鬼哭血風録~相思相殺~【FGO×ドリフターズ・捏造コラボイベント】   作:みあ@ハーメルンアカウント

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Act.16 転生流転

かくて、1869年の蝦夷・箱館――その特異点の歪みは正された。

 

黒田了介率いる新政府軍は、まやかしの力を失った五稜郭をその日のうちに攻め落とし、蝦夷島政府に全面降伏の白旗を上げさせた。榎本は捕えられ、クーデターの首謀者として一度は投獄されたものの、彼の能力を高く買っていた黒田は後に、坊主のように剃髪してまで新政府に榎本の釈放を訴えたのだという。

 

――そしてここには、正しく修正された歴史の裏の立役者たちが揃っていた。

薩摩の兵たちと顔を合わせればきっと面倒な事になると、立香たちは彼らから逃れるようにして、どこまでも続くような海沿いの道を歩いていた。

 

「その、――私の気持ちを酌んでくれて、ありがとうございました。……島津」

 

不意に。沖田が前を歩いていた豊久の背中へ向かって、小さく告げた。

 

「礼は要らん。あの男との決着は、“あっち”で着ける」

「え?」

 

立香がきょとんとした顔で訊ねると、豊久はニッと笑って彼女たちの方を振り返る。

 

「俺もそろそろ、誰ぞに“呼ばれ”ちょるようじゃ」

 

晴れやかに笑う戦国武将。その身体は鈍い輝きを放ち、徐々に薄れ始めていた。彼らの様子をモニタリングしていた管制室のロマンが、通信機越しに語り掛ける。

 

『なるほどね。――島津豊久、キミは恐らく、聖杯に喚ばれた土方歳三の巻き添えになる形で、この世界に召喚されて来たんだ。

彼が消えた今、キミもまた元の座に戻るだろう。それが果たして我々の知識にあるそれなのか、はたまたキミがやってきたという世界なのかは――ボクたちの預かり知るところではないけれど』

「そっか。でも、それならまたいつか……どこかで会えるかもしれない。そういうことだよね、豊久さん」

 

彼と共にカルデアへ戻れないという事実を寂しく思いながらも、立香は明るく微笑み返す。同時、消えてしまわないうちにと手を伸ばして、豊久へと差し出した。豊久はそれを大きな掌で、確りと握り返す。

 

「薩摩ん子孫が未来(さき)ば見れたのは、僥倖じゃったど。無論、主らに逢うた事ものう」

「――お豊!」

 

握手を交わす二人の横から、信長がずいと割り込んできた。豊久の鼻先に指を突きつけながら、彼女は言う。

 

「向こうの“儂”に伝えおくが良い。“せくはらはほどほどにせい、織田信長の風評被害も甚だしい!”――とな!」

「……いや、ノッブ。あなたがそれを言いますか。言っちゃいますか」

「信、ようと見たら外套の下は素っ裸でんなかか。ふむ、主ゃにそがいか趣味ばあったとは――」

 

沖田の的確な突っ込みに、天然かわざとなのか判断つかない豊久の指摘が続いた。顔を真っ赤にして怒鳴り散らす信長と屈託のない立香の笑い声が、箱館の高い空に響き渡った――。

 

 

※※※

 

Act.■ 終幕

 

人理継続保障機関・フィニス=カルデア。

人類悪から未来を守り抜く為に日々、過酷な戦いを続ける彼らにも、ほんのひととき――平穏な日常が与えられていた。

 

壁を一枚隔てた廊下から、慌ただしい足音が聞こえてくる。和風に設えた部屋の中、沖田総司は刀掛台から菊一文字則宗を取り上げて、腰へと帯びた。

その時だった。壁の向こう側から沖田を呼ぶ、賑やかな声がひとつ、ふたつ。

 

「おい人斬り、何をぼさっとしておる!クエストに置いてゆくぞ!」

「沖田さぁーん、はやく、はやく!」

「はーい、只今!」

 

沖田を急かして扉を叩く、信長と立香の二人組。威勢良く返事を返して、沖田はすっと、背筋を伸ばして立ち上がった。

 

「それでは――行って参りますね。土方さん」

 

小さく呟き、沖田は床板の脇にこさえた書院を横目で眺めた。そこには質素な一輪挿しに咲く桜の花と――刃のない和泉守兼定の柄が、大事そうに飾られていた。

 

「総司は、待っております。いつまでも、いつまでも――貴方が私を手折って、手元に置いて下さるその時を」

 

浅葱の羽織を颯爽と翻し、彼女は部屋を後にする。綻び始めた淡色の蕾は、やがて来るであろう幸福な春を予感させた。

 

 

【鬼哭血風録~相思相殺~・完】

 




【あとがき、という名の駄文~シリアスな余韻を楽しみたい方は、閲覧注意~】

ここまでの長いお付き合い、本当にありがとうございました!そして同時に、お疲れ様でした…!ついに「鬼哭血風録~相思相殺~」全三話、ここに完結の運びとなりました。お気に入りや評価、コメントなど大いに活力を分け与えて下さった皆さんに、感謝…圧倒的感謝…!

プロットから起こして書き始めた時は、「大体五万字もあれば終わるよね」等と軽い気持ちでおりました。――が、しかし!!実際、執筆を終えて見ればなんと、まさかまさかの約十万字……書き終って字数を見た瞬間、目が飛び出るかと思いました。というか、ガチで腱鞘炎になりかけましたorz

ともあれ、何とか無事にこうして長編の連載を終えまして、本当にすっきりと晴れやかな気分でおります。ここに土方×沖田の全てを置いてきた!というところでしょうか。やりたかったことをやりきったという充足感で、心満たされております…。
ここまで飽きずにずっとお付き合い下さった皆様がた、ドリフinFGOの世界は如何でしたでしょうか。文字書きとしても絵描きとしてもまだまだ未熟者が思いのまま書きなぐっただけの作品ですので、読み辛いとか、自己解釈多すぎとか、誤字脱字とか、歴史のお勉強不足とか、夢見すぎとか、色々あったかと思います。それでも最後までこうして読んでくださったことに、感謝の念に堪えません。

FGOとドリフターズのコラボレーション作品は先人の方が多数おられるようで、クロスオーバーに対する寛容な土台があったとは言え、作品の違うキャラクター同士の恋愛を全面に押し出した当作品は異端であり、賛否両論が分かれるものだと思います。正直これはないわー、と思う方が大勢いらしたとしても、それは至極当然のことだと受け止めております。
しかし、世界に700万以上存在するそれぞれカルデアは、ひとつとして同じものではない筈です。そのうちのひとつ、私のところのカルデアはこんな感じですよ、という気持ちで、私はいつも物語を書いて(描いて)おります。それこそが私の中では真実であり、沖田さんたちの幸せが詰まった世界であると信じているのです。(実際にコラボはされておりませんが…!)
こうして読んで下さった皆様の中で、お一人でも多くの方が私の妄想カルデア事情を見て、「こんなカルデアもありだよね」と思ってくださったなら、こんなに嬉しい事はありません。ましてや「ドリフ世界の土方さんとFGO世界の沖田さんがこんな関係であっても、素敵だと思う」と共感して下さった方がいらしたら、更に、更に嬉しく思います!

……と、そんなこんなで今回もぐだぐだな後書きになってまいりましたが、ここで本編の注釈などを幾つかしておきますね。

今回はラスボスとして、ウェパルという新しい魔神柱を創作で出してみました。心臓おいてけー。魔神ウェパルは人魚の姿で現れるソロモン72柱のうち1柱で、船を沈めたり造り出したり、霧を発生させたり、人の傷を拡げて腐食させたりする能力を持っているのだそうです。海軍副総裁であった榎本さんとは波長が合うのでは?と思い、彼(彼女?)に登場していただいた次第でした。(実は作者は新撰組オタクの上に、ソロモン72柱オタクでもあります。名前と序列と能力全部覚えようと頑張ってた厨二病な黒歴史よ…)

お次はお豊さんの宝具“捨て奸”ですが、これは恐らく殆どの方が予想されていたのではないかなーと(笑)豊さんといえばこれですもんね。効果としては簡単に言うと、HPを捨てる代わりにとんでもなくぶっ壊れた攻撃力を叩き出す、というものです。アーラシュ先生のステラの類似品みたいな扱いになってしまったのが少々残念ではありますが…(でもステラは本当に強いですよね(笑))

そして土方さんの宝具ですが、今回もうひとつ別なものが出て参りました。この“向抜撃剣”、実はこちらが土方さん本来の宝具です。セイバーとして召喚された場合、多分これになるのだと思います。本作品中では、中ノ章で登場させた“接舷交戦(アボルダージュ)”は、聖杯(というか魔神ウェパル)の力で付与された借りものに近い宝具、という設定でした。なので、聖杯の力がなければ使用できません。あんなん出して来られたら無理ゲーですし…(笑)
ちなみに本当にこの技、土方さんが使ってたみたいです。本来ならお互い抜刀していない段階で使う抜刀術ですが、展開の都合上、普通のカウンター攻撃になりました(おい)

聖杯や召喚などについてもかなり独自解釈やこじつけも多かったですが、細かい所はノリとテンションで乗り切っていただけると幸いです(汗)

因みに、今後投稿予定の「動かねば闇にへだつや花と水」と「咲いて、結ばず(後編)」――この二つの作品は、こちらの真エンディングとなっております。実はこの作品たち、この捏造コラボイベントよりも前に執筆し、pixivに投稿したものでした。なので台詞などで多少の矛盾も出てくるかもしれませんが、そこは後付け故のご愛嬌ということで宜しくお願いします…(笑)

では、最後に――改めまして、ここまでのお付き合い、本当に、本当にありがとうございました!
どうか願わくば、この作品を好きになってくださった皆さんの胸の片隅に、私の思い描いた理想のカルデアが息づいて――土方さんと沖田さんの恋物語が、末永く続いていきますように。

【あとがきと言う名の駄文・完】

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