橋本さんちはインサイドラゴン   作:ハヤさん。

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1000文字くらいなら二日に一回は...


第二話 我が名はリントヴルム!!(後々ニートヴルムになります)

「...んーっ...ふあぁ...」

 

小鳥の心地よい鳴き声は聞こえない。眩しい朝日が射し込んでくる事もない。誰かが起こしてくれたわけでもない。何も起きない俺の朝は、何もなく始まる。

 

「....zzzZZ」

 

すみません。ありました。なんかありました。

何と。俺のベッドの上には、美しい女性が、安らかな寝息を立て寝ているのだ。あ、俺は床ですよ? おかげで腰が痛い。

ぐっすり寝ている様子を見ると、容体は安定しているようだ。別段苦しそうな様子もなく、静かに寝ている。...しっかし、こうして見るととても綺麗な人だ。傷んだ様子のない綺麗な白髪は、街に降る新雪を思わせ、妖精のような可愛らしい顔を見せる。...正直言って、かなり可愛い。

 

「...ん...」

 

「ひっ!!」

 

いや、ひっ!! って何だ。ただ声出しただけじゃないか。何慌ててんだ。てか寝返りうってるし。何と心地よく寝てますこと。俺ってコミュ障なのかな? いや、それは無いな。

 

「...んぅ...」

 

「ひっ!!」

 

コミュ障でした(白目) ...てかさっきもこんな感じだったぞ。

 

...彼女が起きたらどうしようか。とりあえず、通報されないようにしよう。うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

...暖かい...大抵、寒空の下寝るのが当たり前だったのに...。こんな暖かい状態で寝るのなんて..."龍"の時以来か。龍は良いなぁ。暖かくたって寒くたって変わらないし。何処でだって寝れる。そんな事を考えると、やっぱり龍の方が良いのかなぁ...。

 

...駄目。流されちゃ、駄目。決めたじゃない、"リントヴルム"。私は、"龍である事を捨てたんだ"。私は、もう、ドラゴンじゃ、ないんだ...。

 

「...ん...あ...」

 

「ひっ!!」

 

...声? 誰か、いるの? ...まさか...人間に捕まった...? しまった...!! 油断した...! まさか...今ここは...火の上...?

 

「...あれ...?」

 

これ、布団? 少し薄いけど、布団だ。毛布もかかってて...あれ? あれ? 私、何で、ここに...?

 

 

「あの...えーっと...起きました、か?」

 

声のした方を向くと、温かいお粥を用意している男の人の姿があった。...何で怯えてる?

 

「あの、ここは?」

 

「あ、俺の家です。昨日、あなたが倒れてたんで、俺ん家に連れてきたんです、けど...」

 

昨日? 私、倒れて...? そうだ。昨日...私は...人間に...!!!

 

「...ニン...ゲン...」

 

蘇りそうになる、ドラゴンとしての本能。心の底から、身体の芯から湧き上がる殺戮本能。目の前にいる、この"ニンゲン"を殺したいという、憎悪。嫌悪。駄目...止まらない...!! コイツヲコロシタ...

 

 

 

 

 

 

 

 

「お腹空いてませんか? お粥作ったんで、良ければ...あと、お水とおしぼり、あ、母さんが作ってくれた漬物もありますし...」

 

 

 

 

 

 

そう言って、彼は美味しそうなお粥を出してくれた。

 

...グーっ...

 

...お腹、空いた...。そういえば、ちゃんと食べたのって、いつだっけ...。

 

そう考えたら、目の前にあるお粥に、いつの間にか飛びついていた。

 

「...っ...っ...!!!」

 

れんげでお米を掬い、口に運ぶ。噛む。飲み込む。

美味しい。美味しい。美味しい...!! 温かいお米がお腹に入ってくるのがわかる。薄い味付けだけど、今の私には豪華過ぎる食事だ。一瞬にして食べ終わってしまった。

 

「お腹、空いてたんですね。もう少し食べますか?」

 

「...」コクリ

 

さっきの怒りも殺意も忘れて、私は目の前にある食事にありついた。目からは、涙が溢れ、止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

...おおう。凄い食べるなこの人。既に三杯も食べてるし...まぁいいか。今月の食費が心配だけど、今はこの人が満足するまで作ってあげよう。何故漬物に手を出さないのかは触れないでおこう。

 

「...ふぅ...」

 

四杯目を食べ終わり、お腹一杯になったのか、お椀をお盆の上に置き、一息つく。

 

「...」

 

「...ええー...っと。もう少し食べますか?」

 

 

 

 

 

 

 

「...ふっ...うぅ...」

 

...泣き出した。なんかこう...泣き出した。何だ。四杯も食べた挙句、やっぱ不味いと。泣くほど不味いと申すのか。この女子は。...なわけないか...。そんなんだったら俺が泣くわ。一晩泣くわ。

 

「...ありがとう、ございます...!!」

 

「...お粗末様でした」

 

まぁとりあえず。美味しくいただいたようで何よりです。

 

 

 

「...それで、とりあえず話を聞きたいんですけども」

 

「...はい。その前に、助けていただき、ありがとうございます」

 

そう言って、綺麗にお辞儀する彼女。

 

「...申し上げにくいのですが、事情を話すわけにはいきません」

 

「そうですか。それじゃあ聞きません」

 

「...へ?」

 

いや、申し上げにくい事無理に聞かないし、俺。しかも相手は女性。言いにくい事だらけだろう。こんな容姿じゃ、凄いとこのお嬢さんかもしれないし。

 

「あの、聞かないんですか...?」

 

「聞いてほしいなら」

 

「っ...」

 

...これでいいのだろう。俺がここで彼女の事情を聞かないのは、きっと正しい選択だ。分岐ルートも、バッドエンドルートも、そして、ハッピーエンドさえも発生しない、ノーマルエンド。ここで彼女は家を出て、俺は会社に行く。なんと幸せなエンドか。相手の日常も、俺の日常も何も変わらない。これで、良いん

 

 

 

 

「...私、"ドラゴン"なんです」

 

「...は?」

 

は? ...は? 今、何て言った? ドラゴン? ドラゴン? どらごん?

 

「私の名前はリントヴルム。無理を承知でお願いします。私をここに、置いてくれませんか?」

 

 

今ここに、二つのずれたピースが生まれた。その距離は遠く、合わさる事などまだ早い。だが、しっかりと、二つのピースは生まれ、互いに引き合おうとしている。

 

彼の平和な日常は、今終わりを告げた。そして、彼の、不思議な日常が始まる。

 

まずは、目の前のドラゴンと。




シリアスじゃないんです(白目)

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