彼女がモテないのは性格がダメダメだからでしょう   作:ラゼ

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原作最新話のユリちゃんとうっちー可愛いなぁ…


修学旅行 3

二日目。班ごとの自由行動であり、昨日とは違ってここからは私服が許されるのだ。あ~、老若男女に加え魑魅魍魎や神仏さえも見とれる葵ちゃんの私服姿のお披露目になっちゃうぜー。

 

「ちょっとちょっとクロスケー! めっちゃ気合入ってんじゃん!」

「わー……黒木さんてこんなに可愛かったんだね」

「あ、ネイルは弄ってないんだ。やっていい?」

「へ、へへ……べ、別にいつも通りの恰好だけど…」

 

 …少しお調子にのっておられますようで、もこっち。誰がわざわざ早起きしてめかしこませてやったと思ってんだこら。その姿がいつものウニクロ&ムラムラ状態と一緒だというなら、スマホに収めてある貴様のスタンダードをみんなに見せびらかしてやろうか? くぅ、これはあれだな。みんなギャップ萌え状態にさせられておる。いつもの冴えない彼女がこんなリア充っぽくなれば、まあ関心がそっちに向かうのも仕方ないだろう。

 

 いやでも私もいつもの五倍は美しいと思うんだけど! こっち向けやお前ら! むぐぐ……あれか、一万が五万になっても桁は一緒だから気付きにくいけど、五十が二百になれば文字通り桁違いになるから目を引いてしまうのか。ちくせうちくせう、もっとこっち見ろよー。略してもこっち見ろよー……あ、見てるなうん。

 

「うおっ! マジで黒木さん!? っべー!」

「え、だれだれ? マジで!?」

「女ってこえーな…」

「つーか早くいかね?」

 

 男からの評価もまずまずだな……ちなみに上から清田、男子A、B、Cである。ふっ、私に名前を憶えてほしいならもう少し目立つことだな。しかし全部で十二人とは大所帯になったものだ。というかクラスのほぼ三割じゃないか。まあ別にいいんだけど、お店に入る時とか迷惑になりそうで困るな。

 

 さてさて、なんにしてもまずは出発するか。

 

「で、まずはどこ行く?」

「ま、とりま適当に――」

「ダメですよ。なるべく提出した行動表通りしなければ、なにかあった時に先生達も困ってしまいます」

「大谷ちゃん真面目ー。つーか行動表って俺らなんて書いたっけ」

「あれだ、三班一緒に行動するっつーからまとめて女子に渡したじゃん」

「ええ、みなさん特に行きたいところもないと言っていましたから私がまとめて提出しておきました」

 

 まったく、男子共はズボラだぜ。わかっているのか? 行動表を渡すということは、この数日の行動を全て私に委ねるという事だ…! まるで白紙の小切手を渡すかのような迂闊さ……くく、赤子の手を捻るよりも容易かったぞ。女子も特に疑問を覚えることなく私に一任したのだ。他人の手に運命を握らせるということは、命を投げ捨てるに等しい行為っ…!

 

「で、どうなってんの? やっぱセオリー通り金閣寺とか?」

「そんなところですね。まずは奈良県に移動して『るいーじ流』というラーメン屋に移動した後…」

「うおぉぉい!? どの辺がセオリーだよ! なんで関西まできてラーメン!?」

「なにをいいますか。ラーメンとはもはや一つの文化であり、地方の町おこしに採用されることすらある立派な観光名所ともいえます。この『るいーじ流』は最近流行りの二郎系インスパイアなどとはまた違った、超濃厚系のスープが売りなんですよ。主力以外の商品もとにかくこってりかつボリュームのあるメニューが主であり、迂闊に注文し過ぎると大変なことに――」

「もう大変なことになっちゃってるんですけど! せっかくの修学旅行が大変になっちゃってるんですけど!」

「ええ、大変結構なことになってますね」

「女子ぃーー!!」

「あたしらのせいにされてもねー」

 

 このあたりまできたら、とりあえずあそこは抑えとかなきゃね。神戸からは地味に遠いが年に二回程食べに行っていた名店だ。ぶっちゃけそんなに美味しくはないんだけど、たまに行きたくなるんだよ。翌日は油でも直飲みしたのかってくらい胃もたれするけど、後悔はしないそんな店である。

 

 しかし修学旅行が台無しだって? なら自分らでやるべきだったな。面倒なことを放置した報いを受けよ清田&男子共。あんまりグチグチいってると将来碌なやつにならないぞー。具体的にいうなら、あれだ。幹事の苦労も知らないで文句だけいうような奴になっちゃうぞ。大所帯の幹事なんか絶対にやりたくないよねめんどくさい。

 

「ご、ごめんなさい……みんな適当でいいって言ってたから……清田君が『ラーメン食いてぇ』って言ってたから…」

「それその日の学食の話だったんですけど!?」

「…そうだったんですか。みなさんすいません、清田君に喜んでもらおうと必死に探して見つけた店でしたが……私の勘違いで…」

「うっわ、清田マジありえねー」

「さいてー」

「大谷さんのせいじゃないよ。全部あいつのせいだって」

「わ、罠だ! これは罠だ! みんな大谷ちゃんに騙されて…!」

 

 ふはは、もはや貴様の味方などおらぬわ。俯く美少女と慌てる男子、どちらを信じるかなど明白だろう。さあ、出発だ! あそこのチャーシューはすごいぞー、なんたって半分以上脂身だからな。お持ち帰りして炒飯つくったらお皿に油が浮いてたからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うぷっ…」

「大丈夫? 無理なら残せばよかったのに」(髪さらさらだなぁ)

「た、たのんでおいて残すのはいけません…」

「そんなフードファイターみたいな」(意外な一面……なのかな?)

「うう…」

 

 ネモの太ももの柔らかさすら今は気にならない。くぅ、なんで女になったのに昔と同じたのみかたをしてしまったんだ……胸やけが凄い。生クリームやらカスタードクリームならこんなことにはならないのにな。油はカロリーではあるが、糖分のように簡単に消費できたりはしないのだ。故に能力の多用で胸やけを抑えることは難しい。

 

 あー、誰だよバスでの移動なんか考えた奴は。あ、私か。まあ電車で膝枕なんて流石にきついしこれはこれで良かったのかもしれん。オタサーの姫ばりにあざとい服装のネモ……絶対領域が頬に触れて中々の贅沢だ。声優目指してるのを知られたくないとかいってる割に、服装は割とそっち系だよね。まずツインテの時点であんま一般的じゃないし。

 

「あんなに食べたら太っちゃうよー?」(せっかくスタイル良いのに)

「私はどれだけ食べても太らない体質なので心配ありませんよ」

「…チッ」(…ちょっとイラっときたかも)

「ね、根元さん?」

「どうしたの? 葵ちゃん」(そういえば葵ちゃんって間食多いイメージなのに全然太ってない…)

「い、いえその……うう、もう少しこのままでもいいですか?」

「…? うん、いいよ」(どうしたんだろ)

 

 ネ、ネモに舌打ちされた。ショックだ。うむむ……なるほど、最近の声優ってアイドル的なとこもあるし今のうちから摂生してるのか。男の子はある程度ふっくらしてる方が好きなんだよー……とか私がいったら完全に嫌味だな。ま、アイドル声優ってんなら平均より痩せた方がいいのは確かだね。実際に目の前にするならともかく、写真映え動画映えするのはスレンダーな女の子だ。

 

 豊満なボディをデブ扱いする奴は一定数存在するからなぁ。抱きしめた時に固いのと柔らかいのどっちがいいんだっちゅーに。私? 私は可愛ければなんでもオッケーだけど。強いていうなら美人系より可愛い系が好きってくらいかな。

 

 …あー、やっと落ち着いてきた。非常に申し訳ないが、ネモの記憶をかなり深いところまで読ませていただいた。能力で消費し辛いというだけで、消費できないわけじゃないんだよ。だからこれは不可抗力ってやつで、けして下世話な興味本位とかじゃないんだ。

 

 持っているアレの数や何日に一回ナニするとか、スキャンダルにならないように今のうちから異性関係に気を付けてるとか、その辺がわかってしまったのも全て不可抗力。というかネモ、本気の本気なんだなぁ……夢に向かって努力するってこの年代じゃそこそこ難しいのに。特に将来も決めずに、とりあえず大学にいこうという人が大半だろう。

 

 将来の選択肢は多い方がいいから、学歴を高くしておくのも間違いではないと思うけど――ああ、なんだか眩しいな。前の人生だって深く考えずに生きて普通にサラリーマンしてただけだし、こういう人には憧れてしまう。

 

 いいなあ……愛人にして養ってくれないかなぁ。

 

 おっと、欲望が漏れてしまった。でもほら、声豚……じゃなかった、声優好きの人々って百合好きのイメージ多いし、すっぱ抜かれても問題ないと思わない?

 

 『声優ヒナちゃん夜の密会!? お相手は…!?』みたいな感じで炎上してー、注目集めてー、そして最後に『なんとそれは超絶美女だった!?』みたいな。

 

 断言しよう。絶対にネットでは『ブヒィィ!!』ってなるよ、間違いない。なのフェイは心のオアシスだよ。さやほむはマイナーだけど神カプだよ。さやかちゃんに生えてほむほむが頑張る話は最高だよ。

 

「…」(なんか凄く良い笑顔してる…)

「…」

「…」(そういえば葵ちゃんは進路とかどうするんだろ。やっぱりアイドルとか女優なのかな)

「…」

「…」(案外ニートになってるかも)

「んな訳あるかぁーー!!」

「ひゃっ!?」(も、もしかして声に出してた!?)

 

 貴様ネモ…! 人が尊敬してやっていたというのになんということを考えてやがったんだ! この私がニートだとぉ…? そんなことは天地がひっくり返ってアンゴルモアが降り注ぎながらアルマゲドンでパーリナイなくらいありえんわ!

 

「ふふふ……なるほど、根元さんが私をどう見ているかよーくわかりました」

「あ、や、その…」(う、嘘? 考えてたことが口から出てたなんて……そんな漫画みたいなことって…)

「のっといんえでゅけーしょんえんぷろいめんとおあとれーにんぐ――略してニート! 私がそうなると。そう見えると!」

「えーっと……あはは、ごめんね。口に出てるとは思ってなかった~。そ、そういう意味じゃないんだよ? 葵ちゃん美人だから、なにもしなくても生きていけそうだなって」(お、怒ってる葵ちゃん初めてみたかも…?)

 

 …まあ別にそこまで怒ってないけどね。というかつい心の声に突っ込んじゃったけど、誤魔化されてくれてよかった。むしろ誤魔化されてくれるように勢いで怒った振りをしたというのが正しいんだけどさ。よーし、このまま突っ走って体の関係まで持っていくか。

 

 …それは無理か。でもちょうどいいし、冗談交じりに言質でもとっとくか。

 

「謝罪をすればすべてが許されていい――そんな思想、根元さんはどう思います?」

「そ、その、ね? 違うんだよ?」(うう、どうしよ~)

「言葉には責任が伴うものです。つまり根元さんは私をニート呼ばわりしたのですから、それが現実になった時責任を取るべきです」

「う、うん…」(う、うん…? なんかおかしいような)

「約束ですよ。一流の声優になって私を養ってください」

「は、はーい……ってなんで葵ちゃんが知ってるの!?」(誰にも言ってないのに!?)

「――おっと。軽々しく占いの結果を漏らすのは不躾でしたね」

 

 おっと危ない危ない。私が知らない筈の何かを知ってる時、それはだいたい占いのせいでござんす。普段からの行動がこういう時に効いてくるのさー。

 

 しかし修学旅行に入ってから少し“たが”が緩んでるな。いや――どちらかというと、そう。二年になってから……違うか。もこっちと友達になってから、かな。どんどん自分が変わっているような気がする。修学旅行は自覚の契機であって変化のきっかけではないんだろう。癪だけど……とてもとても癪だけれど、人間関係においてわざと作っていた壁は彼女のせいで随分と低くなった。

 

 下の名前を呼ばないのは私なりの壁だった。きっと昨日もこっちなんて呼んでしまったのが決定的だったんだろう。みんなと仲良く……表面上だけでなく、もう少し深い付き合いになりたいなんて思ってしまった。思わされてしまった。まったく私としたことがなぁ…

 

 …

 

 …

 

 …

 

 …なんか死亡フラグみたいになってんだけど!? 大丈夫かおい! 運転手! ちょっと指さし確認しすぎじゃないか!? ほとんど片手運転じゃないか! やだやだ、私のガラじゃないぜ。小学生や中学生の時と違って、高校生になって単純に精神年齢が近付いてきたから仲良くなりやすいってだけの話さ。断じてもこっちのせいだとかおかげだとかではないのだ。

 

 あ、ネモ放置したままだった。というかもう膝枕もいいか。動揺するネモをしっかり見て、と。

 

「夢を追う人はとても好きです……けして恥ではありませんよ。照れるうちはまだ可愛気ともとれますが、自己否定は毒にしかなりません。人間関係はとても大事なものですが、人の夢を笑う者など益にはなりませんよ。それに貴女が友達と思っている方達は絶対に笑いません――私が太鼓判を押しましょう。壊れてもいい人間関係というのは存在しますし、壊したくない人間関係に慎重になる気持ちもわかります。でも一歩踏み出せば、あとは案外すんなりいくものです。最悪でも……ふふ、ぼっちになんてなりませんよ。私がいますから」

 

 手をぎゅっと握ってー……ぎっぷりゃぁぁぁ!! ここまでクサいセリフをのたまうのは中々のダメージだ。体温が0.5度ほど上昇しているのを感じる。なんでこんなこといってるかって? いや、さっきネモの記憶やら深層心理読みまくってたじゃん? で、声優という職業の選択に不安を覚えてたわけよ。もう少しいうならそれを馬鹿にされて孤立することを恐れてた。

 

 うん、そこまではいいよね。そしてネモはそんな不安を払拭するきっかけが欲しいと望んでたわけでー、その上でどんな言葉が欲しいかも私には手に取るようにわかるわけで。そんで、ネモってぶっちゃけると隠れオタクじゃん。更にいうともこっちとは方向性の違う――日常系のほんわか系が好きなのよ。いわゆる『きらら系』。

 

 あれってなんかたまに感動っぽいシリアスあるじゃん? ここまでいえばわかってほしい。つまり彼女は『自分が悩みを抱えている主人公で、その悩みを打ち明けて励ましたりしてくれる友人との涙あり笑いあり友情ありの感動シーン』を望んでいたのだ。まったくこっぱずかしいやつだぜ。

 

 うわー……顔真っ赤。ふむふむ……声優志望を知られた羞恥が一割、友人がめちゃくちゃ恥ずかしいセリフを実際に口に出してる共感的羞恥が五割、嬉しさと照れで三割、恥ずかしさMAXだね。あとの一割はー……ほほー……ふーん、なるなる。えっへっへ。意外と冗談が現実になるってこともあるかもねー。

 

 …茶番劇も終わったことだし前の席へいくか。茶番といえども悪意はないさ。彼女が望んでいる言葉を彼女が望むままに言ってあげただけだ。それが悪いことだというなら、そんな奴とは相容れない。肯定が必要な人には肯定を、否定が必要な人には否定を。慈愛の天使葵ちゃんのやることに一点の曇りなし!

 

 さて、目的地の『伏見稲荷大社』ももうすぐだ。着いたらまずはお稲荷様に芸能上達でも願ってあげましょうっと。もちろん私にではなく――赤い林檎みたいなあの娘へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




挿絵:ペンタブを手に入れたので人生初のお絵かきしてみた。難しいけど楽しいねー。オリ主小説書いて自分で挿絵まで描いて……地雷極まれり。

『地雷極』ってなんかかっこいいな。

リア友に同人絵師がいるので色々教わりつつやってます。メインは小説だけど、絵も上手くなりたいもんですねぇ。

Twitterに絵とか更新予定とかたまに上げることにしました。アカウント作ってから一年経って初めてのツイート…

https://twitter.com/color_raze

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