橋本さんちはインサイドラゴン   作:ハヤさん。

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シリアスじゃないです。ほのぼのなんです。


第一話 二人の運命の出会い!(一人と一匹なんですけどね)

ドラゴン。それは、最強の生物。

 

火を吹き、空を舞い、牙で喰らい、爪で切り裂き、魔法を放つ。RPGではラスボスとして、神様として、最強の仲間として登場する。

 

あらゆる伝説では、ドラゴンを倒す事で英雄となった者も少なくない。

 

結論を導き出そう。ドラゴンとは、最強の生物である。

 

....はずなんだ。

 

「どうしてこうなった...」

 

「ん? どうしたんですか? ...あ、また死んだ...」

 

家に引きこもりネトゲをプレイし、だらしないパジャマ姿のまま過ごしているのが、正義の象徴、光輝く龍"リントヴルム"のはずがないのだ。

 

「この私、"閃光龍リントヴルム"を殺した事、後悔させてやるわああああああ!!!」

 

リントヴルムらしいです(白目)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は、三日程前に遡る。

 

「...んー...ふぅ」

 

俺はキーボードを打っていた手を止め、腕を上に突き出し、大きく伸びをする。何時間やっていただろう...3時間程か。そりゃ腰も固まるわけだ。まるで石化でもしたかのように、俺の腰と背中は凝り固まっていた。この状態で伸びをすると逆に痛い。

 

「お疲れー、橋本君」

 

「あ、滝谷先輩。お疲れ様です」

 

「はいこれ。どう? 調子は」

 

俺は滝谷先輩から、冷たい缶のカフェオレを頂く。あー、冷えた缶が気持ち良い。

 

「ありがとうございます。取り敢えず前半は終了しました。でも、ここからですね」

 

システム系の仕事はこれだから嫌だ。上の命令は絶対だし、ミスやバグは全てのシステムに支障をきたす。他の仕事だってミスが許されるわけではないが、システムエンジニアというのは、より精密で正確な技術と、ミスを犯さない丁寧さが求められる。...やるんじゃなかったよん。

主に俺が行うのは、操作システムを中心とする"オペレータ"と呼ばれる役割だ。まだSE(システムエンジニア)になって半年。ここまでの大役をこなした事が無く、俺には少々厳しい。...まぁ、全然下位のオペレータなんですけどね。メインじゃないし。若手だし。

 

「そう。うちもうちで頑張ってるから、気を抜かないようにね」

 

「はい! 精一杯努めさせていただきます!」

 

俺がそう言うと、滝谷先輩はにっこりと微笑み、自分の席へと戻っていった。...何と素晴らしい先輩なんだろうか。こんな底辺の俺を気にかけ、カフェオレを奢り、微笑みかけてくれるだなんて。何故あれで彼女居ないんだろう...? 不思議だ。

 

「んー...よし、あともう一踏ん張り...」

 

俺は、カフェオレを飲み干し、再度パソコンへと向かった。

 

今日も今日とて、爽快なキーボードの音が社内に響き渡る。その一部に自分が入ってるんだと思うと、それも悪くなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...終わったぁぁ...」

 

やった、やったぞ。やり切った。時刻、午後9時。残業に入る前に全て終わらせる事ができた。机を押し、システムチェアーのタイヤが回る。後ろへ押し出された俺は、無防備にだらしなく四肢を投げ出し、天井を見上げた。...これで、経費虫と呼ばれずに済む。新人って残業するとなんか嫌な目で見られるよね。

 

「お疲れ様、橋本君」

 

「お疲れー、橋本君」

 

「わっ、小林さん! 滝谷先輩!」

 

いきなり声を掛けられ、慌てて振り返るとそこには、同じくSEの小林さんと、滝谷先輩が微笑み立っていた。

 

「お、お疲れ様です!」

 

「うん。お疲れ様。今から滝谷君と飲みに行くんだけど、橋本君も来る?」

 

「え!? ほんとですか!? 行きます!」

 

 

俺達には、ある秘密がある。会社の皆さんには知られていない、ある秘密が。

 

「だーかーらー!! 私の趣味は基本に忠実なメイドなの!! メイド喫茶なんて求めてねぇんだよ!!」

 

「しかし!! 最近のメイド喫茶には、メイド好きには堪らない心の奥底に眠る獣欲を掻き立てる物があるのでヤンス!!」

 

「...猫耳とか、堪りませんよね...フヒッ」

 

 

そう。俺達は、日頃の疲れやストレスを発散するため、飲み屋で日々オタク談話を繰り広げているのだ。小林さんは、最近では珍しい昔ながらのメイドが好きなようで。日頃の20代とは思えない淡白で冷静な小林さんは、メイドになると凄まじいマシンガントークを繰り広げる。

滝谷先輩は、オタクもオタクらしいオタク。何故か瓶底眼鏡に出っ歯になる。なんでも、表と裏を使い分けているらしい。

そして俺は、酔うと唐突に黙るタイプ。全くと言って良いほど喋らないが、喋ると必ずフヒッと笑うらしい。気持ち悪い。

 

「ったく...あーあ...誰かメイドになってくんねーかなぁ...」

 

「そうでヤンスねぇ...」

 

「...」

 

多分、きっと。俺達は何処かで、世界と繋がれなかった。世界から隔絶された。だから、馴染めなかった。二人はそう思っていないかもしれないけど...俺は、こういう時にこそ、そう感じる。

 

ここじゃない。そうじゃない。小さな頃から、ずっとそう感じていた。馴染めなかった。"そこ"に。本来、そうあるべきであり、そうならざるを得ない場所が、自分に合っていないと感じていた。"そこ"にいるのは必然で、必須のはずなのに。まるで、パズルのピースが、ずれているかのように。そのずれたピースが、自分であるかのように。

 

でも、今この瞬間、この場所で、この二人となら。自分のピースが、ぴったり当てはまっていると感じる。世界に馴染んでいる気がする。自分の場所は、ここなんだと感じる。ここにいるのが必然で、必須であると感じる。

 

そう思えるから、自然と、笑みがこぼれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...小林さん、大丈夫なんですかね...?」

 

「さぁ...まぁでも、いつもあれでちゃんと帰ってるからね。あまり心配は無いよ」

 

めっちゃベロンベロンだったんだけど。最早別人。挙句の果てには、居酒屋の女性店員にまでメイドになれとか言い出すし。セクハラやん。

 

「んじゃ、そろそろお開きにしますかね。お疲れ、橋本君」

 

「あ、はい。お疲れ様でした、滝谷先輩」

 

手を振りながら、滝谷先輩は駅前の人混みの中へ入っていき、姿は見えなくなった。...なんか、切り替え早すぎない?

 

「...帰るか」

 

明日は二日酔いだなー...おえっぷ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日、この日。何気ない日常は過ぎていき、今日は終わろうとしている。月は沈み、太陽は朝へと昇ってくる。月はまだ見えているけれど、もうじき沈み、空は静寂に包まれる。そんな夜道を歩いている。

 

だから、それは日常の何気ない一コマである。俺が、馴染む事の出来ない日常の一コマである。

 

じゃあ。

 

ずれたピースに、"ずれたピースを当てはめてみよう"。

 

それはきっと、綺麗に当てはまって、綺麗なパズルが完成するはずだ。

 

「...誰か、倒れてる...?」

 

そう。誰か倒れてる。それはもう、ばったりと。暗闇だから、よくは見えないが、確かに誰か倒れてる。

すぐさま駆け寄る。うつ伏せに倒れており、急いで状態を起こして、仰向けの状態にする。

 

ぷるん。

 

...ん? ぷるん?

 

ぷるん。

 

今、明らかに並大抵の人間じゃ起きない擬音が聞こえた気がする。

倒れていた人は、明らかに女性だった。艶のある、綺麗な白肌。頰はほんのりと蒸気しており、真っ白な肌は少し赤らみを帯びている。そして、暗闇でも際立つ、綺麗な白髪。外国人だろうか? しかし、顔は日本人のような顔立ちだ。お年寄りでもない。

 

ぷるん。

 

....うん。目を逸らしちゃいけないな。うん。てか目が引き寄せられるね。万乳引力かな?

常人女性じゃ、考えられないほどの巨乳。大き過ぎというわけでもない、綺麗な形で、大きい。それが、月明かりに照らされて、大きく弾む。

 

そして...それを包むはずの服は...まるで引き裂かれたかのようにぼろぼろになっていた。

 

「...とりあえず、息はある。...仕方ない、か」

 

家に連れ帰って、看病してあげよう。流石に、倒れていた女性を見捨てるなんて事はできない。下心なんて微塵もないし。

 

ぷるん。

 

...おっふ。

 

俺は、背中に感じる柔らかい感触にドギマギしながら、倒れていた女性を背負い再び帰路に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼△ ▼

 

暗い。痛い。怖い。やめて...もう来ないで。違う、違うの。私は、私は...

 

あなた達と、友達になりたいだけなのに。

 

なんで、どうして? 何でわかってくれないの? 私が、"ドラゴン"だから? あなた達は、私がドラゴンってわかった瞬間、剣を持って、私を貫こうとした。ドラゴンと、人は、わかり合う事はできないの? そんなの嫌だ。そんなの、認めない。

 

でも...私、もう駄目かも。こんなのの、繰り返し。信じては裏切られ、信じては裏切られ。もう...人間なんて...

 

 

 

「...ん...」

 

あれ? ここは...? 私...どうしたんだっけ。

 

「あ、目覚めましたか? 身体の具合は?」

 

え...? 人間? 何で、ここに...? まさか、私を助けてくれた、の?

 

「とりあえず、今は横になっててください」

 

彼は、そう言いながら水を出してくれる。そして、おしぼりを持って、私の顔を拭いてくれた。

 

「...あの、私...」

 

「記憶が混乱してるでしょう? 今は横になっててください」

 

...そう、ですね...今は、ただ、眠りたい。

 

私は、もう一度目を閉じ、毎夜している想像を、瞼の裏に焼き付ける。

 

私の隣には、私の大好きな人がいる。顔はまだわからない。そして、彼は私の手を握ってくれる。そんな日常。

 

そんな想像をしながら、私は再び眠りについた。




ニートラゴンなんです。

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