鬼哭血風録~相思相殺~【FGO×ドリフターズ・捏造コラボイベント】   作:みあ@ハーメルンアカウント

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Pixivにて、こちらが一番最初に投稿した土方(ドリフ)×沖田(Fate)小説になります。
クロスオーバーカップルということでスル―や批判を覚悟の上で投稿したものでしたが、予想以上の方に快く受け入れていただけたり、沢山の方にブックマークしていただいたにも関わらずこちらの手違いで一度誤削除してしまったりと(汗)色々と思い出深い作品になっております。
土方さんの口調が今書いている作品よりもなんだか固かったり、”鬼哭血風録”と若干矛盾?のようなものを感じられるかもしれませんが(作中で、以前の戦いに言及していないので)、上記のように色々と思い入れが深いものでしたので、敢えて手を加えることなくそのままこちらにも掲載しようと思います。

――土方(ドリフ)×沖田(Fate)を愛して下さる全ての皆様へ、心からの感謝をこめて。願わくばこれからも末長く、ふたりの関係を見守ってやってくださいませ。


動かねば闇にへだつや花と水

 

「と、いうわけで―――大人しくしてて下さいね、土方さん」

 

同世代の女性たちからすれば発育の良い方だった自分より、更に頭ひとつぶんは上背のある男の体躯を馬乗りになって見降ろしながら、少女が言った。

抜けるように澄んだ肌、凛と引き結ばれた小作りな唇と、眦の切れ上がった涼やかな瞳。美少女と評して何ら申し分のない顔立ちだが、――いかんせん、その眼光というのが非常に危ない。

琥珀色の双眸はらんらんと輝いて、見る者によっては獲物を前にした捕食者のようにも見えるだろう。彼女によって床の上に押し倒されている人物が太刀と脇差を携えた大柄な成人男子でなければ、カルデア緊急セクハラ審議会が開かれる程度の事案になっていた所である。

 

もっとも――それを見上げる男の目付きも、凡人のそれではなかったが。鬼気迫る顔で腹の上に跨った妹分に、元より苦虫を噛み潰したような渋面をまた一段と険しいものに変えて、男が返す。

 

「……何の真似だ、総司」

 

「え、何って……勿論、今から既成事実を作るんです。

そりゃあ、私も初めてですから不安もありますけど……一応、その、春画とか……マスターからウ=ス異本なるものをお借りして、一通りのことは学習して来ましたから」

 

きょとんとした面持ちで事も無げに言い放つ妹分――沖田総司に、かつて鬼の副長と呼ばれた男は柳の葉にも似た薄い唇を一度噤んで、諦観の溜め息を吐く。

 

「……誰にそんなふざけた事を吹き込まれた?」

 

「だ…大丈夫です!分からないところは気合いで何とかします!安心して沖田さんにお任せください」

 

「誰の入れ知恵だと、聞いている」

 

……聞かずとも、概ね察しはついているのだが。

軽い眩暈に目を瞑れば、新たな己の主君――であるらしい、垢抜けない少女のしたり顔が脳裏に浮かんだ。

 

苛立ちを隠せない様子の兄弟子に、沖田はバツが悪そうに口籠ってしまった。

 

「……それは、まぁ……マスター、ですけど」

 

「あなたがカルデアに召喚される前に、私、マスターから言われたんです。

“沖田さんって、土方さんの事になるとすごく生き生きとした顔で話をするよね”――って」

 

例えば、色恋沙汰が派手だった、とか、たくあん好きの土方に付き合って、彼が親戚から貰って来た樽一杯のたくあんを毎日のように食べさせられた、とか。

内容は不平不満と言えるものが多かったが、彼女との世間話の中にやたらと土方と言う名が上がる事に、鈍感さに定評のあるマスターとはいえ流石に気付いたのだろう。要は、それだけその相手を気にして見ていた、ということである。

終いには、まるでだらしのない恋人の愚痴のふりして惚気ているようだ、と笑われてしまった。

 

「自分では、全然気付いてなかったんですけど……その一言でずっと、心の中にあった靄が晴れたような気がしたんです。胸に閊えていたものが、すとん、って落ちてきたと言いますか。

……笑っちゃいますよね、こんな簡単なことだったのに。マスターに指摘されるまで、自分の感情に気付けないでいたなんて」

 

本当は、他の女性と並んで歩くあなたを見るのが悔しかった。

好きでもないたくあんを毎日無理して食べたのも、あなたが喜んでくれると思ったから。

 

自嘲するように、少女が笑う。頬を掻く華奢な指は相変わらず、討幕派に恐れられた剣豪の手とは思えぬほど嫋やかなものとして、土方の目に映っていた。

 

「今度こそ、何もできずに後悔しないように。心に誓ったんです、もしいつか、あなたに再会するようなことがあったら――あなたの前で、ちゃんと言おうと」

 

そう言って、男の腹上に尻を据えたまま居住まいを正す姿は少々滑稽ではあったが、当の本人は真剣そのもの。こほん、と咳払いをひとつした後、沖田が続ける。

 

「私……あなたに置いて行かれるのは、イヤです」

 

少女の告白を受けて、滅多に感情を伺わせることのなかった人斬りが僅かに瞠目する。それを見つけた沖田が、どこか照れ臭そうな微笑を浮かべた。

 

生前、女として添い遂げる事は、出来なかった。ならばせめて、男として同じ志の下、最後まで共に戦うと誓えども――病に斃れ、それすらも叶わなかった。

 

……でも、互いに英霊となった今ならば。

 

「私って、そんなに魅力、ないですか?

確かに、その……島原の太夫や祇園の芸妓みたいに、色気も女らしい教養も……ないですけど」

 

その問いに、土方は答えなかった。死人のように冷たい瞳が、内面を洞察するように沖田の眸を覗きこんでいる。

 

この世界に召喚されてからというもの、彼は何人足りとも他者を寄せ付けようとしなかった。己以外のものは何一つ視界に入っていないとでも言わんばかりの顔で、全ての干渉を跳ね退けている。共に誠の旗の下で戦い、家族同然だった少女すらも。

元より誰とでも打ち解けるような性分の男ではなかったが、英霊となってからはその傾向が顕著だった。沖田が没した十月後の、五稜郭。最果ての地での熾烈な戦いが、彼を妄執に囚われた復讐者に変えてしまったのだろうか。

肝心な時に役立たずだった自分はもう必要ないと言われているようで、沖田はそれが悲しかった。

 

その上、勇気を振り絞った一世一代のこの告白すらも拒絶されたら――今度こそ、どうしようもない。

 

男としても、女としても。英霊として仮初めの生を受けた今でさえ、あなたの傍にはいられないのか。

口惜しさで、沖田の目に涙が滲んだ。いつの間にか土方の軍装ごと握りこんでいた指先が、わなわなと震えている。

熟考の果てにやっと言葉を探し当てたのか、男が慎重に、重たげなその口を開いた。

 

「……お前は、俺にとっては妹分だ。それに、身体の弱いお前が耐えられるか」

「耐えられます。いたいのも、くるしいのも、なんだって……耐えてみせますから」

 

冷たく付き離すような――それでいてどこか沖田を気遣うように選ばれた土方の言葉へ被せるようにして、沖田は即答してみせる。威勢良く張った筈の声は、情けなくも半ば涙声になっていた。

 

「傍にいたい。たとえ、お役に立てなくても……女でも、男でも、なんでもいい。今度こそ最後まで、土方さん……あなたの傍に、居たいです」

 

濡れた琥珀色が、男を真っ直ぐに見詰めた。

土方はやはり、答えない。

答えない、その代わりに――。

 

「総司」

 

短く名を呼んで、少女の白い襟合わせを掴んだ。落ちてくる柔い身体を鍛えられた胸板で支えて――乱暴に、唇を塞ぐ。目の前で日を浴びた麦穂のように美しい瞳が、驚きも露わに見開かれた。

数秒の交わりの後に唇を解放してやると、魂が抜けたようにぼんやりとしている沖田に、活を入れるが如き低い声が飛んでくる。

 

「ならば――女でも、男でもなく……沖田総司として、俺の傍にいろ」

「……へっ?」

「女だ男だと、瑣末な事を気にするような惰弱はいらん。お前はお前として、その想いを貫く覚悟さえあればいい」

 

間の抜けた声が返る。状況をいまいち呑み込めていないらしい沖田の様子に、土方が諭すように付け加えた。

 

「――墓の穴まで、ついてこい」

 

沖田の乱れた前髪を、広い掌がくしゃりと撫でた。南蛮人のそれに似て色素の薄い髪は、散る間際の桜花を思わせる。己が散ると知りながら、最後まで命を燃やして咲き誇る、大和の桜。

 

杯を交わした義兄弟の処刑を止められず、大事な女の死に際さえ看取ってやれなかった。

口惜しくなかった筈がない。『二度目』があるなら、今度こそ――そう思っていた。

 

子供のように泣きじゃくる沖田に抱きつかれながら、土方は『二度目』を手にしてから初めて、鋼の如く冷たかった面貌に人らしい感情を滲ませていた。

 

 

※※※

 

 

――後日、魔人アーチャーこと織田信長のマイルームにて。

 

「……と、いう事を言われた訳ですが。あなたはどう思いますか?ノッブ」

 

手土産にしたハーゲ○ダッツのバニラアイスを頬張りながら適当な相槌を打っている相方に、沖田が問い掛けた。言葉の合間に、同じくハー○ンダッツの抹茶をぱくりと一口。

 

「そりゃあ勿論、嬉しかったですよ?嬉しかったですとも!

ただ――何かこう、肝心な部分をはぐらかされたような気がしないでもないんですよねー……」

 

もはや愚痴なのか惚気なのか分からない相方の悩みに、黙々とスプーンを動かしていた信長が、ここに来てようやく口を挟んだ。

 

「そなたは贅沢者じゃのう」

 

眉根を寄せたその表情からは、面倒くさい奴め、という心情がありありと見て取れる。半ば溶けかけたアイスをぐりぐりと掻き混ぜてソフトクリーム状に整えながら、呆れたように信長が続けた。

 

「墓の穴までついてこい、じゃと?それぶっちゃけ、プロポーズされたも同然ではないか」

「ぷっ、ぷろ……―――~~!!!?」

 

 

 

――数秒後、信長のバニラアイスが、ソースを掛け過ぎた苺サンデーに変貌したことは言うまでもない。

 

 

 

【動かねば闇にへだつや花と水・完】

 


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