か、それとも幻かと頭(かぶり)を振る。

吹雪が一時止んで、視界が晴れた。土方の目に映るその姿は、紛れもなく――。

 

「――総、司」

「土方、さん……!?」

 

見紛う筈がない。見忘れる筈がない。開いたままの唇が、かつて己の手を擦り抜けて逝った女の名を呼んでいた。

沖田もまた、剣を構えた両手を震わせて、信じられないものをみるような面持ちで土方を見詰めていた。驚嘆と狼狽、懐旧、そして――慕情。あらゆる感情を綯い交ぜにして、琥珀の瞳が揺れている。逢いたかった、と、小作りな唇が微かに動いた。

 

「総司、……本当に、お前なのか」

 

お前もまた、この世界の何者かに――喚ばれたのか。

二度と逢えぬ、触れられぬものと思っていた、愛しい女。桜のように儚く散って行った、幸薄き妹弟子。それが今、目の前に現れた。あの時と何一つ変わらぬ、凛として美しい姿のままで。

存在を確かめるように、土方は手を伸ばして沖田の顔に触れようとした。――しかし。

 

「――ぬぅぅッ!?」

 

ギャキィィィッ!!

土方は咄嗟に刀を構え直したが、衝突の勢いを殺しきれない。豊久の奇襲を受けて、今度は土方が大きく後方へ吹き飛ばされた。

その光景を目の辺りにして、沖田が悲鳴のような声を上げる。

 

「土方さん!?」

「沖田。すまんが――」

 

沖田に背を向けたまま、豊久が言った。ヂギ、と鍔を鳴らして再び八双に構え、雪上を蹴る。

 

「主ゃの男ん首ば、取る」

「――ま、待ってください!!」

 

動揺も露わに手を伸ばし、追い縋ったが、放たれた弾丸の如く駆ける薩摩男児には届かなかった。起き上がろうとしていた土方に、豊久が飛びかかる。そのまま馬乗りになって、兜割りの要領で振り下ろされる刀の柄。身を捻ることでそれを避けると、土方は豊久の脇腹に向けて膝蹴りを喰らわせ、雪に塗れながら立ち上がった。

 

「……ふっ、…はは、はははッ――」

 

土方の口から零れたもの、それは乾いた哄笑だった。歪に引き攣った笑顔には、隠しようのない狂気が滲んでいる。

 

「通りで、いくら呼んでも俺のもとへは来やがらねえはずだ」

「ひ、土方さん……?」

「――寄るな!」

 

身を案じて駆け寄ろうとした沖田に、土方は兼定の切っ先を向けた。妹弟子を睨み据えるその瞳には、底の知れない憤怒と憎悪が込められている。その形相に気押されて、沖田はその場から一歩も動けなくなった。

元より、隊の為ならどこまでも冷酷になれる人だった。かつての同胞であっても、眉ひとつ動かさずに斬れるような人だった。だが今の土方は、沖田が生前に見た事の無い――“本物の”鬼の貌をしていた。

 

「――お前も薩摩と通じて、この俺を、……新撰組を裏切るか、総司ィィィッ!!!」

「ち、……ちがう……!」

 

それは咆哮と呼ぶに相応しい、魂の叫びだった。

頭を鈍器で殴られたような衝撃が、沖田を襲う。全身が震えて、まともに立っていられない。視界が傾いた。ヂン、と音を立てて、愛刀がその手から零れ落ちる。

 

「ちがう……これは、ちがうんです、土方さん!!」

 

沖田は駄々を捏ねる子供の如く首を振った。血を吐くときの何倍も、胸が痛む。脳に響くほどに動悸がして、肺が潰れでもしたかのように息苦しかった。

 

――裏切り者。

 

誰にどんな誹りを受けようと、己の信念が崩れることはないと思っていた。だが、他ならぬこの男に――誰よりも傍にいたかった兄弟子から告げられたその言葉は、人斬り・沖田総司の平静を保たせていた、大事な何かを壊してしまった。

 

「……ちがうんです……」

 

うわ言のように呟く沖田の胸に、なけなしの理性が囁きかける。

一体、何が違うというのか。己がここに来たのは、同じ旗を掲げる同胞であった旧幕府軍を、敗北させる為ではないか。それが幕臣・新撰組にとっての裏切りでないと、どうして言えよう――。

沖田の痩身が、がくりと膝からくず折れた。見開かれた瞳から、大粒の涙が込み上げてくる。

このままこのひとに斬られてしまえば、どんなに楽か。迫る土方の剣先を虚ろな瞳で見詰める沖田は、完全に戦う意思を失っていた。

 

「一つ、士道ニ背キ間敷事。せめて、俺の手で介錯してやる。総司――…」

 

――お前を、薩奸どもの手に渡すぐらいならば。

雪の上に座り込んだまま微動だにしない妹弟子に向けて、土方は刀を振りかぶった。

断頭台の刃の如く、落ちてくる白刃。自ら首を差し出すように、沖田はそっと目を閉じ俯いた。……しかし。

 

「――沖田は、主ゃの女(おなご)じゃったか」

 

ギンッ!

 

降り下ろされた刃は、豊久の大太刀によって受け切られていた。

ニィ、と口の端を持ち上げると、豊久が低く告げる。

 

「今の貴様は――女房ば間男に寝取られた、亭主んごた顔ばしちょっど」

「き、……ッさ・まァァァァッ!!!」

 

役者のように涼やかな貌が歪み、秀でた額に血管が浮き上がる。土方はこの時、逆上のあまり我を忘れた。力任せに刀を振るい、受け太刀の豊久に反撃の暇も与えぬ勢いで二の太刀、三の太刀と、立て続けに攻撃を浴びせかける。

 

「島津、島津……シィィィマァァァァヅゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 

――怒れる悪鬼の吼え声が、箱館の夜気を震わせた。

 




ここまで読んでくださった皆様、お疲れ様でした!ということで、今回は完全に沖田さんヒロイン回でした!
俺の(私の)沖田さんはこんな女々しい女じゃないわい!とお嘆き&お怒りの方がいらっしゃいましたら、土下座しておきます…ごめんなさい。ただ、あくまでわたしの中の沖田さんは、こういう弱い――女性らしいナイーブな側面を持っていてもいいんじゃないかな、と思っております。ぴんと張り詰めた刃は、その分折れやすいと言いますよね。沖田さんは、正にそんな感じなんじゃないかなと。強いようでいて、本当に大事な部分を打たれると簡単に折れてしまう…そんなわたしの中の沖田さんイメージを描いたのが、今回の作品でした。おひとりでも共感してくださる方がいらっしゃいましたら、とても嬉しく思います。

土方さんも、原作様の中で沖田さんや近藤さんたちが自分の元へ来てくれないと嘆いていましたね。その辺りからして、精神的には気にしいというか、割と打たれ弱い人なのかな?とわたしの中では思っております。その結果、今回のお話ではお豊サンに煽られてまたしてもブチギレ方さんになってしまいました(汗)でもそんな土方さんがわたしは大好きです。

そして、お豊サン!薩摩弁だけでなく、動かすのがとっても難しいです。でも楽しい。
沖田さんと土方さんが話してる所に首狩りに行く辺りは、ただ単に空気読まないで首取りに行っただけなのか、或いは、沖田さんに土方さんを斬らせるのは酷だから、自分が代わりにやってやろう…と出て行ったのか。その辺は読者様のご想像にお任せしようと思います。
何と言うか、お豊サンはこういう“内面の想像がつかない”ところが面白いキャラクターだと、自分は思っておりまして…あえて明確な答えは出さないでおきたいのですよね。…という、以上、行き当たりばったり字書きの逃げ口上でした(笑)

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